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16,情に掉させば流されて

「悪相卿を殺すつもりですか!」

「い、言えそんなつもりは毛頭も………」

「毛頭もって私に対するあてつけか?」

「そんなつもりは…………」


老境に差し掛かる異世界人が弟分とは言え壮年の男をかばうと言うは絵面的にあまり美しくない。

美しい美しくないと言うのは取り敢えずおいておいて、庇われる男はそれだけの価値がある。


男の名は悪相卿、世界に共に栄えるのは有や無しやと問いかけ、ならば共に栄える事が出来ると言う事を証明せんと一人立ちあがる先駆者である。

彼が一人歩み進めて出来ると示した土地は百とも千とも数えられる者達が踏みしめて彼の正しき事を自らの足跡にて示している。そして彼等の足跡にて救われた命の数は千とも万とも、続く者の足跡は一つの流れとなり路となる。

彼は先駆者である。一人険しい道を歩み鮮烈なる高みの冷たき風を胸いっぱいに吸い込む、そして導を立てていく。彼は特に優れたる者ではない、ただちょっとばっかり意地を張って、ちょっとばっかりお人好しなだけの男である。人は悪相とか悪人面とか好き勝手いうが、意地を張るために努力で悩んで眉間のしわが取れなくなったとか、各国の重鎮と論戦するために舐められてはいけないと目に力を入れ過ぎてしまっているだけの強情っパリである。


「お前は過労で倒れるのが趣味なのか?【和平会議】の時も身体壊していたろう。」

「面目ない……っていうか、神官様貴方が抜けた後の仕事がこっちに回ってきたからではないですか!」


【狭間】で出会った当初の【和平会議】準備での事を揶揄したら、原因は自分だったという……

「ふっ、この世界はこの世界に住むものたちでまわすべきものだ。私のような異世界人(よそもの)が如何こうしても良いと言うものではない。」


「十分おにーちゃんもこの世界の住人だと思うんだよなぁ。」

「それはいえてる。少なくとも思い切りなじんでいるし。」

自分が異世界人(よそもの)だと言い張る勇者(笑)にナニをいまさらという目を向ける死霊っ子(元)と孤児っ子。子供達の突っ込みは特に聞こえる事もなかった。聞こえている振りすらする事はない。彼には大きな棚がある。心にある良心領域に……


「取り合えは体を治す事だけ考えろ。世界なんて二の次だ!大事な弟分に対して死しても仕事しろという馬鹿がいたらそいつの国ごと説教してやる。」

それでも弟分を案ずるところは彼は甘い男である。でもこの案じ方は何処かの道楽貴族が羨ましがっている気がしないでもないがどうでも良い話である。

おどけながらでも自分を案ずる言葉に意地っ張りな見た目悪役貴族は

「では、暫し世話になるとするか。兄者。」

と、ふざけて返答するのである。


そのおふざけついでに姐さんや女騎士浮草を義姉扱いしたり死霊っ子(元)遅き約束を義妹扱いするのは悪乗りが過ぎているという物であろう。はいはいと流して義姉のいう事を聞いて養生しなと面倒を見る者ともうすこしかわいげのある弟が欲しかったわなんて言っていたのとかあたしは生まれ変わったんだからこんなおっちゃんを義兄としたくないと叫んでいたのがいるのはどうでも良い話である。


それでも最後の勇者足らんとする者は守るに値する大悪党のためにその身を表舞台に今一度晒すのである。

西に彼の活躍を期待する国あれば『彼を殺すつもりなのか』と叱咤し

東に彼を案ずる国あれば『いまさら何を言いやがる』と叫びを上げ

南に彼を知らぬものあれば『神に逆する男』の話を語り

北に憤る戦士達があれば『世界を変える子』のために備えろという。




西の国々からは名を挙げんとする百の男達が来る。菓子作る神官は彼等に結果を出せとせっつく。九十九は朽ち果てんしながらも意地を張り一つは故国に対しこぶしを振るう。

九十九の男達は生きて道を開き死して導を残す。生きている者達は忘れるとも死したる者達はそれを忘れず生きている者達に忘れるなとせっつく。

名を挙げんとする者達は思いは兎も角行いは恥じ入るべき所なく王君が頭をたれて請うべき英傑である。政敵になったものでさえ彼等を正論以外の部分で非難することはなかったという。


いやいや、から揚げにレモンをかけるかどうかで論争していたけど。(by酒精神)

こっちは幼子のしたぎにぼんてーじがありやなしやといいあらそっていたが……(by疱瘡神)


「俺、これとっちめたほうが世界のためになりそうな気がするけど。」

えっと、菓子作る神官こと勇者(笑)未来の話に干渉をするべきではないというかできるのか……


「今という自称が未来に影響を与えるならばそれは干渉できる事案である。から揚げにレモンはとりあえず幼子の下着について語って着せようなんてそんな裏山けしからんことに関して天地人これを許すとも俺を参加させることがないという一点において我は許さず……あれ?嫁さん達、何がどうしたの?えっ!えっ!話し合いをしようって……ちょっと待って将来の性犯罪者たちを………うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


勇者(笑)は家族会議で粛清された。




東に彼を案ずる声を上げるものたちを詰った勇者(笑)だけど東の民達は姿かたちは異形で信じる教えは異教で住まう地は異境であっても医業をもて世界に意地をはらんとする男の偉業を支えんともし男を失うならば彼の遺業を継がんと様々な種族の者達がはせ参じる。

古妖精(アールブ)の長老は長く生きた性を倦み新たなる時代を生み出さんとする若人達を見届け手助けせんとする建前の元で出会いを求め。

古き竜は幸いなる様を求めんとする人の子に祝福を与えつつ、ともに喜びを分かち合う。

様々な流れを汲むの子供達は悪相卿の意地を受け継ぎ、西の百賢らとともに騒がしく詰りあいながらも幸いへと模索していく。


「ところでさ、古き妖精(アールブ)の長は……ただのボインマスターだし、古き竜は酔っ払いだからとりあえず放置しておくけど……若人のほうは少し自重という物を覚えてほしいな。」

「ああ、それは無理じゃ。なんたって大半が【狭間王都孤児院】の出身者だし」

「おにーちゃん、取り敢えず傷薬と強壮剤。」

「師匠、食事の準備が整いました。で、何でここで竜族の爺様が酒飲んでいるんで?」

「玉章、かの御仁は【魔王領】の重鎮、多くある竜の氏族の中でも名高き雷竜の古老、雷竜公である。彼が酒を呑んでいるのは世界の道理である。」

「そんなものですか?」

「雷竜公様が酒を飲まないなんてそんなの雷竜公様じゃないし。」

「お主等皆して儂の事を勘違いしてないか?」

「所で死霊っ子(元)なんで傷薬?」

「古妖精の長老様、酒場の女の子の胸の詰め物を見破って詰ったら反撃喰らって………」

「そっちが大事だろうが!」

「後その事が何故か【魔王領】本国に伝わって古妖精族女性陣有志が………」

「雷竜公、この場合用意するのは癒し手だろうか?それとも弔い手だろうか?私のいる地で面倒事は勘弁願いたいんですけど……」

「千を遥かに超える年月を生きた儂とて答えられぬ問いはあるぞ。」


古妖精(アールブ)の長老は一族会議で最終審判を下される羽目となる。



南に住まう者達が高名なる悪相卿を見舞いに来る。【人族連合】と【魔王領】の和平は関係各国間の流通を増やし【南方商業連合】の仕事と儲けの機会を与えるのである。ある意味恩人とも言える彼が倒れたとなればご機嫌伺い的な意味合いでも見舞いの使者を遣わすのは些少の手間でしかない。

若い世代ともなれば彼の偉業を知る者は少なく、国際会議の議長くらいにしか思っていなかったりする。


「菓子作る神官様、悪相卿様のお加減は如何な物でありましょうか?」

「長年の激務が身体に応えているのが痛いな。静養すれば永らえる事は出来ようが奴がじっとしていることができるとは思えぬし……せめてここにいる間くらいは精の付く物を与えて体力をつけさせてやる事しかできん。ああ、そうだついでに注文頼めるかな?あれとこれとそれも欲しいな………」

「神官様、私は見舞いの使者で御用聞きでないんですけど………」


「悪相卿様っていうお方はねぇ………人相は悪いけどすごいお人で不幸なご令嬢の為に豪腕を振るわれて彼女の名誉を守ったり、お家騒動で異母弟を襲った悪漢を教え諭して正道に戻す手伝いを成されたり、【狭間孤児院】の後援者として少なくない援助をしたりしているけど、一番のすごいのは千年以上も続いている対立構造を終わらせて未だに平和を求めて世界中を走り回っているんだから!」

「へぇ、すごいお人だったんですねぇ……」

「最近の話だったら【砂塵の民】の地での疫病大流行。特効薬の材料だった【火竜山脈】産のネムリダケとか【極北】の氷竜の角とかカゼホブリとか色々を用立てていたわね。」

「俺あれで助かったんだ……あの時【砂塵の民】の居留地の一つに居てうつってしまって死ぬなと思ったんだが……あの薬くれたのあのお方だったんンか!」

「おいおい、何あらたまっているんだよ。」

「バカっ!どっかのお偉いさんかと思ったら【砂塵の民】だけじゃなくて【南方】の大恩人様だぞ。あの時俺達が戻ってこれなければ【砂塵の民】から仕入れている熱痢の治療薬が出回らなくて少なくて数千下手すれば万から十万の患者とその数割分の死者が出ていたんだ!お前だってたぶん冥界送りになって居たろうな。」

「…………うげぇ……」

なんというか微妙に大事だったらしい、悪相卿には妙な星回りがあるのかもしれない。


「取り敢えず、過労による衰弱ならば我等が【南方食薬術】の出番であるな。南方料理人!」

「ハハハハハッ!あくそうきょうニイノチノカリカエスネ!サァ、メニモミロ!ワレラガナンポウリョウリハタベルクスリネ、シシャスラヨミガエラセテミセルヨ。」

「その割には腐った神々をまともに………」

「シンカンサンウマレツキノハナオセナイネ。ソモソモカミサマニフケイダヨ。」

「まぁ、あの駄女神が如何こう出来るとは思ってもいなかったけど。悪相卿の事は頼むぞ。」

「チャントゲンキニシテミセルネー」


その後南方料理人の料理を食べた悪相卿はとても元気になった。主に一部分が…………

「元気にするってそっちかい!」

「何しているんだそっちを元気に知るんじゃなくて!」

「ナラバゲンキニナルバーングヲ………」


南方料理人は見舞客一同に制裁された。


「ねぇ、あの薬、手にはいらないかしら?」

「いらんは!」

えっと食堂経営に若夫婦たち、君たちにはいらないでしょうとか紛れ込むなとか色々言いたいのだけど………



北より来る強者達は揃って悪相卿に挨拶をした後で街の各所をふらつきながらにらみを利かす。それでもやっていることは鍛錬と酒盛なのだからこいつら何しにきやがったというツッコミは誰もしていない。

極北戦士という物はそういう者である。

神官さんの信頼おける客人と言う事で少々のツケがきいていたのは悪かったのか、街の飲み屋のツケが少々溜まってしまったのは笑い話である。神官さんこと勇者(笑)も釘を刺しつつもツケを支払う。その分子供達の為の諸々にこき使ったりするのだが……………


その事を極光神に知られて極北戦士達は大いに反省させられる。




「あんた最近よく働くねー。」

「はっ!働くつもりなくてこの地に居を移したのに!」

「でも、生き生きしてますわ。我が君、やはり今からでもその力を振るわれたらいかが?」

「嫌だ!今回は弟分が大変だから手伝っているだけであって………」

「うん、働いていると体が締まってきているし少しは働いた方が良いんじゃない?」


勇者(笑)が働いているという事実に打ちのめされているのを見て死霊っ子(元)は一度足を踏み入れたら抜け出せなくなる世界ってあるんだなと自らを省みて思った。

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