第8話 英雄
魔族ゼルグを倒したあと、森はしばらく静まり返っていた。
冒険者たちはまだ動けない。
誰もが倒れている魔族を見つめている。
最初に声を出したのはカイルだった。
彼はゆっくり立ち上がり、俺を見る。
「信じられない……魔族を一撃で」
俺は頭をかいた。
「いや、一撃というか相手を弱くしただけですけどね」
カイルは真剣な顔で言う。
「それが出来ること自体が異常だ」
エリシア王女がこちらへ歩いてくる。
そして優しく微笑んだ。
「レオン。あなたのおかげで全員助かりました。本当にありがとう」
俺は少し照れる。
「いやー、雇い主を守るのは当然というか」
王女はくすっと笑った。
「それでもです」
そのとき、周囲の冒険者がざわめき始めた。
「おい……」
「こいつが魔族倒したんだよな?」
「さっきまでステータス最弱だった奴だろ?」
一人の冒険者が近づいてくる。
そして俺をまじまじと見る。
「なあ兄ちゃん。名前なんて言うんだ?」
俺は答える。
「レオンです」
冒険者は驚いた顔をした。
「レオンか……覚えたぞ」
周りからも声が上がる。
「最弱の英雄だな」
「面白い奴が出てきた」
「王都が騒ぐぞこれは」
俺は苦笑する。
「英雄って言われても困るんですけど」
王女は静かに言う。
「いいえ」
そして周囲の冒険者を見回した。
「今日ここで魔族を倒したのはレオンです。これは王国にとって大きな功績になります」
空気が変わる。
冒険者たちは真面目な顔になる。
カイルも頷いた。
「王女の言う通りだ。この男は王国の英雄だ」
俺は思わず言った。
「いやいや話が大きくなりすぎてません?」
しかし誰も笑わない。
王女が続ける。
「王都に戻りましょう。王にも報告が必要です」
俺は目を丸くする。
「王様?」
「ええ」
王女はさらっと言う。
「あなたは王に謁見することになります」
俺は空を見上げた。
「……いや今日情報量多すぎません?」
冒険者たちが笑う。
こうして俺たちは王都へ戻った。
そして翌日。
王都は大騒ぎになっていた。
ギルドの前には人だかり。
「魔族討伐の英雄!」
「最弱ステータスの冒険者!」
「王女の護衛!」
全部俺のことだった。
俺は頭を抱える。
「なんでこうなるんだ……」
そのとき、ギルドの扉が開いた。
中から豪華な服を着た男が出てくる。
いかにも貴族って感じだ。
男は俺を見るなり鼻で笑った。
「ほう。貴様が噂の奴隷か」
周囲がざわつく。
男は続ける。
「王族に取り入って英雄気取りとは笑わせる」
俺はため息をついた。
「また面倒な人来たなぁ」
男は怒った顔になる。
「口の利き方に気をつけろ」
そして言い放った。
「奴隷ごときが王国の英雄など認められるはずがない」
空気が冷たくなる。
俺は少し考えた。
そして言う。
「まあ気持ちは分かりますよ」
貴族は少し驚いた顔をする。
俺は続けた。
「俺も自分が英雄とか思ってないですし」
貴族は勝ち誇った笑みを浮かべる。
しかし俺は肩をすくめた。
「ただ一つだけ言うなら」
周囲の冒険者が静かに見守る。
俺は笑った。
「魔族倒したの、俺なんですよね」
貴族の顔が歪んだ。
そして低い声で言う。
「ならば証明してみろ」
俺は首をかしげる。
「証明?」
貴族は言った。
「三日後、王都闘技場で決闘だ」
ギルドがざわめく。
「闘技場!?」
「マジかよ」
俺は聞き返す。
「ちなみに相手は?」
貴族はニヤリと笑った。
「王国最強の剣士だ」
周囲が一斉に騒ぎ出す。
「終わったな……」
「さすがに無理だ」
俺は天井を見上げた。
「いやほんとイベント多いなこの世界」
こうして。
俺は――
王国最強と戦うことになった。




