02 入学式、ヒロイン
100PV、ありがとうございます。
入学式は滞りなく進んだ。
クラスは夏川とは離れ、主人公ちゃんとは一緒になった。…あれ、こんなのストーリーにはなかったぞ?
あ、そっか、私は外部受験者だから持ち上がり組である筈の原作とは違うんだ。
主人公ちゃんも新入生代表を断ったらしく、その次点の夏川或夜が挨拶の場に立った。
それは漫画でもあったシーンで、よく覚えている。…桜をバックにしていたけれど、入学式は講堂で行われるから当然そんなものは見えなかった。あれは主人公フィルターというものか。成る程、覚えておこう。
入学式の会場である講堂は式が終わると親の社交場となる。つまりは挨拶回り。
四大家の子息にパイプを作っておくのは上流階級なら当然のことだ。他の三家は持ち上がりだけど、今回は残りの秋森…つまりうちの家もとうとう来るということで、多分とっても気合が入っていることだろう。ま、私はそ知らぬふりをしますけど。
妹をカモフラージュに使う姉は最低ですかね?なんて。だって妹はザ、良家のご令嬢!って雰囲気だし、上手いことやってくれてるだろう。因みに彼女は今年で中等部に入りましたよっと。
私も秋森の姓を持つからには家に泥を塗ってはいけない。これでも長女なもんで、帝王学的なのは学んだし、幼い頃からの英才教育だって受けてる。心の中だからこそ軽い気持ちで居られるけど、表向きはちゃんとする。直系長子という雰囲気は絶対に出してやらないけどね。
分家の子って思わせる、と決めてるんだ。家の所為で特別扱いなんて絶対ヤだから。
けど、色々な理由でこの学校に居る間は「ものすごく優秀」で居なければならないから疲れる。前世じゃ知らなかった、お金持ちの大変さ。
入学式が終わって、生徒全員が教室に入ってから小休憩。この時間で友好関係を作る、というわけだ。
小休憩といっても時間は長く、およそ一時間。私以外の四家の人たちは真面目にお坊ちゃんお嬢様してるから今頃講堂で挨拶ラッシュを受けてることだろう。
さて、私は何をしようか。あ、主人公ちゃんがこの小休憩の意味が分からなくてあたふたしてる。
可愛いなー愛でたいなー。小動物っぽい。これで頭めっちゃ良いんだもんなぁ。世の中って不思議。私が言えた事でもないか。
でも、ちょーっと可哀想だし、教えてあげようかな。
「ね、もしかして外部受験生の人かな?」
「ふぇっ…!?は、はい…持ち上がりの方ですか?」
あーそっか、この話しかけ方じゃ確かに持ち上がりだ。
嘘をつく必要も無いし、適当に誤魔化しながら説明しとこ。
「いや、私も外部だよ。ただ、この学校には持ち上がりの知り合いが居るからちょっと知ってる程度」
「そうなんですかぁ…よかった、他に知り合い居なくて…」
「ま、華季って名門だしね。私は秋森彩香。貴方は?」
小さい声で返ってくる名前に、やっぱり可愛いなぁー、ときゅんきゅんする。
おずおずとこの学校のことを聞いてくる姿は…うん、アイツが惚れるのも分かる気がする。
元々教えるつもりだったし、簡潔に話すとそんなこともあるんですね、と妙に納得してた。うん、ところでさ。
「敬語、止めてほしいなぁ…なんて」
「え、でも…「いいからいいから!」うう、はい、じゃなくって、うん…」
可愛い子に距離作られるのは悲しいからね!なんて思ってみたり。教室に他に人が居なくて良かった。何処の百合だって言われる。
良いんだよ、ホモよかマシ。むさいだけよりは華があったほうが良いじゃんかねー?他の外部組はあれだろ、友達つくりに行ったんだろ、多分。
乗り遅れちゃったな…、ま、いっか。可愛い友達出来たし。主人公、ゲット!なんちゃって。
なんて考えてたら、少し不安そうに彼女が私を見上げている。あ、ちょっと大分罪悪感。
背の小さい(150cmくらい?)の彼女に対して、私は割りと背が高くて、165は越してたと思う。つまり…上目遣いです、本当に有難う御座いました。
…はっ、一瞬トリップしてた。
「あの…彩香ちゃんって呼んでも良いかな…?」
「…(ぐはっ!なんて可愛いんだ…!)勿論!ね、呼び捨てで呼んでも良い?」
「うん!」
やばい、マジで悩殺級だ。
どうしよ、もしかしたらあの俺様との恋路邪魔しちゃうかもってくらいなんですけど。主人公ちゃん、可愛過ぎ。
鼻を抑えながら顔を逸らす私は、間違いなく怪しかったと思う。
「そういえば、風音は《何》で入ってきたの?学費免除は受けてる…んだよね」
「受けてるよ。そんなに家はお金持ちじゃないの。何って言われても、ううん…私より上の人は居るから、誇れることじゃないんだけどね、勉強が得意なんだ」
「もしかして、新入生代表を蹴った次点の人だったり…」
照れくさそうに頷く。知ってたけど、でもやっぱり実際に聞くと衝撃が違うなぁ…。なんか、本当にこの世界に居るんだって思ってしまう。
凄いね、と本心から言った。私の場合は只のチートだけど、彼女は本当に努力して結果を出しているんだ。すごいよ。思わず零れ出た言葉は彼女には聞こえなかったみたいだ。顔を紅くさせてほっぺを掻いている。
「そういう彩香ちゃんは…?」
「私?華季ってバスケの名門なんだ。バスケだけじゃなくてスポーツ全般だけど。でもスポーツ推薦で入ったら怪我したら終わりだと思って、一応普通入試で入った。だから学費免除じゃないよ」
「バスケットボール…得意なの?」
得意じゃなかったら入らないかな。なんて言って笑った。
基本スペックは飛びぬけてるけど、スポーツは「常人より上」に行けるだけで、付け焼刃じゃ「ホンモノ」には勝てない。私はそれになれる才能だってあるんだから、努力してみたい。
ということは言えないけど、中学で華季の中等部と対戦して、あの中でチームの一員としてハイレベルなゲームをしてみたくなったんだ、と少し語ってしまった。
きっかけはバスケ漫画だったけれど、今では立派なバスケ馬鹿だ。
そんなことを話してたら、あっという間に時間が過ぎていった。
語彙説明
推薦
・学力推薦、文化推薦、スポーツ推薦の三つ。言うまでも無くこれを受けることが出来るのは「超高校級」。