五月晴れ
『五月晴れ』(広辞苑より)
一、五月雨の晴れ間。梅雨の晴れ間。
二、5月の空の晴れわたること。
この話では二の意味で使っております。
もうすぐ六月になる、五月晴れの日。オレはフラれた。かれこれ2年も付き合ってた彼女に。晴れ渡った空がオレの気持ちを察してくれる気配は無かった。
「好きな人が出来たの」
何て明快な理由だろう。オレはただポカンとすることしか出来なかった。彼女は悪びれもしない。オレに魅力がないのが悪いって言われてるみたいだ。これって只の被害妄想?
泣きたい。とにかく泣きたい。なのに泣けない。オレのなけなしのプライドが邪魔をする。人に見られたらどうするんだ!ああ、何て無駄なプライド。お前、今頃顔を出してどうするんだ。もっと他にタイミングがあっただろう?
空を眺める。いつもはしない。可哀相な男、を気取ってみたい。多分キマってないだろうけど。青い空が目に染みる。
「高田くん!」
二ヒヒ、と嫌味な笑いを伴って、同じ学科の眞鍋が声を掛ける。
「なに?」
「あれ?泣いてない」
キョトと不思議そうな顔をした。
「なんで?」
「だって春美にフラれたんでしょお?」
「……」
眞鍋は春美と仲が良い。というか、付き合うキッカケを作ってくれたのは彼女だった。
「告白した時に泣いてたから、別れた時も泣くんだと思ってさ」
「嫌な女」
眞鍋はそぉ?とまたニタリと笑った。そうだ、確かにオレは告白時に泣いた。勝手に涙が出たんだ。女々しいとは思う。だけど安心したんだ、嬉しかったんだ。仕方ない。
「泣く訳ないだろ、いい年した大の男が」
「そぉかなぁ?可愛いじゃん、おっきな体した人が泣いてんのって」
「変な趣味」
オレはバタリと倒れ込んだ。目の前には雲一つない、真っ青な空のみ。
「春美のこと、嫌いになった?」
「はあ?」
「だってフラれたんだもんねぇ」
「何が言いたい」
「いやね、フラれた人はどうやって立ち直るのかと思ってさ」
眞鍋もオレの隣に倒れる。二人して大の字になる。
「高田くんの場合、まず春美を嫌いになるのかなって」
オレは黙ってる。
「それで淋しくなって泣くのかなって」
「……」
「でもどうやら違ったみたい。高田くん、泣いてないんだもん」
「だって悔しいじゃんか」
ポソリとオレは小さく零した。眞鍋はチラリとこちらを見た。
「オレはまだ春美のことが好きなのに」
「……やっぱねぇ。高田くんが春美を諦められる訳ないし」
春美ってば幸せ者〜なんて言いながら、眞鍋は体を起こした。体は起こしたけれど、目は相変わらず空を見てる。暫く黙ったままだった。そして急に口を開いた。
「あ、そか。高田くんはこの五月晴れってのに慰められてるのよ」
「はぁ?何バカなこと言ってんだよ」
眞鍋はバッと空を指差した。そしてオレの方を向いてニヤリと笑った。
「空は泣かない。だから高田くんも泣かないのね」
「はぁ?意味わかんねぇよ」
「うん、私もわかんなーい!いいのいいの。気にしないで!」
眞鍋は立ち上がって、さっさと退散してしまった。半身起き上がったオレは、ただその後ろ姿を見ているしか出来なかった。
『高田くんはこの五月晴れってのに慰められてるのよ』
そうなのか?よく分からない。でも一つ、これだけは確かだ。
もし今日が梅雨の雨の中だったら、オレは絶対に泣いてただろう。
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