表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/38

22.助けるは易し救うのは難し

とりあえず命をかけて助けたのは良いが自分が無事でないと後に残された者の負担となる。命尽きかけんとしていた孤児っ子を助けた菓子作る神官こと勇者(笑)は一晩ぐっすり眠ったあと一つ欠伸をして体をコキコキと鳴らす。


「うーむ、体が軽い。」

周りの床には心配していたのか子供たちが寝落ちしている。布団の中にもぐりこんでいるちゃっかりさんもいるようだが子供たちを起こさないよう踏まないように寝室を後にする。


「少々腹が減ったかな。」

朝飯を手に入れんと厨房に行くと姐さんが中心となって食事作りをしているところである。

「おはよう、朝は何かな?」

「ああ、おはよう………って、あんたか。痩せてしまって違和感あるよ。体のほうは大丈夫?」

「少々疲れが残っているが問題ない。」

「親父、そんなに痩せてしまってびっくりだ。小さい子なんか親父が死ぬんじゃないかって泣きそうになって痛んだからな。」

「って、急激に変わりすぎ。無理な減量は体に悪いって自分で言っていたじゃない。」

「本当、これ大丈夫なの?悪い病気で死に掛けとかじゃないよね?」

厨房で食事作りしていた子供たちが姐さんに続いて心配の声がけをしている。勇者(笑)は愛されている。


食事時、子供たちは全てそろう。いつもだと店の準備とかで時間をずらしているのだが、やせ衰えた姿で運び込まれたのは衝撃的だったんだろう。心配そうに覗き込んでくる小さい子を撫でながら大丈夫だよ大丈夫だよと宥めるのである。


「うまいっ!」「おいしいっ!」

がつがつがつがつ…………

昨夜生死の境を彷徨っていた子も新入りの子も含めて子供たちは腹減らしである。常に飢えて何かを求めている。それは食べ物であったり他の物であったり、そんな飢えを羨ましく思えるのが老いという物なのだろうか?

「こらこら、ゆっくりたべなさい。急にかきこむとお腹に悪いぞ。」

「まだまだあるんだから慌てない。」

「わが君、食べないので?」「パパ食べてないジャン。」

「ちゃんと食べているよ。少々体が疲れているから軽めにね………」

「そういえば、神官様。昨夜は妹分を助けてくれてありがと。ほらっ!お前らも!特にお前は死に掛けたところを助けてもらったんだから。」

「「「「「「ありがとうございました。」」」」」」

「よいよい、助かってよかった。これからのことはどうしようかね?」

「おにーちゃん、それは後になってからでも大丈夫でしょ。とりあえず今はご飯をしっかり食べよう。おにーちゃんだって本調子じゃないんだし、無理に決めることはないんじゃない?」

「そうだな、ちゃんと飯を食べたらあいさつ回りだ。お前等は沢山の人に助けられたんだからな。」

「「「「「「はいっ!」」」」」」


死にかけだった子供たちと死に掛けた神官の本日は決まった。

「師匠、大丈夫なんですか?見た目死に掛けの骨と皮じゃないですか。」

「玉章、今までが太りすぎて健康を害するくらいだから丁度良いんじゃない。」

「死霊っ子(元)、急に痩せすぎて逆に危なくないか?無理な減量は体に悪いし………それ以前に仕事がたまって手も借りたいくらいなのに師匠使い物にならないし………あっちこっちの挨拶回りとか書類作りとか………」

「あたしたちのために…………ごめんなさ…………」

涙目になっている孤児っ子(新入り)をみて玉章庶子はあわてて

「悪いのはお前らじゃない!考えなしに死に掛けた馬鹿師匠だ!もう少し穏便なやり方もあったはずだ。神々に請願する(ゆする)とかあったろう。菓子の代金代わりに………げふんげふん。」

「玉章兄ぃ、一応僕たち神官様の養い子だから神様に対する不敬表現はまずいんじゃ?とうちゃが自爆技使ってかーちゃたちに心配かけたのはくそむかつくけど。」

「骨皮で見た目死に掛けてるけど本当に大丈夫なの?なんか、木の枝にぶら下がっているのが似合っているけど。」

「なんか、子供たちが酷いんだけど………反抗期?」

「心配かけたんだから甘んじて受けるんだね。」

「奥さんも冷たい…………」

「ごめんなさい神官様………あたしたちのために………」

「ああ、きにしないきにしない。気にするんだったら元気になって幸せにおなり。」

「おにーちゃん、新入りちゃん達が縮こまるのもおにーちゃんが悪いんだからね!」

神官さん(激痩せ)は味方のみの字もいなかった。


それ以前にさ玉章庶子の発言からしてここは子供たちの教育によろしくないのでは?(by白露神)

菓子をつまみ食いしまくっているのが悪いのだろ。(by盗賊神)

お前が言うな。(by霜降神)


「それはそうと神官パパ、どうして死にかけて戻ってきたの?」

「死にかけって………あれは私の奥の手………【脂質燃焼魔力変換】、自分の脂身を魔力(生命力)に変換する術だ。魔力とか気とかと呼ばれる力があるのはわかるか?あれは元々、自身の命が源なんだ。そして私たちの体にある脂肪は養分を蓄えていざと言う時命を支える元になっているのはわかるかな?ならばその脂肪を燃やして力とすることができれば普段以上に強力な力が振るえるし序に痩せられる。【聖徒】の厨房魔道師が冗談で研究して使い物にならないと研究放棄した術の一つだ。急激な減量は体に悪いからな、奴も自らで試したら二三日使い物にならなかったな。痩せるには痩せたが………被験者達も色々あってな………死にはしなかったが問題ありと禁術指定されたんだ。使ったところで罰はないがな。」

「よく一晩で起きれたね。」

「前に使ったことがあったからこつはつかんだんだろ。」

「そんな危ない術は禁術指定されて当然だね。あんたも自重しな。」

「はい、ごめんなさい。」

神官さんは謝り倒すしかなかった。心配かけたのだから仕方がない。一晩で回復するのは良い事なのだが言わなければあれは吃驚する。

「緊急時だったし……」

それは判るが、あと地の文に(略)




世界は正しくもやさしくない、だけど正しくあってはいけない理由ではないし優しくしない理由でもない。


汝欲するところを成せ。(by暗黒神)

「暗黒神様、ネタに走らなくていいから。」

う、うむ………(by暗黒神)

「よしっ!俺は俺が求めるがままに誰かの幸せを求めるぞ!神様がやって良いって言っていたし!」

「僕は世界を変えるんだ!親がないと言うだけで飢えたりしない世界を!」

「あたし美味しい料理作ってみたい。」

「綺麗な服を着てみたい。」

「若くてハンサムな状態のおにーちゃんのお嫁さん。」

「それ物理的に無理だから……」

「しわしわのよぼよぼだし、大丈夫だと言っていながらすぐにぽっくり………」

「そんなこといわないでよー!」

「猫はこう病気を悟らせないように元気なふりを」

うにゃ?

「おじーちゃんはねこじゃないもん。死ぬ死ぬ言いながら千年くらい平気で生きて周りを困らせるんだもん。」

「そっちが想像できるかも。」


「暗黒神様、なんか子供達が酷い………」

親子関係は門外漢だ(by暗黒神)


異世界人には神の恩恵が与えられないようだ。



身支度を整え出かける準備をする。子供達も身綺麗にさせておくのも忘れない。清潔厨な【テラ・地球系異世界、ヤマト日本系列民族国家群】と分類される異世界人である勇者(笑)は清潔を何より大事にする。特に食い物と子供を扱っているから更に注意深く身綺麗にさせておく。内風呂がないからって公衆浴場を建設させるのは色々拗らせている。

身綺麗にさせるために公衆浴場へと向かうのである。


「お前ら風呂行くぞ!」

「お風呂って何?」

「馬鹿だなぁ、お風呂っていうのはお湯で煮て汚れを落とす場所だぞ。」

「にーちゃ、汁物にされちゃうの?」

「この場合茹でこぼして煮物だろ。」

「ちゃうわい!煮物にするほど熱くないぞ。」

「神官さんそっちなの?」

「それ以前にそんなに熱ければわたしが生きていられないでしょう。」

風呂を知らない子供達に苦笑せざる得ない、菓子作る神官こと勇者(笑)である。

「誰か女の子一人ついてきてくれ。」

風呂を知らない面々に風呂の入り方からと言うのは一人では手が余るものである。男女別になっているし、混浴だと公衆浴場が公衆欲情にって………誰が旨い事を言えと!


ツッコミを一人でするのはダメなんだなー(by演芸神)


勇者(笑)の助けを求める声に何人かの孤児っ子(元からの)が名乗りを挙げる。休みだったりついていけばおこぼれにあずかれるとか、風呂好きな子もいたりして其々である。手助けになるのであれば理由はともあれ良い事である。流石に女湯に突撃と言うのは勇者すぎる、いくら勇者として呼ばれた者であっても無謀と言う言葉自体は知っている。蛮勇とも違うし…………綺麗なお嬢さんが入っている可能性は意外と低いし時間帯的な意味合いで………その中に玉章庶子だの死霊っ子(元)がいたのは十分助けになるのだが意外であった。

「あいさつ回りに私がついていないと師匠が誰だか理解されないでしょう。ついでに師匠のあいさつ回りです。」

「とうとう養い子の世話になる年になった物だなぁ……」

「師匠の場合は急に変わり過ぎ!若返ったと思ったら年老いて老いさらばえた姿をさらして、どれが師匠だかわからないでしょうが!来訪している歴々の方々にどれが師匠の本当の姿だとか若返りの仕方を教えてくれとか五月蠅くて大変なんですよ!少しは自重してください!主にご婦人方からしつこく聞かれて身の危険を感じるんですから!」

「女の子達の事は兎も角、姐さん達から無茶しないようにと頼まれちゃ断れないでしょ。おにーちゃんあたしの時だって色々犠牲にしてるじゃない!なに、勇者の力ってそんな安っぽい物だったの?その力があれば世界の支配者だって…………」

「世界の支配者?食わせなくちゃいけない馬鹿を増やしてどうするんだ?そもそもお前等の幸せな様に比べたら勇者の力なんてどうだっていいだろ。そんな力無くても色々やり様はあるんだ(邪笑」

「神官様ってすごいんだね。」

「おおっ、わかってくれるか。ちみっこ、うれしいねぇ………お前の為に費やした力なんてものは私の力の一つに過ぎないんだ。どうせ食っていれば元に戻るんだから気にするんじゃない。気にするんだったら美味しい物を…………」

「おにーちゃん!また太るの!」

「死霊っ子(元)、年寄りの数少ない楽しみを奪うつもりなのか?美味しい物を食べたいって許されない事なのか?」

「そっちは良いけどせっかく痩せて渋さあふれる格好になったのに太るのはダメ!」

「世界は私に優しくない。」

「パパが太ってないなんておかしいよ。おいしいもの一杯食べよー」

「そして便乗で美味しい物にありついて太る。」

「わたしは若いから大丈夫ですわ。」

「私にもそういう時代はあった。太り始めたら止まらないぞ、年長者としての忠告をしておくが」

「いやぁぁぁぁぁ!」


取り敢えず公衆浴場に向かう。内風呂はあるのだが(後年作らせた)この数を入れるには………


ずらずらずらずら………

何故か猫も数匹ついてきている。ミケちゃん(六代目)を始めとしてぞろぞろと……勇者(笑)はミケちゃん(六代目)を抱き上げつつすすむのである。


公衆浴場であるそこそこ広いその建物は朝からそれなりに賑わっている。仕事前に身綺麗にしようとするものや夜警を終えた治安騎士とその配下達、朝風呂を楽しむ御隠居達……女性もそれなりにいるのはそういうものなのであろう。朝風呂という物は良い物である、その後で朝酒と言うのが付けば最高である。

朝酒ついでと言うわけではないのだが姐さんの麦酒はここでも売られている。

「風呂屋だ、汗だの垢だのを落すぞ。」

「「「「はーい!」」」」

元からいた子達は風呂の入り方から教えて云々と風呂上がりの牛乳………は一般的でないのに冷えた飲み物の美味しさまで教えていく。風呂上がりの飲み物までが一つの教え、教えた元凶はのんびりと湯につかっているのである。

「よく身体洗ったらのんびりつかるんだぞ。どうせ女たちの風呂は長いんだこっちものんびりしたって問題ない。」

これで女性陣が早く出てきたら神〇川だな、とは言え公衆浴場の近所には姐さんの麦酒の他に飲物とか軽食が用意されているから財布の事情を除けば待つのは何とかなるはずと思っているけど、自分が財布だったなと苦笑いする勇者(笑)。

子供達も体を洗ってから湯につかってだらけていたり水遊びをしていたりするのもいる。

「師匠、のんびりしていていいんですか?」

「今日一日で挨拶回りが終わるとは思っていないからいいさ。取り敢えずちび共が身綺麗にするのが大事だ。衛生面とか虐待受けていないか確認する意味合いでな。」

「確かに痩せているけど虐待受けていないのが幸いですね。ちゃんと食わせて勉強させて………」

「楽しく遊ぶのも忘れちゃいけないぞ。」

「そうだね…………」

「お前はこれから遊べばいいじゃないか、世界をネタにして。」

「それ色々問題あるから。」

「私が若い頃にはな……………」

勇者(笑)の武勇伝を聞かされる羽目になる玉章庶子、その話に聞き入る孤児っ子達。男湯は長湯になりそうだ。長湯ついでに垢すりなんかもして綺麗な綺麗な剝き卵状態にあるかと思えば栄養失調なのか色々デキモノがあったりする。それを傷ましく思う口うるさい弟子(属性:オカン)が師匠のついでの癒し手に頼んで色々しようとしているのを師匠(属性:オカン)は笑み一つ浮かべながら眺めている。口は色々と誇張された武勇伝が流れているが、その口で死霊っ子(元)が千の死霊を導いたとか孤児っ子を助けるために王様に願ったとか盛った内容で武勇伝を口にするのである。


長湯は良い物である。茹って剝ける皮なんか面白い物である。

茹っている間に【極北の民】の戦士達とか【荒野の民】の 乗り手達とか【砂塵の民】の修行者達なんかと同席するのは良い事である。お互いに程好く茹ってだるーんとだれているのは幸いである。

「うん、お前等が元気そうでよかった。ガキは元気に暴れまわるのが良い物だ。」

「子供が幸いな場所と言うのは見ていてよき物だ。子供と年寄りを蔑ろにする所には近寄りたくもない。」

「生きていてくれた感謝する。」

「良く生きていてくれた。」

生きていることを単純に喜ぶ【極北の民】や【砂塵の民】、生きていたことに感謝を込めて喜び涙する【荒野の民】

「おじちゃんなんでないているの?」

「お前たちが生きていてくれてうれしいからだ。お前たちがいなくなればオレ達も悲しいし世界も悲しい。お前たちがいるだけで世界も嬉しいし俺達も嬉しい。生きていてくれてありがとう。」

「お前等が生きていると言う事は我等がなしたことは間違いではない。良い子は生きて幸せになるのは正しい事である。それを否と言うならば我等は世界を糺しに行かねばなるまい。」

「【荒野】のガキが幸いであるそれを喜べばよいじゃないか。」

「うむ、今日の有様を見て我等が昨日居たことを感謝して言祝げ。」

子供達は異郷で異教で異形な男達の不器用ながらも按ずる在り方に良い人だと認識を改めるのである。


「だけどさ、ふり〇んなのは色々台無しだよね。」

勇者(笑)、お前は黙れ!


長湯していると、癒し手が駆け込んでくる。

「神官様!あんたこの体で何のんびり湯につかっているんですか!昨夜死にかけて衰弱しているのが何事もなかったかのように!どう見てもあの術は禁術の類でしょう、しっかりと検診し(しらべ)ますよ!ただでさえ神官様は不摂生からなる不満とか糖尿の気があるんですからじっくりと付き合ってもらいます!」

「癒し手、その前に子供たちの健康状態をだな…………」

「大丈夫です、手間はかかりませんよおとなしくしていればですね…………」

その後公衆浴場からは悲鳴が…………


とりあえず濡れ鼠なのは宜しくないので着替えた孤児っ子達と男連中、普通に検査をされて身支度を整えている勇者(笑)。その横でうなだれている癒し手…………

「多少の消耗がみられるけど普通に健康体…………肥満時の疾病徴候がみられないだと…………」

「ふふふっ、もともと肥満だけを除けば程良く体を動かし食事にも気を付けている私が不健康なわけあるかな?」

「畜生!いつも美酒美食で不健康そうな生活している分際で…………しかも菓子屋の看板は不健康を売りにするような『へるすきゃんせらー』なんて店名つけているし………」

「そして癒し手、君は勘違いしているが今日の店名は『神官さんの甘い誘惑』だ。」

「師匠、また看板増やしたんですか?店の場所がわかりづらいって言われてるんですけど………」

「それはともかく癒して君の仕事はうなだれることかね?ここには消耗していた子供たちがいる、それを助けようと命削った愛するべき愚か者達がいる。彼等の健康を守るのも君の仕事ではないのかね?」

「はっ!」


癒し手は仕事に戻る………………普通に一晩寝て美味しいもの食べれば殆ど回復する程度だった。それ以前に鍛えられて心身共に屈強なる男達がこの程度で根を上げるわけがないのである。

「こっちは普通に健康体ですね。少々筋肉量が多すぎて心臓に負担がありそうなのが気になりますがって言うか極北戦士!なんで朝から酒飲んでいるんだ!しかも飲酒時の入浴は厳禁だぞ!」

健康とかというそれ以前という問題で飲んでからの入浴だったらしい。

「なんで朝から飲んでいて肝臓が大丈夫なんだ!むしろそれが不思議に思える。一度隅々までかい………検査させてもらいたいものだな。皆の健康のために……じゃなかった、私の知識欲と名声のために一度献体してもらえないかな?」

「おいっ!解剖とか言いそうになっているし、しかも理由本音と建て前逆だし献体とか命失う前提?あぶねぇだろうこいつは!神官さん!なんでこんな危険人物野放しにしているんだよ、目が血走ってこええし!」


「子供達、お酒飲んだ時は抜けるまでお風呂に入るのはだめだぞ。」

「「「「「はーい。」」」」」

子供達は聞き分けよいものである。

「ぱぱー、どうしてお酒飲んだ時にお風呂入るのはだめなの?」

「とりあえず、女の子達を待たせているだろうから外で話そうか、お前らの風呂入って汗かいたからのど渇いたろ。荒野の衆と砂塵の衆も風呂上がりの一杯に付き合わんかね?」

「神官殿、極北の衆はよろしいので?」

「あの分だとしばらくは出てこれまい。それに奴らの飲む量は私の財布に大打撃を与える。」

「それは確かに、元々強靭な体力とデカい体に任せてガブガブやるからな奴らは。」

「うむ、彼らと割り勘で食事なんてしたら遠慮せぬからな。」

経済概念の薄い【砂塵の民】にまで言わせるとはなんともはや…………

「ねぇ、【極北】ってやせた土地なんでしょそんなにいっぱい食べる人がいて大丈夫なの?」

子供の質問にふむと答えを考える男達である。



公衆浴場前の軽食店、死霊っ子(元)に率いられた女の子たちが一角を陣取って待っていた。

「みんな遅いよ!」

うにゃ!

「ごめんごめん、風呂の中で癒し手とか昨日手助けしてくれた面々がいて話し込んでしまった。」

「ふむ、昨日の女の子たちも大丈夫そうで何より。」

「おじちゃんきのうはありがとー」

「どういたしまして、だけどなおじちゃんじゃなくておにーちゃんだ。ここは間違えるな。まだ私は19だ。」

「はーい。」「そうみえなーい!」「おかおみえなーい」

【砂塵の民】のおにーちゃん(自称)は彼等の伝統衣装である【砂塵外套】をまとい埃よけの口覆いをしているため顔が見えないのである。一見布の塊

「なるほど、口覆いをまとっていれば顔が見えぬか。【砂塵の地】ではないから別に口覆いはいらぬか。」

口覆いを外すとそこから現れたのは鋭角で成り立っているような印象がある若者である。

「ほんとだ若い!」「かっこいい!」

「若いって信じてもらえたかな?」

「うんっ!」


「店の前ではなんだ、中で一息つけようではないか。」

菓子作る神官様は店が埋まるのではないかという人数を招き入れるのである。そこでふるまわれるのは風呂上がりの一杯と行きたいのだが子供達の手前というかこの街の醸造を握っている姐さんの声がかかっているのか酒精の入ったものは飲ませてもらえなかった。

「すんません神官さん、姐さんが『体壊した後だから暫くはうちの旦那に飲ますな!』っていってまして…………」

「うむ、子供らの手前飲めないのは仕方あるまい…………だけどうちの奥さんたちは優しくない…………」

「おにーちゃん、昨日あれだけのことしたら姐さんだって心配して根回し位するよ。」

とほほとばかりに手を挙げている勇者(笑)に死霊っ子(元)は突っ込みを入れる。そんなふざけた一面もあったが一同に飲み物と軽食を振る舞うのは忘れない。一人の子の為にわざわざ骨折ってくれた者の労をねぎらうのは当たり前のことである。

勇者(笑)を慰めるようにみけちゃん(五代目)がひざの上にのってくる。孤児っ子(新入り)もごめんなさい言いながらいいながらよってくるのだが彼は骨ばった手でそれらすべてをなでていく。

「まぁ、気にすることはない。奥さんに弱いのは男の正しいあり方だ。」


それ、負け惜しみであろう。妻というのはな叩いて言うことを…………(by極北神)


それ死亡フラグ!


極北神は…………死んだのさ………


殺すな!(by極北神)

少し話をする?(by極光神)


「極北神様に敬礼!」

 びしっ!


話が脱線した。勇者(笑)は子供たちをなだめる様になでていく。脇で猫が自分もなでろと待ち構えているのはかわいい嫉妬である。

その間に他の面々は食べている。子供達も女湯に放り込まれてしっかりと洗われて手入れされた猫たちもふわふわもこもこ手触りでよいものである。勇者(笑)に張り付いている子もいるのは笑い話。

身綺麗にして腹いっぱい食べるそれだけでとりあえずは落ち着くものである。


子供達は色々大人達に話をせびったり玉章庶子やら死霊っ子(元)がこの分だとあいさつ回り今日終わらないじゃないとぼやいているのは子供らしくない。

原因である性質の悪い異世界人はしっかり者の視線を受け流して苦笑いしている。元々一日で終わるものではないのだが…………

「基本私は隠居爺なんだけどなぁ………」

「世界が師匠を待ってますよ。」

「そろそろ若いのに任せるべきだろ。この世界の事はこの世界の者が進めるべきだ。」


そんな事言いながら過ごしているうちに町の衆もちらほらと子供達の顔を見て「神官さん?」と首をかしげながら挨拶をしてくる。

長湯なのか探求の熱心さなのかわからない癒し手と極北戦士(モルモット)が出てくる。極北戦士(サンプル)が無事なのは調べきれなかったのか逃げ切れたのか。

「おぅ、待たせたなぁ。」

「そういえば癒し手さん長湯だったけど極北のおじちゃん達を診ていたの?」

「いや、あれだけの生命力の秘密が知りたくて解剖(ばら)してみようかと…………」

「一緒に入っていた子たちを診察しなかったの?」

「あっ!」

「一番大事なこと忘れているんじゃないわよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


死霊少女(元)の叫び(ツッコミ)は町中に響き渡った。そこ叫びを聞いた治安騎士達は何事かと駆けつけたが、内容を聞いて静かに立ち去った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ