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14.相手を間違えたら道は判らない

菓子作る神官と縁結ぶとも彼は己を導として己の道を進む。一人犀の角のようにすすめ。

【啓蟄】の唄鶯は一人寂しく唄謳う 喜びあふれる春の唄




その後唄鶯は菓子作る神官こと勇者(笑)の食客になって数日、孤児っ子を育てることで人材発掘やら治安維持の向上を教わっている。たまに料理っぽいこともしていたりしているが旅路で食事の準備もできないとまずい飯を食べることになるぞという説法を聞いて試しだけでもと教わるのである。

一番いいのはそう言う事に心得のある者を伴にすることであるが彼(彼女)の機嫌を損ねた時にはとても恐ろしいことになるので自分でもできた方がよい。胃袋を抑えられたら人は敗北する。

胃袋銭袋という話を聞いて兵站とは重要なんだなと微妙に美化した勘違いをしたのはどうでもよい話。ついでにお袋子袋と言ったらどこの結婚生活だよとツッコミが満載であろう。

そんな日々を過ごしながら莢豆の筋を取りながらゆるりと問答をする。日常を行いながらするりと問答える。


「前提条件の間違いとしては王になる手段というよりも王となってから何がしたいかということを欠如していることなんだよな。王というものは何かなすための前提条件であって王になることを目的にしてはいけないんだ。さて王となって何がしたい?酒池肉林?世界の平和?それとも憎いあん畜生を滅ぼすのかな?」

勇者(笑)は肥え太った顔に笑みを浮かべながら唄鶯に問いを発する。

「師匠、悪い笑みが出てますって。」

「おにーちゃん、なんか悪役っぽい。」


菓子作る神官こと勇者(笑)に付き従う玉章庶子と死霊っ子(元)の言い分に眉間のあたりをかきかきしながら……

「王になりたいというのは否定しない。汝想うなら世界を破壊しても我は祝福しよう、そが汝が自由意志であるならば……なんていうことは言わないけど、王になったら何がやりたい?何のために王位につきたいの?」

語り口を変えた勇者(笑)の問いに唄鶯顔を赤らめながら

「……私には夜鳴鳥という婚約者がいるんだが、それに相応しくなりたい。」

「善い女なんだな。」

「ああ、善い女だ。孤児っ子を見つけては自分の屋敷に連れ帰って育てている。『ショタっ子はぁはぁ』と言っているのが意味不明でなおかつ我が嫉妬を掻き起こすのだが、数多の者を掬い上げんとするあり方は私にはまねができない。あれの美醜ではない、あれの存在そのものに私はほれている。」


うん何というか微妙に濃い婚約者殿がおられるようでと勇者(笑)は思ったがどうでもよいことである。婚約者殿大丈夫かとかこいつ人を見る目があるのかとか色々考えさせられることもあるのだが突っ込むと色々こっちまで巻き込まれそうになるのだから知らなかった事にしたいとか見なかったことにしようとか……

「なんか、聖女も超える人材なのだな。」

勇者(笑)の言い分は間違っていない、聖女(元)のあれやこれやは神々で目をそらす。基本善人なので致命的な悪事は行わないのだが、思春期の男の子をかまいたおしてみたりとかそれ聖女じゃなくて性女だよとか……何しているのさと言いたくなる。どっちかというと親戚のおばちゃん?


そんな中、ともに莢豆の筋取りをしていた孤児っ子が

「ぱぱぁ、これでいい?」

と苦労してやっとこさ一つ剥いた物を見せてくる。

「うむうむ、よく出来ておるな。どんどんやっていけばうまくなるよ。それに比べて唄鶯殿は………」

幼子を出汁にして若君様を……

「ふむ、生まれて初めてだから仕方ないであろう。」

若君様は開き直った。その辺はどうでもよいことであるが………


料理の下処理は続く、寝かしてあった芋を洗って泥と皮を取ったり、そろそろ使い切りたいなと思っていた干し野菜を戻してほこりを払ったり………

「ところでわかさまぁ?おひめさんにふさわしくなりたいっておうさまにならないといけないの?」

「そう言えばそうだな、功績を以て王への道へと近づけるのもありか。王にならずとも英傑、聖賢ならばというのも…………もっとも普通に婚約しているかもしもの時がなければ大丈夫といえば大丈夫なんだが、それでも【道の子を愛でる姫】の称号を得ている彼女に相応しくあろうとするならば、何か良い案あるか神官殿?」

「うぉい!」


思わず突っ込む勇者(笑)、それに続くかのように孤児っ子達が

「ふさわしくなりたいから王様?王様じゃなくても功績あげればいいじゃない。」

「人助けするとかねぇ。」

「人助けの種を期待するのはダメじゃない。」

「そだねー、困っているのを期待するなんて人として思っちゃいけないよねー。【療養神殿】の癒し手さん達もひまであるのが一番だって言っていたしね。」

「そーそー。」

「うんうん、よく判っているじゃないか。いい子だねぇお前ら。」

褒める勇者(笑)に嬉しそうな孤児っ子達。

「そうなると私は何をすれば彼女に相応しく………」

「なんていうか普通にそう思って武者修行に出るだけで十分すぎるような気がしないでもないんだが、あとは適当に外遊での論文でも提出すれば………一応、その手の理論を記したのがあるから写して持ち帰るか?」

「おおっ!それは真か!って人からもらったものを手柄にしてもだめだろ。」

「そっから発展させて役に立てて………百の子供でも一人の人でも助かったといえるならばこの論を出した甲斐があるというものだ。元々私のいた世界であった論だから私の功績にされても困るし………」

人それをパクリという。

「うるさい!」

「神官殿どうされたので?」

「いや、気にするな。叫ばねばいけない時というのがあっただけだ。」



唄鶯は菓子作る神官、最後の勇者、死霊と孤児の擁護者、神を穿つもの、旅人の栄養学者、極北界の飯テロリスト等々の異名を持ちながらも楽隠居の菓子屋の店主であることを楽しんでいる勇者(笑)から余り貴重ともいえない論文を借り受け写本と自己研鑽に努めるのである。

二人の美人妻を持つ子沢山の神官殿は基本『予防』を旨としている。彼の論が紡がれるまでにどれだけの先人の血と汗と涙が費やされたであろう。下手すれば数千人単位での犠牲があったはず。それを繰り返させじという執念がこもった論文がこれでもかとある。玉石混合である、野にある草の食べ方を綴った【救荒園主】の【百草食譚】やら拷問による犯罪防止論とか本人達が必至で否定する【傷跡娘の物語】、食卓の魔術師と名高い【聖徒】の某厨房魔道師著【評価に値する氷菓】等、現存する面々の書物の数もさることながら世界中を旅する間に書き綴った死霊達の声も………


死霊の資料………ぷぷぷっ!(BY演芸神)


いや、言語系が違うから駄洒落にならないし………


「母国でもこれほどまでの資料があるかといえば……中々お目にかかれないとか禁書扱いされかねないのが…………」

「若様、一服しよー」

「うむ、馳走になる。…………うまいな。」

「無理はいけないっていうよ。神官パパだって一人でできるのは大したことじゃないって言っているし。人で持てる荷物って少しでしょ。」

「ほうほう」

「だけどみんなで持ったり道具を使えばもっともてるでしょ。」

「で」

「それだけ」


ずこっ!


唄鶯は茶を入れてくれた孤児っ子のきれきれな回答にずっこける。それでも孤児っ子の言い分自体には納得できるものがある。どうしようという問いに答えが得られるかもしれないが正答はなく悩む。とりあえず書写して持ち帰るのはよいかなというのは結構欲張りなのだろう。


それでも悩みながらでも一歩前にすすめという姿勢は好感が持てるものである。書物は後の世にでも役立てることができるものを期待してである。この書写した物だけでも後世の歴史家から貴重な資料を保管してくれたと評価が高いのだが彼が求めるのは現世利益。宗教家関係が一番嫌がるものである。

って、作者自殺願望でもあるのか?微妙に危ないネタばかり。


「とりあえずは道具とか協力者か…………遅き約束嬢を引き入れることができれば………というのは無理難題だろうな。彼女がいれば旅路の」

「えっと、若様。あたしを飯炊き女と勘違いされていませんか?」

「おっと、考えが漏れていたか。もちろん賢女を前にしてそのような事を………類まれなる食薬師として迎えるのも十分すぎるほど国益にかなえられるし書類仕事に強そうだから官僚団の…………何が悪かったのか判らぬが睨むな。視線だけで呪い殺されそうだ。」

「誰にだって過去に触れられたくない部分がありますから………」


たぶん書類仕事に勤しみたくないのだろう。この世界の連中は書類仕事に対する適正が著しく低いとは言わないが嫌がる傾向に……………

ちょっと慣れていた死霊っ子(元)にお鉢が回るとか……神域関係は大丈夫だと10年程度は思うのだが施政者にとってはのどから手が出るほど欲しくなる、縁故と能力もある。ついでに可愛らしい娘さんだから助兵衛根性はともかくとして部下やら何やらのお嫁さん候補としても………尻に敷かれるだけでは済まない気がするけど。

「ちょっと、まるであたしが悪妻候補みたいじゃない!」


悪妻とは言わないけど……いい奥さんだと思うよ。誰にとっての……ひぎゃ!


地の文、無茶しやがって………(by冥界神)


地の文に代わりまして私地の文が続きます。


「私もあと30年ほど若ければなぁ………後これ以上嫁増やしても養えなくはないが満足させることは出来ん。」

普通に即転生させればよかったのにというかできなかったんだよね。主に神様関係で・・・・・・・・・ 

「婚約者がいなければ………」

「ぼく達だと幼すぎるしねー」

「そーそー、よくよく考えてみたら死霊っ子(元)ねーちゃんって、神官パパの妹でしょ、ぼく達からみたらおばちゃん・・・・・・・・・・・・」

「はいはい、年寄と彼女持ちはほっといて………そして、赤巻髪…………こんな若くてかわいいあたしに対しておばちゃん?おにーちゃんの妹分だったけど妹じゃないしちょっと年上のおねーちゃんでしょ!」

「でも、前世と死霊時代諸々含めれば・・・・・・・・・・・・神官パパよりちょっと年下・・・・・・・・・ひぎゃ!」


幼くとも女性である。少なくとも叔母上扱いはまだしもおばちゃん扱いは禁句である。死霊っ子(元)こと遅き約束、彼女は16歳。少なくともおばちゃん扱いはしていけない。おねーちゃんである。

その後昼餉の時間に死霊っ子(元)が見向きもされなかったとかおばちゃん扱いされた件について赤巻髪が居心地の悪い思いしたのだが自業自得である。


「色々と為にはなったけど、結局の所王になる道とか判らないままであったな。」

「だって、僕たち王様になったことないもん。」

「ぐっ、それは盲点だった!」

「王になるために功績を求め、王になった後も国の為に身を粉にする。何とも不自由な生き方を選ぶとは不器用であるな。」

「神官殿、それを言ったらくじけそうになるんですが・・・・・・」

「唱鶯殿、君が選んだ道とはそういうものだ。」

「くっ!それでも一歩でも進まなければならぬのだろう。ならば、一歩進むのみ。」

意地っ張りな若様である。そんな若者の粋がりも愛い物である。意地を張って一歩前に進むものが歴史を作るのである。歴史に名を残すのではなく歴史を作るのである。どこぞの神官様は歴史に名を残しているが歴史を作っていない。燃料は投下したかもしれないけど…………



「唱鶯、色々見てきなさい、それで何がしたいか何ができるか考えなさい。私に助言できることはあるけど私が示す事が出来る道はない。私は外なる世界から迷い込んだ者だ、私がこの世界に対して求めるのは美味い飯と綺麗な嫁さん……は今いるからおいておいて、安穏たる暮らし。私が欲しいのはほんに小さな幸いなる場所だ。それは今手に入れている。ここで私は世界から零れ落ちた子供達と共に幸いにある。これを脅かすのであれば………今一度私は世界を前に意地を張るだろう。」

「所で神官殿綺麗な嫁さんの件で口ごもっていたのは……」

「もう一人くらいと思ってしまうのは男としての………本能だろうと言いたいが嫁さん達をまえにいえるか?」

「あんなに良くできた細君達を前によく言えるな…………逆に神官殿を尊敬するぞ。」


「若様セーフ!」

「パパアウト!」


「あらあら私達だけではご不満でしたか?」

「うんうん、浮気は男の甲斐性と言うけどあたし達の嫉妬を買ってかまってほしいと言う可愛い我がままかい?」

「えっと、子供達が巣立って行って寂しいし、夫婦水入らずと言うのもご無沙汰だから一人取り残された気分と言うのは…………」

「可愛い事言ってくれるねぇ、見てくれば可愛くないのに。」

「ほっとけ!」

「たまには夫婦のみでゆるりと過ごすのも悪くありませんわね。」

「そんなにあたしの事が恋しかったんかい?」

ずりずりずりずり………………


勇者(笑)は奥さん達に連行されていく。

「ああ、子供達。戸締りはしっかりとしておくんだよ。」



勇者(笑)は連行されていって帰ってきたのは翌日の夜である。

菓子屋の運営も子供達のごはんも何とかなったのはどうでも良い話である。

艶々の奥さん達とげっそりとした神官様の姿を見るまでは。


「なんというか、私は相談する相手を間違えているのだろうか?」

誰ともなく問いかける唱鶯に

「少なくともおにーちゃんに相談する方が間違っている気がする。」


死霊っ子(元)は現状把握を放棄した。

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