13,道を聞くにも相手を選べ
最後の勇者足らんと願うとも叶えられることがなかった痛みを抱え世界の片隅でその傷を癒す勇者(笑)。
彼は世界に対する復讐者にして大慈大悲の養い親である。
争い奪い合う世界に対して別の道を示して召喚者達を嘲笑い、魔王を下すことなく未来を紡ぎ後進を育てる。神にしろ王にしろ勇者にしろ頼ることなく独立独歩のあり方を強いる、自らを主として自ら歩めとは過酷な教えである。ある意味勇者に有るまじき行い……
いやいや、我が同士にして獣耳愛好家もある意味勇者に有るまじき行いしていたよ。勇者『世界の中心で性癖を語った変態(通称:けもっこらばー)』を初めとする紳士淑女で成り立つ勇者達の自治領【愚者の楽園】。大半は自らの性癖を満たしていたがそれでも色々絆されて人外諸種族との協調路線を結んだりして【人外公領】の前身となったのがいてなぁ………あやつ等は中々話の判る連中でなぁ、こう、(節制神削除)やら(節制神削除)やら………ひぎゃ!(by森林神)
話を一気にシモに持ち込むな!(by節制神)
そう言えば、異界同人作家も【勇者召喚】の前実験で呼び出されたものだったわ。【勇者召喚】を確実にするために『無害』な者を呼び出したっていっていたわね。(by芸術神)
彼女は世界を芳醇とさせてくれてくれたわね。しかも女性限定とはいえ世界に対話をもたらして……(by文芸神)
どこが『無害』だぁぁぁぁぁぁ!毎月毎月『有害図書』を発行しやがって!どこが芳醇だ!腐っているというんだぁぁぁぁぁぁぁ!(by節制神)
「壮大っぽく見える前振りが一気にだめだめになったよ。」
「そもそも神官パパにシリアスは似合わないって。」
「そうだよねー。」
「ところで『有害図書』って何?」
「子供は知らなくていいことだよ。所でお前ら私にシリアスが似合わないってどういうことだね?」
「あはははははっ。いたいいたいいたいいたい!」
「うがやややややや!」
「おにーちゃん。ばかやってないの。」
「まぁ、私にシリアスが似合わないのは知っているけどな。私だってシリアスに………」
シリアスが似合わないといっていた住み込みっ子達をアイアンクローかましていた勇者(笑)は制裁が終わったとばかりに軽口をいった子を解放する、あわてて逃げ出す子供達。口の悪さは身を滅ぼすこともあると身をもって知ったのだろう。
「そんな事より、おにーちゃんにお客様よ。【啓蟄】よりおにーちゃんに教えを請いたいって。」
「ふむ、取り敢えず話を聞くとしよう。」
その客人は少年の色を抜け切れていない若者である。若者は旅装のままで礼意を表す、これは親しくない者の前で寛ぐのは品位に欠けることであるのと非常時の備えという意味合いがある。逆に旅装を解いて向かう文化圏である勇者(笑)にとって最初は戸惑った部分である。理由を聞かされて治安の問題かと思ったのはどうでもよい話。
「旅装のままにて失礼する、我が名は桃笑王家の唄鶯である。王家の名乗りを認められる前に世界を見て回れと修行の旅の途中であるのだが我が師であった鼻毛祐筆より、神官殿の名を聞き一手指導願えればと………これが紹介状になります。」
「鼻毛殿の紹介か。かの御仁は息災かな?」
「国許を出るときはあの老骨のどこに活力が隠されているかとばかりに元気でありましたが、私が国を出る前夜に壮行の宴だと称して城下の安酒場で散々杯を交わして絡んできた庶人に『礼儀を教えてやる。』と………鉄拳指導をして一晩中礼法の教授をしておりましたが。」
「・・・・・・・・・何をしているんだあの爺さん。」
元気なのは何よりだが普通礼儀を教えてやるといったら殴って上下関係を示していくのではないのかと突っ込みいれたくなった(実際入れてる)勇者(笑)はあきれ返っている。取り敢えず元気なのはいいことだと話しを進めることにする。
「まぁ、取り敢えず旅装を解いて、旅の埃でも落としなさい。唄鶯殿の足しになるものがあるかどうか判らぬがな。死霊っ子(元)、彼を水場に案内しなさい。」
「はい、神官さん。では、若様こちらへ。」
「では、好意に甘えて旅装の縛りを解かせてもらおう。少女よ案内頼む。」
唄鶯は少女の導きで水場へと向かい旅の埃を洗い流すために水場へと向かう。どこぞの川縁で裸になってというのは出来なくはないだろうが安全に身を清めることができるというのは中々出来ないのである。
その間に彼を迎え入れる用意を子供達を使って整える。政治から離れていても時折こう言った来客がある。子供に読み書き教える程度ならば何とでもなるがどのような事を学びたいのであろうかと思案するのである。
旅の埃をとった唄鶯は見事である。癖のない栗色の髪を後ろでくくり付けてやや団子鼻な所があるがそこは愛嬌となるか無骨さとなるか彼の成長如何であろう、少なくとも掌の胼胝は筆の物と剣の物があり育てし者の丹精と生来の努力の跡が伺われる。旅装を取るということは信頼するということ、世界を旅してそのことを知った勇者(笑)は改めて唄鶯を客として迎え入れる。
「若き者よ、君は何を求めるかな?」
「王となる道を」
「王とは何ぞや?」
「王とは………」
「王とは?」
「よくわからん。」
ずこっ!
勇者(笑)は思わずずっこけた。
おおっ!万夫無双の最後の勇者足らんとする勇者(笑)をずっこけさせるとは(by剣神)
話をきいていた孤児っ子達もずっこけた。王になりたいと言う問いは悪くない、悪いのは王とは何だと言う事への自分なりの理解がないことである。理解していなければ話の進めようがない、潔すぎて泣けてきている勇者(笑)である。
どう進めればいいんだよと言う魂からの叫びをおいといて、取り敢えず食事とする。永の旅路を経てたどり着いた者に滋養を取らせるのは正しいことであると【荒野の民】は言っている。客として迎え入れたからには恙無きようにするのは勇者(笑)としても当たり前のように考えている。この辺の親心と客人側の自立心とのせめぎあいと言うのはままあることで。勇者(笑)の居た世界でも留学生がバイトをしようとするのを我等の待遇が悪いせいかと嘆く迎え親がいたりするのはよく聞く話。
取り敢えずは飯である。腹が減っては戦は出来ぬ、すきっ腹は悲観的になりがちでよろしくない。そういう考えだから彼の腹は膨らむ一方だと言うのはある意味言いがかりだろう。
「ねぇ、おにーちゃん。地の文がディスってくる。」
「うんうん、悪い地の文だねぇ……」
「だからおにーちゃん痩せて、あたしに対するディスりを…………」
「死霊っ子(元)太っている人に対するいわれなき偏見を……」
「おにーちゃん……」
勇者(笑)は自己弁護の努める。太っている者を痩せさせようとするのは本人の自覚云々以前に痩せる苦痛に対するだけの褒賞がなければならない。そもそも太って何が悪い!健康とか美貌とか果たして最重要視するものであろうか?
地の文作者にのっとられていないか?(by節制神)
気にしたら負けだ。(by作者)
といった戯言はおいといて、件の若君を食卓を招き入れる。
「教えを乞いに来たので食を乞う訳には……」
と遠慮がちなのは古き教えの一説にのっとってのやり取りである。其の教えが異世界伝来であろうとどうでも良い事である。ただし、勇者(笑)と称される異世界人は食育の徒である。彼は暮らしの中で教えを説き世俗の中で善く有りなさいと説く。彼の教えは『善き飯、善き友、善き寝床』、食べることも教えのひとつである。
とはいえ、彼にしてみれば旧友の類縁が遊びに来たようなものである。ネットもない世界、己の才覚と縁故を基に旅をするのは大変なことである。厳しき旅路であってもさらに厳しく己を律することは愛すべき馬鹿というべきであろう。
「食べるということ生きるということすべては己を磨く砥石である。」
勇者(笑)どこかの禅寺の教え朴っていないか?
「というのは、冗談だ。とりあえず食ってけ。」
食べることを教えにするのはあまり好きではないらしい。食べて楽しんで得るものがあればそれはそれで善いことなのである。子供に対しては最低限のしつけくらいはするけど……
とりあえずは飯である。食べるときは静寂を持ってよしとするものもあるし、多少の会話は食事の彩とするものもいる。どちらが正しいとか言わない、どちらにも理がある。今回の場合は食べながら話を進めることとする。
「馳走になる神官殿。」
「まずは食べられよ。若君の問いは待ってくれるだろうが料理のときは待ってくれぬぞ。」
「いただきます。」
子供衆は来客に臆することなく色々な事を聞いてくる。唄鶯もそれに答えていく。
「そういえば若様って王様になる道を聞いているけど、王様って何をする人なの?」
「我が国だと儀礼と議会の議長をしている。5年任期で持ち回りしているな。」
「それなら待っていれば成れるんじゃない?」
「そんなにあわてなくても、再任あり?」
「再任はありだけど基本的には候補者がいればそっちにまわすな。」
「なんか町内会の・・・・・・・・当番みたい。」
「な、な、なぁつ!王をそんなものと一緒にするな!」
「でも制度的には・・・・・・・・・」
「ぐっ!」
「ぱぱぁ~、他の国の王様はどんな仕事ぶりなの?」
「王様のいない国もいるし、王様の仕事ぶりなんて国それぞれだな。【極北】だと族長達の代表として外交とかしている形になっているし・・・・・・」
「あそこは部族連合で王国じゃないでしょうが。」
「そうだな、そういう形では【魔王領】も似た形だよな。様々な種族の連合体で【魔王】が外交と防衛を中心とした役割をしているな。種族間の利害調整も仕事のうちだが後方支援部隊を源とする官僚組織がしっかりしているから軍事と外交を主な役割としているな。【芒種】だと浮草に聞いたほうが早いだろう。」
「【芒種】だと官僚に領主の二者のまとめ役ね。元々が一番領地と力を持っていたのが王家の起こりだし、拳骨で国内をまとめるのが仕事かしら。」
「・・・・・・・・・・・・なんか物騒な国・・・・・・・・・」
「そんな怖い国じゃないわよ、貴族達の大半は王家と血縁関係だし官僚団に関しては家督を継げない貴族の子息や眷属が取り仕切っているから王としての仕事は彼等の最終確認と責任を取ることかしら。」
「浮草ママ、王様はお飾り?」
「お飾りというよりでんと構えてにらみを効かせているんじゃないかしら。」
「そして当時王様の拳固代わりだったのか浮草で・・・・・・・・・」
「あらぁ、私そんなに怖くはないですわよ。か弱い女性に対して失礼ですわね。」
どすっ!
勇者(笑)は悶絶した。見えないように脇へと一撃食らったようだ。
子供達は半分以上は気がついていない、気がついた子は見なかったことにしている。死霊っ子(元)はあきれた目で兄貴分を眺め、姐さんもそれに続く。唄鶯は前評判で知っていたからなるほどという目で見ている。
「大半の国は【芒種】と同じような形をとっているね。王様一人で仕事していたら過労死してしまうからね。」
「ふーん。」
「私も【聖徒】と【魔王領】で官僚団の手伝いをさせられたことがあったけど死ぬかと思ったぞ。」
「【聖徒】だと公爵様が潰れたからせいなのは知っていたけど【魔王領】では何やったのおにーちゃん?」
「神官殿には政務経験があったとは、しかも対照的な二カ国でって面白い経歴ですね。」
「【魔王領】では外国人受け入れのための【解放区】と国外と後者のための【旅券】に対する知識を乞われてな、そのまま設立委員の外部顧問として・・・・・・・・・概念だけ教えればよいのかと思ったら発券事務とか入出管理とか、当時はとりあえず【狭間】と【魔王領】の二カ国間が主力で元々の身分証明の流用でなんとかなったが【人族連合】の旅行者の扱いをどうするかと相手国とのすりあわせとかも中立の立場からの意見を聞かされて大変だった。一緒に旅をしていた使節団もへばっていたな。」
「そういえば王様って部下をうまく使うとかって話を聞いていたけど部下じゃないのにこき使われる神官パパって・・・・・・・・・」
「あっ!其の時の報酬請求するんだった!」
この話が【魔王領】内部に流れたとき、当時を知る官僚や魔王が「あっ!忘れてた。」という顔をして冷や汗を流していたのは別の話。とはいえ、友誼の証として毎年結構な贈り物をされているのでもとは取れているだろう。
「結局、王への道って何なのだろうか?」
「若様の場合、順番でなれるからその時に備えて準備するだけでいいんじゃない?」
「そんな単純なものじゃ・・・・・・・・・」
聞く相手間違えているんじゃない、おにーちゃんの場合は自分の役割である神官の仕事だって把握してないんだからと死霊っ子(元)は思ったりしたが口には出さなかった。