聖女の心配
そんな聖女の元護衛の考えを知らない聖女こと美鈴はその元護衛を探していた。
勇者はかつてのパーティのメンバーと談笑していたが、その中に自分の元護衛(もっとも美鈴は護衛だなどとは思っていなかったのだが)の姿がなかったからだ。
「きーちゃ~ん、どこ~?きぃ~ちゃ~ん……」
しかし、この場のメインであり聖女でもある美鈴がフラフラと元護衛の名前を呼びながら会場を彷徨う姿ははっきり言って異様なものだったのだ。
しかし、美鈴はやっかいなことに自分がしたいことがある時はそれ以外のものが目に入らない性格でもあったので、周りの困惑など全く気にしていなかった。
そんな美鈴の暴走を止めるのもきーちゃんこと木崎桐の役目だった。
「ここにいるだろう」
後ろから姿を現した桐の姿を見つけるなり美鈴はパッと笑顔になりそのまま桐に抱き付いた。
「きーちゃん!探したんだからねっ!」
「分かったから離れろ。せっかくのウエディングドレスにシワが寄るぞ」
美鈴を抱きとめながら諌める。
こんなことを気軽にするから自分が美鈴の恋人だと勇者に勘違いされたのをコイツは忘れたのか?
実際パーティの仲間と談笑しながらも自分の花嫁から目を離さなかった勇者は桐のことをにらんでいる。自分と美鈴はそのような関係にないといくら言っても勇者は桐と美鈴が過剰に接触するのを嫌がるのだ。
勇者の独占欲が強いのも問題なのだが……。
「美鈴。おまえはもうレミルドの妻なんだから、もう少し節度を持たないとレミルドを心配させてしまうだろう?」
勇者ことレミルドは、いつもこのように奔放な美鈴の行動に、いろんな意味で振り回されている。桐のように美鈴の手綱を握れるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「だって桐のことほうっておくとどこかへ行ってしまいそうなんだもの」
と言って膨れる美鈴のその言葉に桐はギクリとする。その美鈴の心配は当たっている。
今の状態だと自分が居てはレミルドの気苦労が消えないのでしばらくの間、美鈴のそばを離れて旅でもしてみようと思っていたのだ。
美鈴はいつも変な所で勘がいい。旅のことがばれたら美鈴は確実に自分を引き留めようとするのはわかっていたので美鈴にはばれないように気を使って旅の準備などはかなりコッソリ行っていたのに……。
いや、確信がある訳ではないのだろうが。
それに旅に出るのは何も美鈴から距離を置くためだけではない。魔王を倒すための旅もかなり忙しないものだったので、この世界をもっと自分の目で見て回りたかったのもある。
「美鈴、とりあえず少し離れて。一緒に行くからレミルドのところに戻ろう。結婚式なのだから新婦は新郎と一緒にいた方がいい」
そろそろレミルドは我慢ができなくなってくるころだろうから。という言葉は心の中に留めておくことにした。
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移動しながら美鈴は自分の心配が当たっていたこと確信していた。
桐は自覚がないがかなり分かり易いのだ。さっきの言葉にギクリとしたことぐらい美鈴は気が付いてる。
最近桐が何かを自分にばれないように何かしらの準備をしていたことも把握している。
何年一緒にいると思っているのだ。
ーーーどうせ私とレミルドの邪魔になってしまうとでも思っているんでしょうけど……。
美鈴がそんな桐の様子に気づいていたにも関わらずそのことを言わなかったのは、桐を自分から解放しなければならないと思ったからだ。
私がいたら桐は私のことを守ることばかりを気にして自分のことを後回しにしてしまうから。
―――桐には絶対に幸せになってほしいのだ。今まで私のことを守ってくれた分だけ。
自分が近づいてくるのに気が付いて微笑みかけてくるレミルドを見て思う。幸せだと。
―――今の私の幸せは桐のおかげであるのだから。
やっと主人公と勇者の名前が出せました(苦笑
誤字脱字がありましたらどしどしご指摘おねがいしますm(_ _)m