真実 ※ジン視点
朝日が昇ってから、数時間後。
俺はケアテイカー、死神、クレイズ、ピービーと共に街に出ていた。
夜中の出来事を思い返すと、胸の奥がずきりと痛む。
左腕の怪我はピービーとサリカの手当てで、どうにか痛みだけは和らいだ。だが、包帯の下にはもう何もなく、そこから先は空虚。……そして、あれほど騒がしく喋っていた呪いの札の声も、もう二度と聞こえない。
「うえええん、ままぁ……っ!」
「おい! ……おい! 目を開けろよ!!」
「ぐすっ、ひっく……っ」
「なんで……昨日はあんなに元気だったじゃないか! 楽しく喋ってただろ! どうして死んじまったんだよ! おかしいだろ!」
街の空気は、いつもの賑わいをどこかに落としてしまったかのように、静まり返っていた。
代わりに響くのは、生き残った者たちの嗚咽と絶望の声。
――朝日が昇る前の、ほんの数十分。
それだけの短い時間で、この街に住む何千もの命が消え、魂はレアフィリスに奪われてしまった。
「……………」
たった数十分で、無数の人々が命を落とした。
……ティタニアを含めて。
「……ーーい! ……おい!」
「!?」
街の惨状を見ながら、とぼとぼ歩いていた俺は、不意に襟首をぐいっと掴まれ、強制的に足を止められた。
振り返ると、死神が険しい顔で俺を見ていた。
「死神!? な、なんだよ……」
「そっちは行き止まりだ。ぼーっとするな」
「え……?」
言われて前方を見ると、数メートル先には無情なまでの壁。確かに、その道は行き止まりだった。
「あ、……」
……気付かなかった。いや、気付けなかった。
「ジン、大丈夫?」
「しっかりしろ。裕福街はこっちだ」
[ジン、しっかり! ジン、しっかり!]
「………わ、悪い」
俺は死神たちの方へ身体を向け直し、眉を下げて小さく謝った。
俺たちが今いるのは、住宅街と裕福街を繋ぐ大通り。一通り街を見て回り、屋敷へ戻ろうとしていたところだった。
二股に分かれた道のひとつは裕福街へ、もうひとつは行き止まりへ。……俺は無意識に、間違った方を歩いてしまっていたらしい。
「……まぁ、気持ちはわからんでもないけどな。俺も似たようなことがあって、しばらくはそんな感じだったし」
[クレイズ。住んでた村ぜんぶ消し飛ぶ。友達と家族消し飛ぶ。絶許! 巫女絶許!]
「………………」
ぴょん、と胸に飛び込んできたピービーを受け止めながら、クレイズは困ったように眉を下げ、口元を少し緩める。おそらくピービーに悪気はない。
「……それにしても、かなり被害が出てたな。夜中だったってのに」
「ああ。この街は、夜中でも人で溢れてるからな」
一日中賑やかに栄える街――それは活気でもあり、同時に脆さでもある。
俺は小さく息を吐いた。
「……それで、これからどうするんだ?」
「?」
「あのタルオスオールとかいう餓鬼の言葉を信じるならば、そう悠長に構えてられんぞ」
「……………」
死神は言う。
レアフィリスが去っていったあと、俺たちはすぐにタルオスオールに呼ばれ、屋敷のリビングで話を聞かされた。
内容は3つ――自分たちのこと、この世界のこと、そしてレアフィリスのこと。
タルオスオールは自分たちを「呪いを祓う者」と名乗った。
メンバーは彼を含めて3人。
タルオスオール・タルオスと、ファム・フォオルという少女、そして――アルベール・レスター。俺の親父だ。
やり方は俺たちとはまるで違う。だが彼らは、今の今まで呪いを祓うために秘密裏に動いてきた。
事は俺たちがじいさんに頼まれるよりも前から、いや、数年前という次元ではなく――もっと、ずっと昔から。
この世界……地球は、突如として現れた巨大な箱によって姿を変えた。
その頃から既に「呪い」は静かに広がり始めていたのだ。人知れず、じわじわと地球全体を侵し、気づけば大きな呪いとなってすべてを覆っていた。
その呪いを生み出したのは、レアフィリス・スォールという一柱の神と、俺の母親、セレーナ・ウールス。
呪いを作っただけでなく、地球を箱で覆ったのも彼女たちの仕業だろう――そうタルオスオールたちは読んでいるらしかった。
「レアフィリス・スォール……」
裕福街を歩きながら、俺はまっすぐ自分の家を目指す。
レアフィリス・スォール。
呪いの札が言っていた。彼女が俺たちの最終地点だと。
……じいさんの言っていた“妹”が誰なのかは、もう疑う余地はなかった。
「……………」
顎に手を添え、眉をひそめる。
これは、あとでじいさんに確かめるしかない。
[……! ジン! ジン!]
「! ……ピービー?」
考え込んでいると、足元を転がっていたピービーが突然ぴょんと跳ね上がった。
慌てて足を止める。死神とクレイズも思わず立ち止まり、頭の上に“?”を浮かべる。
……前方から声が聞こえてきた。
「……家には戻るのかい?」
「ああ。用事を片付けなければならないからな。……世話になった、先生」
「うんうん。ジンちゃんとサリカちゃんによろしくね、アルベールちゃん」
「………いい加減、“ちゃん”付けはやめてくれないか」
1つは骨診先生の声。
もう1つは――。
[アルベール・レスター。アルベール・レスター]
「あ、ちょっ……!」
ピービーが名前を繰り返したかと思うと、一目散に先生たちへ転がっていった。
止める間もなく、コロコロとすごい勢いで。
「……ん?」
「まぁ。あらあら。あなたはいつぞやの可愛い患者さん」
[アルベール・レスター。アルベール・レスター。PB。PB]
先生たちの足元でぴょんぴょんと跳ねるピービー。
その様子を見て、ピービーの相手――親父がゆっくりと此方に顔を向けた。
「……親父」
「…………………」
視線が交わる。言葉よりも先に、妙な重さが胸を圧し掛かる。
そして、親父の姿をしっかりと確認できたのか、ピービーは満足そうに笑いながら、コロコロと俺たちの元へ戻ってきた。




