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第二話 我うさぎ、故にうさみみあり。しかしなぜうさぎ?

「ねえ、スー。魔法少女について詳しく教えてくれる?」

 私とスー以外に何もない、ただ白いだけの世界の中で、私の声はこだました。


「もちろんさ。まず何から聞きたい?」


 ……聞きたいことは色々ある。疑問だけでこの世界を七色に彩ることができるほどには……。でも、それらを整理しないと、黒色へと帰してしまうところがおもしろい。なーんちゃって。まあ、まずは落ち着いて、一つ一つ聞いていこう。


「まず……ここはどこ?」

 地平の果てまで真っ白な、影さえ存在しないこの世界に対し疑問を抱くのは、リンゴから万有引力の流れよりも自然なことだと思う。


「OK。ここは虚数世界イマジナリー・ワールド、数学者たちの夢の跡、さ」

 なるほどなるほど……つまりどういうこと?

 小首をなす角θ=π/6[rad]程度かしげ、疑問の意を示す。

「簡単に言えば、ここは魔法少女たちの戦場になる。そしてこの世界の中で、君たちは己の女子力のみを頼りにして戦うのさ」


 ――女子力――優しい字面とは裏腹に、私にはその言葉が、何か荒々しく近づきがたい物のように感じられた。しかし、今日引っ越してきたあの子も、テレビでよく見るあの女優も、いつだったか町ですれ違ったあの美しい人も、みんなその女子力とやらを高め合っているのだと思うと、胸が熱くなる(笑)。


「女子力……私、やっていけるのかなぁ」

 ため息とともにでる弱音、無意識に身をすくめる。行動と共に次々と溢れ出てくる愛らしさは、抱擁欲を駆り立てる。この一挙一動が魔法少女の魔法少女たる所以ともいえるのだろうか。同じクラスのゴリ男君なら、これだけで完全に攻略されるだろう。


「心配することはない。君ほどの逸材はいまだかつて見たことがないからね」

 頭に浮かぶはハテナの文字。それらが等速円運動を始めたところで、スーがまた口を開く。


「まずは何といってもその醜い見た目。そんな外見にめげず、手鏡を持ち歩き、ひそかに効果の出ないスキンケアに取り組む姿勢。できることのない彼女を想定して磨いた料理スキルは、魔法少女となった今、男の胃袋を鷲掴みさ」


 ……私は今一体、どんな顔をしているのだろうか。怒り? 悲しみ? 驚き? 否、そのどれも違うような気がする。とある猫によりかき乱され、乱雑に放置された私の感情は行き場を無くし、呆然と立ち尽くす。唯一残された表情と言う出口には、現在夢の国張りの長蛇の列ができている。


 しかし、途方に暮れていたとき、私の耳元で経験がささやいてくる。「笑えばいいんだよ」と。そうだ、全ての色を混ぜた時に黒色となるのならば、全ての表情を混ぜた時には笑顔になるはずだ。暗い過去を持つものが自嘲気味に笑うように、腹黒い人間が笑顔のマスクで本性を隠すように。


 ここで示されたように、黒色と笑顔は有史以前より密接な関係を持ってきた。ただ私もその歴史をたどっていけばよいのだ。


「……それで、なんで魔法少女は戦わなくちゃいけないの?」

 満面の笑み、その輝きはLED以上だ。


「魔法少女は数学の化身を撃破することによってのみ、美しさを保つことができるんだ。つまり、君が魔法少女であり続けるには、負けることは許されない」


 魔法少女は美しさを燃料に、夢と希望を振りまく存在だからね。とスーは締めくくった。うまいことでも言ったつもりか?


「じゃあ次の質問。その魔法少女のシステムは何のために存在するの?」


 ここまですべての質問に対して即答してきたスーが、初めて考えるそぶりを見せた。


「……今その質問に答えることができないね。けど、その質問は人がなぜ生まれ、そして死ぬのかを問うこととさほど違いがないよ」

 

 ……つまりは答えが出せないということなのだろうか。それともお茶を濁しているだけ?

 私はスーが言葉をつなげることを期待していたが、しばらく様子を見てもその素振りを見せない。


 沈黙は金とでもいうつもりなのだろうか。虚数世界には静寂の二文字が蔓延し始め、次第にきまりが悪くなっていく。時は流れど空気は対流せず、されどスーはこの話題を水に流すつもりなのだろう。


 はぁ、はいはい負けましたよっと。


「……じゃあ最後の質問。あなたは何者?」


 話が詰まったときは、相手のことを聞けばよい。明らかにコミュ障の発想である。


「じゃあ改めて自己紹介するね。僕の名前はスー。今日から君の魔法少女生活をサポートしていくパートナーさ。一緒に頑張って、最強最麗の魔法少女を目指そう」


 先ほどとは打って変わって、スーは満面の笑みであった。……蛍光灯ぐらいには。

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