第13話 影縫
黒竜が地面に倒れ、王都の南門の前は静まり返っていた。
だが、その巨体から――
黒い霧がゆっくりと立ち上る。
兵士の一人が震える声で言う。
「な、なんだあれ……」
霧は空中で渦を巻き、やがて人の形を作った。
黒いローブ。
赤い目。
魔族だった。
カイルが剣を構える。
「魔族……!」
魔族はゆっくりと周囲を見回した。
そして笑う。
「ほう……黒竜を倒したのは貴様らか」
その声は静かだったが、不気味に響いた。
エリシア王女が前に出る。
「あなたがダンジョン暴走の原因ですか」
魔族は肩をすくめる。
「原因? 違うな。これはただの準備だ」
俺は頭をかきながら言う。
「準備って、街が半分壊れかけてるんですけど」
魔族は俺を見た。
そして少し目を細める。
「……なるほど」
カイルが低く言う。
「何がおかしい」
魔族は笑った。
「いやなに。貴様だ」
指が俺を指す。
「黒竜を倒したのは、おそらく貴様だろう」
騎士団がざわめく。
俺は肩をすくめる。
「まあ、ちょっとだけ」
魔族はくすりと笑う。
「面白い能力だ」
その言葉にカイルが眉をひそめる。
「……何を知っている」
魔族は答えない。
代わりに城壁の向こう――ダンジョンの入口を見る。
「だが、ここで遊ぶつもりはない」
魔族は振り返る。
そして静かに言った。
「ダンジョンへ来い」
兵士が怒鳴る。
「何を言っている!」
魔族は続ける。
「この暴走はまだ終わっていない。本番はこれからだ」
その目が細くなる。
「止めたければ中へ来い」
俺はため息をつく。
「いや普通にここで倒せばよくないですか」
そう言いながら手を上げる。
「ステータス転写」
魔族へ向けて能力を使う。
いつもなら、ここで相手のステータスが俺と同じになる。
だが――
何も起こらない。
俺は一瞬固まった。
もう一度。
「……ステータス転写」
それでも反応はない。
魔族は小さく笑った。
「どうした?」
俺の背中に冷たい汗が流れる。
「いや……あれ?」
カイルが聞く。
「レオン?」
俺はもう一度能力を使おうとする。
だが――
体の奥が空っぽだった。
魔力がない。
俺は小さく呟く。
「……魔力切れ?」
魔族が楽しそうに言う。
「ようやく気づいたか」
カイルが睨む。
「何をした」
魔族は指を軽く振った。
すると――
さっき倒したゴブリン。
ウルフ。
ロックゴーレム。
その残骸が
黒い煙になって消えた。
兵士が叫ぶ。
「消えた!?」
魔族は笑う。
「奴らは最初から本物ではない」
俺は目を細める。
「……魔法ですか」
魔族は頷く。
「影縫」
その言葉に騎士団がざわつく。
「影で作った魔物だ」
魔族は続ける。
「影にはレベルが存在しない」
カイルの表情が変わる。
俺は理解する。
「だから……」
魔族は頷く。
「貴様の能力が効いた」
影の魔物は
レベルがない。
だから俺の能力でもコピーできた。
だが――
魔族は違う。
魔族はゆっくり言う。
「レベル差がありすぎる相手には能力は通らない」
俺は頭をかく。
「なるほど」
つまり
・影の魔物 → レベル無し → コピーできる
・魔族 → レベル高すぎ → コピーできない
しかも俺はさっきの戦闘で
能力を使いすぎた。
魔力切れ。
魔族は満足そうに笑う。
「理解したか」
カイルが剣を構える。
「ならば今ここで斬る」
魔族は肩をすくめる。
「やってみろ」
次の瞬間。
魔族の姿が
霧のように消えた。
声だけが残る。
「ダンジョンで待っている」
静寂が戻る。
騎士団は誰も動けない。
しばらくしてカイルが言う。
「……追うしかない」
兵士が慌てる。
「ですが中は危険です!」
カイルは振り返る。
「だから選ぶ」
視線が集まる。
「ダンジョンへ入る者を」
王都を守るための
討伐隊が決まろうとしていた。
俺は空を見上げる。
「……いや、絶対めんどくさいやつですよねこれ」




