第七話 なんで問題を解くかって? そこに(略)とかいってみたいけど、ぶっちゃけ単位とるためだよ!
「ねえ、スー。あれは何?」
「あれはカケル君さ。掛け算の化身だね」
へーそうなんだ。
それにしても、このカケル君。以前戦ったプラマイコンビに比べれば、ずいぶんとかわいらしい外見をしている。
体長は50cmほどで、球体状のフォルム。そこから手足が生えている。丸い形がそのまま顔の輪郭のようになっていて、愛らしい目でこちらを見つめてくる。また、おでこに付いているバッテンマークこそが、カケル君が掛け算の化身であることを示しているのだろう。それ以外は、化身と言うより、どこぞのキャラクターにしか見えない。
「ずいぶん……小さいんだね」
再度スーに問うてみた。
「今の君には、武器があるからね。プラスンとマイナーも今の君が見ればこんな感じの姿になるはずだよ」
ふーん。としか言えない。だからどうしたという感想さえ覚える。
「で、カケル君とやらを倒すにはどうすればいいわけ?」
「とりあえず殴り続ければいいよ」
「……え?」
スーの物騒な言葉を聞き、狼狽えているカケル君。
――震えている体。うるうるとした目。思わず抱きしめたくなってくる。そんなカケル君を、私自身のエゴのために傷つけてもよいのだろうか。
人間は自らの生活を守るために戦ってきた。古代から現代まで、争いが途絶えたことはただの一度もない。最初期では、食欲を満たすために。続いて、生活の土壌を作るために。自らの主張を通すために。利権、領地を守るために。
様々な原因、主張、戦いの形があれど、その本質が変わることはない。
そして今、私は私自身との闘争を繰り広げている。
カケル君を倒すのか、否かの闘争だ。
まず第一に、私がカケル君を倒そうとするのは完全に私利私欲のためである。それにより私の願望は満たされるかもしれないが、カケル君はどうだろう? 私の美貌とカケル君の命、それははたして等価なのだろうか?
否、そんなはずはない。一人(今回は人ではないが)の命は時として地球より重いのだ。少なくとも今の私はそう言い切ることができる。
我々魔法少女は今まで間違った選択をしてきたのかもしれない。そう、これからは……。
そう思い立ち、私はカケル君へと近づいて行った。その歩幅は以前の私(男)よりも小さいかもしれないが、一歩一歩には決意と自身がこもっていた。
カケル君の前で立ち止まり、手を差し伸べる。この一歩は小さな一歩かもしれないが、魔法少女と数学化身にとっては大きな一歩である。
カケル君はしばし私の顔を見つめ、次に私の差し出した手へと視線を落とした。そしてゆっくりと動き出し……かみついた。
「痛っ!」
すかさずバックステップ。全力で逃げる。
「ばっかだなぁ。どんなに簡単そうな問題であっても油断したらいけないのに」
そういうつもりじゃ……、いいえ、ごもっともです。
「それで、どうすればよろしいでしょうか」
「とりあえず、今向かってきてるカケル君をよけて」
それって……って、とぁっほいっ。
情けない声。とことん自分が嫌になる。
熱烈なカケル君のアタックを華麗(自虐)によける。ああ、美しさは罪だ。
「よし、その隙にアタックだ」
響き渡るスーの声。よろしい、ならば戦闘だ。
体勢を崩しているカケル君に対して、一気に間合いを詰める。
「ごめん!」
そう言いつつも、しっかりと己の刃で敵を貫く。人間とはつくづく欲深い生き物だ。
しかし、カケル君もさるところで、直ぐに起き上りまた突進してくる。
それをよけては剣を振るい、またよけては斬撃し……。それをしばらく続けても倒せないとなれば文句の一つや二つ出てくる。
「ねえ、スー! これいつまで続ければいいの?」
「全部で81回攻撃すればいいよ」
……へ? マジで?
あいた口がなんとやら、とか考えてる労力も惜しいので省略。
カケル君を倒したころにはすっかり疲れ切っていた。ちなみに、正式な攻略法(初級編)は1の倍数を行動としたとき、2の倍数で攻撃、それ以外は避け動作をすることらしい。
「九九なんて結局はパターンの暗記と反復練習だからね」
と、スー。その笑顔はどこか狂気に満ちているように見えた。……これは私の独断と偏見によるものである。
「さて、次に行こうか」
「え?」
さっきからこれしか言えてない……というか、言わせてもらえてない気がする。
「次は割り算の化身、ワル子さんだよー」
ちょっとぐらい余韻に浸らせてよ! という間もなくまばゆい光が私を包み込んだ。
……ワル子さん戦は、疲れたので省略でお願いします。簡潔に言えば奇数で攻撃、偶数でよけてました。
本日の戦果:コンボボーナス(カケル君より)、攻撃上昇魔法(カケル君より)、コンボボーナス微増(ワル子さんより)、防御上昇魔法(ワル子さんより)。
サブタイトルにあるように、単位を取るため奮闘した結果、更新できませんでした。
長期休みって偉大だな。