06 シスコン妹最強説
家に帰って見たのは、凄い形相で此方に走り寄ってくる母の姿だった。
「ただいま帰りました…どうしたの、母様」
「彩香さん、貴方、何故B制服を着ていらっしゃるの?」
はい?B制服?…制服のデザインはこれ一つのはずだけど。
…あれ、今有り得ない原作の記憶が頭の何所かで引っかかったような。
「貴方、男性のような振る舞いをしているというのに制服は一般女子が着るB制服とは何事ですか!きちんとA制服を着用なさい!」
「母様…それでは校則違反になりますが」
やっぱりぃぃ!と叫びだしたい気持ちを何とか抑えて、冷静に言った。そうだった、母さんは私の髪型が男性のするものだと思ってるんだ!や、それは間違ってないんだけど、スポーツをしてることとか婚約解消の件で私が言った事の所為で私が男のように振舞うものだと勘違いしてるんだった。
別にそれは構いやしないんだけど、入学早々変わり者扱いされに行ってるのに男装なんかしてたらもっと変人に思われるじゃんか。
って違う違う、そもそも女子生徒は女子の制服を着るものであって…あれ、私生徒手帳暗記したけど…制服の着こなしは…いやいや考えるのは止めよう。
「あら、知りませんでしたの?制服はAとBがあるだけで男子制服、女子制服といった決まりはありません。中等部の春山家の双子も性別と逆の制服を着ておりますし」
知ってた!それは知ってた!でも抵抗ぐらいしたいだろうよ普通さあ!!
別に男装癖なんて無いし。中学でも女子制服着てました。ブレザーだったからズボンかスカートの違いだけだけど。
「貴方もそうするべきでしょう、そもそもB制服は彩香さんには似あっていません」
「…しかし家にA制服はありませんよ」
「注文致しました。そして屋敷にあるB制服は処分しました」
ちょっとぉぉぉ!突飛過ぎるでしょ!勘違いが激しいとは言えこれはちょっと過ぎません!?
つまり、私が着てるこれが最後ってことでしょ。寝てる間にどうせ処分するだろうし…えぇ…何それ…。
「…はぁ…。分かりました、明日からA制服を着て参ります」
「それでよろしいのです」
諦めるしか…無い…の、か…。
今までの経験上仕方ないとは分かっているものの、明日から変人扱いかと思うと泣けてくる。男子制服を思い浮かべて似合わない自分は全く想像できないけども。
部屋に戻ると一言告げ、自室に上がった。母さんと話すと凄く疲れるんだよなぁ…。
華季の制服は、現在超人気デザイナーによってデザインされた生地も高級の最高級のものだ。
女子制服は可愛らしく、それで居て淑やかさを忘れない絶妙なスカートの丈、赤にカラフルなチェックが入った柄。男子制服のズボンはエメラルドグリーンがベースのこれまた控えめなチェック柄。ブレザーはもさいと言われがちのずんぐりとしたものでなくスラリと美しく、胸に刺さった校章のバッジもどこか高貴さを窺わせる。代わりにベストの着用も可。
ネクタイ、リボンは好きに選べて、色もデザインも様々。勿論着崩すのもオーケー。
…前評判で着こなし方によっては様々な楽しみ方が出来ることは知っていた。
制服にも色々と付属品があるので、ちょっとした違いでもイメージがぐんと変わる。…付属品は必須では無いのだが…部屋のクローゼットを開けると全てが揃っているというのも…なんだか悲しい。
母は私に何を期待してるというのか…。
がっくりと項垂れた私は立ち直る間もなく。
こんこん、と部屋がノックされた。どうぞ、と声を掛けるとひょこん、と顔を出すのは妹。
「お姉様…わたくし、お母様との会話を立ち聞きしてしまったの。ゴメンなさい」
「え?ああ、うん…全然構わないよ」
偉いね、と頭を撫でてあげる。妹の名前は怜悧。その名の通り賢い子なのだが、意外と天然なところもあったりする。
良かったと顔を緩める怜悧は凄く可愛い。けど、他に用があるのか部屋から出て行こうとしない。
「お願いがあるのだけど…聞いてくれる?」
秘儀、上目遣い!「私に聞けることなら良いよ。何をして欲しいの?」
「あのね…お姉様の制服のコーディネートをさせて欲しいの。…駄目?」
うん?それは勿論良いけども…何故に?
というのはとりあえず置いといて、怜悧はセンスがあることは確かなのでお願いする。模範のままで行くつもりだったんだけど。
私の答えにぱぁっと顔を輝かせて私のクローゼットから制服を漁る。よく分からないけど…ま、いいか。
一心不乱に一生懸命に私の(男子用)制服と睨めっこする姿はいじらしくも可愛らしいんだけど。
「これにあわせるなら…いや、此方のピンも捨てがたいわね…あら、これはあいそうよ」
ぶつぶつと何かを呟きながら作業する姿は、実の妹といえど、うん、不気味だった。
そして出来たのは…うん、なんて言えばいいのかな。流石怜悧、か…?私もそんな着方は思いつかないよ。
なんというか、着崩してるわけでは無いし、模範から大きくかけ離れてるわけでもない。ジャラジャラと小物をつけてるわけでもない。なのに…何なんだろうね、この、王子様っぽい雰囲気漂う制服コーデ。
趣味はけして悪くない。んだけど。あれかな、昔からお姫様願望があったのは知ってたけど…私に王子様を重ねてたとは思わなかった。
キラキラとした瞳で見つめてくる怜悧。私はこう言うしかなかった。
「有難う。明日からこの組み合わせで学校に行くね、」
…今日だけでどっと疲れた気がするのは、学校という環境が変わったことだけでは、絶対に無いだろう。
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修正 B制服→A制服