29.力とは
食テロ、飢え餓えを呼び起こす非道。嘗て菓子作る神官は「極北」の海にてそれを行い多数の船団を地獄に叩き込んだ。そして今も、
一人だけおいしいもの食べてと嫁さんが口も聞いてくれない………(by境界修復者)
「しらんがな!カレー臭漂わせるのは爺として最低だぞ。」
爺じゃない!外見年齢20代だ!(by境界修復者)
「えっと、境界修復者さんの嫁さんって」
「ええ、察しの通り異世界人で貴方方とほぼ同郷です。三十年ほど前にこちらに移住されたとか。」
「カレーって、意外と高価な料理になるよな。輸入品の香辛料を利用するわけだから。」
「まさか香辛料を入手するのに薬種商をめぐるなんて………」
「そういえば漢方系の風邪薬の成分ってカレーの香辛料らしいといってたなぁ。」
「ここに一つの夫婦を破局に………」
異世界人、お前ら地の文を引き継ぐんじゃない!
「というわけで、異世界転生のテンプレイベント体験ツアーを始めるとしよう。」
「師匠、何を始めるんですか?」
「あんた、妙な道楽始めるんかい?」
「妙な道楽とは………否定できんが………否定はできんが…………少しは浪漫というものを………」
「姐さん、のっけからテンション下がること言わないでほしいんですけど………」
「異世界人ってのはやれ最強だのやれハーレムだの脳筋思考しかできないんかい。」
「姐さん姐さん、おにーちゃんも異世界人。」
「神官さん何胸を押さえて………………えいせいへいえいせいへーい!」
「奥さんからの痛恨の一撃!そういえば神官さんって奥さん二人いて両手に花?」
「神官さんって地位は下手な貴族より地位とかあるからおれつえーを実現?」
「孤児院経営までして俺様スゲーまでやり遂げてる?先輩、俺にもそのノウハウを教えてください!」
「おにーちゃんの場合って成り行き任せだったよね。」
冒頭のやり取りはなんだったんだろう?
菓子作る神官こと勇者(笑)の食客となった異世界人共は『異世界転生テンプレイベント体験ツアー(仮称)』に行く事となる(強制参加)
「で、神官さん。『異世界転生テンプレイベント体験ツアー(仮)』って何をするんで?」
「単純な話、異世界人ってのは自分の能力を把握していないことが多いんだ。自分が何ができるかとか危険性を把握してもらわないといつ能力の暴発とか悪用されるのも怖いしな。所謂能力測定と健康診断、異世界から病気もってくるのも怖いからな………どこからか納豆菌持ち込んだバカがいてうちの醸造所の麦酒ダメにされたことがあってな………」
「あんた、そのバカはちゃんとあたしが〆ておいたよ。まさか醸造蔵に入る前に納豆食べるなんて人としての常識を疑うわね。」
姐さん、それ杜氏の常識であって世間一般の常識ではないです。
「で、その能力測定とかがテンプレイベントとなるんです?」
「うむ、魔力測定器とか固有技能とかクルものないか?」
「それは………とてもきます!」「もちろん、測定器を壊しても……」
「それは壊すな!職員とか職人が泣くぞ!弁償させるぞ。」
「ところで金貨一枚ってどれくらいの価値?」
「銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。大体の貨幣価値で言えば一日働いて銀貨一枚弱から二枚もらえる。食料品は全般的に安いが金属製品とか輸入品は高めになるな。何を基準にするかで変わるが銅貨3枚から5枚でちょっとした食事出来るから、銅貨一枚で100円から200円くらいと思っていれば問題ない。そもそも今までよく大丈夫だったな。」
「えっと、飯と寝床ということで農場で働かせてもらったり力仕事して小銭稼いでいましたけど村の人たち良い人でしたし…………巡礼団に同乗して隊商の下働きしてれば金とか気にしなくても大丈夫だったし。」
「うんうん、旨い飯と安心な寝床だったし、歩き通しなのは辛かったけど馬にも乗れないし。」
「そしてお前は女にも乗れな…………げふんげふん。」
「はいはい、子供らの前で下品なこと言わない。」
「さーせん!」
「まぁ、とりあえずは移動だ移動。」
神官さん御一行、移動中。てくてく………
神官さんと玉章少年、遅き約束嬢に孤児っ子10名ほど(紛れ込んだともいう)、異世界人×6………ちなみに男性4女性2である。【聖徒】に入ったら神殿兵長の導きで神官と面通しする手はずだったのだが馬鹿三人が流言に乗って拙い事言ったために今まで延び延びになっていたのである。
【聖徒神殿教会】
「おおっ!すげぇ神殿!こんな奥に入って大丈夫なのか?」
「この壁画きれい!」「何かの神話の一部かしら?」
「こっちは五人の浮かんでいる子供達を引き連れた聖者様が子供達にお椀に入った何かを渡している絵が………」
「それ、師匠のことでは?壁画に『菓子鏝』の銘が…………となるとあそこで浮かんでいる子供は遅き約束?の前世?」
「前世言うな!なんであたしまで描かれる羽目になっているの!」
「私も描かれているとは………いつの間に………『菓子鏝』なにしやがったんだ。」
「玉章少年、『菓子鏝』ってのは?」
「我が師匠である菓子作る神官様に保護された孤児の一人で左官と壁画の腕が認められて各地の神殿の壁画を描いている壁画絵師です。師匠は各地で孤児っ子を拾っては育てていましたからね。」
「あれ?なんか書いてある。」
『我菓子鏝を名乗るしがなき左官である。西方の王都にて物乞いをし小商いから掠める暮らしをしていた我はある日、熱をだし死を覚悟した。兄弟分達は我に精のあるものを請わんと諸方を巡れど物乞いの道の子に得る術はなく、我の命が尽きんとする時導きはあった。救いはあった。導きの死霊っ子を従えた菓子作る神官様は腐臭ただよう地をかき分け我一人を救うためだけに顕れる。一椀の甘き粥は我が命をつなぎ兄弟達の悲しみをせき止める。そして、同じ椀から兄弟達にも惜しみなく粥は与えられ我等にも注ぐ光があることを知った。我等にも安らげる闇のあることを知った。死霊の子達は神官様に希う、そして優しき神官様は我を抱き寄せこう言った…………』
菓子鏝の述懐は菓子作る神官を赤面させるに十分である。隣の死霊っ子【元】も赤面しているのは
「あれ?二人とも顔赤いよ。」
「あれだ、封じられし過去の黒歴史が……」
「うるさい、黒歴史言うな!ちょっと照れくさいだけだ。」
「あの時粥はあったけどお椀が一つしかなかったんだよね………」
「そこは忘れたかった。準備忘れていたのは否定しないが……」
『…………『来たれ子よ。世界は君等を見捨てるとも私が拾い上げよう。』と。そして私にも幸いの道に乗ることが許される……………』
「菓子作る神官様、準備が………『菓子鏝』様の壁画でございますか。これは良いものでございます。」
「神職殿、この語りの部分だけでも消すことってできないか?むしろけさせろ!恥ずかしくて壊したくなる。」
「やめてください勇者さま!」
「だれかだれかー!おいっ!そこの異世界人共、神官様をお止せんか!」
「ちょっと神官さん。文化遺産を破壊するのはだめだよ!」「いい絵じゃないか!」
どたばたどたばた…………
「恥ずかしくて死ねる………」
「これって褒め殺しか…………」
「くそっ!過去が追ってくるとかいう話ですね。」
「でも、いい話じゃない…………」
「ちなみに『来たれ子よ…』なんて言ってないぞ。先に保護していた孤児っ子やら死霊っ子に泣きつかれて仕方なく………」
「その割には【西方平原国】の国王陛下に直談判して保護を願い出たって聞いてますよ。」
「まぁ、準備できていますので異世界人さん達の検査を済ませましょう。」
【神殿協会練兵場】
「ここで検査をするんで?」
「異世界人は珍しいがいないわけではない。だけどその能力を心無いものに知られると悪用されたり無理じいされたりする。大半の異世界人はちょっとした技能とか能力くらいなのだが、勇者級ともなると洒落にならない能力があったりする。膨大な魔力とか中二病めいた固有能力。神様と交渉して手に入れたとって著作権を守らない技とか…………諸方から突っ込みいれられて………げふんげふん。」
「いやぁ、そんななろう作家の感想みたいなことって………」
いろいろ突っ込みたいことがあるが、お前ら自重しろ!(by節制神)
突っ込みたいって!◎◎に××を△△△して………(by文芸神)
「師匠、師匠、脱線してますよ。」
「時間が押しているんではじめてもらえませんか?厨房魔道師様もやっと納期…………じゃなかった予定を空けてくださったんですから………」
「納期て………ドンだけ仕事溜め込んでいるんだというか誰だ、無茶振りしてるのは?」
「神官様と同道してこられた貴族の皆々様方で旅路の食事がおいしかったので自分らも厨房魔道具を用立ててもらおうと………注文が殺到して…………」
「神官さん、ブーメラン?」
「…………神官さん、恨みますよ。いい宣伝になったのはわかりますけど、持ち込む依頼の量を考えてくださいよ。」
「厨房魔道師、そりゃ私のせいじゃない。どう考えても彼等が用意することしていないだけだろ。そのくせ私のことを食テロだの罵るから始末に終えん。」
「神官様に魔道師様、進めますよ………ここにあるのは新式の能力判別措置。この通路を抜けていけば能力や属性などを判別できるのだ。」
そこに用意されたのは人が取れるくらいの隙間が開いた大きな筒?
「ふふふっ!【聖徒魔道研究所】生活・実用部門の俊英であるこの『三無』が創り上げたる『移動式検査魔道設備・鑑定君』の実力を披露し様。そこの神職君、とりあえず使い方の説明をするのでこの通路を潜り抜けてくれたまえ。」
「な、なんかやばげな雰囲気がするんだけど…………」
不安に感じながら筒の中を取る神職君。
「そしてっ!ここに彼の詳細が表されるんだ。ついでに武器所持とかの判別できるから防犯用としても利用できる。」
「おおっ!すごい!」
「空港のゲードよりも高性能だ!」
「ふふふっ!我が魔道具の真髄はこれからだ!で、出された結果が」
『鑑定結果』
氏名(仮名):神職・三本杉
出身:聖徒王国北門子爵領……
種族:人族(聖徒系)
職・賞罰:神殿協会所属紋章学学士・賞罰なし
属性:年上属性、光属性(弱)………
技能:紋章学(人族連合)、礼法(神殿式)、乗馬、杖術………
状態:真性………白癬菌感染症
「大体こんな感じで表されるんだが神職君、とりあえず療養神殿に行きたまえ。」
「ちょ!その真性ってなんですか!しかも年上属性とか要らないでしょう!」
「三本杉さん、そういえばおととい花街で甘えんぼさんに…………」
「いうなぁあぁぁ!」
「これ、とても恐ろしい魔道具だ………」
「ちゃんと身体能力や魔力についても記されているんだね。むしろその辺だけがよいんじゃない?」
「表記を選択できるようにする機能は課題だな。とりあえず三本杉君は近づかないでくれようつされたくない。」
わいわいがやがや…………異世界人共測定中。
「な、なんと………戦闘力たったの5だと!」
「ぐずめ!」
「って、戦闘技能も装備もなければそんなもんだよねー。」
「ぼくらだって戦闘力3だし。」
「さすがに孤児っ子に負けたらちょっとなけるぞ。で、魔力が………一般人の10倍?これって高いけどすごいのかな?」
「ちょっとした魔法を使って町の便利屋とかできるな。」
「………おまえ、『腐属性』だったんかよ、そんな本は知りませんって言っていたのに。」
「いいじゃない!誰にも迷惑かけてないでしょう。」
「それは良いけどさ………遺品整理すると家族に………」
「そ、それはおねーちゃんがいるから………おかーさんも理解あるし、それよりもあんたの『後輩属性』とか『獣耳属性』はどうなのよ。」
「うっ!いざというときにその手の趣味のものを引き取る友は…………うわぁぁぁ!そこにいた。」
「やばっ!俺のパソコンフォルダー!何でお前がここにいるんだよ!」
「それはこっちのせりふだ。」
いろいろ残してきたものがあるようだ。
「ところで三無いサン?ちょっと、私の装備品に『上げ底胸ぱっと』とでているのかしら?誤表記だよね?誤表記だよね?」
「否、我が魔道具は絶対である。第一、装備品どころか身体データを見れば………ぐはっ!」
なんか湿った殴打音が聞こえたけど私は知らない。
「知ったとしても知らない振りをするとかできなかったのだろうか?」
「そんな胸なんてあっても邪魔なだけじゃない………逆にうらやましいよ。」
「ちちしょーーー!」
「厨房魔道師。」
「何です神官さん?」
「これとても危険だぞ、もしお偉いさんの鬘とか見破った日には」
「首が飛びますね(物理)」
「ねぇねぇ、神官さん。神官さんはやらないの?」
「特に必要としてないからな………」
「えー、ずるーい!」
「やってよみせてよ!」
「まぁ、見られて困るものはないからはいってやるか。」
「わーい!」「すごいものが見れそうだよ。」
『鑑定結果』
氏名(仮名):菓子作る神官、勇者(笑)
出身:………(判別不能)
所属:神殿協会(仮)
職・賞罰:神官?、孤児院院長、菓子店経営(中略)、賞罰:なし
種族:人族?(異世界人)
属性:妹属性、神滅属性、突っ込み属性、闇属性、おかん属性………
技能:菓子調理、調理(異世界)、投擲、説得(物理)、礼法(神殿式)………
(中略)
特記事項:最後の勇者にして食テロリスト、死霊と虎児っ子の守護者にして旅人と船人の教育者。神々のおやつ係にして神穿つ魔弾の射手。
【聖魔百賢】の一人として【勇者魔王時代終戦和平案】の立案に尽力、あまたの死霊の声を聴き、後の【世界会議】初代議長にして【真実の舌】として名高い【悪相卿】を補佐する。この時、国際的な祭典を多数企画し人的交流の増大化を推進する。
数年前の【立夏国】の対魔王領軍拡構想で説得の為に数千の死霊を率いて【立夏国】王城に乱入、軍拡を主張する一派に軍事訓練と称して暴行を行い、占領地政策教育と称して拉致監禁を行う。これに対抗して【勇者】召喚を行うもこれを懐柔………軍拡派は事実上壊滅。他国の軍拡派や対魔王領強硬論者達は非難声明を発するも「魔王領と相対するにはこの程度で根を上げてはだめでしょうが、軟弱ですね。」と一蹴。
他にも三十年程前には【極北内海】にて食テロ行為で多選団の船と乱闘騒ぎを起こし軍用艦払い下げの商船一隻を小破、【極北内海】では【船中職の伝道者】、【船団崩し】等と恐れられている。
多数の経営状況の悪い孤児院や悪質な養父母に対して物理的説得を行って自ら孤児院を経営、多数の人災を輩出している………………
「…………神官さん、いろいろやらかしているんですね。なんですか神殺し属性って………」
「それよりも、神々のおやつ係って……………異世界で料理スゲーしているんか!」
「おかん属性…………ぷぷぴうっ!」
「上げ底娘、うるさいぞ!偽乳督戦隊に入隊させるぞ。」
「ちょ、神官様乙女にそんな扱い酷いではないですか!」
「まぁ、おにーちゃんだしね。」
「師匠ですし…………もっとやっているかと思ってましたが」
「氷結系で戦闘に役立たずと言われていた私が今や【聖徒】魔道師団の中で一番の稼ぎ頭ですよ。まさか民生用の魔道具がバカ売れするとは神官さんには足を向けて寝られませんよ。そこの孤児っ子達もついでだからやってみるか?」
「いいの?魔導師様?」
「これの作動実験も兼ねているから順番にな。」
「よーしぼくからいくぞ!」
「おおっ!内蔵魔力と放出魔力が中々の値だな。これならば魔法使いとしてもやっていけるぞ。」
「よっしゃー!」
「こっちの子は内蔵魔力は…すごいが放出が………」
「僕に魔法使えないの?」
「火の玉とか派手なのはダメだけど身体強化魔法とか自己治癒魔法とかがすごいぞ。むしろ前衛向きだな。」
「ねぇねぇ、わたしは?」
「魔力自体は放出も内蔵も少ないけど…………操作が素晴らしい数値だね。魔法使いとしては使い物になるかわからないから別の道をと言いたいけど色々な術を覚えて小技として使いこなすのもありか……」
「そっか…………」
孤児っ子達もいろいろ調べだしてにぎやかである。途中、厨房魔導師がいることを知った聖女様とお付の女性神職達が禁術である、【脂質燃焼魔力変換】!の事を聞き出そうとにじり寄ってくる。
「し、しんかんさんた、たすけ…………」
「これは私も通った道だ。素直に教えたほうが…………こっちにも!」
厨房魔導師と菓子作る神官は女性陣の中に埋没する。よかったではないかモテモテだぞ。
「神官さんと魔導師様に敬礼!」
ずびしっ!
異世界人達の敬礼はなかなか手慣れたものである、マネして孤児っ子も敬礼しているのは笑い話か。二名ほど異世界人の数が足りないがそういうことだろう。
死霊っ子(元)はふと異世界人達の数値を見て質問する。
「ねぇ、【もぶ属性】ってなに?」
「ぐっ!まさかこんな罠があったとは………」
「ちくせう…………」
「異世界までも我らが活躍を否定するとは………」
死霊っ子(元)は知らずに彼らの心をへし折っていた。




