勇者の憂鬱
―――またか……。
人生最良の日ともいわれる結婚式の最中にありながら勇者ことレミルドには悩みがあった。
それは聖女であり本日をもって我が愛しの妻となった美鈴についてだ。
より正確に言うならば、美鈴とその元護衛の桐の関係についてのことだ。
―――あの2人は仲が良すぎる!!
今も美鈴はレミルドの方に移動しながら桐の腕に抱き付いている。―――オレもまだしてもらったことないのに・・。
美鈴が確かにレミルドのことを愛してくれていることはわかっている、しかし、レミルドと桐を天秤に掛けたらどちらに傾くかははっきりいってわからない。
桐のことを優先させることの方が正直多いだろう。今のように……。
しかし、レミルドもそんな2人の絆にただ嫉妬しているのではない。
2人の事情はレミルドも知ってはいる。いきなり知らない世界に送られて、魔王復活のため治安が悪くなってしまったこの世界を2人だけで生き延びてきたのだ。
聞けば、この2人とレミルドたちが行動を共にするようになったのは2人がこの世界に来て2年半が過ぎたころだという。
そんな2人の絆が強いのは当たり前なのだが、この2人の場合どこか危うさも感じるのだ。
美鈴の桐に対する信頼感、桐の美鈴に対する庇護。
お互いを慈しむことは尊いものだが、どこかうすら寒いものもある。絆というより執着と呼んだ方がいいのではないかと危惧しそうになるのだ。
桐はそのことに気付いているから美鈴から離れようとしているのかもしれない。
だから桐から美鈴に気付かれないように旅立つ手助けをしてほしいと言われた時に協力したのだ。たとえ、自分が協力したことによって美鈴に責められたとしても。
なにも嫉妬だけで桐と美鈴を引き離したいわけではない。桐も一緒に窮地を切り抜けた仲間なのだからこれからの道行が明るいことを願っている。
そんなことを考えて少しぼんやりしていたレミルドの耳にふと周りにいた女性参加者の会話が入って来る。
「………ねえ、やはり勇者さまより護衛のかたのほうが聖女様とお似合いだと思わない?」
「………わかるわ!!あの少し憂いを帯びた瞳が素敵よね!!」
………………別に嫉妬しているだけではないんだっっ!
レミルドの心の中の叫びは誰にも届かなかったのは幸いなのかもしれない。
実は苦労の人な勇者さん。
しかし、美玲さんが気づいており、桐さんが気づいてないということはわかっていない残念な方でもある。彼にとっては美玲は守るべき人だからです。
ちなみに世間の乙女の間では聖女がどちらを選ぶのかというので話題になっていたとかいないとか(笑)