第7話 魔族
倒れたワイバーンの体が黒い光に包まれていく。
森の空気が一気に重くなった。
カイルが剣を構える。
「全員警戒しろ。これは普通の魔物ではない」
エリシア王女の表情も真剣だった。
「魔族の魔力ですわ」
俺は首をかしげる。
「魔族って、あのテンプレのやつですか?」
王女は静かに答える。
「人間と敵対している種族です。そして彼らは魔物を操ることができます」
黒い光がどんどん濃くなる。
そして次の瞬間。
バキッ
ワイバーンの体が割れた。
中から現れたのは――
黒いローブの男。
人間に見えるが、目が赤い。
そいつはゆっくりと周囲を見回した。
「ほう……ワイバーンが倒されているとは」
低い声だった。
冒険者たちが後ずさる。
男は楽しそうに笑う。
「人間にしてはなかなかやるではないか」
カイルが前に出た。
「貴様が魔族か」
男は軽く頭を傾ける。
「そうだ。我が名はゼルグ」
そして王女を見る。
「王族まで来ているとは都合がいい」
森の空気が凍りつく。
カイルの声が低くなる。
「王女から離れろ」
ゼルグは笑った。
「安心しろ。すぐ終わる」
その瞬間。
ゼルグの姿が消えた。
カイルが叫ぶ。
「速い!」
次の瞬間。
ドン!
衝撃音。
カイルが吹き飛んだ。
地面を転がる。
冒険者たちが悲鳴を上げる。
「カイル様!?」
ゼルグはため息をついた。
「弱いな」
そして王女に向かって歩き出す。
「では王族を一人いただくとしよう」
俺は頭をかいた。
「いやそれはちょっと困りますね」
ゼルグが初めて俺を見る。
「ほう?」
俺は一歩前に出る。
「王女様は俺の雇い主なんで」
ゼルグは笑った。
「奴隷が守るというのか」
俺は肩をすくめる。
「まあ、元奴隷ですけどね」
ゼルグは指を軽く振る。
その瞬間。
俺の体が吹き飛んだ。
木に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
息が詰まる。
ゼルグは冷たい目をしていた。
「弱すぎる」
俺は咳き込みながら立ち上がる。
「そりゃそうですよ」
俺は笑った。
「俺、めちゃくちゃ弱いんで」
ゼルグは不思議そうな顔をした。
「ならばなぜ前に出る」
俺は手を伸ばす。
「決まってるじゃないですか」
小さく言った。
「ステータス転写」
対象:ゼルグ
コピー:筋力
一瞬。
ゼルグの動きが止まった。
俺は続けて言う。
「それともう一回」
「ステータス転写」
対象:ゼルグ
コピー:敏捷
ゼルグの顔色が変わる。
「なに……?」
俺は肩を回す。
「よし」
ゼルグの体がふらつく。
筋力3。
敏捷2。
完全に俺と同レベルだ。
俺は言った。
「これでフェアですね」
周囲が静まり返る。
カイルが驚いた声を出す。
「まさか……二つコピーしたのか」
俺は笑った。
「ええ」
ゼルグは信じられない顔をしている。
「そんな能力が……」
俺は軽く拳を握る。
「あるんですよ」
そして一歩踏み込む。
ゼルグは動けない。
俺はそのまま拳を出した。
ドゴン
ゼルグは地面を転がった。
完全な沈黙。
冒険者たちが固まっている。
王女が小さく言った。
「……レオン」
俺は振り返る。
王女は少し笑っていた。
「あなた、本当に最弱なのですか?」
俺は頭をかいた。
「いやステータスは最弱ですよ」
そして倒れている魔族を見る。
「相手も同じになるだけで」
森に風が吹いた。
こうして。
俺は――
初めて魔族を倒した。




