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第四話 魔法少女の魔法少女による魔法少女のための魔法少女システム

 魔法少女システムとはずいぶん便利な物である。

 

 まず第一に、記憶の改ざんを行ってくれることだ。これは劇的、かつ衝撃的だった。昨日まで私を腫物のように扱っていた母は、今まで頼んでも作ってくれなかった弁当を用意してくれた。と言うより、そもそも入学当初から弁当を作っていたことになっていた。そして父は唐突に「お前は自慢の娘だ」と言ってきた。ああ、頼むから親父、鼻の下を伸ばさないでくれ。そして頭を撫でようとするな。


 第二に、魔法少女には何時如何なるときにもパートナーが付いているということだ。またこのパートナー、一般人にはおろか、同業者である魔法少女やそのパートナーにも姿が確認されることがない。また自分のパートナーに対しては任意でテレパシーを送ることもできる。


 第三に、魔法少女は外見のメンテナンスをほとんど必要としない。もちろん髪や爪は伸びるし、自分の好みに合うように調整する必要はある。しかし、人類の生活レベル、価値観の変化によって必要とされなくなった所謂ムダ毛は、そもそも生えてこないので剃る必要がない。女の子初心者には優しいサービスだ。また、魔法少女の美しさは見たものの心に直接作用するため、どんなに奇抜な恰好をしていても問題ないらしい。


 これらの手厚いサポートの下、魔法少女生活は円滑に営まれていく……はずであった。




 そう、まことに遺憾ながら私は現在ボッチなのである。




 登校と共に窓際の自席へと駆け込み、すかさず座る。そしてまだ見ぬ土地へと思いを馳せて、ただひたすらに窓の外を見る。これこそが長年にわたるボッチ生活の弊害である。


 すでに教室内には何人もの生徒がいるが、もちろん誰一人として私に話しかけようとはしない。外見が変わったことで少しは期待をしていたのだが……。


 はぁ、早く冬休みにでもならないだろうか。とそんなことを考えている私に対してスーは言った。

あっ、スーは人じゃないからノーカンで。


「新学期が始まってまだ二日目だろう? 何をそんなこと言ってるんだい?」


 ああ、いろいろ忙しくてすっかり忘れてた(笑)。ついでにまだ1年生だから、この苦しみがあと8学期分程続くのだということも……。


 はぁ、と再びため息が出る。ここで掛時計をチラリと見る。そうするといやでも目に入る転校生ちゃんの姿。またもやため息が出る。再現性高いなぁ。


 教室の隅で一人物憂げに窓の外を眺める私。片や教室の中心で皆と楽しげに談笑する転校生ちゃん。どちらも外見の美しさは同じ程度、きっと引き算を実行しても答えはほぼ0になると思う。となればどこに「差」があるのだろうか。


「社交性の差じゃないかな?」


 ああ、やっぱりそう思うよねー。


「だって君は自己紹介で名前しか言わない、誰にも話しかけない高飛車な美少女。一方転校生さんはとっつきやすく、誰にでも優しい美少女じゃないか」


 え? その辺はうまくシステムで変えてくれるんじゃないの? 確かに入学以来まともな会話を交わしたことないけどさ。


「無茶言わないでくれよ。変えるべき情報量が多すぎる」


 そんな話をスーとしている内に、朝のホームルーム開始のチャイムが鳴った。




 ――――あっという間に昼休みである。言うまでもなく、ここまで人との会話はゼロである。しかし、会話はなくとも、私に対する周りの接し方の変化は実感できた。魔法少女になる前は、周りは私のことを存在しないような「物」として扱っていたが、今は違う。どちらかというと遠慮に近いような感じである。


 そのことはカーテン一つとってみてもよくわかった。


 私は窓から外界を眺めるのが好きだ。そのため良く教室のカーテンを開けっぱなしにしている。以前ならば、日が高く昇ると眩しいと感じたものが勝手にそのカーテンを閉めたのだが(カーテン、もしくは窓は私の所有物ではないのでこの表現は妥当ではない)、今日の私の顔は太陽に照らされ続けている。


 また、この姿になってから絶えず視線を感じている……ような気がする。ゴリ男を筆頭とする男子はもとより、一部の女子からもそれを感じてしまうのだから困る。もちろん、男子と女子とではその意味合いが違う。まあ、絶対値を付けた大きさは同じようなものだろう。プラスとマイナス的な意味でね。


 ここで気になったのは、転校生ちゃんとよく目が合ったことだ。……いやいや、ストーカーじゃありませんよ。ただふと気が付いたら(私の視線ベクトル)=-(転校生ちゃんの視線ベクトル)てなっただけだから。


「だったら声をかければいいじゃないか」


 と、あきれたようにスーは言う。いや、それができれば今までボッチなんかしてないって。たぶん。


「今の君なら少なくとも男子に無視されることはないよ。ほら、さっきから君のことを熱心に見つめてる彼とかいいんじゃない? もしくは黒板の前にいる三人組とか」


「……美少女は男を選ぶ権利を持っているはずだ」


「君はそのつまらない権利プライドを以前から持っているのが問題なんだよ。っと、そんなことよりあそこを見てよ。転校生さんがこっち見てるよ」


 そのスーの言葉と同時に、私は第一宇宙速度より早く視線を動かす。あっ、ほんとだこっち見てる。


 そんな私の思いとは裏腹に、転校生ちゃんはこちらに背を向け、立ち上がった。そして何やら自分のカバンから取り出そうとしているようだ。


 思わずその姿に見入ってしまう。転校生ちゃんの動きに合わせて美しい黒髪が単振動する。


 しばらくすると探していたものが見つかったのだろうか。それを手に持ち移動を始める。ここでまた転校生ちゃんと目があった。そしてニコリと笑いかけてくる。思わずひきつる私の顔。まったく理解できない。


 やがて転校生ちゃんの視線方向単位ベクトルと移動方向単位ベクトルが一致する。思わず転校生ちゃんの顔から視線をそらす。そらした先には転校生ちゃんの手、そして転校生ちゃんが持っているものは……。


「ねぇ」


 転校生ちゃんが声をかけてきた。


「ひゃ、ひゃい」


 テンプレ通りの間抜けな返事。我ながら情けない。


「お弁当一緒に食べよ」


 転校生ちゃんの満面の笑み。そして澄んだ黒い瞳はしっかりと私を見据えていた。

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