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光-ひかる-

 この世界には不思議な泉がありました。





 命が宿る、不思議な泉。



 その泉の水を浴びれば、命が宿り、すべてのものが動き出す。



 しかし、その泉が現れるのは1000年に1度きり。



 その1000年に1度がつい最近訪れたのだ。





 ──木々を掻き分け、暗闇を(おそ)れず進み、満ちた月が示すその場所に、輝く神からの贈り物、1000年に1度現る。





 古くから伝わるこの言葉に、博士ケントニスは惹かれ、ちょうど1000年に1度が訪れるのを発見した。



 そして、彼は月明かりの導きのままにその泉を見つけたのだ。






*****






「ツァイトー! 早く早くー!」


 ブロンドの髪をなびかせながら、1人の幼い少女が野原を駆け回っていた。

 少し遅れてその子を追うように、駆けるものがいた。


 操り人形の様な見た目。顔はなく、頭にちょこんと帽子も被っている。しかし、操る糸などどこにも見えない。完全にそれは自らの意志を持って動いたいたのだ。

 人形の胴体は砂時計になっており、砂ではなく液体がきらきらと落ちていた。


 走る度に揺れるその液体は何ともいえない美しさがあった。

 太陽の光に照らされているせいなのか、はたまた、その液体自体が輝いているのか……。

 下へと流れる細い絹糸のような液体。その液体は下へ溜まることなく、その人形の体へと染み込んでいるようだった。


『待ってください』


 ツァイトと呼ばれたその人形はスケッチブックに文字を書いた。

 ツァイトは話すことが出来ないのだ。しかし、意志はある。意志を伝えるのが声でないだけなのだ。


 ツァイトの訴えもむなしく、その少女は止まってはくれなかった。

 声が出せないため、ツァイトは必死にその少女を追った。


 やっとの思いで追いついたツァイトは少女の腕をつかんだ。

 そんなツァイトを見て、少女は楽しげに笑った。その笑顔はまるで花が咲いたようだった。


『ブルーメ、捕まえました』

「えへへ、結構速かったと思うけど、つかまっちゃった」


 悪戯っぽく笑ったその顔に、ツァイトはため息を吐いたであろう。彼に声があったらの話だが。

 表情が分からないのだが、少女、ブルーメは何となくツァイトの気持ちが分かった。


「何か不服?」

『疲れるんですからね』


 首を傾げて、挑戦するような目つきで聞いてくるブルーメにツァイトは困ってしまう。


『反省していませんね?』

「ごめんね。ちょっと調子に乗りました。家に戻ってお勉強するから許して」


 しゅんとしたブルーメ。

 実は彼女、勉強が飽きて、外に飛び出してきたのだ。勉強を教えていたツァイトの一瞬の隙をついて。


『でも、足が速くなりましたね。ブルーメも成長していることを実感します』

「そうでしょ?」

『では、お勉強も頑張りましょうね』


 きっと、ツァイトに表情があれば彼の目は笑っていないだろう。

 それを感じ取ったブルーメは、はいと言う他無かった。

 そんなブルーメに何も言わず、ツァイトは手を差し出した。少女は黙って手を取り、2人は歩みはじめた。






 丘の上にある、小さな赤い屋根の家。そこに3人が暮らしている。

 ブルーメとその父親である博士ケントニス。そして、生きる人形ツァイト。3人は仲良く暮らしているのだ。


「……うーん、ツァイト合ってる?」

『大丈夫ですよ。これが終われば夕食ですからね』


 ブルーメのしている宿題の空欄を指差しながらツァイトとは言った。

 ブルーメは口をとがらせながらその空欄を埋めていこうとした。頭を抱えながらも、夕食のために一生懸命していた。


「ツァイトはスパルタだな」


 リズミカルなトントンという音が聞こえる台所でケントニスは笑いながら言った。

 ツァイトも台所に行き、夕食の準備の手伝いをしている。


『ブルーメのためです』


 2人は並んで台所に立っていた。ケントニスはリズムよく野菜を切り、ツァイトは煮込んでいるスープを焦げないようにかき混ぜていた。味付けもツァイトの担当である。時折ケントニスに味見をしてもらっていた。


 台所からするいい匂いにブルーメのお腹も我慢できなくなり、うめき声を上げている。

 うめき声に焦りを感じるブルーメはあと1問のところまできていた。

 適当に書いてしまおうかとブルーメは思ったのだが、ツァイトに合格をもらわなければいけないのでそれは出来なかった。


 下を向いて問題とにらめっこしていたブルーメは一旦気分を変えようと台所を見た。



『もう少しですよ。頑張ってください』



 まるで、ブルーメが上を向くのを分かっていたかのようにツァイトがスケッチブックを見せてくれていた。

 ブルーメは感謝するように笑いかけ、また、問題に取りかかった。先ほどとは違い、ブルーメはすんなりと問題が理解できている気がした。


 そんな2人を見てケントニスは微笑ましくなるのだった。


「終わったー!!」

「よくやったな、ブルーメ」


 ブルーメが終わったのと同時にテーブルには夕食が並べられ始めた。サラダに焼き色のついた香ばしいパン、木の実のソースがかかった焼き目のついたお肉、湯気が出ている温かなスープ。

 ツァイトとケントニスによって運び込まれるご馳走にブルーメは目を輝かせた。


「今日もおいしそう!」


 嬉しそうなブルーメを見て2人は顔を見合わせ、席に着いた。

 ケントニス、ツァイトとブルーメが向かい合うように座り、3人は手をあわせる。


「私たちを生かすための多くの命に感謝して」

「「いただきます」」

『いただきます』


 ブルーメは早速おかずに手を伸ばし、自分の皿いっぱいに盛り付けた。

 美味しそうに頬張るブルーメにケントニスは相当おなかが空いていたのだろうと思った。しかし、その皿にはサラダがのっていない事にケントニスは気が付いた。


 それを言おうとしたのだが、隣にいたツァイトがブルーメをじっと見ている。ブルーメはそんなツァイトに気が付き、慌ててサラダへ手を伸ばした。


「ちゃ、ちゃんと、サラダも食べるよ!」


 その様子を見てツァイトは再び縫い物をしていた。ツァイトは食事が必要ないために、2人が食事している時には縫い物をしたり編み物をしたり、他のことをしている。

 しかし、会話があればそれに混ざり、楽しい時を過ごしているのだ。


「ブルーメはツァイトの言いたいことが分かるんだな」

「だってもう5年も一緒だもん」

「それも、そうだったな」


 ツァイトが作られたのは5年前。ブルーメの3歳の誕生日だった。ケントニスが泉の水を発見した1年後ツァイトは生み出されたのだ。

 ツァイトに流れる泉の水。その水は“命の水”と呼ばれている。命の水はツァイトに流れ、彼に命を与えている。


「私もその泉見たかったなー。森の奥だっけ?」

「お前は生まれて間もなくだったからな。俺の背中で寝ていたよ。森の奥のきれいな場所だった」

「じゃあ、今度はちゃんとみる」

「そうだな、長生き出来ると良いな」


 暗闇に漏れる光とともに楽しげな声が丘に響いていた。

 その心地よさにツァイトは包まれた。





 ブルーメは学校へ行く。

 ツァイトは家で家事をしたり、読書したり。

 ケントニスは研究をしており、部屋にこもっている。


 それでも、顔を合わせれば笑いは絶えない。


 丘の上にある赤い屋根の家はいつでも明るい。




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