神華城へ
ジンとアルベールさんが戻ってきた時、そこには言葉にできない空気が漂っていた。
誰も彼に何があったのかを尋ねない。クレイズさんは何か言いかけて口を閉ざし、死神さんは目の前で暴れている人を無言で気絶させる。
ピービーだけが小さく首を傾げて声をかけたが、それ以上は深く追及しなかった。
――家族の問題には踏み込まない。
そんな無言の了解が、その場に広がっていた。
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「必殺! 岩石砕きキーック!」
ガラガラと音を立てて、タルオスオールさんが岩を蹴り砕く。
僕たちが今いるのは屋敷の地下に広がっていた洞窟。この先を抜ければ、レアフィリスの居る神華城に辿り着けるそうだ。
アルベールさんの書斎部屋に隠し階段があり、そこからこんな所に通じているなんて、ジンも知らなかったらしい。
崩れた岩の先に伸びる真っ暗な道を、懐中電灯代わりの光を放つピービーを先頭にして、僕たちは足元に気を付けながら進んでいた。
「タルオス。普通に砕け」
「えー、だってこうした方が迫力出るじゃないっスか。必殺技!って感じで。なんかこう……超パワー!みたいな!」
「……………」
「う、……そ、そんな顔で睨まないでくださいっス。……ジンくんとクレイズくんはわかってくれるっスよね? この気持ち?」
「え、いや……わかる?」
「いや、俺もさっぱり」
暇潰しの雑談に花を咲かせるが、タルオスオールさんの同意を求められたジンとクレイズさんは顔を見合わせて首を傾げる。彼の肩がみるみる落ちていくのが見えた。
「な、なんでわかんないんスか! 男たるもの、幾つになっても必殺技ってのは憧れるもんっスよ……っ!」
「タルちゃん!あたしにはわかるよ!その気持ち!」
[タルオスオール。どんまい。どんまい]
「………緊張感なさすぎだろ、お前ら」
「ほほ。賑やかじゃのぉ」
――遡ること二時間前。
ジンとアルベールさんは靄から現れる魔物を撃退しながら屋敷に戻り、僕たちと合流した。突然、足元に黒い靄が現れて吃驚したけれも、その理由は「靄が第二段階に入ったからだろう」とアルベールさんは言っていた。
黒い靄は止めどなく魔物を生み出す。レアフィリスとジンの母――セレーナさんを何とかしない限り、侵食は広がる一方だ。
そのため僕たちは二手に分かれる。
魔物退治組にはアルヴィスさん、シオン、そしてKBさん。レアフィリスたちのもとへ向かうのはアルベールさん、ジン、クレイズさん、死神さん、そして僕と神様となった。
[出口!出口!]
緊張感のない会話を続けながら進んでいくと、ピービーが出口を見つけた。
頭上の鉄格子をタルオスオールさんが外し、順番に僕たちは洞窟の外へ出る。
そこは街の中だった。だが、かつての賑わいはなく、空気はひどく閑散としている。
「うーし! とうちゃーく!」
「ここに奴が居るのか」
「ここは街か?」
「神華城の側にある街っス。昔は賑やかだったんスけど、今や見る影もないっス」
「原因は、やはり」
「考えてる通り、レアフィリスのせいっス」
アルベールさんは出口を背に、真っ直ぐ城へ続く道を指差す。
「この道を進めば神華城だ。ただし、何が待っているかわからん。気を抜くな」
ジンが声をかけるが、アルベールさんは「残された時間は少ない」とだけ言って、質問をかわして歩き去っていった。
その背中を追うように、ピービーがぴょんぴょん跳ねる。
死神さんもクレイズさんも、もう覚悟は決まっている顔をしていた。
「ここから先は敵地だ。油断するなよ」
「誰に言っている。お前こそ足をすくわれるな」
「大丈夫じゃ。クレイズも死神に並ぶ強者じゃ。簡単に死なん」
[死なない。死なない。みんな死なない]
「うん! 僕たちは死なない!」
……不思議なほど、緊張感はない。
けれど、この距離感こそが仲間らしさなのだと思えた。
「さて。では行くとするかの。いざ、ラストミッション開始じゃ!」
「ラストミッションって……」
「間違ってはおらん。良い響きじゃ」
「僕も賛成! ラストミッション! カッコいい!」
[ラストミッション! ラストミッション!]
神様を筆頭に皆が声を合わせる。
その背を見ながら、僕は深く息を吸った。
――ここからが本番だ。




