第19話 本気
魔族が一歩踏み出した。
その瞬間。
ダンジョンの空気が変わる。
重い。
息が詰まるほどの魔力。
カイルが低く言う。
「来るぞ」
魔族はゆっくりと手を上げた。
黒い魔力が渦を巻く。
床の影が揺れる。
だが今度は魔物は出てこない。
代わりに――
影が魔族の体へ集まる。
腕。
肩。
背中。
黒い鎧のように固まっていく。
リュナが呟く。
「自己強化」
魔族は笑った。
「ようやく本気だ」
次の瞬間。
姿が消えた。
カイルの目が見開く。
「速い!」
ドン!!
カイルの剣と魔族の拳がぶつかる。
衝撃で空気が弾ける。
カイルが後ろへ滑った。
「ぐっ……!」
俺は思わず言う。
「いや強すぎません?」
魔族がこちらを見る。
「当然だ」
そして地面を蹴る。
次の瞬間、俺の目の前にいた。
速い。
反応が間に合わない。
拳が振り下ろされる。
だがその瞬間。
ヒュン!
矢が飛んだ。
リュナの矢だ。
魔族は腕で弾く。
その隙にカイルが斬り込む。
ザン!
魔族の腕に浅い傷が入る。
だが魔族は笑う。
「その程度か」
カイルが後ろへ跳ぶ。
「レオン!」
俺は答える。
「はい!」
手を上げる。
だが魔族には使えない。
魔力差がありすぎる。
なら。
俺は周囲を見る。
柱。
天井。
床。
そして――
影。
俺は呟く。
「影は魔族の魔力で動く」
なら。
魔族は地面を蹴る。
また高速で動く。
その瞬間。
俺は言う。
「ステータス転写」
対象は魔族じゃない。
床。
筋力
3
次の瞬間。
ミシッ
魔族の足元の床が砕けた。
魔族の動きが一瞬止まる。
カイルが踏み込む。
剣が閃く。
ザン!!
今度は肩が深く切れる。
魔族の表情がわずかに歪んだ。
リュナが言う。
「効いてる」
俺は続ける。
「もう一回」
「ステータス転写」
今度は天井の岩。
筋力
3
バキッ
岩が落ちる。
魔族が避ける。
だが着地した床がまた崩れる。
カイルが攻める。
剣の連撃。
魔族は受けるが、少しずつ押されていた。
魔族が小さく笑う。
「なるほど」
俺は肩をすくめる。
「環境利用です」
魔族は言う。
「賢い」
そして静かに続けた。
「だが」
次の瞬間。
魔族の魔力が爆発した。
影が一斉に広がる。
床。
壁。
天井。
すべての影が魔族に集まる。
巨大な影の翼が背中に現れた。
カイルの顔色が変わる。
「……まずい」
リュナが小さく言う。
「魔力が桁違い」
俺は思わず呟く。
「いやこれ勝てます?」
魔族は空に浮かぶ。
赤い目がこちらを見下ろす。
「ここまで楽しませてもらった」
そして手をかざす。
黒い魔力が集まる。
巨大な槍の形。
エリシア王女が叫ぶ。
「レオン!」
俺は空を見上げる。
魔族の魔法。
巨大な黒い槍。
だがこれは魔族本人ではない。
魔法で作られたものだ。
影縫の魔物と同じ。
つまり――
俺は手を上げる。
「ステータス転写」
対象。
黒い槍。
筋力
3
次の瞬間。
巨大な魔力の槍が
空中で崩れた。
黒い魔力が霧のように散る。
魔族の目が初めて見開く。
「……何?」
俺は肩をすくめる。
「影縫の魔物に効いた時点で予想はしてましたけど、どうやら魔法にも効くらしいですね」
カイルが驚く。
「魔法そのものを崩したのか」
リュナが小さく言う。
「厄介な魔法」
空中で魔族がこちらを睨む。
その表情から、さっきまでの余裕が少し消えていた。
戦いはまだ終わらない。




