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21、当方、力に若干の余裕あり

悪相卿の滞在で街は賑わっている。彼を目当てとする各国の貴族やら御付の者達、それに群がる商人達。賑わう街の中で一組の男女が歩いている。

「あの服が気になりますわ。」

「浮草、そんなにお洒落に拘っていたか?」

「国に居た頃は姫騎士だの王家の懐刀だの言われて騎士服とか動きやすいものばかり、男装と勘違いされることもあったから、こうヒラヒラとフワフワとした衣装を着る機会が…………旅に出てからも動きやすさ重視でしたしそうしているうちに似合う年でもなくなったから…………」


その男女は神官さんこと勇者(笑)とその奥さんの女騎士浮草の二人組みである。なんというか知り合った頃にもう少し気を使えば良かったなとも後悔先に立たずを体現しながら奥さんの欲求に応じている。

若返りの冗談魔法を利用できるようになると若返っての逢瀬と洒落込むのもちょっと羨ましいことである。町行くお……姉さん方の嫉妬の視線はなんともはや。良い女を連れていると若い男達の嫉妬もあるのだがそれはそれ………


「あれも着てみたい、これも!」

「すまんね店主。」

「なんか神官さんも大変だね。こっちはお買い上げしてくれるならば大歓迎だよ。」

「あははははっ。お手柔らかに頼む。」

「それは奥さんに言うべきじゃないのかな?」

「……………」

浮草が楽しそうだし良いかなと思いつつ店主の淹れてくれた茶を喫しているのである。

服飾店には貴族の妻女等も少数ながら来店しており華やかな状況である。


「神官様、なんか肩身狭いです。」

「女性向けの店に入った男性なんていうものはそんなものだ。」

付き人の男性やら貴族様本人とか微妙に遠い眼をしているのが哀愁を誘う。

「貴方、これなんかどうかしら?」

「…………うむ、少しばかり派手ではないか?」

「えー、これくらい普通ですわよ。」

貴族の奥方がまとっているのは少々肩口とか胸元とか背中とかの露出が激しい服であった。着る者が着れば男性の視線釘付け名一品であるが微妙に似合ってない。多少肉感的すぎるのだ。

「…………ともかく、それはやめなさい。」

「貴方ってつまらないわね。」

「まぁまぁ、奥方。ご主人は貴方に他の男の視線が行くのが許せないんですよ。ねぇ、ご主人。」

「ああ、そういう姿は私だけに見せておればよいのだ。」

少々きわどい格好をしていた貴族の奥方に対する一言で奥方も気を取り直したのか

「あら、いつもはそんなことを一言見入ってくれないのに…………」

「そんな恥ずかしいことはいえないだろ。」

「あら、照れちゃって…………」

貴族氏の含羞の顔に悪い気がしなかったのか、

「でしたら一緒に選びましょ。」

と連れ込まれるのであった。


「これはどうかしら?」

待つこと暫し、浮草がフリフリのフワフワな衣装を恥ずかしげに見せに来る。いつもと違う姿にこれはこれで良いかもと思う旦那馬鹿が一人。実際似合っている。

「いいねぇ、いいねぇ。これを着た君を見せびらかしたいよ。私の奥さんはこんな美人だぞって。」

恥ずかしさと照れで真っ赤になっている浮草。この表情も大好物です。

実際は…………げふんげふん…現在は16歳相当の姿に…………

「店主、この一式買うぞ。あと、髪飾りを見繕ってくれないか?ほら、浮草髪を整えようか。」

と勇者(笑)は浮草を座らせて髪を整え始める。いくつになっても仲の良い夫婦である。後、付き人君、甘いものを食べ過ぎたような顔をしない。

服一式銀貨10枚奥さん孝行には過ぎた金額である。来ていた服は自宅に届けてもらう、このくらいは普通にしてもらえる、なんせ銀貨10枚である。金の力は偉大である。


そして、二人はさらに町へと繰り出す。若い神官と貴族のご令嬢らしき二人組み、あれ?あの神官町娘とか美人な姐さんと歩いていなかった?と噂されているが堂々としたものである。後日菓子屋の神官は若い子を引き連れている助平爺だという話が流れるのだが別の話である。実際常に若い子を引き連れているし………


「シンカンサンマタベツナコヒキツレテ。モテモテウラヤマシイネ。」

「浮草のお袋!こんな若返ったらわからないよ!」

「往時はあの国には花ある姫が数多あり、その姫を守れるは姫守の美騎士あり……等と言われていたのですが今となってその姿を拝見できるとは長生きはしてみるものですな。で、神官殿この術は…………」


町行くと知り合いから声をかけられる。一応はお楽しみだから控えてほしいという思いもあるが付き合いは大事である。

一つ一つその声に応じていく、あまり長い話については後日ということで、まぁ、世間話程度なのであるのだが………

ついでだからと剣の一つでも見繕うかって鍛冶屋に行くと野鍛冶の子(義父との折り合いが悪い)が出迎える。

「あれ?親父か?となると隣にいるのは新しい………って、親父にそんな甲斐性はないから姐さんのお袋じゃなくて……浮き草のお袋?」

と、少ない事案から正解を言い当てる。

「あらあら、いつもと違うのに言い当てるとは見る目があるわね、護衛役か鑑定役にもなれるわね。」

「お袋ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

道を究めたいのに無駄に多芸なために不自由なのは相変わらずなのであった。

「そういえば、打ったのだどうした?」

「親父、とりあえずこの懐剣だ。」

野鍛冶の子は一振りの懐剣を取り出す。装飾は特にない一本である、研ぎも良く出来ていて刃の部分が少ないのが少々難点とはいえ実用としては十分。勇者(笑)は自らの髪(残り少ない)を一つ抜き刃にあてる。ふらふらと力ない髪の毛(残量僅か)が刃に当たった部分から切れて別れる。

「これは良い刃だ。貰おうか。初打ちだろう。」

「銀貨5枚。まからんぞ。」

「馬鹿言え、銀貨7枚だ。」

「親父、払い過ぎだ。」

「祝儀だ。お前も鉄打ちに成れたのだからな。でも、【工芸神殿】やら【職人神】やら【鍛冶神】から【職人達の守り手】にならないかなんて相談が…………」

「親父ぃ!」俺は鍛冶になりたいんだ!」

「ならば私の剣を打ってみるか?」

「おふくろぉぉ!いきなりそんな大物!」

「できぬのか?」

「…………やったことがないから」

「ならば今やればよい!この懐剣ができるならば大きくなるだけだろ。」

「わかった、受ける。俺の剣が手放せなくなってもしらねぇぞ。」

「それならば、安心だ。私の寿命まで剣に困らぬということだろう。良いではないか。で、我が君、手付を頼む。」

「………ここで私に来るのか………」

勇者(笑)は苦笑しつつも手付に金貨を

「親父ぃぃ!いくらなんでも金貨は多すぎだろう!」

「嫁さんの命を守る装備だぞ。惜しむ事できると思うか?」

「むちゃくちゃだぁ!」


そんなやり取りを見ていた親方とその奥さん。

「あんた、このセリフ覚えておきな。」

「うむ、覚えた。使う時はないだろうが………」

そりゃ使う時はないだろう荒事に巻き込まれることはなさそうだし

「それ以前に金貨壱枚出せるか!もしもの時はその金貨で新しい………げはっ」

雉も鳴かずば撃たれまい。 


親方全治10日、その間野鍛冶の子は依頼を受けるために全力を奮って業務停止状態…………になるかとおもいきや

その場にいた鍛冶師達から

「すいません、奴をあ奴を受け付け業務から外すようなまねは勘弁してください………」

と平謝りされてしまうのは笑い話か。


とりあえず親方の回復を待ってからになるのだが、この間工房は混乱するのは笑い話にしてよいのだろうか……

職人達にも帳簿のつけ方とか教えた方良い気するのは気のせいではないはずだ。むしろ教えろと言ってくるのがいてもおかしくない。

後日神殿のほうから働き手のために帳簿付け講座を開いてくれなんて依頼があったりなかったり。


見た目若い恋人達である二人は鍛冶工房を出て街を行く。何するわけでもなく街をぶらつくのがよいらしい。散々と財布の紐を緩ませたのだから十分でしょうという声が聞こえてきそうだがそれはそれ。他の奥さん達?達じゃないや姐さんにも埋め合せ的な部分が必要になってきそうであるがそれはそれ。

「姐さんには新しい醸造所を………って、いたっ!つねるな浮草。」

「私と居るときに他の女の事を考えるなんて失礼ですわ。それに姉様がいくら欲しがっていたとはいっても醸造所はないんじゃないですか?」

「ならば花でも贈るか………」

「値段が合わないんでは?」

「そこは私の技術で………こうやって………」

飴細工の華が出てくる。

「君だけの為にこの花を………」

「それは、乙女ならば夢見そうな光景ですね。前置き無しで私にやってほしかったわ。」

これについてはあやまるしかない勇者(笑)なのであった。因みに飴細工の花を姐さんに渡したら鼻で笑われたのは別の話。


飴細工の花を見てこの街は菓子職人の魔境かと乏しい稼ぎをためて学びに来た料理人がいたのだがどうでも良い話。


更に進むと街の子等が見ている、孤児っ子達も交じっているのは彼等も街に受け入れられているのだろう。良い事である。孤児なんて者は薄汚い何をするかわからない犯罪者予備軍みたいな扱いをしているところもあるのだからここは幸いなのだろう。『貧しきは罪の免罪符』等と貧しさから罪を重ねる者がいる、貧しくてもまともに生きる者がいるという反論もあろうが、腹減った時手の届くところに食べ物があれば罪だと分かっていても食べてしまうのが殆どの者である。貧乏人云々とか言うのがいるがそれは飢えたことがない者の妄言である。だらけてゆるんだ腹をしている異世界人だが彼の教えは愛され受け入れられている。

子供達を見た勇者(笑)は緩んだ笑顔で菓子を振舞うのである。

「えっ!ぱぱっ!」

「神官様なの?」

「全然違うよ!神官様はもっと太って禿げで綺麗な女の子侍らすような事をしないじゃなくて出来ない…………いたたたたたたたたたたっ!」

最後の台詞を言った愚かな子は思い切り頭を握りつぶされているのだがどうでも良い話である。

子供達の中で神官様と言う存在が固定されているのである。光明神の神官がこの街を訪れた際に神官様像を語られて彼がとても困惑したのは笑い話である。その時言ったのは「それは厨房神とかの神官だろう、光明神に使えるのは私みたいにかっこいいのだ!」等と嘯いていたのはどうしたものであろうか?


「うわぁ、きれい!」「お姫様みたい!」

「違うよ、浮草のママはお姫様だったんだよ。」

「孤児っ子ちゃん、ならどうしてあんな禿げてデブな神官様の所にお嫁に来たの?稼ぎなさそうだし。」

「パパがハゲでデブなのは認めるけど稼ぎのない甲斐性なしだとか細くて長いあれだとか常に女かこっているスケベ爺とか国ごとに女がいるなんて…………ことはないかパパだし………」

「神官さんはいい人だよ、時々悪い人ねって飲み屋のねーちゃん達が言っているけど。」

「あら、その話聞かせてもらえるかしら。」

神官さんこと勇者(笑)の今後は大変だ。

嫁さん手加減してあげてください。

子供達は好き勝手言う、それは別に青筋立てたりするほどではあるのだが直接制裁以外はするつもりはない、せいぜい彼等の子供が出来たときに餌付けして酷い事言われたと言う程度である。


彼が直接制裁するのは我利我利で子供を食い物にする者と無知蒙昧な馬鹿である。そして個人の偏見を排するために(外部戦力に頼るため)ちゃんと戦士達に話をするのである。話をする戦士と言うのも子供を大事ぬする種族的習性をもつ【荒野の民】やら拳を振るうのに躊躇いがない【極北の民】、素朴な正義感を持つ【砂塵の民】だったりするのであまり意味が無かったりするのだが。たまに貴族籍を持つ騎士なんて言うのもあるのだが彼等は彼等で法的武装も整えたりするから性質が悪い。

「まさか、我等こそ最後の大理不尽の受け入れたれなんていう【狭間の民】の助力なんて怖くてだめでしょう。それこそ世界が戦火に」

それは判ったから勇者(笑)地の文に(略)、それ以前に【荒野の民】は【狭間】の構成員で特に好戦的(弱者保護的な意味合いで)な面々なんだけど忘れているのだろうか?


歩き疲れてしばしの休息をと義息子の一人が差配する食堂に腰を落ち着ける二人、見た目と反して爺婆臭いのは実年齢が出ているからなのか

「親父にお袋、珍しい取り合わせだな。姐さんのお袋がいないで二人きりとはな。」

「二人同時に若返りの冗談魔法使うのは堪えるからな。そういえば孫はどこだ?」

「そうですね、孫の顔を見ないと………息子と嫁は兎も角。かわいい時期というのはすぐに過ぎてしまいますからね。」

「義母様、今は眠ってますけどよろしいのです?」

「嫁よ、赤子は寝て泣いて乳を飲むのが仕事。構いません。」

店の客をほったらかしにして家族の会話をする店主夫婦、従業員がいるから問題はないのだが。そして孫を見るために居住部分に向かうのである。


「きゃうー、あうー」

誰かの足音を聞いて赤子が目を覚ます。目が覚めたついでとばかりに嫁は手際よく赤子の下帯を取り状況を確認する。多少の湿り気を感じているので取り替えて浮草に渡す。

乳臭さと妙な柔らかさを持つモノを受け渡されて思わず頬ずりをする。どうしておばばというんのは赤子を持つとほおずりするものなのだろ………ぐはっ!


地の文が倒れましたので私地の文が代わりに続きます。女性に対して斯様な表現というのはよろしくないものと愚考するものであります。ですが世界の分霊である私地の文に対して暴行を加えるのはこの世界の住人は世界に対する敬意というものの欠如を憂うものであります。


愛し子よ幸いなれ


等と教えを垂れたのはどの神々でありましょうか、神々に振る舞う者である『菓子作る神官』こと勇者(笑)は教えに忠実に自らの孫を慈しみの目で眺めるのである。孫は女性陣の間を大事な宝物のように扱われ中々自分のところに回ってこないからである。

「親父、そっちはどうだ?」

「まぁ、適当にやっているよ。赤字が出ない程度には菓子屋も孤児院もやっているし、順調におまえの弟妹も増えているぞ。」

「そこは順調に増えているとかいう軽く言うところか?」

「重々しく。嗚呼、憂うべきことに神々の救いの手からも零れ落ちる子供の多さよ………と嘆いてみるか?」

「それ似合わないから………そういえば親父、何人か弟妹達を融通してくれないか?ここんところ旅人が多くて手が回らないんだ。後、食後に菓子を求めるのがいてそれも欲しい。」

「それはすぐにではないが大丈夫だ。お前計算苦手だろ、そっちに強いのを送るから乗っ取られるなよ。」

「おいっ!親父!」

「うるさい!この子がびっくりして泣いちゃうじゃない。」

店主の地位は微妙に低い…………

「この世界男尊女卑じゃないのか?」

彼の呟きに答える者はいなかった。


例外のない事例はない。(by知識神)

我等の所は内向きのことは主に女性の役割で、外向きのことは男性の役割だな。(by極北神)

我等の所も極北の所に比べれば緩やかだがそのような傾向があるな。出来る者がやっているし(by荒野神)

もともと外向きのこと(戦い)をするものが男性が群れを率いていた名残だな。別に女性が下だとは言った覚えはないのだが……(by人族祖神@復活途中)

「こいつは立会いの下で一度教えの精査をして置いた方が良いのかな?時々湧いてくるから多少手荒に扱っても大丈夫そうだし…………とりあえず確保しておくか。」

こいつやばい!この異世界人神に対する畏敬の念とか色々無くてなんか使えそうな道具を見る目をしている。倫理とか信仰心とか誰だこいつを呼びつけたのは!(by人族祖神@復活途中)


呼びつけたのは貴方の信奉者です。

人族祖神は逃げ出した、しかし、ま………勇者からは逃げられない!

ということもなく普通に逃げ出した。

「別に【聖徒】に行って神職達と話をすればよいだけじゃないか。」

「親父、多分、聖典と称される文書すべてに目を通すのがうんざりするくらい嫌だったんじゃないか?」

「私も全部知らないし………どれだけあるんだろうかな。」

「親父本当に神官か?」


息子にも存在が疑われる神官位。女性陣はそんなことも気にもせずに赤子をかまい続けている。赤子は愛いものであるから。


構っているうちに店に麦酒を届けに来た姐さんやらその付添いの死霊っ子(元)なんかも混じって赤子構いが続く。構われ続けて赤子も疲れて眠る頃には女性陣は店の仕事が一段落して休憩に入っている従業員も含めてにぎやかになってる。

そう言えば一度も抱っこできてなかったなぁというのは祖父である勇者(笑)のボヤキ。誰もそれに応じてくれる者はいない、ちとさみしいと思う彼であった。


店主は夜の仕込みにかかり、従業員の女性達もそれを手伝う。我等も家に戻ろうかと重い腰を上げる勇者(笑)一行。

その時に一群の騎馬戦士達が彼等の元に訪れる。群れの長と思われる先頭の騎馬戦士が

「菓子作る神官殿に挨拶を!我、誘導棒の一族の石突を初めとする騎馬戦士一同悪相卿に助力せよと【狭間】の女王より命を受けこの地に来る。」

「精強なる騎馬戦士達に挨拶を!身を削りし悪相卿が為の助力に百の感謝を!遠方より来たりし友よ、塩と肉とまではいかぬが我が作りし果実の蜜煮に醸したての麦酒、香ばしき麺麭にて出会いを寿ごうぞ。息子よ、永の旅路を超えて着た彼等に先ずは渇きを癒す麦酒を!」

「それは良い、天幕ではなくこの地においては屋根の下にて共に杯を交わし心行くまで歓談…………と行きたいところであるのだが神官殿に助力願いたいことがあり…………」

「なんであろうか石突殿?我が力及ぶ限りであればいくらでも。」

「我等が道中にて保護したる道の子(孤児の別称)あり、その内の数名が我等が食事が合わぬらしく衰弱している。彼等の胃の腑に合う軟き物があれば給わりたく。」

「そのくらいであれば易き願いぞ、我が息子よ!話は聞いたか?」

「とりあえず孤児っ子を連れてきてくれ。腹いっぱい飯を食わせてやればよいんだろ。」

「馬鹿野郎!弱っているんだから軽いものだろ!胃がびっくりして逆に悪いわ!石突殿に騎馬戦士の方々も旅装を解いて先ずは子供等と共に胃の腑を鎮めましょう。」

菓子作る神官こと勇者(笑)の提案は騎馬戦士達に受け入れられる。如何に勇敢かつ高潔な戦士である彼等も

美味なる物の誘惑には勝てないのである。


先ずは孤児っ子達に軟き粥と煮込まれた汁物。弱りし胃の腑に重たき肉の塊は禁物である。これを食べて一息つける事が出来た子は殆ど。苦難の旅路の後の美味は甘露、地味だが滋味な食事は身体に染みわたる。

この子達は大丈夫、後で孤児院で保護しておけば問題ない。残りは一人食べ物を受け付けることもできぬくらいに衰弱している。幼き身でこの旅路は耐えられなかったのであろうか?

姐さんがこれを見かね癒し手を呼びに行く。

「せめてこれだけでも」

と死霊っ子(元)は柑橘の蜜漬を水に溶いた物を口に含ませる。匙一つ含ませるのがやっとで含んだ後に幼き孤児っ子は

「あ…まい……」

と一言つぶやいて力なく目を閉ざす。せめて杯一つ分でも飲み干す力があれば………零れ落ちる命を前に憤りを隠せない。もう少し、もう少し命の焔が燃えていれば………


癒し手は姐さんに引きずられるようにして到着する。幼き孤児っ子を見るなり………

「………食べる気力があれば…………少し強い強壮剤を使えるが………今の私には安らかなれと看取ることくらいしか………砂糖水は……もう試しているでしょうな。神官様の手の方々ならば、それすら受け付けないとなれば………せめて、私に【命分かち】の神術が使えれば、あれは【療養神殿】では禁術だし………【性愛神殿】の堂守殿は使えただろうか?」

「【性愛神殿】?ならばひとっ走り我が参ろう。」

騎馬戦士の一人が駆け出す。流石に女性一人を使いに出すのはまずい。


子供達も心配そうに周りを囲む、

「お前達も大変なんだから休んでいろ。」

といっても誰一人聞きはしない。彼等もまた見捨てるという事が出来ないのである。


騎馬戦士が戻ってくる。【性愛神殿】の堂守は【命分かち】の神術は使えなかったが偶々その場にいた神職の一人が使えると言うことで駆けつけてくれるのであった。

他にも数名、【性愛神殿】にいた者達が助勢に来る。【性愛神殿】の旅の司祭である彼女は幼き子の状態を見るなり

「皆の衆の助力を!皆の命をこの子のために少し分け与えてもらえませんでしょうか?」

「うむ、【荒野】派遣騎馬戦士隊、祖と友と神々に恥じぬ有り方を示すため。そして旅路を共にした幼き子の幸いが為に!石突、群れの長たる君は何かあった時のために参加することは許さぬ!」

「…………う、うむ。同胞よ、頼んだぞ。」

一人残された石突は悔しさに歯を食いしばりながら見届け人となる。

「ちょいと、私も手伝うか。すまんが浮草、姐さん、術を解かせてもらうぞ。」

「わかったわ。」「しかたないね。」

菓子作る神官は妻達にかけられた術を解く、そして自身も老いさらばえた姿をさらし

「司祭殿、私も付き合ってよろしいかな?」

「おにーちゃん、あたしも!」

「あたし等はこっちのちびっこ共を見てるよ。」

「すまんな、頼む。」

「菓子作る神官様助力感謝します。」

「今日は店は閉店だ。とりあえず、助力の衆にこれ振る舞ったら上がっていいぞ。」

「店長!何言っているんさ、水臭いわね。あたし等も出来る事で手伝うよ!ねぇ、皆。」

「しかたないわね。」「ま、たまには良いことしないとね。」「わたしは店の方片づけとくよ。」

「悪い、みんな。でも残業代は出ないぞ。」

「ちぇ、けち臭いわね。」「そこでいうセリフではないでしょう。」

店の衆もそれぞれに手伝ってくれるようだ。


店をのぞいて大変そうな雰囲気を感じ取った客達は

ある者は助力を名乗り出て、またある者は悪いねと言って立ち去る。立ち去る者を悪く言ってはいけない、彼等もまた守るべきもの、やるべき事があるので助ける余力がないのである。

「砂塵の民、【砂塵旅団】貸しを返しに押してまいる!」

「啓蟄は桃笑王族、歌鶯推参!」

「同じく夜鳴鳥、幼き子の力にならん。」

「【極北】派遣戦士団、血の気なら有り余っているんでおすそ分けに来たぞ。」

話を聞いたのか続々と集まってくる。


性愛神の同道の士である祭司は神に祈りを捧げ助力の衆の命の力を幼子に届かせる。【療養神殿】の癒し手はこの光景に自らが参加できないことを悔しがる。癒し手は最後まで生き残らなくてはならない、自らの力を使い果たし倒れることは倒れた後に癒す者がいなくなるからである。だから彼は悔しさを胸に助力の衆が何かあった時のために残るのである。


性愛神の祭司の祈りは幼子に降り注ぐ。数十にも及ぶ命が注がれる、だが、それでも命の焔をともし続けるには足りないのである。

「僕もでる!」

保護された孤児っ子も自分もと言ってくるのだが姐さんに止められる。

「あんたみたいな死にかけが行っても役に立たないよ!しっかり見届けな。」

孤児っ子は悔しさに涙を浮かべながら見届けるしかなかった。

「もっと、もっとちからがあれば…………」

祭司は悔しさをにじませながら自らの生命を燃やし尽くさんとする。助力の衆もこれでもかとこれでもかと…………

「この手は使いたくなかったんだが……………」

勇者(笑)は自らの命を削る技を………

「禁術、【脂質燃焼魔力変換】!神々よ照覧あれ!」

叫ぶに彼の姿が急に痩せ衰える、彼の生命力が幼子に注ぎ込まれる。彼の中にある生命力が尽きかけんとする頃、幼子の息は健やかなるものとなりうっすらと目を開ける。


「おなかすいた…………」


この一言に孤児っ子達は幼き妹分の願いを聞き届けるために蜜だの汁物等を少しづつ口に含ませ。店の女衆(見届ける方)は助力の衆のために振る舞うものを作る。

性愛神の祭司を初めとして助力の衆は安堵の息を吐いて力を抜く。そして勇者(笑)は痩せ衰えた姿で息も絶え絶えとなっているのである。


「おにーちゃん!」「あんた!」「わが君!」

「当方、生命に若干の余裕あり。とは言え少し疲れすぎたから休ませてもらうよ。」

彼を抱きかかえんとする妻達の手の中で勇者(笑)は痩せ衰えた姿のまま寝息を立て始める。


まわりも、生命力を分け与えていた面々もそれぞれにへたり込んでいる。それを見届けていた者達は甲斐甲斐しく世話をする。

一息ついた者達から一人また一人と立ち去っていく。癒し手は何か体調に不備があればと口を酸っぱくして強壮剤だの説明を加えている。



死霊っ子(元)は一つ息を吐いた。そして傍らに佇んでいた冥界の導き手に

「今日も無駄足でよかったね。」

と一言もらすのである。

冥界の導き手は善き人々の幸いなる結末の一つを見届けて静かに消えるのである。


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