第4話 騎士団の天才
巨大ゴブリンを倒したあと、ダンジョンの通路はしばらく静かだった。
兵士の一人が呟く。
「……あり得ない」
もう一人も頷く。
「普通の新人が、あのゴブリンを一撃だと……?」
俺は棍棒を肩に担ぎながら言った。
「いやぁ、たまたまですよ。たまたま。俺、基本ステータスめちゃくちゃ弱いですし」
王女――エリシアは楽しそうに微笑む。
「それでも結果は結果ですわ。レオン、あなたは十分戦えます」
「そう言ってもらえると嬉しいですけどね」
俺がそう言った瞬間。
奥から別の声が聞こえた。
「――その必要はありません」
振り返ると、通路の入口に一人の男が立っていた。
銀色の鎧。
長い剣。
整った顔。
そしてなにより――
めちゃくちゃ偉そう。
兵士たちがすぐに敬礼した。
「カイル様!」
男はゆっくり歩いてくる。
そして王女の前で軽く頭を下げた。
「エリシア王女。このような危険な場所に来るとは聞いておりませんでした」
王女は落ち着いた声で答える。
「カイル。これは私の判断です」
カイルと呼ばれた騎士は俺を見た。
そして露骨に眉をひそめる。
「……それで、この男は?」
王女が言う。
「私が購入した奴隷です」
「奴隷?」
カイルは鼻で笑った。
「王女ともあろう方が、こんな男を?」
俺は手を挙げた。
「はいどうも、こんな男です」
カイルは完全に無視した。
王女は静かに言う。
「彼はオークを倒しました」
「あり得ません」
即答だった。
「奴隷がオークを倒すなど聞いたことがない」
俺は肩をすくめた。
「俺もさっき初めて聞きました」
カイルの視線が鋭くなる。
「……貴様」
「はい?」
「ふざけているのか」
「いえ、通常運転です」
兵士が吹き出しそうになっている。
カイルはイラついた顔で言った。
「王女、こんな男に関わる必要はありません。私が護衛します」
王女は首を横に振った。
「必要ありません」
「しかし」
「彼の能力は特別です」
カイルは完全に疑っている顔だった。
そして俺を見る。
「ならば証明してもらおう」
「え?」
「このダンジョンでな」
俺は嫌な予感がした。
カイルは剣を抜いた。
「私と戦え」
「いやいやいや」
俺は即座に手を振る。
「騎士団の人ですよね? 絶対強いじゃないですか」
カイルは冷たく言った。
「怖いのか」
「怖いです」
「正直だな」
「ありがとうございます」
王女は少し困った顔をした。
「カイル、ここはダンジョンです」
「だからこそです」
カイルは剣を構えた。
「王女を守る者が本当に強いのか、確かめます」
俺はため息をついた。
「はぁ……」
そして小声で呟く。
「しょうがないな」
カイルが踏み込んできた。
速い。
めちゃくちゃ速い。
でも俺は手を伸ばすだけだった。
「ステータス転写」
対象:カイル
コピー:筋力
――ピコン。
カイルの剣が止まった。
「……?」
腕が震えている。
俺は言った。
「どうしました?」
カイルは驚いた顔をしていた。
「なぜ……剣が……?」
俺は笑った。
「いや俺もよく分かってないんですけどね」
そして軽く拳を出す。
コツン。
カイルはその場で尻もちをついた。
完全に沈黙。
兵士たちが固まる。
王女が静かに言った。
「……言ったでしょう、彼は特別です」
カイルは信じられない顔で俺を見ていた。
俺は手を差し出した。
「大丈夫ですか? 騎士さん」
カイルはその手を見つめる。
そして――
ものすごく悔しそうな顔をした。
俺は思った。
(あ、これ絶対後でまた絡んでくるタイプだ)
こうして俺は
王国騎士団の天才
に目をつけられてしまったのだった。




