第12話 黒竜
王都の南門の外。
空を覆う巨大な影があった。
黒い鱗。
城壁より大きな翼。
黒竜。
兵士の一人が震える声で言う。
「ダンジョンボス……黒竜だ……」
黒竜はゆっくりと翼を広げた。
その風圧だけで地面の砂が舞い上がる。
カイルが剣を握りしめる。
「全員下がれ。まともに戦えば騎士団でも被害が出る」
俺は空を見上げる。
「いやー……さすがボスって感じですね」
エリシア王女が小さく言う。
「レオン……」
黒竜が口を開いた。
赤い光が集まる。
カイルが叫ぶ。
「ブレスだ! 伏せろ!」
次の瞬間。
ドォォォォン!!
炎が地面を焼いた。
城壁の前が一瞬で黒く焦げる。
兵士たちは完全に動揺していた。
「近づけない!」
「無理だ!」
俺は腕を組んで考える。
真正面から行くのは危険。
でも近づかなければ能力は使えない。
そこで視線を横に向ける。
カイル。
王国騎士団の天才。
筋力はたぶんこの場で一番高い。
俺はカイルに近づいた。
「カイルさん、ちょっといいですか」
カイルはドラゴンから目を離さず答える。
「なんだ」
俺は言う。
「少しだけ弱くなってもらいます」
カイルが振り向く。
「は?」
俺は手を伸ばした。
「ステータス転写」
カイルの体が一瞬だけ光る。
カイルの筋力は
3
俺と同じになった。
カイルは目を見開く。
「……身体が軽いというか、力が抜けた?」
俺は近くにいた兵士を見る。
大柄な男だった。
筋肉もある。
俺はその兵士に言う。
「すみません、カイルさん投げてもらっていいですか」
兵士は固まる。
「え?」
カイルも固まる。
「待て」
俺は続ける。
「ドラゴンの注意を引きたいんです」
兵士は恐る恐るカイルを見る。
カイルは数秒黙り――ため息をついた。
「……あとで説明してもらう」
兵士はカイルを持ち上げる。
驚くほど軽かった。
そして――
ブンッ
カイルは空へ投げられた。
騎士団がざわつく。
「騎士団長を投げた!?」
カイルは空中で剣を抜く。
そして黒竜に向かって叫ぶ。
「来い、化け物!」
黒竜の目がカイルを捉えた。
怒りの咆哮。
グォォォォォ!!
黒竜は翼を広げる。
そして一直線に突進した。
巨大な体が地面を揺らす。
カイルは着地するとすぐ横へ跳ぶ。
黒竜の視線は完全にカイルに向いていた。
俺はその間に前へ走る。
地面が震える。
黒竜がこちらへ突進してくる。
距離が縮まる。
十メートル。
五メートル。
俺は手を伸ばした。
「ステータス転写」
黒竜の体が一瞬光る。
筋力
3
次の瞬間。
黒竜の突進は止まらない。
だが――
その体を支える力はもう無い。
巨大な体がバランスを崩す。
ドゴォォォォン!!
黒竜は地面に頭から突っ込んだ。
衝撃が走る。
地面が揺れる。
砂煙が舞う。
しばらくして。
黒竜はそのまま動かなくなった。
完全に気絶している。
沈黙。
騎士団が固まっていた。
兵士がぽつりと言う。
「……勝った?」
カイルが剣を下ろす。
「……ああ」
そして俺を見る。
「まさか」
「自分の突進で気絶させたのか」
俺は肩をすくめる。
「筋力3であの速度ですからね」
エリシア王女が安心したように笑う。
「レオン、本当にすごいですね」
俺は頭をかいた。
「いやー……俺何もしてないですよ。突っ込んだのドラゴンですし」
そのとき。
倒れた黒竜の体から――
黒い霧
がゆっくりと立ち上った。
カイルの顔色が変わる。
「……魔族の気配だ」
黒い霧は空へ上がり。
ゆっくりと
人の形を作り始めた。
俺はため息をつく。
「……まだ終わらない感じですか」




