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34.酒飲みたちの宴

「何で俺達、【厨房神殿】にいるわけだ?」

「なんでも巷で評判の料理を食べて料理人たちの技術向上とかなんとか………」

「まぁまぁ、それだけお前等の煮売り屋台が評価されていると言う事だから。あと、一日銀貨20枚はこれはこれで美味しい………」

「うん、銀貨20枚で技術売り渡されてなんていう事じゃなければ大丈夫ですけどね。」

「基本的には何処の地方にでもある煮込み料理なんだけどね、技術を売り渡してとかというのは特にないんだが………それに気の早い連中は再現をとか言って自分らで作っているし。」

「俺等もご相伴にあずかって………って、孤児っ子に、街っ子がもう食べてる。俺達も食べなかければ………って客が」

「るすばんよろしっこー」

異世界人その一が客応対している間に屋台の面々は他の屋台を目指して突進するのである。


異世界人達の煮売り屋台、現地の飲食業の面々の色々を刺激してしまっているのは笑い話である。優先権とか商標とか基本的にない世界、【厨房神殿】やら【豊穣神殿】を巻きこんで現地住民達も二匹目のどじょうを狙っているのは見え見えである。

とはいえ、現状は人気ありすぎるので同業他社万歳としている異世界人である。ついでに言えば手伝ってくれる孤児っ子達の就職先を探すのにって………思っていたけど。読み書きそろばんできる孤児っ子達って普通にどこかの商会とか貴族家でも受け入れられるのだから余計なお世話というか………神殿でも神々の教えに幼き頃より浸かっている子供というのは大歓迎だったり、ついでに【聖女】候補とか


「いやぁぁぁぁ!【聖女】候補なんていきおくれ直進じゃない!」

孤児娘ちゃん地の文を(以下略)、それにこの場には

「あらあら、私っていき遅れなのかしら?」

「【聖女】様でしたら貰い手の一つや二つ…………ありますって、最悪其処の異世界人達を。」

「おいっ!【聖女】様が嫁さんだったらいいなと思うのは否定しないが、最悪とか保険扱いするな。」

「そうだ、そうだ!ところで玉章少年は【聖女】様貰わないんか?」

「おにーさんそこは気になるなぁ、専用の菓子を贈ってとかいろいろ話を聞いているけど。」

「どこからそんな話が………」

「そこのお付の女性神職さん(おねーさん)たち。結構夜食買い込みに来てくれているから。」

「えっと、私の分は用意していなかったのですの?」

「…………あははははっ、私たち個人で食べる分だけですし【聖女】様が夜食を所望しているとは思いませんでしたから。次からは聖女様の分も………それはそうとして玉章少年は【聖女】様貰わないんで?」

「私のような一介の孤児が【聖女】様を嫁にもらうなんて………それ以前に年が離れすぎているでしょう。下手すれば親…………ぐはっ」

「年の離れた姉弟ならばまだしも…………」

「だって、母はまだ二十代………」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

会場となった【厨房神殿】には複数の女性の悲鳴が上がって神殿兵(警邏担当)があわてて飛び込む騒ぎとなるが理由を聞いて神殿兵は逃げ出した。神殿兵だって命が惜しい。逃げ遅れた若手神殿兵(17歳)は女性神職(26歳)につかまってしまった。数ヵ月後、二人の式が挙がるのだが………二人とも幸せそうだし、まぁいいか。




「一介の孤児という言葉の意味を調べ直すべきだと思う人はいませんか?」

異世界人の突っ込みにその場にいるほぼ全員の手は挙がった。

「どう考えても、【調停者】悪相卿の後継として注目されているのが何を言っているんだろう。」

「【神殿協会】としても調停者としても説法者としても【聖女】の婿としても,

将来的には【神殿協会長】として、世界の安堵と平安を担ってもらいたいんですけど。」

「ちょっと、そのいろいろな人材募集はいろいろ突っ込みたいところあるけど【聖女】の婿って何ですか?」

「………あれ?あれだけ派手に口説いているのに婿志望じゃないって………」

「俺たちが【聖女メシマズ説】で問題になっていた時に花の菓子を用意して慰めたって話を聞いたけど。」

「おれさぁ。聖女様が無茶した時に本気で怒って心配したって話を聞いたけど。」

「少なくても【聖女】様側は………本人としてはどうなんですか?【聖女】様」

「えっ!えっ!えっと………」

聖女様は赤面している。いい年こいてなに…………ぐえほっ!


地の文に代わりまして私地の文がはいります。

「地の文、無茶しやがって…………」

ずびしっ!



男たちの大半は空に向かって敬礼する。女たちは白い目で見ている。【聖女】様が玉章庶子と結ばれるにしろ他の誰かに結ばれるとしろ一先ずは引退せねばならず、そのためには後継を用意せねばそれすらママ成らぬのである。

「貴女、本当に神殿に来る気はない?【聖女】として推薦するわ。」

「え、えっと………あたし光明神様より暗黒神様の方が………それに【聖女】様として向いているとなれば、遅き約束ちゃんとか、今神官様の所で穀潰ししている司書していたねーちゃんとかいるじゃないですか。両方とも料理おいしいですし。」

「あーあたし売るの?」

「でも、光の神官様とか神々の信頼厚い遅き約束ちゃんを迎え入れたいって言っていたよ。」

「それはお断りだよ!神様達意外と人使い荒いし、せっかく抜け出したのにまたやるバカいないでしょ。」

「えっと、遅き約束嬢。一応ここ神殿で回り神々に仕える者ばかりなんだけど………一応は自重してくれないかな…………」

「おっと、失礼いたしました豊穣の神官様。光明神様は時折私の作る菓子をつまみ食いするものですから」

「うむ、そ、それは…………」

豊穣神の神官の答えがなかった。因みに豊穣神は出来上がった時の小休止にふらりときてご相伴にあずかるちゃっかりさんである。暗黒神様は孤児っ子達に席を勧められて渋々といった風情で一緒に食べながら子供たちの幸いなる様に頬を綻ばせる不器用さんである。



取り敢えず気を取り直して、品評会という名が付きそうだけどただの食べ比べである。神殿と言うのは職能組合的な部分が多くあるので技術交流なんかも良くある事である。でもこの場合は

「技術交流の名を借りた宴会だな。」

異世界人は遠い目をしている。どこからか持ち込んだ酒に口直し用の香の物、種々の軽食を用意した大皿…………

「これは、色々制限を外した方が宜しいのかしら?」

「聖女様、食事療法(ダイエット)は明日からなんて言わないですよね。」

「え、えっと………食べないのも失礼にあたるのではないのでしょうか。」

「大丈夫です、聖女様は太っていませんしむしろ少しくらい肉をつけていただいても問題ありません。それ以前に食べ方さえ間違えなければ明日のおやつを」

「ちょっとまって、明日のおやつって」

「異世界人の氷菓職人による『ばばへら』…………もとい彼女は若いので『あねへら』だっけかな。」

「ええ、私が材料から厳選して用意いたしました。」

「玉章少年、なんで私を困らせるのかな?」

「聖職者は節制を旨とするものですから別に食べなくても不都合が………」

ぐわしっ!

「面倒くさい神官たちとのやり取りにに無意味に長ったらしい神事、その中で唯一の楽しみである君の菓子を制限?私に喧嘩売っているの?」

「い、いえ、そんなことは………」

「別にここでしっかり食べた後で明日のおやつ食べてもいいよね。いいわよね?ダメっていう返答は…………」

「別にがっつりお肉とか言わなければ別に問題はありませんから、こういう煮込み料理は野菜の方が美味しいですし。あっちの鍋はどうですか?血蕪がほっこりしてそうですよ。」

うまく逃げたようである。別に【聖女】が太っても娶る気はないので。



なんか【豊穣神殿】【厨房神殿】の技術交流会の名を借りた宴会になっているのは笑い話であるが、技術の向上や自らの産物がどうすればよく売れるのかを調べるのは悪い事ではない。職能組合的な意味合いもあるからこういったところを疎かにする事は出来ない。生計的な面で。

「おじちゃん、この汁の味の秘密は?キノコ?」

「手伝いの街っ子、良く判るな。そっちの出汁の秘訣が判らないけど教えてもらえるか?」

「こっちはねぇ、神官さんが【東の凍らず】で手に入れた昆布と言う海藻なんだって、海の中に生える草って何だろう?」

「溜池に生える奴の親類筋か?で、茸と昆布とやらを合わせたら美味い足す旨いでもっと旨いにならないか?」

「おじちゃん、あったまいい!」

因みに出来上がったのはたがいに喧嘩する味だった。旨い物をこれでもかと入れればうまいと言うのは嘘である。薄めて丁度良かったなんて言うのは良くある話、何事にも適度と言うものがある。ただし、この二人はただでは起きず、薄めて出来る出汁の元として売りに出すのは逞しい事である。



「やぁ、皆の衆。やっておるかね。遅れてしまったようだな。」

「菓子作る神官様!」

宴………

「技術交流会である。」

厨房神の神官、これはどう見ても宴であろう。そして地の文に対して(略)

「否、宴にあらず。技術交流会である。そういう触れ込みで予算取っているのだから誰が何と言おうと技術交流会である。その証拠にそこの子供と店主が味について語りあっているではないか。嗚呼、私には良く判る。彼等が試行錯誤して新たな味を創造する未来を!そこの異世界人達を見ろ、彼等は美味なる物を饗して食べる者の幸いなる様を見てさらに工夫しようと苦心する。地の文よ、私はなんという幸いなるところにあるのだろうな。神に仕えぬ者達が幸いであろうと幸いの道筋を作ろうと、幸いである者の顔を楽しもうとしている。それを受けて幸いなる顔をしている自称乙女な聖女とかその顔を見て善き顔をしている玉章少年とか街っ子が親が倒れて自らの食い扶持を稼ごうとしながらも更によき物を求める姿は善き者であろう、予算の価値があろうという物だ。」

えっと神官さん、取り敢えず周り見ておいた方が……

「誰が自称乙女ですって?」

「セ、聖女様!まさか、二十歳過ぎで処女なんて…………そんな、いろいろ…………みぎゃ!」


厨房神の神官、死亡。(死んでません)

「普通に【神殿教会】にケンカ売ってる発言だから。社会的にと言うか周りの女性陣が………」

成程死んでますね、って、後地の文に(略)


聖女が厨房神の神官に絡んでいるのを尻目に玉章庶子と死霊っ子(元)が菓子作る神官こと勇者(笑)の元に駆け寄り

「おにーちゃん何企んでるの?」

「師匠がこういった集まりに来るなんて珍しい……訳でもないか。近くで開催されていれば行きますものね。主催者側から参加要請されたり遠いと逝かないけど。」

「まぁ、面白そうだしな。あと、姐さんの麦酒のお披露目もやっつけておかないとな。やっと許可がおりた。酒精神様の神託を引き出すのにどれだけ苦労したか………」


ちょっとまつんだよー!新作の酒と称しておびき寄せて許可しなかったら【二日酔いの薬(激マズ)】を流し込もうとするなんてとってもひどいんだなー!(by酒精神)

「ちゃんとおいしいお酒用意したじゃないですか。【魔王領】の【千年古酒】とか【極北】の【氷剣酒(アイスソード)】(聖騎士付)とか異世界の酒なんかも用意して散々飲みつくした挙句『ぼくにそんなけんげん………』と言ったら切れて【二日酔いの薬(対酒精神特効)】を用意したくなるのはありですよねー。しかも姐さんの醸した酒を飲みつくしてというのは許されることであろうか?神々であっても許されることではない。日頃から散々飲みやがって!のんでから不許可とか言わないよなと取りあえず【酒精神殿】に請求書を回したり【神殿協会】に神々の信徒としてと請求書回したらなぜか許可が下りた。」

うわぁ、この鬼畜神官確信犯だという話は表に出なかった。表に出したらこれの負担はどこにという話になるのだし姐さんの麦酒は美味しいのは否定できない話である。

そしてこの酒は普通に美味だったので受け入れられるのである。実際問題、各国使節団特に【極北】やら【魔王領】等の酒飲み連中が来るので歓待の為の酒を用意せねばならないのは事実である。酒と並行して麦芽糖(水飴)を用意する彼等の力量を期待したい【聖徒】の政府とやり取りがあったのは遅れた原因であるのだが数か月程度で許可と設備を用意したのだからその辣腕は見事というべきであろう。おかげで【聖徒】でもちょっとした贅沢品であるのだが甘味が出回るようになっているのである。


「熱い煮物に冷たい麦酒。美味美味」

「俺はこの煮汁をひき割り麦にぶちまけたい。」

「砂塵の食べたいのか?」

「いいのか神官殿!ひき割り麦はごちそうだぞ」

「なぁ、砂塵のお前さんたちは私の客人にして幼子の恩人だぞ。ちょっとばかし調理に時間がかかるがそれを理由に断るのは違うだろう。それにな、ここは【厨房神殿】だ!旨い物を求めるバカがそろっているから異国の料理というのも趣があってよかろう。」

「もともとで言えば吾等の同胞を助けてくれたのは神官様だぞ。」

「問題ない、私は神々に仕えるものだ。そこで嘘だという意見は取り敢えず置いておくとして、人々の幸のために微力を尽くす生き方をしてきた。【砂塵の民】を襲った不幸に対して我等に対する物資をたまたま持っていただけにすぎん。それになそこにいる我が妻『豊穣の金色』と『浮草』がな『こんな不幸のさなかでうまい飯食えるか!』と可愛い我侭を言っていたからそれに応じただけだ。恩に着ることはないし恩に着るならば我等が来たとに幸いなる様を見せてうまい飯を食えるようにすればよい。異世界人達よ、ひき割り麦を油と塩で揉みこんだ後で蒸しあげてくれんか?」

「ちょっとやったことないんだけど。」

「クスクスと一緒だから。」

「クスクスって有袋類?」

「定番なぼけ乙!ひき割り麦のパスタだろ!って、下ごしらえわからないんだけど。」

「バカなこと言ってないで作ってみる。」

異世界人共はバカなことを言いながら作業指示をうけて作り上げていく。彼らもまたおいしいという言葉がとてもうれしく感じる大ばか者である。

「蒸すついでにこれも蒸していい?」

「肉まんかよ!畜生、これは許可せざる得ない。豚マンだったら修正入れなくてはいけないが。」

「それでも最高のものを選ばないとだめだろう。ゼラチンでスープを固めたものを……」

「ばかやろ!それだと初見殺しになるだろうが!あれは美味しいがちゃんと誰もが楽しめるものでないと。って、てめぇ、茶碗蒸し仕込んでいるんだ。」

「馬鹿いっちゃいけないよ、俺が仕込んでいるのは苧環蒸(うどん入り茶碗蒸し)だ!そして、女性陣もいるだろうプリンをはずすのはどうだろうか?」

「苧環蒸はともかく、プリンは冷やすのが大変だろうが!」

「な、なんと…………それは忘れていた。まぁ、聖女様たちは普段から美味しいもの食べられるから別にいい…………」

ぐわしぃ!

「えっと、聖女様のお付の神職さん?」

「プリン、奉納してくださいますよね。しますよね。しないと……………いたっ!聖女様」

「そこで私たちの恥をさらすようなまねをしないように。とはいえ、プリン期待いたしますわよ。」

「ははははははっ、冷やすのはそちらでお願いいたしますね。」

苦笑いする異世界人某と食いしん坊な神職系女子はい聖女様より先にくっつくことになるけどよくある笑い話である。



そんなこんなで馬鹿なことをしているうちに引き割り麦が蒸しあがる。【砂塵の民】達が目を輝かせている。

「ねぇ、神官さんあっちの布まみれのおっちゃんたち(砂塵の民のこと)が目を輝かしているけど、そんなご馳走なの?」

「街っ子、【砂塵の民】にとってはご馳走なんだよ。彼等の土地は砂と岩まみれで水気がなくて飲む物にも乏しい、その中でも汁気たっぷりの煮物に滅多に手に入らない引き割り麦の蒸したのは彼らにとってご馳走だ。ご馳走ということで何でもよいことがあったときには彼らはこれを用意してみなで分け合って食べるのだよ。彼らにとって引き割り麦というものは富の象徴なんだな。彼等の土地は麦というものが育たないから麦を手に入れるというのは其れなりの伝手と力がないと手にできないのだよ。」

「何で神官さんそんな麦も手に入れられないような貧乏な連中に気をかけるの?」

ごつっ!

菓子作る神官は愚かしき質問をした孤児っ子に拳固ひとつ落とし

「お前等から見れば彼らは貧しいと思えるかもしれないが、彼等は本当に高潔な民族だ。彼等の元に訪れたとき疫病が流行っていたんだがその薬は足りてなかった。そのとき彼等はどうしたと思う?」

「えっ、普通お偉いさんたちから薬を使うんじゃない?」

「それは不正解だ。彼等は女子供とそれを守る男たちから先に薬を服用させて長たる者達は支えるものの最低限だけに薬を服用させていたんだ。長老達は一切薬を服用せずに死するそのときまで己の民を支えることを己が役目としていたんだよ。否、死しても尚、導きの祖霊として幸いなる道を退けてひとつ苦難の道を退歩む大馬鹿をほって置けるか?その大馬鹿というのは齢10を超えた子供で己が婚約者に『生きよ、我の事等忘れて』といって婚約破棄をしてから己のための薬を婚約者と幼き子供に与えているんだぞ………」

子供の目に涙があふれてこぼれている。

「その若様はどうなったの?」

「そこで引き割り麦を貪っている若いのがそれだ。彼は死に至るまで長たる気概を見せんと意地を張っていたが病に倒れてしまったんだ。それでも意地っ張りな彼は『われが治療を受けるのは一番最後だ』と言い張って我等が持ってきた薬を拒否して………」

「そ、それって後遺症とかいろいろ………」

「あっ、えっと………普通に数日熱にうなされてから倒れているわけいかないと立ち上がって普通に働き始めて…………【砂塵の民】の立て直しを図ったりそのときに世話になった数多の民に恩返しのためとかお礼参りとかで諸国をめぐっているんだよ。」 

「それって、ばかじゃない?」

「ああ、街っ子。彼は大馬鹿だ。そのとき死んだ子供らが再び生まれてくるときに幸いなる世界を用意したいと意地を張るよき若者だ。まぁ、病から立ち直った途端に長老衆から説教のフルコースと元婚約者からの水平に吹き飛ばされるほどの拳とあばらが折れるほどの熱き抱擁が待っていたのだがな。寧ろ、病気から治った途端に冥界送りされるなんてと思ったのは笑い話にしておこう。うん、私はあの時彼は死んだと思ったぞ。」

「神官様、そんな昔の話しないでくださいよ。ほんのちょっと愛が重たくて全治3か月だっただけじゃないですか。それを言うならば神官様の所の痴話喧嘩の方が、神官様が水平に吹き飛んで隣村まで行ったとき死んだと思ったぞ。それが隣村のはずれにある石切り場の残骸の中から『いたた………』と言いながら這い出してきたときは魂が飛び出るかと思うくらい驚いたぞ。」

「えっと、神官さん。其れって普通に死亡若しくは重症な場面で………」

「むしろ人間を水平に飛ばす姐さんの方を如何かと思うんだけど。」

「まさか俺達もこの同類と思われるなんてことないよな。」

「大丈夫だよ、にーちゃん達。そんな非常識な事するわけないでしょ。にーちゃん達弱いんだから。」

「弱いと思われていることを怒ればいいのか、非常識に巻き込まれなかったことを喜べばいいのか、取り敢えず街っ子、俺達をあれと同類と思うなよ。死んでしまうからな。」

「えっ、にーちゃんたち神様の怒りの五十土喰らって平気だったじゃない。」

「うむ、異世界人達は無駄に丈夫と……………」

「砂塵の!」

「うむ、流石にあれほどの防御力は持っていないのは理解している。それに我はあの行いを叱られこそすれ後悔はしていない。2ひく1は1だ、現実はその1である私はここにある。一つをいくつにもできる実例だと思わんか?」




「ねぇ、全然収拾していないんだけど。」

死霊っ子(元)の呟きは誰も拾わない。そしてそれは加速していく。その原因は敬愛する兄貴分である菓子作る神官であるのは笑い話としておこう。


「皆の衆、この場に私は客人を引き連れてきたのだが彼等の参加も認めてもらうのはよろしいだろうか?美味しい物を食べてうまいと喜び、不味い物を食べて顔を顰めて苦笑いする。友とともに美味を分かち合うことを幸いと感じて誰かの禍に心痛める彼等と縁結べと世界の果てより彼等を連れてくる。【勇者】だの【魔王】だのと相争う世界に対しての問いかけ(アンチテーゼ)であり、私の愛しい弟妹分達を大理不尽にさらした莫迦者達に対する嫌がらせである。さぁ、最果てより来る友よ!共に喰らい騒ぎ幸いなる時を過ごせることを示そうぞ!」


【最後の勇者】である菓子作る神官は連れてきた客人達を中へと導く、天をも轟き震わせる古き雷竜に神々の摂理(ちっぱい)より離れて(おっぱい)と交わる古妖精(アールブ)、武具打つよりも鍋打つことを喜ぶ鍛冶矮人、美味とは何かを求めて共に楽しむことがよいと知る醜き豚鬼(オーグル)、幸いの歌を紡ぐ最後の古き巨人に彼の相棒である長耳族の楽士娘、【魔王】より幸いあれと願いを託された狸獣人に荒ぶる鬼の末裔、天をも喰らう叫びを挙げながらもその拳を握りつぶして幸いの歌を歌える世界を望む神をも喰らう狼獣人。彼等は人族以外の数多の種族の末裔である。人の理の外にあると言われながらも守りたいものがあって戦い続けた。ただ、それだけのことである。

【極北】よりは【薊】の名を受け継ぐ若者と古き大戦士の衣鉢を受け継ぐ【神討ち】の戦士、極光神の寵愛を受けて外の世界を学ばんとする神々の僕、そして、愛されているが故に彼等の為に己の存在価値を示さんと意地を張る孤児っ子。そして多くの酒飲み戦士達、古き戦にて故郷を荒らされる事を厭いどちらの陣営にも組する事を良しとせず、多くの戦を厭う面々と戦を逃れてきた数多の種族を受け入れて【極北内海】を支配する事によって戦場を限定的にした氷海の戦士達の末裔。

【狭間】よりは神々に問いかけし【悪相卿】を始めとして【六剣公爵】の代行者やら【狭間孤児院学園】出身の官僚群やら【荒野の民】の一隊やら…………この辺は【狭間】らしい選択である。ちょこちょこと孤児っ子が混じっているのは官僚群がかつての自分たちの姿を思い起こしたか?【荒野の民】の本能だろうか?意外と孤児っ子たちが強かだったという話もあったりなかったり。

そして、紛れ込んでいるのは【南方】の面々。料理人とか商人とかどっちかと言うと商売よりなのが見え見えなのだが、無駄に現地では手に入らない物だったり高品質だったりしているのは需要という物を判っているのである。


そして便乗する【人族連合】所属各国の大使達、酒の匂いにでもつられたのだろうか。

「地の文よそれは失礼千万というものだ。美味なる物を得るには縁故と金と才覚が必要であろう、幸いにも我らには菓子作る神官殿とその一門の子供達という最高の縁故がある。彼等の才覚と縁故があれば後は金さえ払えば美味なる物が手に入るというものだ。それにこの場には数多の国の者がいる。十分我等の仕事がはかどるというものよ。」

「貴族様ちゃっかりしてるね。」

「ハハハ、子供よ。我等は最低限の労力で最高の仕事をせねばならんのだよ、国許や外地にて苦労している者達の助けにならねばならぬのだし我等が動く物資や金子だって民草の汗水たらして作り上げた貴重なものだ。それを無為に費やすのは許されることであろうか?否許されぬことである。」

「おおっ!」

手伝いの孤児っ子が感心しているけどこの男は手抜きしたいだけなのだ。後地の文に【略】


「我等が推参、食い扶持分くらいは用意してある。」

と古き竜は酒だのつまみだのを用意した荷車をひいて来させる。

「我等の煮込みを味わってもらおうか?」

「【荒野】の煮込みも美味だぞ。」

【狭間】の面々も土産つきできているらしい。

「我等の料理もご賞味あれ。」

「コウヤッテショウキツナゲルネ。」

「南方料理人うるさい。」

【南方】の面々も自らの産物を紹介するつもりなのか料理つきであった。


「我等も用意するべきであったか?」

「【砂塵】の気にすることはない。次の時には君等の料理を教えてもらえればよい。このヒキワリ麦の猫まんまも悪くない。こういった食べ方があると知るのも楽しい。これはこれで美味だな。」

「厨房神の神職殿………」



そうして、宴が始まった。この宴では皆が皆大いに食べ大いに騒ぎ友誼を深める。そしてこの日【聖女】様の腹回りがどれだけ増えたのかは記録されていない。


「これおいしいわね。」

「ヒキワリムギアルナラバコレカケテミルトイイネ。」

「むぐむぐ、これはかれーらいすだ!」

「かれー!だと!ライス……麦飯と思えば………」

「異世界人さん達どこから!」


この騒ぎを見てビビりまくったのは地元の料理人たち。それも笑い話である。


そして、うるさい状況を見て死霊っ子(元)は

「結局世界は変わっていないんだ。」

とつぶやいた。

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