縋-すがる-
暗い中を探していた。
月光を頼りに。
それを見つけた時、嬉しかったけれど、悔しかった。
──もう、遅いよ……。
2人はだんだんと薄暗くなっていくことに焦りながらブルーメを探していた。
ケントニスは大声を上げ、ブルーメを呼んでいた。
──もしかしたら、泉のある森の奥に向かったかもしれない。
ツァイトはケントニスから聞いていたことを思い出していた。
あの本はケントニスが持っていた、命の水に関する本だった。いつの間にかケントニスから持ち出していたその本をブルーメが読んでいたのだ。
──ブルーメの母親はブルーメを産んですぐ、会えないところに逝ってしまったんだ。身体が弱くてね。
母親に会いたい一心でその水を探しているのではないかとケントニスはそう思ったのだ。
「……そんなところ、似なくていいのにね」
苦笑いしながらケントニスはそう言った。
ツァイトにとってなんだかその顔は痛々しく見えた。
2人は探し続けた。
そして、ブルーメも探し続けた。
泉があるのは森の奥。月明かりは無いけれど、命を与えてくれるその水で母親に一度でも会いたかった。
ブルーメはそれにすがるしかなかった。たとえ1000年に1度きりと分かっていても求めずにはいられなかった。
(森の奥、奥、お母さん……!)
お母さんとこんな事をした。料理、裁縫を教えてもらった。うちのお母さんは優しい。好きな人の相談をしているの。
今まで感じてこなかったぽっかり空いた家族の穴にブルーメは気が付いた。
気が付いたら最後、求めずにはいられなかった。
母親というものに会ってみたい。
自分にもお母さんという存在がいるはずだと。
でも、結論は残酷なものになった。
この世にはもういないのだから。
それを知ったのは誕生日の前日。
いつも学校帰りに通りかかる優しい雑貨屋のおばさん。
明日は誕生日だと言うことを話したブルーメ。
──あなたのお母さんが亡くなってからそんなに経つのね。お母さんに似てきたわ、ブルーメちゃん。
ブルーメは真実を知る事になってしまった。
わずかな光を見つけてブルーメは手を伸ばしたが、空を掴んだ。
「ブルーメ!!」
遠くから父親の声が響いて聞こえた。