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35.旅立つものに幸いを

【最後の勇者】と呼ばれる【菓子作る神官】のもとに来てから一年ほどが過ぎる。彼は平穏の中に時折起きるドタバタを楽しんでいるようであった、ただその規模が世界の大混乱を巻き起こしかねないのを見て『平穏』という言葉の意味を辞書で引きたくなったのは笑い話としておこう。


それ、笑い話じゃないから。(by霜降神)

下手をさらせば、【魔王勇者戦役時代】の再来だから(by芒種神)

彼が面倒くさがりであった事を喜びたい。戦バカだったら世界の傷は何度も開きかねん。(by便所神)


多くの死霊と虎児っ子を導きし前世を持つ【世界の贄】たる可憐なる少女『遅き約束』は一度里帰りすることを考える。

今世の二親とは手紙を交わしている。それでも直に逢って抱きしめあって母の料理を食べたい。父親とも過剰な愛情表現は簡便だが今までの話をしたい、兄姉達ともバカ話をして思いきり甘えたい。

決して、このままいたら【聖女】にされて婚期遅れ(いきおくれ)にされてしまうなんて悲劇は…………げふんげふん。

ただでさえ前世?死霊っ子時代は生贄にされてから『菓子作る神官』につきそって逝き遅れて………無理やり冥界の道を進めば生き遅れて…………【聖女】にでも間違ってなってしまったら婚期遅れ(いきおくれ)なんて喜劇…………じゃなくて悲劇。そんないきおくれ三連発なんて彼女は望んで……………げふっ!



地の文は諸事情により交代いたしました。代わりまして私地の文が………って、神様方なぜ顔をそむけて?ああ、いろいろと原因になっていたりやらかしていたり………特に冥界神様とか境界神様とか光明神様とか人族祖神様とか……………

って、なんで【極北諸神群】様方とか【荒野諸神群】の皆様がアップ始めているのですか?ついでに【魔王勇者時代諸戦神群】や【狭間英霊神群】、【魔王領諸祖神群】、【西方諸島諸神群】、【東方地域諸神群】、【南方地域英霊祖霊神群】の皆様まで………って、幼女守護神様とか厨房神様とか性愛神様とか何本気出しているんですか?ちょ、ちょっと待ってください暗黒神様!性愛神様とかシャレにならないですから……………

神界では適度な運動が行われていたようだ。と言っておこう。私も命が惜しい(by地の文)

とりあえずいえるのは彼女にはお気に入りが多いということだ。神々は常に見ている、視点は常に偏っているけど。


死霊っ子(元)の些細な願いを聞くと菓子作る神官は

「うむ、長々と引き留めてしまったな。親元に帰るのならば土産を持って行け、いや、我等も挨拶せねばならないかな?」

と老いた神官は彼女が幸いなる生まれと育ちをしたことを喜んでいる。妹分が里帰りするのだ錦を飾るのも兄貴分としての役割だろう。実際、多国籍な外交官たちをさばくのに彼女の助けがなければ本気で苦労する。金貨で数枚くらいその労力を考えれば…………

「おにーちゃん、仕事サボろうなんて考えてないよね?」

「さぁてな。」

年月を経て、かつての勇者は悪賢くなっているようだ。そんなこんなで話をまとめて送り届けるための護衛とか用意するのである。その中に神の采配(ご都合主義)か彼女を連れてきた隊商の面々も合流することになるのである。


かの隊商、上客………しかも神経使いすぎて胃が痛くなりそうな部類のである………金払いはよいのだが。

それ以前に持ち込まれる荷物が処理能力をはるかに超えている。

「遅き約束ちゃん、なにやっているの!うちらの処理能力超えてるよ!神官様夫婦はわかるけどなんで【啓蟄】の王子様夫妻(まだ婚約状態です)をはじめとする各国の貴族様とか【調停者】悪相卿様とかどう考えても国から護衛とか出さないとだめじゃない!」

「いくらなんでもこんなに運べないしこの人たちのお世話できないよ!どこでこんなに酷い人脈作ったの!それにこの人達護衛いらないでしょう!むしろ俺らが寄生して護衛してもらっている状態………」

「仕事くれるのはいいけど対応できる範囲でお願いします。なんで里帰りがが大行列になっているのさ!神官さんも笑ってないで止めてよ!」

隊商のみなさん大混乱である。話を持ちかけた死霊っ子(元)こと遅き約束嬢は………視線を反らして誤魔化している。うまい仕事だけどそれをこなすにはある程度の実力が………件の隊商は自らの能力不足を理由に仕事を断るのであるが、ちゃんと実力を弁えていることに貴族連中の信頼を得て細々とした依頼を受けることになるのだがそれはそれ。【聖徒】での事を理解している地元業者というのは外地での活動にとても重要である。それが信頼できるのであればなおさら。



【神殿協会】にても、悪相卿を初めとする面々が新たな地に向かい故国へと向かうのは止められない。だが……

「菓子作る神官様!仕事おっぽり出して旅立たないでください!」

「そこは、私の優秀なる子供達を次代に繋ぐものとして託しておいたのにですか?」

「年端もいかない少年とか、年若い娘とかもう少し貴方の庇護下にいるべきものでしょうが!」

「協会長、では彼等を私の庇護下に戻して………」

「あんたも働けやぁぁぁぁぁぁぁ!」

【神殿協会長】彼は隠遁を求める神官の引き留め工作で大変である。

「それに遅き約束嬢を里帰りさせるなんて、どれだけの損失かを!次代の【聖女】候補!早く次の【聖女】決めないと当代がいき遅れて…………玉章少年を襲ってしまいかねないじゃないですか!流石に俗物だとかなんだ言われているけどあからさまな犯罪行為はダメでしょう!それに玉章少年は代々高名な神職を輩出している【第二公爵家】のご令嬢が望んで」

「彼女、神殿長殿の姪っ子では?」

「血縁は否定しない。そのままうちに取り込んで………後々の神官とか神殿協会長とか目指してもらうのも………」

「当代だと?」

「ちょっと外聞が………あまりにも年下すぎるだろ………それに【第二公爵家】をはじめとする【聖徒五公爵】からも依頼があってな。彼をはじめとして神官殿の孤児院の子供達の接収を………あの街の小役人とか軍の補給官とか、地味に使い勝手が良い子が多いじゃないですか!出来ればあの街の鍛冶師の所にいる……」

「通りすがりの【工芸神殿】の神官です!協会長!うちの有望株を引き抜くなんてケンカ売っているんですか?あきらめるというまで説得しないとだめですか!」

なぜか通りすがりの【工芸神殿】の神官、神殿協会長に対して手にした鍛冶鎚で説得を試みる。

「工芸の、一応絨毯のシミは落ちずらいから………」

「なるほど、では外に連れ出して…… 菓子作る神官殿、貴方の息子は我らの難儀を十二分に和らげ鍛冶師達の仕事の多大なる助けになっております。」

「ちゃんとあの子に鍛冶としての修業つけているんか?」

【工芸神殿】の神官は顔をそむけた………一度あの鍛冶の親方の所に話をつけないとだめなのだろうか?件の少年の義父が腹を抱えて笑っているのが目に見えるようだ。道は思うように進むのは難しい。


「で、師匠?私達を置いて行かれるのですか?少なくとも手伝いをもう少ししてもらいたいんですが!なんでこっちに仕事がいろいろ………」

「お前もそろそろ独り立ちする時期だろう、幸い【玉章家】の方は後継者にも恵まれてお前の出番がなくなった………あれ?そういえばお前を呼び戻して当主になんて……」

「師匠!それ洒落ならないから、またお家騒動とかに巻き込まれるのはイヤダァァァァ!」

「玉章少年よ、【第二公爵家】に来るかね。我家の眷属となって神殿を牛耳るのも」

「協会長、何シャレにならないこと言っているんですか!そっちの方が実家からの圧力高まるじゃないですか!せっかく兄上達に仕事を押しつ…………じゃなくて譲り渡して隠遁しようと交渉しているのに!」

「あー、それは無理だ。事務系とかはともかく仲立ちとしての仕事は貴殿でしかできない。それに内々だけど【神殿協会】から【祭司】の位階が贈られるのが決定しているのだが………」

「えっ!勝手にそんな役職、それに私神殿に所属した覚えがないんですが………」

「何寝言言っているんだ?菓子作る神官殿の弟子ならば普通に【神殿協会】所属だろう。」

「な、なんだって!そんな罠が…………」


がっくりと崩れ落ちる玉章庶子…………どっちにしろ【人族連合】の民は【神殿協会】の神々を信仰しているのでその所属と言われればそれまでである。彼が望む道に進むのは竜の守る地獄の門をけ破るよりも険しい。


「あら、神々に仕える道を共に進まれるのでしたら一緒ですわね。」

「せ、せいじょさま………平信者でいいです。」

「あそこで説法して信者さん達を発心させておいて平信者はないですわ。最低でも神職でないとこっちの体面が成り立ちませんわ。」

「弟子よ、お前の成長は喜ばしく思うぞ。ついでに私の神官位も継ぐか?」

菓子作る神官のだめ発言は場の一同の冷たい視線を一点集中させるのである。



結局の所、玉章庶子は【祭司】位を受け取る羽目になるのだった。それを知った貴族達が【神殿協会】に対して目をつけていたのにと苦情を申し立てるのは笑い話。【狭間】の悪相卿が

「あの少年には私の跡を継いで【世界平和会議】の議長を受け持ってもらいたかったのだが………」

とぼやいたのに【光明神殿】の神官様は

「別に議長職も兼任は駄目なのか??別に囲い込みはするけどあからさまな贔屓はしてもらう必要ないですし…………」

「なるほど…………神官様もなかなかお人が悪い。若者に更なる重荷を背負わせるなど。」

「いえいえ、悪相卿。未来を背負いたつ彼に期待しているだけですから。」

すごくいい顔をした二人だったとのちにおつきのものが書き記している。



玉章庶子の叙階は遅き約束の旅立ちの前に急ぎ執り行われる。

【神殿街】の奥にある大聖堂にて百の神官、数多の神職、神殿街を埋め尽くさんばかりの信徒達に囲まれてその印が与えられる。【光明神殿】の大祭司が彼に印を与え新たなる兄弟の誕生を寿ぐ、【聖女】が彼のもとに赴き祝福を与えると神々は様々な色の光とともに彼に祝福を与え一つの古木の杖を降ろす。


ああ、子供よ。汝は世界を駆け回るだろう、煌びやかなる錫杖ではなく足取りの助けとなる杖を……………贈ろう。願わくば多くを見て多くを聞いて多くの出会いと別れの中から一歩先を進まんことを。(by暗黒神)



神々より神器を授かることは稀である。祝福ならば結構適当にふりまかれているけど………おもに酒場で………

儀式の場にて神々が力を示し、祝福と神器を授ける。それだけで玉章庶子の行いは善き物であったのだろう…………

「ああ、私の後継として据えるには勿体ないもんだよ。あの杖を降ろさせるのに【酒盛市場】の神々の付けを2年分ほど立て替えてやったかいがあるというものだ。」

「わが君何やっているのですか…………」

「あんた…………買収はするなとは言わないけどさ………こうも大っぴらにやるのは如何かと思うんだけど……」

「おにーちゃん。」

某生臭神官の仕込みに彼にまつわる女性達はジト目で彼を見る。それ以前に地の文の(略)




そんな事があったとはつゆ知らず、祭司となった玉章庶子は古木の杖を掲げ

「場にいる者に感謝を。場に居らぬとも私に縁の在りし者全てに感謝を。旅路の杖ということは私の人生という旅路はまだまだ長く続きなだらかな道ではないのでありましょう。いえ、世界というものが未来へと進む旅路がはるかに険しいものでありましょう。今の私がこの場にあるのは先人たちの導と神々のお導きによるもので御座いましょう。私が成した事は数多ある国や地域や種族の希望を抱いて安寧を願う者達にちょっと話し合う場を紹介しただけであります。私が【悪相の後継】等と言われておりますが自身で行ったことなんて言うものはそれだけであります。場にいる皆様方にお願いがあります、私が平和の一助となったというのは間違いなのです。話し合いの席について戦わずに済む法を互いに幸いになる法を探り当てた各国の代表の方々こそ真に称えられるべきであります。そして、各国の民草の幸を願う声を拾い上げた堅実なる王侯とそれを支える民草のすべてが称えられるべきものであります。私は何もしていません、幸いの声を挙げる民こそ称えられるべきでありましょう。民の思い組み上げる王侯を称えられるべきでありましょう。国の幸を背負いこの地に訪れし者達の粘り強気話し合いこそ称えられるべきものでありましょう。彼等の旅路はこの杖があるようにまだまだ続き険しいものでありましょう。でも、私が何もせずとも世界は善き方に善き方に向かっています。それは皆が幸いでありますようにと願い動くからです。ちょっとした行き違いや好みの差があるでしょう。たとえばから揚げにレモンをかける…………みたいな…………あれ?なんでにらみ合いが?えっ!ちょっと、そこでマジなケンカしないで下さいよ!から揚げにレモンなんて下味で仕込むものでしょう?えっ!なんで私まで敵扱い?ちょっと、かける派もかけない派も親の仇を見るような目で…………ちょっ!だれかなんとか………」


「わしはレモンかけない派だし、酸味が苦手だ。」

「かけて味の変化つけるのは悪くないだろ。レモンより橙がいいけど」

「かけないのもいいけど。マヨだよな。」

「マヨは流石にくど過ぎるだろう!ここは塩!」

「塩、塩というだけで通ぶれる……なんて罪深い……」


「なぁ、【聖徒】って節制を旨とするお堅い国だったよなぁ。」

「俺もそう聞いていたが………ねぇ、聖女さんのお付ちゃん、そこら辺ってどうなっているの?」

「別にお堅い国だけど美味しいもの食べちゃダメとかってないから。あんた達煮売りとか菓子作る神官様の影響で表に出始めているだけでしょう。ちなみに私はかけない方が好みね。」

「そんなのは各自のさらに取り分けてからかけるかけないすればいいだけじゃないと思うの俺だけ?」

「「だよねぇ~」」


「なんでそんなんで論争おこるんだよ!その論争は食卓でやれよ!そもそも自分の分取り分けてからかければいいじゃないか!」

バカな論争に玉章庶子逆切れ!その意見に

「そりゃそうだ!」「納得だ。」「そういう考えもあるか。でもマヨネーズに溶かしバターはダメだ。」

「さすがに溶かしバターまでは油まみれで衣が……」「香草入りの塩なんてのは好いと思うが」「それこそ下味じゃないか?」


こいつら本当に【聖徒】の…………って【厨房神殿】に【西方平原国】、【狭間】に【魔王領】、【豊穣神殿】…………外交官系も美食家が多いよな。うん、わかりやすい喩だけど何火種作っているんだと突込みが………


頭痛が痛いという表情で玉章庶子は杖を掲げ一言

「神々よ照覧あれ!我等は幸いなる道を進まん!神々よ祝福あれ!この場において結ばれし平和への約定を!そして、数多の種族が手を取り合うこれからに!」

掲げられた杖に光が降り立ち場を光で蹂躙する。神々は場にいる者達を【聖徒】の民すべてに祝福を与えるのである。



「これもおにーちゃんが?」

「奴は神々に気に入られているからなぁ……」

「これが終わったら旅立ちだね。」

「ああ、そうだな。」


死霊っ子(元)の旅立ちは近い。


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