解-わかる-
あれから1週間、ブルーメは目を覚ましていない。
生と死の間をさまよっていると、言われていたのだ。
明るかった丘の上はすっかり静かになってしまっていた。ツァイトとケントニスは毎日ブルーメの様子を見に行くが全く変わりが無く、時間が過ぎていくだけだった。
「呼びかけに反応してくれないのはこんなに辛い事なんだね」
ツァイトもこくんと頷く。
薄暗い部屋の中、向かい合っていた。ケントニスはコーヒーを飲み、ツァイトは1冊の本とにらめっこしていた。
「その本はここの古い言い伝えでね。それを見つけた時、僕は嬉しくなった。救えるかもしれないってね」
ツァイトがケントニスを見ると彼は目を閉じていた。
「でも、命が完全に尽きてしまったものはどうしようもなかった。死んだものは生き返らない。当たり前のことだね」
何だか聞いていられなくてツァイトは自分の部屋に戻った。その途中ブルーメの部屋の前を通った。ツァイトは思わず足を止める。
コンコンとノックしてドアを開ける。いるのはベッドで眠っているブルーメだった。
側によって膝をつき、手を握った。
温かさはツァイトには感じることは出来ないけれど、その手からブルーメの微かな鼓動を感じた気がした。
息もしているのにブルーメは目を覚ましていない。生きようとしているのに。
立ち上がったツァイトはちゃぷんと揺れるものを感じた。
きらきらと輝いている。
ツァイトは、そっとブルーメの部屋から姿を消した。
ツァイトはスケッチブックを開いた。
書いたものは彼の記憶として保管されている。
今まで書いてきたスケッチブックは何百冊にもなる。
ツァイトはペンを握った。
その日の朝。
ガシャン。
何かが割れた音がした。
ケントニスは眠い目をこすりながら自分の部屋から出てきた。
まず、台所に顔を出したが誰もおらず、朝食のいい匂いだけがそこにあった。
「ツァイト、もう起きているのですね……」
ということならばツァイトに聞けばいいのかと、ケントニスはツァイトを呼んでみた。
しかし、彼が現れる気配はなく、しんと静まり返っている。
ツァイトの部屋を覗いたが姿はなかった。
(ブルーメの部屋かな…‥?)
ノックをしてドアを開ける。
ベッドの横にツァイトを見つけた。
「ツァイト、さっきの音だけど──」
一歩部屋の中に入ると足下が濡れているのに気が付いた。
日が射し込み、はっきりと部屋を照らしだした。
ツァイトはブルーメのベッドに寄りかかるようにして倒れていた。
彼の体の中心にある、砂時計のガラスは割れており、水は流れて、水溜まりをつくる。
その水は太陽に照らされよりいっそう光っていた。
「お父さん、これ……」
「ブルーメ、ツァイトが遺したものだ」
ブルーメの手元にはスケッチブックが1冊あった。
表紙には“Zeit”と書かれている。
『ブルーメごめんなさい』
『ありがとう』
『2人とも大好きです』
1ページずつ、綴られたその文字をブルーメは抱きしめた。
「ごめん、ツァイト。直接言えなかったね……」
──私も大好きです。
窓辺に置かれた砂時計は今日も時の流れを感じさせる。
〈 おわり。〉
最後までありがとうございました。
実はこのお話、冬の童話祭にだした「おなじちがう」の元になった話です。
最初にこちらの話を書こうとしていたのですが、冬の童話祭を知り、童話ように書いたものが「おなじちがう」でした。
はじめはこの作品で出そうと思いましたが、童話ではないかなと思い、止めました。
ちなみに、ツァイトという名の動く人形のお話はシリーズになっています。
これからもいろいろなツァイトを書きたいなと思ったり……。
改めまして、ありがとうございました。
また別の作品でお会いできることを願っております。
2014/12 秋桜空