1・ガイロニアの英雄
セドリア大陸の北にあるガイロニア帝国国境――
「ここの拠点はもう持たない。お前らはドルグ帝を守りながら都まで撤退しろ…時間は俺が稼いでやる」
前線に築かれた仮拠点に冬の冷たい風が吹き抜ける。昨晩灯っていた火も灰になり、掲げられていた国旗も外されている。
「アレック隊長。お一人ではあの3万の軍勢は相手にできませんぞ。せめて、千人はサポートとして…」
仮拠点に集合した、たった5000あまりの兵たち。みんなの視線が私に向いていた。
「忘れたのか。私は大陸有数の魔術師、アレック・スクリオだぞ。それよりも、前線までついてきた馬鹿な皇帝を、ちゃんと首都まで送り届けてくれ」
もう、敵はそこまで来ているだろう。単純に逃げるだけではすぐに追いつかれてしまう。
「馬鹿だと! まぁいい、アレックの言う通り、ここはもう持たない。悔しいがここは一旦撤退して戦力を整えよう」
ドルグ帝には、昨日の時点で反対されたがほとんど強引にこの役を受け持った。
いままともに戦ったら確実に全滅だろう。口では偉そうに行ったみたが…逃がすのが精一杯、撃退は厳しいな。
サッと私が踵を返したのを見ると、ドルグ帝は兵たちに号令をかけて迅速に撤退していった。
ふぅ、これで兵たちに醜態を晒さなくてすむな。敵は3万…こんな量をまとめて敵に回すのは初めてだから、なにがあってもおかしくない。
使用者がいなくなり閑散とし仮拠点に、一人で佇む私は腰に控えた剣を抜く。
剣を持つ手に力を込める。魔術師だからといって魔術が全てではない。
ポツッと顔に雨が当たる。すると、彼方に一人二人と敵が現れ、あっというまに豪雨になった平原を、埋め尽くすほどの大群が見えてきた。
「‥‥‥いくらでも来い。ガイロニア帝国存亡のため、なにより古くからの友人のため、私が全員相手してやろう」
ダンッ! っと土を蹴る音とともに、私は3万の軍勢へと突入した。
初めましての人は初めまして。
今回は、シューツドル英雄伝という話を書かせていただきました。
完全にオリジナルな世界観ですので、わかりにくいところがあれば教えてください。
次回からは、文字数も増やして、一ヶ月ペースで出せたら良いなと考えています。