聖女の結婚
少し改編しました。
さて、今日からどうすればいいのだろう?
目の前の聖女と勇者の結婚式を眺めながら自分はそんなことを考える。
勇者が魔王を倒してからの1年間はこの日のためにあったと言っても過言ではないと思いながらも途方に暮れていた。
勇者と目が合うたび微笑み、頬を染める聖女の様子は見ているこちらも幸せにしてくれる。こんな風に幸せそうな様子を見るところまで守り抜けた自分を誇らしく思える。
自分は勇者と出会い行動を共にするようになるまで聖女を守っていた聖女の護衛なのだ。
自分と聖女はこの世界の人間ではない。2人で高校から帰る途中に起きた自動車事故に巻き込まれ、気付いたら見知らぬ森の中にいた。
聖女こと森谷美鈴はイギリス人と日本人のハーフで儚げな雰囲気を持つ美少女だ。おっとりとしていて癒し系ないかにも守ってあげたくなるようなタイプの。
そんな彼女は魔王復活で荒れていたこの世界ではひどく無力な存在だった。実際、自分がいなければ今ここに彼女はいなかっただろう。
もっとも自分にとって美鈴は同じ施設で育った家族なのだから美鈴を守ることは当たり前のことだったのだけど。
そんな美鈴がなぜ聖女という戦いに関わる役目を背負うことになったのかというと、彼女にはこの世界にトリップした時に癒しの能力を手に入れたからなのだ。
美鈴の癒しの能力はこの世界の癒しの能力者たちに比べて格段に強いものだった。
その能力を聞きつけた勇者御一行が美鈴をパーティに誘ったのだ。自分は美鈴に危険が及ぶ可能性が高いからパーティに入ることを反対した、自分も美鈴と同じように能力を手に入れていたけど、自分の力じゃ魔王討伐という過酷な戦いの中で美鈴を守り抜ける自信がなかったのだ。
しかし旅の途中で苦しめられている人々を見てきた美鈴は自分の意見を聞かずパーティに入ることを決めてしまったのだ。
そんな訳で、勇者のパーティと魔王討伐の旅に出た訳だが、その中で勇者は美鈴に惚れてしまった。傍から見ていても解りやすいほどのベタ惚れだった。
美鈴も世界のために必死で戦い、そんな戦いの中でも優しさを忘れない勇者に惹かれていくの様子は、いつも一緒にいた自分にはわかりやすいものだった。
なのにいつまでたってもくっつかない2人にパーティのメンバーはじれったく思ったものだ。
そんな2人がようやくゴールを迎えようとしている。
美鈴の家族として、勇者の友人として、2人の結婚は祝福してるし嬉しい。
でも、そんな思いと共にどうしようもない寂しさも心の奥に存在している。なぜなら、これからは美鈴を守るという役目は勇者に譲らなければならないから。
美鈴を守るという目的を失くしてしまった自分はこれから何をして生きていけばいいか分からなくなってしまった。
自分がいなければこの世界で生きていけなかっただろう美鈴だけど、自分は美鈴がいなければ…………。
どう生きていけばいいのか分からない。
まだ主人公と勇者の名前が出てきていない件……。