9,出ていく子
「俺の所が大抵の孤児院よりも良い場所だと言うのは自負するんだが馴染めない奴もいるんだ。その子が悪いんじゃなくて馴染めないんだろうな、早々に居場所を見つけて出ていったり、腕一つで成り上がるんだと独り立ちしたり、こっちで受け入れ先を見つけたのもいたな。」
街をうろついている勇者(笑)こと菓子作る神官一行、勇者(笑)の言葉に戸惑いを隠せない死霊っ子(元)
「えー、おにーちゃんの所は居心地良いじゃない!」
「神官さんの鼾がすごくて静かな部屋求めていたねーちゃんいたなぁ。」
「辛党で甘い匂いが我慢できなくて・・・・・・大工の弟子入りしたのもいたよ。」
「神官パパの計算問題で頭から煙出して・・・・・・・逃げ出すように農園に雇い入れられていったの居たジャン。」
「にーちゃんならば農園で計算できるからって地主さんから金庫番押し付けられそうだって泣いていたけど。」
「金から逃げるなんてある意味羨ましいね。」
金は程々あればよい、多すぎても少なすぎても苦労はするものである。どのくらいの量が良いのかわからないけど・・・・・・
「おにーちゃん鼾かかなかったと思ったけど?太ったから?やっぱ痩せようよ!」
「どうしてもそっちに持っていきたいのか?」
「所でどこに行くの?神官さん」
「甘い匂いが苦手な大工見習の所だな。」
勇者(笑)一行移動中
街中の建築現場、組み立てられた足場の上で細身の少年が綱を垂れ下げさせる。
この綱を頼りに物を持ち上げたり様々な部品をくみ上げたりしている、細身で軽いから柱の上で立って作業をしたりと面白い物である。勇者(笑)は故郷の出初式の光景を思い浮かべたりしているが出初式って何だったかなと思い出せずに頭をひねっている。
少年は養父である勇者(笑)と弟妹達の姿を認めると手を振って格好をつける。
若者と言うのは見栄を張ってかっこつける物である。それが男だと言われたら否定できる部分は少ないのであるが大人は何時か通った道、子供は何時か通る道。人それを厨二・・・・・・・・げふんげふん
少年のうちに厨二にならぬものは面白くない、大人になってから厨二になるのは目も当てられない。
足場から立てられた柱に飛び移って片手倒立したのは若さ故というのかお調子者というべきか、職人系の連中は自分の技量で馬鹿をすることが多いのは宿唖だろうか?
この少年の自らの技量を駆使した無駄な動きに大工の親方が
「馬鹿やっているんじゃねぇ!」
と一喝するのである。
その一喝に驚いた少年が柱から落っこちて・・・・・・・・・・・・
「いてててててぇっ!神官の親父に受身教わってなければ怪我しているところだった。」
と体をひねってついた土とか払いながら何事もなかったかのように起き上がるのである。
「馬鹿野郎が!あがったときは注意深くといっているだろう!怪我したら仕事できないんだぞ!」
ぼこっ!
少年は親方の拳骨で目を回す柱から落ちてもほぼ無傷だったのに親方の拳骨の打撃力というのは・・・・・・・・・・・
「それよりもあの高さから落ちて無事とかって神官さんどんなすごい技なんです?」
「うんうん、あそこから落ちたら大怪我だよ。」
「なに、受身というものは転び方やられ方の技術だ。落ちる瞬間に手で地面をはたいて衝撃を逃がすんだ、ほかにも体を丸めて円運動で直接打撃を逃がしたり打撃と同方向に飛んで威力を逃がしたりする技術もある。」
「ああ、だからママからの岩をも砕く一撃とか神様ですら泣き出す剣の一撃を受けても無事なんだ。」
「おにーちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
死霊っ子(元)は呆れた目で見ている。姐さんは手が早いけど理不尽をする人じゃないことを知っているから何姐さんの手を煩わせているんだと・・・・・・・・・・・姐さんに散々世話になった身で思う。
「ちょっと体の動かし方を教えただけなのになぁ・・・・・・・・この世界の武術的なものって攻撃重視で防御をおろそかにしている節があるから・・・・・・特に大工やるならばと五点着地法を教えてみたんだが見事物にしたようだ。」
「・・・・・・・・・神官パパ、俺にもできる?」
「訓練すればできるけど失敗したら大怪我だ。」
「でも、大工のにーちゃん出来てたよ。」
「百回やって百回出来るかといえばどうかと思うのだが?」
「お前は本当に丈夫だよなぁ・・・・・・・・」
「普通怪我するぞ、あとお施主さんがひっくりするからやめろ!あの爺さん心臓弱いんだから!」
「俺の体じゃなくてそっち!」
「お前の丈夫さについてはおかみさんの一撃を受けて普通に立ち上がっているから心配するだけ無駄だろう。」
「ちょっと兄ぃ!」
「親方、あの馬鹿はちゃんとやっていますかね?」
勇者(笑)は一時期でも自分の所で世話をしていた子がちゃんとやっているか気になって大工の親方の訊ねる。親方の方も父親というより母親みたいだなと苦笑いしながらも答える。
「時たま今みたいな馬鹿をすることを除けば筋はよいな。大工の親方にはならないだろうが大工には仕込めそうだ。柱の上の軽業は兎も角としてわざと落ちるのはよくない。せっかく整地したのに人型の穴とか後始末が大変だ。」
「そっち!」
「親方さん、普通体とか心配するもんじゃ・・・・・・・・」
「そっちの心配はするだけ無駄だってわかった。」
受身の技術に丈夫な体、大工じゃなくて戦闘職につければ良かったかなとも思ったりもするのだが気がつかなかった振りをする。
その後いくつか話をして少年にも体を大事にとか落ちて時間短縮は職人じゃないからと突っ込みを入れたりしてその場を離れる。
馬鹿な真似させないために現場から離して設計とかさせたらどうだと冗談半分で言ったら精密な模型作りを始めて逆にそっちで馬鹿な事を始めるとは・・・・・・・・・・・本業はどうしたと怒られてしまうのは後の話。
菓子で家の模型を作った師匠とか聖堂を作った兄弟子分(現在【聖都】某料理店料理長)がいるから蛙の子は何とやら・・・・・・・・・・・・
とりあえずさじを投げたのは誰なのだろうか?
びゅん(匙投げる音)
なんだかんだといろいろ町をめぐった後で我が家へと戻る一行。
町にいる子供達がなんだかんだと息災であることにうれしく思う勇者(笑)、彼の属性は【おかん】である。誰よりも情深く関わった子を見守り続ける、彼は正義の体現者ではない、彼は子供の幸を願いただ一人の親に過ぎない。ゆえに【勇者】の名乗りには相応しくなく【勇者(笑)】と呼ぶに相応しいものである。年を取り容姿も体力も衰えた彼は子を思う大理不尽であることを受け入れている。
嘗て死霊っ子の幸を願うあまりに世界を総べて神々ですら下す力を捨て去ったのは彼らしいことである。
少なくとも死霊っ子(元)はそのことの気が付いていない。
「あたしディスられているの?」
「どうした死霊っ子(元)?」
「ううん、なんでもないの。」
死霊っ子(元)地の文に(以下略)
勇者(笑)こと菓子作る神官は年相応の姿に戻っている。子供達は彼から離れることなく行ったり来たりしている。夕日は彼等を追い立てる、おうちに帰れと追い立てる。影は長く早く帰りたいと急き立てる。夜の冷たい風も太っちょ神官さんぼでーが子供達に届かせることはない。彼の体のお肉は脂肪という名の駄肉ではない、どこぞの魔王ではないのだから。彼のお肉は愛と思い出で成り立っているのである。彼のお肉は愛と思い出で成り立っているから彼はそれに報いるべく子供達に降り注ごうとする諸々から我が身を以て守るのである。
それはさて置き、家へと戻った一行。
市場で頼んだものは来ているようである。
運んできた農場の者が茶と茶菓子を振舞われて・・・・・・・・・
「久方ぶりだな。」
「お久しぶりです。」
運んできた者はここから出てとある農場で働いている若者である。目立つほど優秀ではないのだが生真面目になすべきことを成している。彼の働きぶりは年寄り連中から評価を得ている。その農場の大旦那とか作付頭の爺様とか豊穣神の農業指導員とか・・・・・・・・・・微妙に癖の強そうな連中に好かれているのは彼の人徳だろうか?癖の強い爺様連中は彼を後継に・・・・・げふんげふん。
苦労が性になっている彼は久方振りの実家(?)の味に舌鼓を打ちながら養母や弟妹分達と近況を交わしあっている。
「こっちの子達は【聖徒】から来た子達だよ。にーちゃんの新しい弟妹分だね。」
「よろしく、兄さん。」
「親父殿のところでしっかり学んでいけば食うに困らない程度の学は得られるからがんばれな。まぁ、ちょっと・・・・・・・・・・・道がずれてしまうこともあるかもしれないけど・・・・・・・・・そこは、まぁ、強く生きろよ。」
「ちょ、ちょっと不安になるようなのあったけど大丈夫なんです?」
「嗚呼、大丈夫だ。うん、大丈夫。ちょっと読み書きできるから便利に使われるだけだ。」
「おい、人聞き悪い子というな。」
「そんな事言っても親父よぅ、左官の爺さん所に行った小役人兄貴『俺役人なるつもりなかった。』って愚痴っていたし、軍部に行った曹長兄貴も『まさか、補給部隊の鬼軍曹なんて呼ばれるつもりなかったが』って、司書見習で文書補修職に就いた姉さんが『会計業務に配置転換されて忙しすぎるのって如何な
のよ!給料は上がってけど出会いがないし・・・・・・・・・・・・』姉さんの目が怖かった・・・・・・・・・・」
農場に行った若者が兄貴分姉貴分達の近況を話しながら身震いをしつつ更に続ける。兄貴分二人は上役が笑いながらたまに酒を奢ったりして(経費で落としてます。抜けられたら色々と泣けるので上層部でも多少のお目こぼしが)
お○こ干し!まぁなんて・・・・・・・・・・・・ぐへやっ!(by芸術神)
そのネタは関西系にしか通じないと思うのですが、ちなみに男性だと丸干しらしいのだが地の文である私にはよくわかりません。
姉貴分のほうは・・・・・・・・・・・・・・・少々良い所のボンボンが男性なのにお目こぼしを狙って手心を加えるように迫ったところで、姐さん直伝の酔漢相手の護身術とか女騎士さん直伝の護衛術やらが炸裂したのである。師匠達ほどではないにしても下手な兵士並に実力はある、多少心得がある程度では敵う訳がないというか虐殺である。(注:生きています)止めとばかりに微妙な縛り方をしてから『私は横領を共用しようとして失敗した馬鹿です』等と張り紙をしてから関係部署に引き渡したのである。
そのせいで縁談を見繕ったほうが良いのかなと探していた彼女の上役・・・・・・・・・・・・・・・が匙を投げてしまったのである。ボンボンの実家関連とか彼女の戦闘力にしり込みする男性諸氏的な意味合いで。
「男連中は出世するならば後方部分も覚えとけば良い経験と・・・・・・・・・・・・・・・・・・小役人は想定外だな。左官になれなくてドンマイと笑っておこう。司書のほうは・・・・・・・・・・私にも報告が来た・・・・・・・・・・・なぜか壁の修繕費が・・・・・・・・・・・・・無視したけど。」
「むしろ何で姉さんが司書なんて・・・・・・・・・・暴れ牛素手でひねっていたのに・・・・・・・・」
司書・・・・・・・志望だった娘っ子は少々手が早いけど器量は悪くなく料理やなんかも上手である。嫁さんに欲しい何て言っている年寄り連中も結構いる。
「なんていうか、もう少し穏便に・・・・・・・・・・・・・・」
「おにーちゃん、その子なんか姐さんみたいだね。」
「なんだって?」
横から口を挟んだ死霊っ子(元)とそれについてピクリと青筋を立てた姐さんがいる。
そういえば姐さん、【寒鱈】で馬鹿な酔漢を叩きのめして婚期逃していた事あるなぁ・・・・・・・・・血の繋がりはないが似たもの親子なんだなぁ・・・・・・・・・・等と思った異世界人はいたが賢明にも口に出すことはなかった。気風が良くて情の厚い彼女は好ましいのだが少々手が早い、そんな欠点すら愛らしいと思っているのだが彼は被虐趣味はない。軽口をたたいた死霊っ子(元)の頬をつねり上げている姿を見てほほえましく思っている。
「おにーひゃんたふへて・・・・・・・・・・・」
「思っていても言うべきではない言葉というのはあるんだよ。」
「あんだって?あんたどういう目であたしを見ているんか聞かせてもらおうか?」
多くの子供達の養い親にして慈悲深き神官、彼も墓穴を掘ったようだ。
「相変わらず親父達仲良いなぁ。」
夫婦の語らい(物理)見て暢気にしている農場の青年。彼も色々毒されている、ミシミシと言う音が聞こえているけど気にすることなく茶をすする。
「ちょ、ちょっと!君の抱擁はうれしいけどちょっと情熱的過ぎないか!」
「こんないい女の抱擁を受けて何生っちょろい事を言っているんだい!」
ぴきぺき・・・・・・・・
「さぁさぁ、みんなご飯食べちゃいましょう。」
「「「「「はーい。」」」」」
食事が冷めるのはよろしくないと女騎士さんがじゃれ合っている二人を置いといて子供達と食事をするのである。農場の青年もご相伴に預かるのである、懐かしい味に思わず涙がこぼれかけてしまうのは誰も知らないことである。
数日後、
「親父、こいつら仕込んでくれ!」
朝の支度が終わり子供達に文字とかを教えるために出かけようとしている神官さんこと勇者(笑)の元に農場の青年が現れる。なんかグルグル簀巻きにされた子供達の姿が見える。
「どうした?」
「俺の世話になっている農場の息子とその取り巻きに豊穣神の農業指導員の孫なんだけど仕事を手伝うのは良いけど数が数えられなくてだめな仕事しているんだ。数くらい覚えろ!と言ったら『面倒な数字は全部にーちゃんがやってくれるだろ!父ちゃん(農場主の事)も言っていたし・・・・・・・俺たちはお任せで胡坐かいてれば・・・・・・』等とほざきやがって!ためしに簡単な計算をさせてみたら・・・・・・・・・・あまりにも酷過ぎる!農業は感性なのはわかるけど肥料の希釈とか収穫物の売却とかできないとだめだろぉ!」
彼の額にはくっきりと青筋が立っています。
もがががが(訳:助けて)
簀巻きの子供達は助けを求めている気がするけど一瞥すると
「親父ぃぃぃ!代金は払うからちょっときつめに仕込んでくれぇぇぇ!」
養父である神官は思わず引いて
「とりあえず縄は解こうな・・・・・・・・・・・・」
縄を解くと子供達は騒ぐ騒ぐ、思わず治安騎士達が駆けつける事態となる。実際やっているのは拉致監禁・・・・・・・・・事情を聞くとアホ臭くなって
「朝から騒がないでください。こっちは夜勤明けで帰れると思った矢先なんだから!」
と逆切れされる。
その様子を見て死霊っ子(元)は子供は親に似るもんだな等と思ったりしたのは如何でもよい事である。