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15.孤児っ子娘にメロンはない

菓子作る神官こと勇者(笑)は暑苦しいなと自らの寝床を見回す。

猫やら子供やら嫁さんたちやら引っ付かれているのはなれたものであるのだがそれでも暑苦しくて少々困りものである。美人な嫁さんとかわいい子供達に囲まれて人生勝ち組ではないかと思う人はいてもとりあえず寒いときはともかく暑いときは涼しく快適に眠りたいものである。寒い地方ほど子沢山というのは……げふんげふん。貧乏人の子沢山とも言うがそれしか娯楽が……げふんげふん。


だけど彼はすがり付いてくる者を振りほどく手を持たないのである。将来的に食い物にされないか心配だが


「うるさい」

「あんたこそうるさいよ。」

「もう、あさ?」

「ああ、ごめんごめん。なんか叫ばないといけない気がして。」

「へんなの?」

「うーん、おしっこ。」

「おっと、いこうか………」


勇者(笑)この町一番の甘い男でありそれを実現する実力を持つ風狂なる人物である。ただし甘いマスクは持っていない。

「うるさい!」

「だからパパ何叫んでいるの?」

「男には叫ばないといけない時があるんだ。たとえ馬鹿だと思われても理不尽に対して意地を張らねばならぬことがあるのだよ。」

「この場合はただの突込みだと思うんだけどね。」

「甘いマスクメロンだったら転移者のおじちゃんが季節の挨拶で持ち込んでいたよね。」

「塩漬けのお肉と引き換えにしていたけど甘いからしょっぱいものが欲しいのかな?」

「あれは実はマスクメロンではなくてプリンスメロンなのだよ!」

「な、なんだって!」

「マスクメロンだと思っていたのにだまされた!だまされた!実の親にだってだまされたことがないのに!」

「実の親って顔すら覚えていないだろう!」

「だけど、マスクメロンだと思っていたのに!まがい物のマグワウリだったなんて!」

「ぱぱーおしっこ。」

「おっと、もらさないうちに早く行こうな。」

「うん。」

「あんたら、マスクメロンじゃなくてもおいしいおいしい行って食べていたんだからこれはマスクメロンだ!」

「姐さんまま、それ暴論!」

「マスクメロンに対する暴言だ!」


その以前になんでマスクメロンに対してこんなに熱くなるのだろうか?


おれ、クインシーメロンやカナリアメロンが好きなんだな(by作者)

そういえば漬物で使う白瓜もメロンの一種だよな。(by農耕神)

あれもそうなのか、そういえば匂いも似ているな。あゆっぽいところが(by作者)


話を脱線させない!


その日の朝餉は食後に冷やしたメロンが出された。特に品種のこだわりなく普通に美味美味といって食べていた。解せぬ。



その日勇者(笑)は特にすることはなく小さな子供達を構いながらその日を過ごすのである。

半ば隠居暮らしである彼は適度の菓子を作ったり子供等に読み書きを教えたり悩める者を肴に町の衆と駄弁りながら過ごすのである。

そんな彼にも時折来客があったりする。どこぞの元死霊っ子だとか、縁を結んだ王侯貴族とか、旅路を共にして彼に商売の種をチョロットもらった隊商だったりとか、他にも巣立った子供達とか、さっさと楽隠居しやがってと引っ張り出そうとする【神殿協会】の追っ手(普通の職員達です)だとかも忘れてはいけない。


「神官様、【聖徒】にお戻りになっていただけませんでしょうか?今なら【性愛神殿】の神殿長と【聖徒第一孤児院】と【職業訓練所】に【元聖女の夫】等の役職がもれなく………」

「なぁ、どれも不人気な役職じゃねぇかって言うかまだあの婆相手見つかっていなかったのか?もう、あきらめて世話役用意したほうが早いんじゃないか?」

「不人気役職ってどれも大事な役職ですよ世に零れ落ちた者達を拾い上げて救う大事な現場です。」

「なら、やってみるか?推薦するぞ。」

「い、いえ私は……故郷に戻って小さな礼拝堂の堂守をしながら幼馴染を娶って土地の領主様から寄付金をせしめて暮らすんですから無理です。」

「随分と具体的な未来設定だな。しかも不労収入かよ!」

「神官様あなたに言われる筋合いはないと思いますよ。美人な奥さん達を貰って、かわいい子供達の稼ぎでのんびりと生活するなんてなんてうらやま………けしからん!神官らしく人々の範となるために仕事をするのです。」

「今、うらやましいといいそうになっていたよな。後お前の将来設定のほうがけしからん。それに私には複数の国々から役職を貰って忙しいのだ。」



「そういや神官さんってなにもんなんだ?」

「おにーちゃんは異世界より魔王を倒せと召喚されたのはいいけれど現状休戦状態で双方共に戦火を灯す意思がないからお役御免、【西方平原国】から【霜降国】、【極北部族連合】経由で【狭間】に行って【やじろべえの千年】にとどめをさす手伝いをしたんだよ。」

街の衆の問いかけに『世界の贄』の二つ名を抱く死霊っ子(元)は自らの旅路を思い出して説明をする。それにつながるように玉章庶子が

「今の師匠はこの名称不逞な菓子店の店主にして神々に仕える神官。後、いくつかの国と大商会や船団の外部顧問やら相談役についているから下手な貴族よりは権威と言うか権力と言うかありますね。私もそれで助けられた口ですけど………」

「でも、菓子屋と説法以外で仕事しているのを見たことないぞ。」

「でも貴族の客はなんだかんだと途切れないよな。いくら街道筋とは言えこんな小さな町に。」

「あっ、それ。旅路の食事が美味しくないとか食べ続けていると調子が崩れるとかって言ってたよ。」

「そう言えば、ある貴族様『神官殿を雇い入れる事が出来れば旅路の食事の心配がなくて済むのに……』と言っていたの聞いたことがある。」

「おにーちゃんの旅のごはん美味しすぎて、船団一つ分のご飯作る羽目になってた。あたしもここに来るときに便乗していた隊商団の食事係に何故かなってた。払う物払っていたんだけどなぁ………逆に給金もらっていたし………」

「死霊っ子(元)の嬢ちゃん。そりゃ、嬢ちゃんの飯が旨いからだろ。うちのバカ息子も文字学びに来た時の嬢ちゃんの飯が旨すぎて嫁に欲しいってほざいていたんだがな。どこの若衆も嬢ちゃんならば喜んで嫁に迎えるだろ。」

「よければいい相手紹介するよ。」


苦笑交じりの街のおじさんと見合い婆と化しているおばさん。件のバカ息子、幼馴染嬢の前で言った物だから足を踏まれたうえにそっぽ向かれてしまうのである。機嫌を取るのに投げ無しの小遣いがお菓子に化けたりするのだがそれは別の話。


死霊っ子(元)の料理は菓子屋の売り上げに貢献したのである。

「ちょっとー!」


ちょっと離れた所では【神殿協会】の追手(普通の職員です)と勇者(笑)のとても聖職者とは思えない言い争いは続いている。

「ふむ、あの神官殿のやり取りはあまり公言しないでもらえると助かるのだが……」

その場に居合わせた【工芸神殿】の神職はその場にいる街の衆にくぎを刺すのを忘れていなかった。もっとも街の衆はあの怠け者の神官様だからねぇと普段通りの事だと生暖かい目で見るだけである。

そんな折に『菓子作る神官』への来客はさらに来る。来る。


「菓子作る神官殿にあいさつ申し上げる。我【狭間】にて伯爵位を拝し【和平会議】の後始末を天命とする『悪相』である。遠く昔に過ごした日々を懐かしみに来た。」

その男悪相である。後ろ向きに撫でつけられた白髪交じりの暗褐色の髪はやや白髪交じりでありながら艶はなくすべてを飲み込むようである。嘗てはふくよかだった体躯はやせ細り幽鬼のようである。顔は生気薄れた顔色に眼は爛々と決意の色を見せながら隈が生来のものとしてあるように張り付いている。張りを失いし肌は辛うじて頭蓋骨に乗っかるかのように張り付いている。悪相?否死相である。


「久方ぶりであるな元気そう…………に見えないぞ!癒し手!癒し手!」


あまりの顔色の悪さに旧知の弟分に対して思わず要治療と療養神殿の癒し手達を呼ぶ。

たまたま市に買い出しに来ていた癒し手は悪相卿の姿を見るなり

「神官様、よく見つけてくれましたね。どう考えても過労と不摂生で死にかけ君じゃないですか!」

「よしっ!強制治療だ!奴は世界を救って未だ世界に欠けることが許されない男だ!必要な治療を私の名において存分に施してやれ!勿論こいつがある程度治るまで仕事なんてさせるな!仕事させようとする連中も王侯貴族だろうと遠慮はいらん!」

「はっ!神官様は癒し手じゃないのが残念ですな。」

「はははっ!自分一人の心ですら癒せていないのに人まで癒せるか!」

「またまた、ご冗談を。お前等、今夜は徹夜だぞ!」

「おうっ!」「俺昨日も徹夜だったのに。」「うむ、必要物資は?」

「神官殿、あなたの香辛料という名の薬物を当てにしても………」

「後で取りに来ればよい。玉章、癒し手さんについて行って必要な物を用立てなさい。」

「はいっ!師匠。」

「あのぅ、神官様。私過労気味なのは否定しませんけどそこまでしてもらうのは………」

「馬鹿者っ!お前が倒れればどれだけの者が悲しむと思っているのだ!少なくとも私が悲しい!私の目の届く範囲でそんな不健康ななりをしていることは許さん!仕事が滞る?世界は何をしていたのだ!ちょうど、仕事にあふれていそうな神職がいるからそいつを連れて仕事させておけ!」

「ね、ねぇ、神官様。いきなり私に何をさせようと……って、そこにいるのは【神々に問いかけるもの】『悪相卿』じゃないですか!彼の仕事を任せられるなんてできるわけないじゃないですか!何無茶振りかまして!」

「これだけの仕事をしたという実績があれば件の幼馴染嬢を迎え入れる時、周りを納得させることができるのではないか?第一一人でやれとは言っていないだろうが。子供達も貸してやるから!持ち逃げするなよ!」

「あははははっ!そんなことするわけ………」

「目を見て言え。目を見て」

「だから疲れているのは否定しないけどそこまで話を進められると………幾つかの案件が…………」

「癒し手、患者を優先して治療にかかってくれ。」

「おまえらっ!この貴族様を連れて行くぞ!」

「「「「おおっ!」」」」


その後、悪相卿は半月程の静養を強制的にやらされる。療養神殿から念入りに体調管理についてくぎを刺されていたのは笑えない話である。

その間の仕事はいきなり強制徴用された神職と未だ食客であった唄鶯、玉章庶子を中心とする孤児っ子達と悪相卿の同道者達が中心となり恙なくとは言えないが回すのである。勿論、勇者(笑)も無駄に保っている地位の高さを利用して諸方への遅延の詫び状だの抱えている案件の交渉の場の設営などに助力するのである。



「ああ、こんな休みなんて何年振りだろう。世界を騒がせた責任を取って世界中を駆け回って平和な街並みを見て間違っていなかった。本当にうれしければ笑い、悲しければ憤る、ちょっと姿形が違うだけ立場が違うだけなんだなって、少々疲れてきたな…………おや、そこにいるのは冥界の案内人殿ではないか………走り続けて朽ち果てんとする私を迎えに来たのかな?」

い、いや。お主はまだまだ生きられる予定だ。我が来たのはそこに居座っておる元東南門卿を迎えに来ただけだし………(by冥界の案内人)

「旧知の者が臥せっていると聞いて駆けつけてみれば………えっと、案内人殿?」

うむ、死霊はさっさと冥界に行こう!我だって休みのたびに呼び出されて腹が立っているんだ。

「ちょ、ちょっと!それわしだけのせいじゃ………うわぁぁぁぁぁ………」


療養生活で心が弱った悪相卿に元手は冥界の案内人と某食道楽貴族がドタバタしている。お前ら時と場所を考えろよと私地の文が思ったのは否定しない。


「因みにな、お前の病状は過労と栄養失調からくる諸症状だから、静養して精の付くもの食べていればすぐにとは言わんが治るぞ。」

「えっ、神官様!死病じゃなかったんで?冥界のが来てましたし………」

「なにやっているんだあっちは………」


そんなこと言われても普通の業務だし………(by冥界の案内人)


死霊っ子(元)も看病に仕事の手伝いに奮闘していた。そして旧知の男の回復に皆と共に喜ぶのである。

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