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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
最終章「箱詰め地球の呪い」
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真実・2 ※ジン視点





「どうして黙ってたんだ?」


 街で偶然にも親父と鉢合わせてしまった。それが災いして、俺は意外にも早く――覚悟していたよりずっと早く――親父との話し合いを余儀なくされた。

 場所は裕福街の、人通りのない路地裏。俺は壁を背にして立ち、親父と向き合う。


 ちなみに死神たちは「私たちは邪魔だろう」と言って、さっさと屋敷へ帰ってしまった。


「……何の事だ」

「しらばっくれるな。母さんの事だ」

「………。聞いたんだな」

「否定はしないんだな」


 腰に手を当てて眉をひそめる。

 聞きたい事は山ほどあるが、まずはこれだ。

 母さんを殺したのはレアフィリスだと――本人の口から聞いた。

 本当なのか、確かめなければならない。


「あの日、もし真実を話していたら……お前は仇を探しに行っただろう。それは何としても避けたかった」

「どうして……」

「お前を呪いから遠ざける。……セレーナとの約束だったからな」

「呪いを……遠ざける?」


 親父はゆっくりと頷いた。


「あの日、セレーナの体調はいつも以上に悪く、朝から部屋に籠もっていた。だが夕方頃、突然、彼女が訪ねてきた」

「彼女……レアフィリス、か」


 俺の言葉に、親父は静かに肯定する。


 俺はあの時、一人前の魔封術師になるため試験を受けに行っていて家には居なかった。

 子供の頃から、母さんは“病気”だと聞かされてきた。具合が悪いときは部屋に籠もり、俺は「近づくな」と言われ続けていた。


 その日、母さんを訪ねてきたのはレアフィリス。

 それが直接の原因かはわからない。だが、そのせいで母さんの容体は悪化し、病――いや呪いが暴走して、親父とサリカを傷つけた。


 そして正気に戻った母さんは、レアフィリスに告げた。


 ――私を殺して欲しい、と。


「微かに聞こえたのは、セレーナの声と、彼女がそれを実行する音だけだった」

「…………、」

「この事を話せば……お前の中の呪いが進行する恐れがあった。だから咄嗟に嘘を吐いた」


 親父の声が冷たく響く。

 俺は眉をひそめ、歯を食い縛った。


 なんで。なんでそんな大事なことを――。


「……って、…ちょっと待て。呪い?…俺の中に、呪いがあるって言ったか?」

「呪いは誰の中にも存在している。だが、その中でもお前の中にある呪いは深刻だ」


 親父の瞳が、真っ直ぐ俺を射抜いた。


「その呪いは、今現在でお前の魂の半分を覆い、侵食寸前のところまで来ている。そのせいで、お前の精神力は並の人間より極端に少ない」

「…………」


 大事なこと、その2。

 胸を押さえ、息が詰まる。


 その時――。


「きゃあああ!」


 大通り方面から悲鳴が響いた。


「……?」


 だが、それ以上に気になったのは、足元の違和感だった。

 見下ろすと、黒い靄が濃く水のように流れている。


「……ジン!」

「!」


 靄を見ていた俺を、親父の叫びが引き戻す。

 背後から、ぞわりと殺気が迫ってきていた。


 反射的に札を取り出し、炎の魔封術を放つ。

 火の粉の中から断末魔のような声が響き、炎が消えると、地面にベチャリと黒焦げの塊が崩れ落ちた。


「……なんだよこれ……」

「余所見している場合ではない」


 隣に立った親父も札を構えていた。

 目の前の黒い靄からは、先ほどのような不気味な魔物が、次々とドロドロと這い出してくる。


「これは……」

「……もう、あまり時間は残されていないという事か」


 親父の声に、俺は目を見開いた。


「時間?」


 ぐちゃぐちゃと音を立てて迫る魔物を炎で焼き払いながら、親父は言う。


「ジン。お前にも靄が見えているな」

「え……?」


 まさか――この靄は親父にも見えているのか。


「よく聞け。侵食は既に“第二段階”に移行した。急がなければ、この世界は呪いに喰われ、滅ぶ」

「滅ぶ……?」


 心臓が跳ねる。


「これはセレーナが願ったことだ。この世界を覆う箱は、セレーナの呪いによって動いている。……あいつは願ったのだ。この世界を滅ぼせ、とな」

「!」


 言葉を失う。


「そして今、箱が蓋を開き、靄を解き放った。……封印だけでは足りなかったな」

「封印って……」

「これだ」


 親父が取り出したのは、楊枝のように細長い白い棒だった。

 見覚えのある色。


「これは?」

「セレーナの骨だ」

「は……?」


 耳を疑った。母さんの、骨。


「この骨は、セレーナの力を抑制していた」

「……抑制? どういう意味だ?」

「詳しくは仲間と合流してからだ。行くぞ」


 そう言って、親父は札を振り下ろし魔封術を放ちながら駆け出した。


「な、ちょ、親父……!」


 追いかけながらも、頭が混乱でいっぱいになる。


 マシーナリーから戻ってきてから、めまぐるしく物事が動いている。

 遠ざかる足音を聞きながら、無くなった左腕を見つめ、ため息をついた。


 ――まだ、何一つ聞き出せていない。

 こういう時、呪いの札なら何と言うのだろうか。



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