33.お前ら取り敢えず自重しろ by節制神
「神に仕える同道者諸君、今日は断食行に於ける諸注意と周りの者が注意するべきことを語るとしましょう。」
【光明神殿】の神職が定例の説法会にて断食行について語るのである。
断食行とは日中から数日、長い時には餓死するまで飲食を断つ修行であり、飢えを知る事や欲望に打ち勝つ事、自らを省みる時間を作るためであるとされているが、折食事制限が必要な者が見栄を張ってと言うのもある。
それはさて置き。
「断食行は飢える事によって飢えていく者の苦痛を理解する手助けとなりましょう。我等は皆信仰を共にする家族、苦境に遭う家族に多少なりとも手助けするのは善き在り方でございましょう。だからと言って自らの生命や生計を傾ける事は正しくも間違っていることであります。」
優しさの推奨と自己犠牲の禁止を簡単に述べる。善き人はそれだけでカモにされやすい。
良い人ねなんて言われるのは………げふんげふん。
「断食を行うに当たって、傷病者、妊婦、幼少の者、除外すること。滋養の必要な者に滋養を与えぬのは宜しくないことである。断食は苦しみを分かち合い優しさを知るとか心身を整えるとかの目的があるが心身を損なうのが目的ではない。痛風だの糖尿だのの食事療法における断食はまた別としよう、これは癒し手の仕事である。そして断食実行する時は経験を持つ先達と共に行い決して一人で行わぬこと、これは自身の体を知らぬ未熟者がまだいけるまだいけると体を損なう事があるからである。決して体を損なうまで行うべきではない。修行という物は目覚め気が付き次につなげるものであるからである。」
等々と断食行のやり方や注意点を説明して、神職は締めくくる。
「そして断食行をしている者に対しても周りは目を配ってほしい、ついつい日中暑くて渇水を起こしたり、雪中に全裸で断食をして凍死………これはただのバカかと思いますが実際にありました。酔っぱらって寝ている【極北戦士】は別に大丈夫!雪の中に埋もれても春になると出てくると………」
「そんなことはない!」「俺達だって死んでしまうだろう!」
「えっ、菓子作る神官様が【極北】を旅している間中、路上で酔いつぶれたのを見ていたと……」
「それは【花の季節】だ。【雪の季節】にそんなことしたら死んでしまうだろう。」
ろくなことを言わない異世界人である。
「まぁ、【極北戦士】のあれやこれやについての真実は置いといて断食をしているときに回りも目を配って配慮してください。外で断食の瞑想をしている者に神々が気を使って雨が降らなくなったとか、瞑想中に何か閃いて思わず駈け出しても生暖かい目で見守ってください。あと、断食中の者の前で美味しそうに物を食べるのはこれ絶対ダメ!」
神職がダメというところを特に強調して話を続ける。
「私自身がやられたことでありますが、つい先日【暗黒神殿】の糞神官が………おっと失礼………断食中の我々の前で最近評判の菓子作る神官謹製の異世界人の煮売り屋を貸切にして目の前で頬張りやがったのです。その場に神殿の歴々やら各国の重鎮を招き、とてもとても美味しそうに食べやがりやがって!あんの、糞どもは!断食中で抜けられないのを知っていてわざとやりやがったんです。しかも断食明けに詫び代わりに馳走してくれるのかと思ったら……………断食明けの我らの目の前で巡礼達に振舞いやがって!あれはとても酷い嫌がらせであります。空腹時に手に入らない食べ物というのは拷問にも使える鬼、獣、悪鬼の所業であります。」
「………あーすいません。俺鬼族だけどそんなことしませんよ。」
「俺も獣系だが、流石に同属の者に対してそんな酷い事は………」
「おで、豚鬼や魔人族は悪鬼になるだべか?だべもんは分かち合って食べるとおいしいこと知ってるべ、そげなことせんでよ。」
「えっと、ごめんなさいというか………なんで人族しかいない説法会に【極北】のみならず【魔王領】の【人外諸種族】が………?」
「すまんね、【聖徒】を知るとなれば宗教文化を肌で感じるのが一番と聞いたのでね。」
「そ、それは構いませんが…………神々の恩寵は世界すべてに降り注ぐものでありましょうから、それに共に栄えてはならないわけではありませんしね。」
ここ数十年の間で勢力を拡大している【共栄派】を内心は知らないけど表にしている神職、だが会場の一点をみて、そこから漏れ出す抗いがたい香りを見て………叫ぶ!
「そこの無礼な煮売り異世界人ども!会場に仕事道具持ち込んでいるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
ぷぅわぁぁぁぁん!
煮売りの香りが会場中に充満して会衆の集中力を削いでいる。
「ああ、あの匂いには耐えられないな。」
「だな。」
「それに一応は時間内耐えきったんだから、神職さんすごいべ。」
「だべだべ」
この叫びで
「あー、すいません説法している神職さん。神託です『そなたには【突っ込み属性】が備わった。』と光明神様から……………」
「んな神託イランわぁぁ!」
こうして彼は『突っ込み説法師』として名を残すのであった。




