04 女の子は怖いもの
リンゴンとチャイムが鳴る。その少し前に髪の毛を後ろで纏めた女の人が入ってきていた。
私たちを入学式の時に引率した先生とは別の人。担任が引率するわけでもないのかな。
若い女の人で、どう上に見積もっても三十は行かないと思う。化粧気もあまり無い。信用できるのは知っているけど、なんとなく身構えてしまうのはさっきの会話の所為だ。多分恐らく絶対。人間不信ってわけでは無いんだけどなぁ…。
顔は…なんだろ、頼れる姉御な感じ。愛美さんとは違うお姉さまな雰囲気。緊張もしていないようで、寧ろ何所か気だるげな風さえする。
「初めましてー、入学おめでとう。一年三組の担任を務めることになった杉浦さとみ(すぎうらさとみ)です。高校生というひとつの大きな節目に貴方達は今この瞬間、立ちました。きちんと節度を持って行動するように。特に内部組と外部組どうしで争ったりすんな。面倒だから」
正直に言おう、絶対最後の二つはいらなかった。
気まずそうに俯く生徒がちらほら見える。無視する気満々かお前ら。幾ら価値観が合わないからってクラスで分断しちゃ貴重な青春が台無しじゃないか。ぜってーいつか後悔すっぞ。
と思ったけど殊勝に聞いてる振り。まあ、毎年のことなんだろうし慣れてるでしょ、この感じから言ったら。
「小学生じゃないんだからと言いたいところだが…ま、しゃーないわな。恒例の自己紹介を始める。出席番号一番から始めろ」
そうさな、名前とこの学校での目標が必須で、後は自由に自己紹介してくれ。
そう言って見学体制に入った先生を見て、溜息が出そうになった。
この先生、姉御って例えたけど、それが本当にぴったりと合う先生なんだ。サバサバとした喋り方で、問題が起こったら愚痴は言うけどきちんと対処はしてくれる。一見突き放すような言動だが、生徒が本当に困っていたら手も差し伸べる。
だから慕われる先生なのだ。うん、主人公と同じクラスになったのはラッキーだった。この先生はマジで「当たり」だから。
なんとなく聞き流していると、大体の人数比は掴めてきた。男子はアバウトに言えば四分の三は持ち上がり、残りが外部受験てところか。
やっぱり外部の人たちの男子はスポーツ推薦が多いみたい。サッカー二人、野球と柔道、バスケが一人ずつ。バスケの人はチェック。うん、爽やか系スポーツ男子だな。
女子は全員覚えるつもりで聞くつもりだったので、男子の終わりが近づいて来た時に少し姿勢を正した。元々崩してたわけじゃないんだけどね。気分的な問題。女の子って可愛いよ。味方につけておくべきだと思う。
直ぐに私の番が来るから、つかみだけはがっちりするべき!と気合を入れてみる。
女の子に好かれそうなキャラってどんな…うん、明るめで良いかな。
「初めまして!秋森彩香です。バスケが好きなので、名門校の華季に入りました。当面はレギュラーを目指すことになる…のかな?外部より受験してきたので、知り合いの人は居ないんですが沢山話しかけてくれると嬉しいです!」
爽やか系笑顔で締めくくった。
あ、どうでもいいけど、私の見かけは原作とは少し違っている。面倒だから化粧してないし、バスケに邪魔ということで胸も二周りくらい本来より小さい。親がショートヘア、イコール、メンズヘアみたいに勘違いして初めに馴染みの美容師さんに頼んだ所為でいっつも流行のメンズスタイル。
化粧してなかったら軽いつり目の影響かどうかは知らないけど、元がいいことは確かなので中性的に見える。中学校の時にはジュリーズ(男性アイドル事務所)みたいだって言われたこともある。
…つまり、下手な二枚目よりもイケメンだってことだ。背も高いしね。
こんな感じで女の子が話しかけてくれればいいけど。一応「秋森」だし持ち上がり組は興味を抱いてくれるかな。外部の子達はどうだろ?
ま、とりあえずは名前を覚えなくては。女の子は自尊心が高い子が多いからなぁ…特に上流階級の子なら。
原作の「私」も自尊心の塊みたいなもんだったし。それはそうとして、と。
人数比は男子と同等程度、推薦?なのかは知らないけども吹奏楽や合唱と文化系で入ってきた人メイン。一人だけ陸上の子が居た。
後はお金持ちの子達、持ち上がりは「家」を大切にするから苗字とどういう家なのか頭の中で照合させておかなければ。
四家に関係のある子が愛美さん含め二人、それ以外の割と伝統的な御家出身が九人、言い方は悪いけど最近成り上がって来た所が二人。
伝統的なところはある意味マイナー、てことでももあるんだよなぁ…四大家が目立ちすぎて。逆に成り上がりの子の方がプライドは高かったりする。チェックチェック、そういうとこは野心があるからちょっと注意。
外部の子はみんなしっかりしてそうだ。吹奏楽の子たち二人はアイドル好きそう。合唱二人組は片方は大人しめ、もう一方ははきはきタイプ…かな。
陸上ちゃんはそうだね、不思議っ子元気系と見た。
よしよし、覚えたもんね。
「おーし全員終わったな。配布物を渡すぞ」
シラバスや色々渡されてざっと目を通した。
イベント…いっぱいあるなぁ。流石少女漫画の世界。ちょっとわくわくしてきちゃった。
「じゃ、今日はこれで終わりだ。このまま残って友達作りしてもいいし、さっさと帰っても良いぞ」
立礼して、教室から出る人をなんとなーく眺めてた。私?女の子たちの視線が怖くて動けませんよ、嘘だけど。
おお、意外と残ったなぁ。今日はとりあえずお金持ち系女子のお相手をすることになりそうだ。
風音ちゃん残ってる、待っててくれてるのかな。でも私は友達百人作るのが目標だから、きりっ。なんちゃって。
帰って良いよという風に笑いかけて女の子たちに振り返った。
はは、第一関門ってやつですね、わかります。