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32.修行妨害者

異世界人達の煮売り屋台は微妙に人気が出ている。微妙に修行の妨害だったりダイエットの敵だったりなんて飯テロを【聖徒】にふりまいているけど贅沢な物を使用せず彼らの工夫と根気だけで作り上げたものは良い物だと受け入れられている。


主に夜勤中の神殿兵(警邏担当)やしめの一品を希う酔客たちに………

「にーちゃんたち、孤児院(うち)にも出前してくれる?」

「孤児っ子か、今回だけ銀貨一枚で食べ放題にしてやる。ただしお前も手伝えよ!」

「本当!ヨッシャかせっぐぞ!」


孤児っ子は数日で銀貨一枚稼いだ………そして【聖徒】の孤児院は煮売りで幸せいっぱい腹いっぱいとなるのである。

「………食べ放題だと結構食うな。」

「大目に仕込んできたけど足りるか?」

「最終手段として神官さんのところからウドンもらってきた。伊勢うどんじゃないのが残念だが……」

「ウドンと言ったら上州だろう!」「否、讃岐だ!」

この異世界人共の出身というか好みはなんというか……



ちなみに武州のウドンは最高だ山○……げふっ!(by作者)

桶川の川幅ウドンも捨てがたいけどな(by厨房神)

「幅広系だと桐生が一番と思うんだが………」

そこでいうならばきしめんでしょう。(by境界修復者)


外野の皆さんは脱線しないでください。ウドンの好みはいろいろあるのは否定いたしませんが私は小松風のウドンが大好きです。


地の文が脱線してどうするのか?因みにわしは稲庭の贈答用の乾麺が。(by分岐神)


煮物のだし汁にウドン(下ゆで済み)を投入して………孤児っ子達の腹を満たすことにかろうじて成功した異世界人たちであった。


「これ、おいしい!」

「こんなおいしいの初めてだ。」

「あつっ!」

「熱いからやけどするなよ!」

教母(ママ)よりおいしい。」

教母(ママ)の料理が………まずいのは元聖女……いてっ!」

「お前らを大事に育ててくれる教母様を悪く言うな!後、聖女様だからって料理がまずいわけじゃないんだぞ。」

「ひゃい!」


その日の異世界人達の持ち出しは銀貨一枚、神官さんこと勇者(笑)に苦笑いされながら注意されたのは笑い話である。彼等自身それくらい稼いでいるからちょっと娼館通いが出来なくなったと(ぉぃ)笑う程度である。

馴染みの娼館で(ぉぃ)枕語りにこの話をしたらあねーさんたちにサービスされつつ抓られたのは微笑ましい話である。うちでもとお願いされたのを色仕掛けに負けて受けてしまったのは笑い話。



孤児院の子供達は自分には後がない事を知っているから真剣である。異世界人達の煮売り屋台を手伝っている子供達も口が悪いが仕事は真剣であった。

「にーちゃん達、俺達に仕事教えるってことは店ごと奪われんぞ。」

「はははっ、店を奪うんだったら店をたくさん作るだけだ。そうなったら【聖徒】中で俺達の煮売り屋台で埋まるんか、いや世界中で煮売り屋台を引いてその胃袋満たしてくれん!」

「ならば俺は屋台を引いてるにーちゃんの部下じゃないか!」

「どうしたのかな?お前はそれだけなんか?」

「くっ!」

「なぁなぁ、普通にのれん分けとか言わないの?」

「この場合フランチャイズで……上納金とか材料の提供とかで儲けるのが………」

「一定の品質で出来ないだろ。」

「そりゃ、そうだ。この場合でもいざとなれば此奴だけトカゲの尻尾きりで。」

「にーちゃんたち邪悪だぁぁぁぁぁぁ!」


孤児っ子は逃げ出した。後日【商業神殿】から呼び出しがあったが、所謂のれん分けは別店舗扱いだから大丈夫という結論になった。よくよく考えてみたら独立したら別の世帯だよなと………

それを聞いた孤児っ子が

「せかいはおれにやさしくないぃぃ!」

と叫んだのは笑い話である。【商業神殿】から派遣された神職さんは

「逆に考えてみよう、この【修行妨害者】なる危険人物と距離が………うん、後援に【菓子作る神官】様がいるから………」

「畜生!俺の周りは危険人物ばかりなのかよ!」

この孤児っ子の叫びは神々ですら苦笑したと言う。

「俺たちは危険人物じゃないんだけどな。」

「そうそう、世間知らずなお人よしだぜ。」

「孤児院への差し入れを安く提供しただろうに。あれ俺たちも持ち出しているんだぞ。本当に危険人物扱いなんて酷いと思うぞ。」

その辺のやり取りは笑い話である。




「ふふふっ、おでんにロールキャベツというのは邪道だろうか?」

「そもそも練り物がない時点でおでんといえるのかどうかと小一時間ほど語り合おうではないか。豆腐すらないし」

「おでんの原型ないよな。」

「お前ら煮売り屋台じゃないか。次は牛筋煮込み売り出すか?」

「神官さん、この場所でそれ作ったら出来上がるまでに半分以上なくなりそうなんだけど………」

「うちの子たちはつまみ食いなんてしないぞ。」

「神官さん所に来る客達が………」

「………………うむ、貴族の面々は保守的に見えて好奇心が強いからな。お前らの煮売りの味が冷える時間帯の夜会にはご馳走と認識されたのだろう。」

「寒い時のあったかいのはそれだけでおいしそうに見えるんだけど、そこまでうけるんかねぇ?」

「あまり大っぴらに言うべきではないのだが【聖徒】は実は食事があまり旨くないんだ。私だって仕事がなければ家に戻って【西方平原国】産の乾酪とか色々楽しみたい。」

「実はこの国ってイ○リス並に料理が………」

「聖女様の料理がいまいちだと言われるのはお国柄から?」

「それは何代か前の聖女の腕前がひどすぎて死霊が…………冥界に逃げ出して………」

「今の聖女さんはそのとばっちり…………」

「かわいい女の子の手料理、ご馳走様でした。」

「とりあえずロールキャベツ作ってみるか」


まきまき、まきまき…………


後日、異世界人たちに『かわいい女の子』扱いされたことを聞いた聖女様が私ってはまだ大丈夫なんだと言っていたら、某少年に

「あの異世界人さんたちは30くらいまでは女の子扱いだから」

と突っ込みを入れられたとか入れられていないとか。少なくともそんな残酷なことを教えるなとおねーさん方の指導が入っているとかいないとか。



途中、孤児っ子達も紛れ込んで皆で作るのはちょっとかわいらしい話。こういったちまちましたものって皆でワイワイやりながら作るのが楽しいものである。

「餃子とかもやりそうだな。」

「あー、わかる。」

「餃子って何?」

「小麦粉を練って作った皮に肉だのの餡を入れて煮たり焼いたりした料理だ。」

「おいしそうだね。」

「今度作ってみるか。」

「神官パパ、そんな簡単に作れるものなの?」

「作り方自体は単純だよな。ちょっと数を作らないといけないから一人ではやりたくないが。」


まきまきまきまきまきまきまきまき…………


その日の夕餉はロールキャベツ(試作品)だった。

「………煮込みとの相性もよさそうだし、加えてもいいか………」

「うわぁつ!乾酪が入ってた!」

「こっちは、干した木の実が………」

孤児っ子達はいろいろ悪戯していたようだ。


「うん、これは悪くないね。こっちはひき割り豆かい?」

「こっちはひき割り麦とお肉?色々な組み合わせがあるのですね。小さく作って色々楽しんでみたいですわ。」

「………姐さんに浮草さん、なんでこんなに中身がいろいろあるかについて突っ込みはいれないので?」

「うちの旦那だし、色々遊ぶのはふつうだろ。それにうちの子たちだって旦那の薫陶受けてるし。」

「普通においしいから問題ないのでは?」


何が入っているのかわからないロールキャベツ。これはこれで砕けた宴席などで受けるかなと思ったりもする。

「…………」

「どうした玉章諸子?」

「…………キャベツの中身キャベツだった…………」

孤児っ子達の方を見るとひとり顔をそむけてしらばっくれているのが………それ、ばれてるから。キャベツが余ったから巻いて巻いて巻き込んだのだろうと推測されるが

「これってキャベツの煮ものとどう違うのだろう?おいしいけどなんか悔しい。」

「それ食べたら次のお変わりしな。」

玉章少年は次のロールキャベツにとりかかるが…………

「今度は蕪とほうれん草………」


少年は肉がほしかったらしい。

「いつの間にいろいろ作っていたのかが不思議だ。」

「この分だと餃子を作った時に…………」

「普通にやるな。」


数日後、ロールキャベツ専門で煮売りをしてみると玉章少年が貴族やら神職達とあーでもないこーでもないと話しているのを見かける。そのまま、酒場に連行されて彼等の胃袋に消えるのである。

「なぁ、中身の具で賭け事してないか?」

「って、言うか玉章少年肉が当たってないっていうのは妙な引きの悪さだな。」


「ふむ、この干し葡萄と胡桃を加えた鴫肉はなかなか良い風味が出ている。」

「こっちは、老いた鳥にぐずりか………隠れている酸味がなかなか後を引くな。」

「こっちの引き割り麦に乾酪と塩蔵肉の組み合わせも面白い。包みを開けたら粥が出てくるなんて…………」

「これは王様には食べることができませんよね。何が入っているのかわからないものそばに………」

「となると私は今のうちに食べておかないと………」

「歌鶯殿下はそうであったな。」

「普通に作らせれば?」

「盛り付けるときに説明されそうだが。」


「ふむ、開けてみないとわからない。この料理は奥深いものだな。」

「いや、神職さんそこまで考えなくても。」

「異世界人、これ土産にできるか?」

「鍋用意してもらえればできますけど………」


なかなか受けているようである。酒も入ってご機嫌な貴族の面々から色つけてもらって予約も手に入れる。神職さんは酒場の親父から鍋を手に入れてお土産としたりで……



粗方売れたロールキャベツ、残りも町衆の夜食やら朝食にと買われていく。湯気と美味なる匂いは凶悪である。残りもわずかだしと家路へとつく異世界人達、その前に修行している神職が一人あらわれる。

「残りすべてを売ってもらえぬか?」

「かまいませんよ。まとめて銅貨10枚で。」

「配慮感謝する。断食行のあいだその匂いにとてもとても悩まされたんだ!うまそうじゃねぇか!食えない時に限って傍に着やがって!我らが修行を邪魔するのか?そんなに修行の邪魔したいならば【光明神殿】の気障野郎共や【聖徒神殿】の糞野郎共のほうに行きやがれ!あの糞野郎共、修行妨害だといってぼやいていたら『それは貴方達の信心が足りないからです。』信心が足りていれば何でも出来るっていうのか?」

「神職さん、神職さん………色々問題ある発言が………」

「神殿間で争いが起きそうだからそれ以上は………それ以前に頭が七つに割られそうだし………」

「大丈夫だ異世界人、お前らの後見である菓子作る神官様だって、自身の菓子屋に創菓学会……うぎゃぁぁぁぁぁ!」


ばりばりばりばりばり!どっかーーーん!


危険なネタはやめろ!(by節制神)

「あっ、節制神様お勤めご苦労様です。」

「ご苦労様です!」

「いつもいつもご苦労様です、これ少し持っていきませんか?」

煮売り異世界人共は自分等がこの世界に来るときにとても憤ってくれた節制神様に敬意を抱いている。ちなみに境界修復者は嫁さんに尻に敷かれている先輩………


うむ、善き哉。寄る辺なき道の子の丹誠の品。そこの途中なる者(修行者)が惑うのも仕方ない。惑い悩むが良い、為れど己の中にある幸いを願う心に違う事がないように…………(by節制神)

「はい、神様!」

「神よ、なぜに正義とか良心とかで示さないのですか?」

うむ、善き問いである。善き問いは善き答えを導くために必要である。さて、正義とはなんであろうか?善き事と正しき事と答えるだろう。その正しさは其々の内に秘めてあり、其々に違いがある。良心とはなんであろうか善きを願う心、これも素晴らしいものであり其々の導きの芯であらねば世界は乱れるであろう。為れども正義から零れ落ちる者があろう、良心で救えぬものもあろう。だから我は幸い願う心と説く、自らが幸せになる為に大事な人が幸いである為に縁ある者が幸いであろうとする為に、皆で幸せになる為には如何したら良いのかと考え行う。その行いはたとえ小さくとも積み重なれば世界の流れを変える堤となるだろう。その願いは儚くとも積み重ねれば山のように大きな導となろう。異世界人達よ汝等は生まれ出でたる世界を放逐され彷徨いこの地に流れ着いて尚、幸い願う心を保ち続け小さくとも幸いの種を植え続ける。我は汝等を喜ばしく思う。願わくば小さき優しさが失われんことを。(by節制神)


言いたい事だけ言って煮物をかっさらって神域へ帰っていく節制神。神域にて奪われる定めになるのは………


ぉぃ!不吉な定めを言うな!(by節制神)



ぴくっぴくっ………


「なぁ………」

「ああ…………」

「…………これ?どうする?」

残されたのは神の一撃を受けて痙攣している神職某である。

「……………しかし、あのネタを行うなんて同類か?」

「そんなに異世界人がいてたまるか。」




数日後、件の神職は

「異世界人諸君、君達に依頼したい!あのくそったれな【光明神殿】が『自分等は修業が完成しているのでその程度の下賤な煮売りで心惑わされることはない。』とほざいているんだ。さぁ、我と手を取り合って奴らの胃袋に嫌がらせをするんだ!」

「いやいやいやいや、それってこっちに色々とばっちりが着そうじゃないですか!」

「下賤な煮売りって点はさすがにカチンと来ますけど別にそこまで嫌がらせを………」

「で、払うものは払えるの?」

「おいっ!」

「で、いかほどだ?」

「後々、こっちにも飛び火するから金貨一枚。」

「…………ううっ!足元見やがって払うぞ!」

「「「払うんかい!」」」

「払うからには参加してもらうぞ!」



「お前何やっているんだよ。」

「さーせん!」

「とりあえずは神官さんに相談だ。」

異世界人達は困ったときの神官さん頼りというか妙な因縁つけられた件で話をする。

「ぶはははははははっ!変な依頼貰って来たなというか金貨一枚ってバカだろその神職。だけど私の可愛い子達の作った煮売りを『下賤な煮売り』?少し腹が立つね。」

「まさか、神官さん、喧嘩買うんですか?」

「どんどん話大きくなってるよ。どうするんだ?」

「亡命するしか……」

「大丈夫大丈夫、亡命するほどの事はしないよ。それよりもうちの子達の煮売りに対する認識を直させないといけないね。玉章庶子!聖女様と神殿協会長と光の神官様に美味しい煮物の味見はいかがですかとお伺いを立ててもらえるかな?」

「師匠…………大人気ないですよ……………」

「おにーちゃん、それは色々問題あるんじゃ………」

「いやいや、神殿同士の仲違いは宜しくないからね。バカ騒ぎで収めるのがよいのだ。実行の日時は大変だぞ、金貨一枚分しっかりとしたの用意せねばな。」

「…………そっち!」

「当たり前じゃろう、金を貰うからには確りとしたのを作る。」




でもって、食テロ実行日。

「ふむ、この煮売りの美味さを知らぬとは神職達は哀れであるな。酒が欲しいところであるな、肉巻いんげんと麩を貰おうか。」

「ロールキャベツと詰め物トマトを貰おう。下賤というが造りは丁寧であるから風聞だけで判断しているのか実に嘆かわしき事だ。」

「否否、彼らはこれから十分高い授業料を払うのだから…………わしに卵と大根」

「さて各々方、哀れなる神職達がどれだけで降参をするか……………あっ、そのうどんと卵。」

どこからか話を聞きつけたのか各国の貴族達が【光明神殿】の神職達の高潔なる修業を見物に来ている。


「聖女様、煮込んだ大根です。」

「まぁ、これはよく煮えて美味しいものですわ。こんな贅沢をしてよいのかしら?」

「いえ、そこらにあるごくごく普通の大根です。手間暇かけてはおりますけど贅沢な物を使用はしてませんよ。しいて言えば【大寒地方】の干し魚とか【霜降】の干し茸を加えたくらいでしょう。」

「ああ、体の中からあったまるわ。」

「食薬学の一説には野菜等も煮て食べるのがよい、とあります。生野菜はそれはそれで効果も味わいもありますけど煮た物にも体に受け入れやすくなる効果があるとか………それに体を冷やすのは宜しくないですよ。」

「色々な物が取れるこれはある意味良いものなのですね。ああ、おいひぃ………こんなのを隠しているなんて玉章、悪い子ね。」

「………あの、私が悪いのですか?」

「美味しい物を隠すのはひどいですわ。」

「どうですわね、しかも美容に良さげだなんて………ひどい子ですわ。」

「美容には知りませんけど………えっと、美味しく食べるのはよいことですね。」

「玉章、次はロールキャベツを。」

玉章少年は聖女様とお付の女性陣の世話にかかりきりである。美味しく煮込んで野菜も取れる煮物は受け入れられているようである。


「菓子作る神官殿、さすがにこれを下賤と言うのはうちの者の見識不足ですな。美味美味、そこの茸を貰えるかな異世界人君。」

「時折節制神様が訪れる程度の品でしかないんですけどね。」

「それこそ神々に認められる一品というのではないか?」

「神々なんて適当につまみ食いしているものではないですか?【酒盛市場】とか………」

「味が染みて美味美味………体があったまるなぁ、菓子作る神官殿酒はないのかね?」

「神殿長、我等は清貧を………」

「これと共に一杯ひっかけるのは良いっことだと思うが。」

「それは否定しませんが、後進の修行を肴にというのはどうかと………」

「おっと、失敬。そういえば菓子作る神官殿、玉章少年を神殿に………」

「それをすると悪相卿が苦情申し立ててきそうですが欲しいですな【光明神殿】に、なんならば東大の聖女の婿として………」

「ちょいと年が離れていませんかな?うちの孫娘、外孫なんだが………」

神殿長やら高位聖職者の組は穏やかに玉章少年を取り込みにかかっているのである。




そうなると可愛そうなのが【光明神殿】の神職達である。【食テロリスト】である菓子作る神官謹製の煮物が不味いわけなく、断食行の最中に美味なる匂いとか美味しいという声はまさに外道!

酷いものである。しかも自らそんな誘惑は信心があれば等といった手前覆すわけにいかないから泣く泣く修行する羽目になるのである。しかも神職某は【厨房神殿】や【豊穣神殿】の伝手を使って更に改良させたり良質の材料を都合したり…………彼は自重してない。


しかも観客が多いということは屋台の数も仕込みの量も多くなるので増えた屋台は孤児っ子達の生計を助けるために暖簾分けの機会となるのである。


断食行が終わるころ…………恨めしそうな顔をしている【光明神殿】の神職達。それを前に

「おやおや、ひどい顔ですな。信心があればこのような下賤な物の誘惑に耐えられると言われていたのに…………」

「てめぇ………」

「私も鬼ではないので修業明けの皆様のために用意がございますよ。でも、断食が明けたからって誘惑に………乗るのは宜しくありませんね。」

「ううっ、俺は食らう。下賤と言ったのは謝罪しよう。」

「おまっ!裏切るのか?」

「裏切るんじゃなくて招待に応じるのです。修業が終わりましたし負けたことにならないでしょう。」

「そうだな」「そっか……神職殿これは大変な妨害ですな。私等は耐えるのが大変でしたぞ。」「ご相伴にあずかってよろしいですか。」

「ええ、よろこんで。恐るべきはこの煮売りでしょうから。」

「お、おまえら!」


件の神職某、とてもいい笑顔である。とりあえず文句つけている光の神職を除いて煮物を振舞おうとしたとき、巡礼の群れを見つけるのである。

「おかーさん、おなかへったよぉ…………」

「我慢なさい。」

「童子よ、宿までの我慢だ。」

「そんな事言ったって…………昨日の夜から………あっちではいい匂いしてるのに………」


ひもじい思いをしている童子を見て美味しい物を食べるだけの根性がない神職某。

「もし、そこに道行く巡礼達よ。一つつまんでいかぬか?」

と巡礼達を呼び止める。

「よろしいので見ず知らずの神職様?」

「ええ、我等は共に神に仕え信仰を共にする同志。しかも、童子がひもじいと嘆くときにむさぼり食らう卑劣なことはできません。なぁ、信仰の道を行く兄弟達よ。」

「………う、うむ。」

「…………暗く険しき道を越えて来た同道の者の飢えこそ我等は嘆くべきであるな。」

【光明神殿】の神職達も流石にこの場で否定的なことを言えないので神職某に同意する。


「さぁ、遠くより参られた同道の兄弟達よ。まずは飢えを満たし体を整えてください、神々は寛大なのです。少しばかり祈りの時が遅れたからと言ってもお許しになられますよ。」

「いいの?」

「ああ、小さい兄弟。この煮物は菓子作る神官様が拵えてくださったものだ。食べてほっぺたが落ちても知らないぞ。」

「ありがとう神職さん。」

「礼はよい、まずは腹を満たしなさい。祈るのにも力がいるだろう。」


煮売りに群がる巡礼達。それでも弱い物から順番を回しているところが善きものである。巡礼の群長が

「神職様方に感謝を」

「いえ、巡礼殿も遠き地よりよくぞ参られた。汝等の元にも神々の恩寵あらんことを………」


空腹時にいい匂いしているのを我慢させられる。【光明神殿】の神職達と神職某の間に『食テロ禁止』という約束が交わされたとか交わされていないとか…………



煮売りの屋台の手伝いでその場にいた死霊っ子と孤児っ子達は見た目美談に見える光景に

「うわぁ、ひでぇ……」

と思ったがその場では言えなかった。


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