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5,君たちのいない幾千の夜を越えて

神官さん(笑)の朝は誰かしら側にいる。妻である姐さんや女騎士が傍にいる事もあるだろう、飼い猫達が暖を求めてもぐりこんでくることもある。養い子達が人肌と庇護を求めて扉をたたいてくる。それらを余程の事が無ければ拒まない、子供に甘く女に甘く猫にも甘く自分にも甘い・・・・・・それが彼である。


「毎朝毎朝これは俺の体がもたない・・・・・・・」


目が覚めて動けぬの己が身体を見まわす。両手両足には子供達がしがみつき、胸の上ではご丁寧に三毛猫が乗っかっている。思わず素の言葉に戻って振り払おうとするのだがうまくいかない物である。それでも何とか振り払う年を取ると近くなって大変なのである。若い頃はおさまりがつかない物で大変なのだが。

もぐりこむまでは許そうしがみ付いてくるのは子供達の境涯から認めてやらんでもない、朝は素直に離して欲しい物である。本当に大変だったのである。もらしそうになる意味合いで。


「むにー、しんかんさんおはよー。」

うにゃ!

「ひどいよー!」

「うみゃみゃ・・・・・・・ねむ・・・・・・・」


「あんた、ごはんだよ。子供等の準備してとっとときな。」

「あいよっ!」


姐さんが朝食の準備をしてくれていた。神官さんである勇者(笑)も調理の腕前は人並み以上にあるのだがこの状況で朝食を作るどころでないので姐さん主導で年長の娘っ子達が協力して作る。娘だけじゃなかったか少年達も調理人希望とか趣味でとかで結構手伝っている。

「料理上手な嫁さんを貰うのは男の幸せだよな。」

「私に対するあてつけ?」

「女騎士、君は美味しそうに食べてくれるだけで俺は満足だ。君だって料理の腕は悪くないぞ。」


女騎士さんは勇者(笑)や姐さんに比べて腕前が劣るようだ。良い所の御嬢さんに生まれて訓練していないから当然である。

「そんなこと言って騙されませんわよ。」


「騎士ママのごはんも不味くないと思うんだけど・・・・・・・・・」

「比べる対象が悪いんじゃない?」

外野の子供達・・・・・・・・・・・せめて本人がいない所で言ってあげような。


「聞こえてますわよ!」

「やべっ!」


子供達と共に自分も身支度を整えて食堂で食事を待つ。

根菜の汁物に青菜と乾酪の入った卵焼き、雑穀交じりの固焼き麺麭。いつもの美味な食事である。たまには白いご飯が食べたいと思っているのが約一名程いるのだが米は高価である、主に輸送費用的に。魚も美味であるのだが匂いが籠ると言われてたまにしか食べられない。納豆は論外であるあれは人の食べ物ではない!って、作者私地の文の思考を奪うな!納豆が食物でないことは否定せぬが


配られる美味に大人も子供も感謝の祈りを捧げると胃の腑に収めんと挑みかかるのである。


美味は幸いである。感じ取れるならばそれは誰にも幸いを与える事が出来るからである。

美味を与える者は幸いである。美味を通して誰かが幸いを感じる事が出来るからである。

美味を知らぬ者は幸いである。美味を得うる未知なる幸いを得る事が出来るからである。

美味を受ける者は幸いである。口中に腹腔に美味なると幸を通す事が出来るからである。



この時ばかりは幸いを得んと皆忙しいのである。美味なれば人は無口となる。じっくりと煮込まれた根菜はそれぞれに違う味わいを舌のみならず歯ごたえという意味合いでも喜ばしてくれるし青菜が入った卵焼きはいつもは敬遠されがちな野菜を実は美味しい物だと認識させるに十分な一品である。やや半熟に仕上げた卵はそのまま食べるによく流れ出る汁を麺麭に浸しても良く、麺麭と一緒に食べるのも悪くない。


「畜生!卵焼きに人参入っているの気がつかなかった!」

「だましたな!だましたな姐さんママ!青菜しか入っていないといっていたじゃない!」

「ふふっ!お前らの好き嫌いなんてものはその程度のものでしかないんだよ。次からは黙って食いな!」


「おいしいねぇ、汁物で使った根菜をすりつぶして入れて、味の変調と食感に遊びを加えたわけか。」

「師匠、汁物自体を山羊乳と加えることによって柔らかさと汁気を出させる意味合いもありますね。」

「分かるか玉章、しかも汁物で伸ばすことで失われがちなコクを乾酪で補っているのだぞ。」

「今日の乾酪は兄貴分が行っている農場のものでしょうか?」

「貴方達、美食劇ごっこはやめなさい。」

「食べて味を解析するのも料理人としての修行なんですけど・・・・・・・」

「美食劇ごっこというならばもっと細かく言うぞ俺は・・・・・・・」

「おにーちゃん、東南門子爵様のりうつってない?」

「馬鹿言うな、死霊っ子(元)、東南門子爵だったら・・・・・・・・・・・」

「ふむ、美味。青菜を一度湯がいて苦味を除いている。そうする事によって子供が嫌いな青菜の匂いと味を極力抑えている。だけどわずかに残った香りで以って人参の青臭さを調和しているのは見事であろう。さらに乾酪の塩味と風味がこの地の民に受け入れられているのを利用してさまざまな野菜の味を和らげて受け入れやすくしている。むむっ!これは!この地方の特有の香草、強気香りが口中に溢れてくる!くそっ!おっと下品な言葉を使ってしまったな。この豆の粉の入った麺麭は貧民の麺麭!あえて癖の強いこの麺麭を使うことによって様々な味わいを受け止めているとは!恐るべし!ごわごわしゅわしゅわふーわふわ!その中に時たま現れるサクカリの食感は・・・・・・・・・・・・・まさしく美味!子供らに野菜のおいしさを教えようとする母の愛が一口ごとににじみ出てくる。原初苦味と酸味は毒であり腐敗を表すものである。だが、その中に滋味があり滋養がある。それを無碍にせんとする慈悲は神々ですら・・・・・・・・・・・・・・・・」

「貴方様、美味なるものは美味と言っておくだけでよろしいのでは?」

「ふむ、それは一理ある。だが後世の者にどういう美味だったのかという説明ができねばならないだろう。失われて良き美味にあらず。残すべき善き味である。」



食べながら薀蓄を述べる死霊、東南門子爵(当時)享年84、老衰というべき大往生である。死してなお盛んなり、彼は世界情勢が協調路線に向かったのをして世界各地を外交という名の食べ歩きに回りまわって食べて食べて食べ歩いて楽しみながら逝った。最後の日にも長年連れ添った老妻と共に【聖徒】の都の民が丹精を込めた一膳の粥を食べ、粗末さに詫びる民に対して


「限られたもので工夫をする。それが大事である。素材の特性を理解して、磨き上げ、美味しく食べてもらいたいと願い努力するそれは善いことである。この一椀は東南門の名を背負いし我の最後の食事に相応しき満足できるものである。感謝するぞ!最後の食事が美味なることに。

願わくば、我にはこの一椀だけで十分であるから出来得る限りでよい、多くの者にこの粥を振舞ってくれ。我が最後の美味を多くに知ってもらいたい。」


その後しばらくして眠るかのように逝った姿を確認される。粥を作った者は即座に粥を貧民街で炊きだす。その時に保護された路地っ子は今は勇者(笑)の保護下で牙を磨いている。


「って、何で東南門子爵様(当時)がいるのぉぉぉぉ!」

死霊っ子(元)の突込みが響き渡るが

「東南門卿は数日前に亡くなられた。今いる孤児っ子の新参が無事にいるか心配で見に来ているのだ。」

「飯をたかっているというのもあるけどね。」

「それを言うなご婦人。子供達は元気そうだし馳走になった。そこにいるのは死霊っ子ではないか、生まれなおしてであったのがこれでは確かに叫びたくもなるようだが年をとれば変わる物だ、わしだって若いころは・・・・・・・・・」


しゃららららーん!

東南門子爵(死霊)は若い頃の姿に・・・・・・・金茶色の収まりの悪い髪をした筋骨隆々の偉丈夫!


「ここにも年月詐欺がいたぁぁぁぁぁ!」

「うんうん、娘よ分かりますわ、嫁いだ頃は良く射止めたと思ったけど数年もしないうちに・・・・・・・・・・・・」

子爵婦人(死霊)も乱入してくる。彼もまた幸せ太りである、と言うか婚約と同時に前線から離れ後進の指導や後方支援に回ったため運動量が減ったためでもある。

体動かせよ!


「なにがなんだか・・・・・・・・・・」

「これも日常と流すのがここで暮らすコツだぞ。新入り。」

「なんと言うか魔境?」

「魔境言うなって遊びに来ていた元魔王様が言っていたなぁ・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・ここどんだけなんだよ!」


死霊っ子(元)は色々と混沌としていた昔を思い出す。


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