2,豊饒なる世界
死霊っ子(元)はしばらく勇者(笑)の元で世話になることになる。彼女の住まう町は遠くはないのだが日帰りできるほどには近くはない、馬車で数日といったところか。
「死霊っ子(元)どうやって来たんだ?」
「従兄弟が隊商に勤めているからそれに便乗してきた。臨時の料理番と言うことで、なんか従兄弟も隊商の親方もずっと働かないかと言ってきたのは笑えたけど・・・・・・・・・・・」
「前世の技能があれば普通に料理上手な部類だしな、そりゃ引き止めたくもなるか。」
「毎食20人前とかどこの飯屋よって。」
「あははははっ。そりゃご苦労さんだね。生まれ変わってもやること変わってないんじゃない?」
「そうかも・・・・・・・・・・・・」
「後でその隊商にお礼を言っておこうかね。大事な大事な妹分を無事に送り届けてくれたんだから。」
「おにーちゃんの所に行くと知っているから礼拝の時間に来るんじゃない?」
「おっと、そろそろ準備しないと・・・・・・・・・・・一緒に行くか?」
「うんっ!」
勇者(笑)一行移動中。
町の片隅にある小さな祠、それに見守られるようにある広間。市も立てば宴の会場にもなる、今日は礼拝と説法の日である。別口に神殿はあるがこっちは役所とか職能組合的な役割をしている、礼拝施設もあるんだけど・・・・・・・・・古くからの住民は町の成り立ちからあるこの小さな古びた祠を大事にしている。
「小さな祠だね。大きくしたり神殿作ったりしないの?」
「なんでだろうね?たぶんこの空間が好きなんじゃないの?」
「神官さんよ、単純に市を出す場所がなくなるからだよ。」
少女と神官の疑問にこたえる町の衆、この街に移り住んだ久しく・・・・・・・微妙な疑問の微妙な答えであった。そういえば『市の神さん』なんて呼ばれていたなこの祠。なんて勇者(笑)が関連つくことを思い出して答えに肉付けしている。
広場には多数の人が集まっている。祠にはちょっとした捧げ物が供えられており祠自体が見えなくなっているのは笑い話だ。神官である勇者(笑)も祠に菓子を備え礼拝の準備が整ったのかを確認する。
他の神殿の神職達も手の空いている者は大半が来ているようだ。
勇者(笑)は顔見知りの神職達と挨拶を交わしていく。
「今回は神官様の番ですな。また食べ物の話でごまかすなんてしないで下さいよ。」
「それは気を付けよう、って工芸神の神職お前さんだって鍛冶技術だの細工に関連した話しかしないではないか。」
「当たり前だ我等は技術を祈りとする工芸神の僕だ。仕事から教えに導くのは普通だろう。少なくとも美味しい料理の作り方は説法と違うぞ。」
「確かに、その日の夕飯はそろってその料理だったのは笑い話なのかもしれないが。」
「うちは別な料理だったぞ。奥が人参嫌いだから・・・・・・・・・・で、隣の御嬢さんは見ない顔だけどどちらかな?」
「はじめまして、神職の皆様方私は西にある町から来ました『遅い約束』と申します。この街へはおにーちゃん・・・・・・・じゃなかった『菓子作る神官』様を訪ねて参りました。」
「愛らしいお嬢さんや時間があったら神殿のほうにも遊びに来られるとよい。神官殿の菓子には及ばぬが茶くらいは出すぞ。」
「工芸神のいくら男所帯でむさ苦しいからと言っても潤いを求める先が違うのでは?」
「神官様は美人な奥さんが二人もいて代わる代わる愛らしいお嬢さんとかが花嫁修業とかで滞在しているから言えるんです。」
「若い女の子が一人で来ちゃダメなんて親がいるんです。俺たち信用ないのか?」
「あたいを美人ってちゃんとわかっているじゃないか。信用があるないというよりもがっつきすぎ?いい娘さん紹介してやろうか?」
「「「おねがいします!」」」
若手神職達の声がそろった90度の礼にちょっと引いた死霊っ子(元)であった。
「そういうことで街の衆、だれかこのかわいそうな神職さん達にいい子紹介してあげな。」
姐さんの発言に広場は沸いた。その後顔の広いおばちゃん連中が神職達に見合いを進めるのは後の話。
根はいい若者である。
礼拝自体は勇者(笑)が導師となって恙なく終わる。信心深い町の衆やらたまたま街に訪れていた旅人達、高名な神官様の説法が聞けると巡礼達も集まっている。今回はどんなありがたいお話が聞けるのだろうか期待が高まっている。
前の説法の時は巡礼達においしい料理の作り方・・・・・・・
ありがたい話かと思ったら料理教室なんて・・・・・・・・・・・・・期待外れもいいことである。さすがに知り合いの巡礼から愚痴られたのでもう少し見栄えのする話をしてほしいなと思う老神職である。
そんな彼の内心は兎も角勇者(笑)は
「さて、今日はどんな話をしましょうか。おいしい人参の食べ方とか・・・・・・・・・・・って工芸神の殺すような目つきで睨まないでほしいのだが・・・・・・・」
と話しの頭に軽く冗句を入れるとクスリとした笑いがこぼれている。
「食べることは大事ですね、旅の人も巡礼さんも多いみたいだから旅路での食事について騙りましょう。そうですねぇ、そこの旅の商人さんは朝何を食べましたか?」
「朝か?そこの娘っ子が作ってくれた干し野菜の汁物と乾酪、後は固焼きの麺麭だな。ありゃぁ、うまかった。神官さん所に来てたんか、帰りも俺達と同道してくれるように頼んどいてくれないか。」
話を持ちかけた商人さんは死霊っ子(元)の連れらしい。説法ついでに図々しいお願いしているけど笑い話として受け流す。
「お答えありがとうございます。中々豪勢な旅の飯、良いものですね。ではそこの巡礼さんは?」
「朝ですか、固焼きの麺麭と水で・・・・・・・・・・・・・巡礼中は節制を旨としてますので。」
「節制はよろしいですけど節制する場所を間違えないでくださいね。旅の間というのは食べることができる機会というのは少ないようですよね。移動中に軽く麺麭だの果物だのをかじって終わらせたりすることも多いでしょう。旅路で体調を崩したら路傍の土となるなんて言われるのは食べるものを食べていないので体が弱っていることもあるのです。その点旅の商人さんはわかっていますね。」
商人は顔をそむけている。普段は巡礼さんと似たり寄ったりだったのだろう、死霊っ子(元)が支度していたので美味しい物にありついていたのが丸わかりである。
「実際に旅の間に十分に食べ物をとらなかったらという話を私の過去の体験談から話しましょうか、あれは私が若いころ【極北】の海を旅していたころの話をしましょうか・・・・・・・・・・」
勇者(笑)の語りが始まる。旅路の不衛生と栄養失調、それに耐えきれぬ令嬢の不幸・・・・・・・・・・
あまりの酷さに聴衆が嘘だと思い始めているけど死霊っ子(元)があれかと遠い目をしていたのが笑い話である。
「って、令嬢の不幸を面白おかしく言っていていいの!」
死霊っ子(元)のツッコミは誰も受け入れる事はない。