7,継ぐ子達
市場にてバカ話をした勇者(笑)一行、町行く者が微妙に若返っている現状は笑い話としておいておけばよろしかろう。
一行が向かっているのは町の食堂の一つである。独立した彼の子供達の一人が営んでいる所でそこそこ繁盛している。勇者(笑)の異世界料理を仕込まれており、旅路の衆も地元の連中も胃袋をつかまれているのである。
「元気でやっているか?」
「親父ぃ!」
恰幅の良い状態に戻った(疲れたともいう)勇者(笑)がお供の子供達を引き連れて店に入ると店主らしい若い男が板場から出迎えてくる。仕込中だったらしい。
「仕事の邪魔して悪いな、嫁さんと子供はどうしてる?」
「裏で昼寝している。結構夜泣きってすごいんだな。」
奥を覗いてみるとまどろんでいる若い母親と手足をばたつかせている嬰児がいる。
少々寝不足もあるだろうが元気そうで何よりだ。
「ははは、姐さんでも手伝いによこそうか?」
「義母さんいるから何とかなりますし、うちの店には女手だけはあふれていますから大丈夫ですよ。」
そういっている間に雇っている女性達が入ってくる。
「おはよー!」
「きょうもがんばりますか。」
「今日はどこに入ればいいの?」
年齢層は様々だが準備は万端みたいである。
「あら、神官様。孫の顔でも見に来たの?」
「そんな所だついでに歩き通しで少し疲れた小休止も兼ねてだな。孫の顔を見にといっても寝ているのを邪魔した悪いだろ。」
「あははははっ!あの子の泣き声はすごいですからね。近所からも苦笑交じりの苦情が・・・・・・・・・」
「そんなにすごいのか。それは見てみたい気がするぞ。」
「おーい、親父とくっちゃべってないで手伝ってくれ!」
「あららっ、悪いね神官さん。」
「おっと、怒られてしまったか、詫び代わりに私と連れの子供達の分の飲み物と軽く抓める物をたのもうか。」
「あいよっ!」
「ちょっと待っててね。」
勇者(笑)と世間話をしていた女衆は主である若者に突っ込みを入れられて仕事にかかるのである。
勇者(笑)一行は適当に席に着くと思い思いにくつろぐのである。
その時死霊っ子(元)は店主である彼の事を知らないからどういう人なのかを聞いてみる。
「おにーちゃん、この店主さんどんな人なの?」
「飯屋のおにーちゃんはあたしたちのおにーちゃんだよ。神官パパの義息子の一人だよ。」
「お人よしで今の奥さん餌付けして雇ったんだけど、尻に敷かれているね。」
「ご飯食べさせたら自分も食べられちゃったってオチ?」
「なんか聞いていると拾った子に良い様にされている図しか見えないんだけど・・・・・・・・・」
「うーん、傍から見るとそういうようにしか見えないのは判るんだけど、言葉選ぼうな。厨房で奴が精神的打撃喰らっているぞ。」
と口の悪い子供等を窘めつつ、兄貴分をこき下ろすとは親の顔を見てみたいものだと勇者(笑)は思いながら・・・・・・・・・・
親はお前だろう。(by霜降神)
「彼は私の養い子の一人で頭の出来は並くらい、腕っぷしは期待出来ないから街で屋台を引いて暮らしを立てていたんだけどお腹を空かせて彼の料理を見ていた今の奥さんに売れ残りの料理を与えたら懐かれたらしくって、そのまま押しかけの売り子に・・・・・・・・・・・二人三脚でやっていたらなんか微妙に人気が出て店を構える事になったんだ。その流れで売り子の嬢ちゃんは彼の嫁と認識されたみたいで否定も肯定もする事が出来ずにそのまま捕まってしまったんだ。」
「親父!それ、お袋達が率先していただろう!」
「・・・・・・・・・・・・・うん、それについては謝るし否定しない。お前は料理馬鹿だからほうっておいたら嫁捕まえるの忘れて寂しい老後を送る羽目になえるだろう。少なくともお前の嫁は男選ぶ目以外は良い娘だから喜んで受け入れなさい。」
「良い子なのはわかるけどさ・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと待て糞親父!男を選ぶ目って俺がまるで駄目人間みたいに!」
「料理を作る腕は並以上だが身の回りは料理に関係しなければおろそかにするし銭勘定は食えれば良いだとか、お前の嫁が慕っているのに気がつかないで空回りさせるとか色々駄目だろうが!」
「おにーちゃんの場合はあたし好きだって言っていてもしらんぷりしていたよねー。血は争えないかな?」
「死霊っ子(元)彼は俺の血を引いてないぞ。俺はお前の事が好きだからちゃんとした条件で次の生を迎えることができるように神様達に『お願い』したんだけど・・・・・・・・・・・・・・・」
「えっ!神様あたしのこと便利にこき使って死霊達の受付業務を・・・・・・・・・・・・」
そのまま続けてほしかったんだけど・・・・・・・(by冥界の案内人)
仕分けしてくれるだけでも助かったわ。(by冥界の女門番)
「うんうん、ここにくるのが遅れたのはお前等のせいか・・・・・・・・・・・・・・」
ぴきぴきぴきぴき・・・・・・・・・・・・
勇者(笑)の額に青筋が・・・・・・・・・・・・・・
死霊っ子(元)は愛されている。その愛が本人が求めるものであるのかどうかは知らないけど(笑)
可愛い妹分が次の生に歩めずにこき使われたと知っては一撃加えずにはいられない。
「お前ら、俺が『勇者』としての力を捨ててまで願ったのを虚仮にしやがってぇぇぇぇぇ!」
勇者(笑)こと菓子作る神官は【神殺し属性】に本気で目覚めて冥界目掛けて包丁を投げる。
どすっ!
同時刻、冥界の冥界神の御座の間近に突き刺さる包丁があったのは笑えない話である。
「えっと、包丁を大量に注文する。取りあえず神界と冥界とその他神域諸々と・・・・・・・・・・・・」
「親父、世界に喧嘩売るんか?」
「それはまずいって!」
「幸せ願った妹分が冥界で理不尽にあったんだ、喧嘩売るには十分な理由だろう!取りあえず冥界神に【聖女のおかしぃ】を存分に食らわせて・・・・・・・・・・・発注するか!」
ばかっ!それは製作依頼しちゃいかんだろう!(by厨房神)
その分加護を存分に山盛りにしたんだが・・・・・・・・・・(by決闘神)
うん、冥界の事務官として雇いたいと現在進行形で思っているけど、包丁を叩き込むのは良くないと思うぞ。我に配慮がなかったのは・・・・・・・・・げふっ!(by冥界神)
冥界神に何かぶつけられたようだ。
うん、死霊っ子(元)お前がペタン子だからって彼は愛さない理由では・・・・・・・・・げふっ!
地の文は死霊っ子(元)の乙女の怒りに触れて粛清されました。
代わりに私、地の文が引き継ぎをいたします。
乙女の卑屈要素を突くのはどうかと思うのでありますが・・・・・・・・・・・・
しかも【神殺属性】を持っているものに対しては特に礼儀正しくするものでありましょう。
お胸のサイズが・・・・・・・・・・・・ぐばらばっ!
続きまして、地の文に代わりまして私地の文が引継ぎをいたします。
この勇者(笑)近辺での勤務は殉職率が高くて困りますね。私休日だったのに・・・・・・・・・・・
「そんな裏事情いらないから・・・・・・・ 普通に俺達に用意されたものをつまみながらしゃべるのはどうかと思うんだが。」
「口の中に物を入れながらしゃべるのははしたないんだよー」
「しゃべるならば一度飲み込んでからにしないと。」
「おいしい食事に会話が必須なのはわかるけど、食べたものを口から飛ばしながらというのは駄目駄目なんだよねー。」
「うんうん、子供たちは良くわかっているなぁ。それに比べて神々に連なるこの地の文ときたら・・・・・・・・・」
ねぇ、私地の文は敵地なの?敵対心稼がれまくった後で擦り付けされてしまった私はどうしたら良いの?休日手当ての他に危険手当ほしいと思うんですけど。
死霊っ子(元)は膨らみかけの胸を腕で抑えながらにらんでいる。
それ以前にここにいる連中ときたら地の文に対して(以下略)
「あらっ、お義父さん、いらっしゃい。」
料理人の若妻が嬰児を抱えながら顔を見せる。昼寝(?)から目覚めたようだ。育児疲れなのか少々目の下に隈があったりするのだが賢明な母親の苦労を見なかったことにして相好を崩す勇者(笑)。
「ちょっと軽くつまみたいついでに顔を見せにきたよ。子供達挨拶をしなさい。」
勇者(笑)は緩んだ顔を見せながら子供達に兄弟姉妹分への礼儀を強いる。まぁ、大半の子供達も見知った兄貴分の嫁への礼儀は欠いていない。新入りの孤児っ子にしても神官さんが愛おしそうにしている者が兄弟分かどうかは知らないけど礼儀だけは守る存在だと思って挨拶をする。
子供を抱いている母親という存在を亡くした自分の親と重ねてあわせているのかもしれないが店を持って一家を構えているというのはそれだけで社会的地位があるものだと子供としては思っていたりするのかもしれない。実際店を構えるのはある程度の財と社会的信用がないとできないのである。
母親の胸で安らいでいる嬰児を見て数多の子供の父にして名乗りに似合わぬ世界の反逆者たる勇者(笑)は
「可愛いものだ。」
と言って嬰児の頬をつつくのだがその指を嬰児がつかんで満足げにする。
「おやおや・・・・・・・・・・・・・・」
つかまれた指を見て勇者(笑)は顔が崩れている、いうなれば爺馬鹿である。
菓子作る神官こと勇者(笑)、甘い男である。奥さん達に甘く猫に甘く子供達にも甘い、それを受け継いだ義息子も甘い男だったりする。街角で彼の料理を羨ましげに眺めていた娘を雇って、その母親ごと従業員とする。その縁かどうか知らないけど町の寡婦のうちで生計の術を持たないのを雇い入れている。
彼は甘い男である。嫁にした娘は彼の好み的には痩せていたりとか色々あるのだが情に絆されて(性格には周りがお膳立てしていたりする)迎え入れる羽目になっている。彼の一族(血縁関係関係なし)は女に甘いところがある。彼の義父にして師父である某神官は酒の上の軽口で嫁が決められていたり、回りに拝み倒されて二人目の嫁を迎え入れる羽目になっていたり、嫁達の尻に敷かれていたりとか(本人は嬉しそうであるが)親子というものは血のつながりだけではないのだなと・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと地の文、俺は嫁を御し切れていない親父と一緒にするな。」
「俺の条件は嫁だけじゃなく義母があるだけ条件きついだろう!」
「神官様に、店主のにーちゃん。周りが女性陣という事を忘れてない?」
父子して苦笑いするしかなかった。
「親父、俺達は所詮女の股から生まれた存在と・・・・・・・・・・」
「当たり前だろう、男が女に口で勝てるわけが・・・・・・・・・・褥の上で・・・・・・・・・・・・・げふんげふん。」
「仕事しないとお客さんが着ているよ。」
女衆に逆に注意される店主であった。後地の文に対しては(略)
昼時は意外と混む、一日二食の所もあるが肉体労働するものの間では昼時に虫鎮めとか活入れと称して軽く食べる風習がある。食べて働け、どこぞの奴隷に甘い国が自分の働き手に対して休憩時に軽食を差し入れていたのが始まりとか異世界人が広めたとか北の国で手伝いに来たものに対して茶と軽食を振舞ったのが始まりとか色々説があるのだがどうでもよいことである。
どこぞの神官は『腹が減っては戦はできぬ』等と嘯いて昼餉の重要性を説いている。それを受けて極北の戦士達は『死ぬにも力が要る』等と曲解しているのは笑い話としておこう。
息子たる店主はすぐに忙しくなり身一つで飢えた大群を前に臨戦態勢になる。父たる神官は彼の奮闘振りを誇らしげに眺めながら更に注文をする。客達は偉ぶる所のない神官様を前にして声をかけたり色々話を持ちかけたりする。職人衆なんぞは自分の作品を手にして神官様祝福をくださいと願い倒す始末。もちろん慈悲深き神官である彼はそれに快く応じる、これって神殿の主要収入じゃないかという突っ込みは却下しよう。彼の祝福は呪いにして呪いに近い。
「ああ、神よ、神々よ。幸いな産と腕を振るう職人某の作に対して我は請い願う。彼の作りし物が作り手の幸いになるように、持ち主の幸いになるように、誰かの幸いになるように・・・・・・・・・・・・・・」
彼の祝福は誓約の元に効力を発揮する。無闇矢鱈と効力を発揮しない。
職人が幸い求める者であることを願い、使い手が幸い求めることを願い、誰かが幸いであることを願う。効力はちょっとして幸運程度であるのだが彼の祝福によって幸運を得られるならばそれは幸いなる人である。ただし、祝福の意味合いを知るものにとっては彼の祝福のかかった品を無事に所持している時点で信頼の置けるものとして認識される。故に職人も売る相手を選ばざるを得ない。彼もまた信頼されて祝福を得るのだから。
食事に来た衆は嬰児を見て祝福をいい、愛い者だと目を細める。特に女衆は親達に様々な忠告をもたらす。殆どは有害とも無害とも言いがたいものであり、祖父である神官は異世界知識を元ににらみを利かせている。
店主たる息子は店員である女衆や客達に押されている。
「おにーちゃん、店主さん店のっとられてない?」
死霊っ子(元)の突っ込みに
「幸いの形は様々だよ。社長よりも経理のおばちゃんが力強い所なんてざらだから・・・・・・・・・・」
と兄貴分は遠い目をして答える。
死霊っ子(元)は答えを求めることを放棄した。