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第一話 戦闘経験が一定の時、魔法少女の戦闘力Pは女子力Jに比例する。

 あの猫から魔法少女になるとは聞いていた。しかし、耳としっぽのおまけが付くとは聞いていない。

 真っ白な世界の中で、手鏡片手に立ち尽くすうさみみ美少女とは俺の事である。なぜ手鏡を持っているかだって? 醜い顔の人間には、周りへの被害が最小限に済むようにする義務があるからさ。


 ここで唐突に、まさに次元の狭間と言うべきところから登場する猫。猫曰く「数学に対する深い理解があれば、これくらい容易いものさ」とのこと、済まないね俺は文系だ。


「どうだい? 君の新しい姿は」

 数学者気取りの猫は言う。この猫は常に無表情を保ってはいるが、言葉使いから俺を心底見下していることは理解できる。


 それはさておき、猫の言葉を受けて再度手鏡へと目を向ける。ああ、一言で言えば美しい。二言目はかわいいだろうか。語数制限をなくせば、綺麗で奥ゆかしく、儚げで、その上愛おしく、ついつい抱きしめたくなるも、あまりの美貌に……etc。これらを総括すると、俺のタイプである。個々のパーツを見るならば、目鼻立ちはくっきりと、それでいて愛らしさを忘れてはいない。また、銀色の光を放つ長い髪は、妖麗な深紅の目の輝きを引き立たせる。着ている服は何の変哲もない、俺の学校のセーラー服――いつの間に着替えたのかも分からないが――ながらも、どことなく上品ささえ感じる。

 しかし、冷静に考えればこれら全てが自惚れであることに気が付き、赤面した。


「気に入ったかい?」

 猫はまたも傲慢な口調でそう言う。

「ああ、最高だよ」

 不思議と言葉はすんなり出た。醜い外見と共に心の淀みは消え去り、今俺の中にいるのは新しい自分である。こんにちは、新しい私。ニューヒロインの爆誕である。

「とうぜんじゃないか。魔法少女の容姿は、元の人間の容姿に反比例するんだから」

 ……出てくる感情は、非常に複雑である。うまく言語化できない。おかえり、醜い俺。ニューヒロインは爆死した。

「……まあ、いいさ。で、ここで俺はなにをすればいいんだ?」

 当然の疑問である。

「それは追々説明するよ。あと、今後言葉使いには気を付けた方がいい、魔法少女の戦闘力は女子力に比例するからね」

 新事実判明、ペンギンが空を飛ぶレベルだ。

「さて、そろそろ時間だね。来るよ」

 へ? 来るって何が?


 その数瞬後の事、次元を切り裂く者ありけり。突如として現れた暗雲に混じりつつ、雷鳴を轟かせるその者の名を、名を……何て言うの?

「彼らの名は、プラスンとマイナー。足し算と引き算の化身さ。彼らはいつも一緒にいるんだ。君たち魔法少女の最初の敵にして最大の味方だよ」

 ああ、そうなの。確かによく見るとプラスとマイナスの記号を基調とした身体構成になっているようにも見える。いや、そんなのはどうでもいい。おい猫、じゃああいつはどう倒せばいいのさ、あいつら軽く十メートルはあるよ。あと味方ってどういうこと?


「……僕の名前はスーだよ、失礼しちゃうなぁ。まあとりあえず味方云々のところは後で話すよ。ポケットにおはじきが十個入っているだろう? それを彼らに投げつけてみてよ」

 すかさずポケットを確認する俺、もとい私。なるほど、確かに入ってる。プラスンとマイナー(以下プラマイ)までの距離はおよそ20メートル、私はおはじきを強く握りしめ、仰角45°でプラマイに向っておはじきを放り投げた。もちろん、その時に小さく「えい」と言うことを忘れてはいない。放り投げたおはじきは綺麗な放物線を描き見事プラマイに着弾。つまり初速度は……何キロ出ていたのだろうか。


 ただ、言われた通りおはじきを投げただけであるが、プラマイの体は崩壊を始めた。最初に野太いうなり声が、続いて身体を構成している最小単位であったプラスとマイナス記号へと分解され、やがては光の粒子のようなものへと変化をしていった。


 そんな光景の中、私はそっと胸に手を当ててみた。心拍数の上昇が感じられる。顔にも手を当ててみた。ああ、きっとこの笑みは前までの自分とは違う、自然で美しいやわらかな笑みなのだろう。手を、髪を、腕を、足を、そして顔を、私はそれらをなでるように触った。そして、自分の体を確かめるたびにその喜びをしっかりとかみしめた。もう二度と手放さないように。


 光の粒子は私を中心に回りだす。そんな情景を見てキレイだと呟く。当たり前のように見えて、今までの自分には出来なかったこと。ただ一人、星々に彩られた草原にたたずむ少女のように、私は再び胸に手を当てた。そして気が付く、あれ? これ貧乳だ。


「おめでとう。まあここで躓くとは思ってなかったけどね」

 相変わらず、棘のある言い方だった。だけどその言葉が気にならないくらい、私の胸は高鳴り、踊り、朗らかに歌っているようだった。過去の自分と決別できたことに対してか、はたまた目的を遂行したことに対してなのか、私の心中は言い知れない高揚感に支配されていた。


「さあ、これこそが味方になるということさ」

 その言葉と共に、光の粒子が私の体を包み込む。温かさ、やさしさに包まれ、それらが混濁し、またもや意識が飛びそうになる。しかし今回は、気を失うことがなかった。


「剣と……マント?」

 気が付くと私の右手にはしっかりと美しい剣が、また体は桜色のマントを纏っていた。


「君たち魔法少女は、数学の化身たちを打ち倒すことによって、新たな力を手に入れることができるんだ」

 セーラー服に、桜色のマント、そして片手に剣を携えている美しいバニーガール。はたから見ればちぐはぐな恰好だが、どこか心地よく感じる。


「初の魔法少女業務はどうだった?」

 スーが質問を投げかけてきた。

「うん、よかったよ。でも、敵はいつもあんなに弱いの?」

 小首をかしげる仕草は様になってきたと、我ながら思う。

「いや、そんなことはないよ。まず、プラスンとマイナーでさえ、おはじき無しに倒すのは非常に難しいんだ」

 当然だろ、というような顔をしてスーは言った。しかし、私が理解していないと見るや否や、溜め息でも付きたそうな声で言った。

「だって君は、足し算と引き算が成り立つことを証明できるのかい?」

 ……ああ、なるほど。そういう仕組みなのね。と私は妙に納得した。

ちなみに初期装備が粘土、もしくはパートナーが発明王だとその時点で詰みです。

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