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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
最終章「箱詰め地球の呪い」
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真夜中の邂逅 ※ジン視点





 その日の夜中。

 俺は屋敷の外に出ていた。


 数時間眠ったあとに目を覚ました俺は、すぐに死神を訪ねて黒い靄について尋ねてみた。だが、どうやら死神にもこの黒い靄は見えていないらしい。

 彼女なら見えているかもしれない、と淡い期待を抱いていただけに、ちょっとだけショックを隠しきれなかった。やはり、この靄の存在は本当に謎だ。


「……………」


 顎に手を添えて眉をひそめる。

 幸いにも建物の中には侵入してきていない。その点だけが、せめてもの救いだった。


『おい赤ちゃん。いつにも増して難しい顔してんな』


 呪いの札が話しかけてくる。

 ――いつもながらに酷い呼び方だ。俺はため息を吐きながら腰に手を当てた。


「……ずっと思ってたんだが、その“赤ちゃん”呼びどうにかならないか?」

『ははは! そりゃ無理ってもんだぜ赤ちゃん! てめぇは俺様に比べりゃ何から何まで全力で赤ちゃんだからな! だから俺様はこれからもてめぇの事をずっと赤ちゃんって呼び続けるぜ赤ちゃん! はっ!』

「……………」


 夜中だというのに、やけに元気な呪いの札だ。

 深く息を吐いて、足元に視線を落とす。相変わらず、黒い靄以外は何も見えない。


「ジン」

「?」


 どこまでも続く黒い靄。

 再び顎に手を添えてじっとそれを見つめていると、背後から扉の開く音と共に俺を呼ぶ声がした。


 振り向けば、そこにはティタニア。

 寒そうに肩を震わせながら、俺の顔を見て近付いてくる。


「どうかされたのですか? こんな時間に外に出ては危ないですよ?」

「それはこっちの台詞だが……眠れないのか?」

「いえ、眠れないというわけではなくて。これを貴方にと思いまして」

「?」

「ジン。あれから眠ってしまって夕食を食べ損ねてしまったでしょう? だから、起きた時に食べられるようにと簡単な物ですが作っておきました」


 そう言ってティタニアは、手に持っていた巾着袋から透明なラップに包まれた小さなサンドウィッチを取り出す。

 きょとんとしながら受け取ると、彼女は口元を緩ませて嬉しそうに笑った。


「……サンドウィッチ?」

「ええ。中身はジンの好物を入れておきました」

『おお。美味そうなサンドウィッチだな。良かったな赤ちゃん。嫁からの差し入れだぜ?』

「黙れ」

「え?」

「! あ、いや。……悪いな。ちょうど腹が減ってたんだ。いただくよ」

「……ふふ。お口に合うといいのですが」


 包みを少しだけ外して口に入れる。

 中身は甘みを強調したスクランブルエッグと、下味をつけた茹で豚肉。ティタニアの言った通り、それは俺の好物だった。


 しっかり咀嚼してからごくりと飲み込み、自然と口元が緩む。――とても美味い。


「うん。すげぇ美味い」

「! 本当ですか?」

「ああ。……ありがとな、ティタニア」

「……っ、い、いえ!私にはこれくらいしか出来ないので……!」


 顔を真っ赤にして両手をぶんぶんと振るティタニア。


「………?」


 その時、どこからか微弱だが確かな気配を感じた。

 俺はサンドウィッチをもう一口だけ食べ、残りは後で食べるためにポケットにしまい、眉をひそめる。


『おい赤ちゃん。気付いてるか?』

「ああ。……ティタニア、中に戻ってろ」

「ジン?」

『いや、時間がねぇ。デカいのが来るぜ!』

「!」


 呪いの札が叫ぶ。

 それと同時に、感じていた気配が一気に膨れ上がった。


 直後、目の前から黒い何かがものすごい勢いで襲いかかる。わずかに見えたのは、細長い刃。

 俺は反射的に札を取り出し、包月で防御を展開する。バチバチと火花が散り、背後でティタニアが小さく悲鳴を上げた。


「何だ、今の……!」


 攻撃……?


『警戒しろ。まだまだヤベェ気配がビンビンだぜ』

「ティタニア。今のうちに中に――」

「………、め、なさ、ごめんなさい」

「……ティタニア?」


 彼女を中に戻すつもりで振り返る。だがティタニアはその場に立ち尽くし、動こうとしない。


『おい!戻すなら早くしろ!』

「ティタニア、どうした?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい……ジン、ごめんなさ、い……っ」

「ティタニア!」


 様子がおかしい。

 肩に手を置いて顔を覗くと、怯えた表情のまま涙を流していた。


「おい、ティタニア!」

「っ、ぐす。ごめんなさい……許して。何でもするから。ジン……ジン……!」

「……………」


 どうなってる、一体……?謝ってる?何に対してだ?


『っ、……おい。こりゃマジでヤベェぞ』

「?」


 呪いの札の声が、珍しく震えている。


 気配はさらに濃く、さらに大きく。

 俺はティタニアを庇うように立ちつつ、ゆっくりと背後へと視線を向けた。


 暗闇の中――そこに、確かに“誰か”が立っている。

 俺たちをじっと見つめ、くすくすと、不気味に笑いながら。




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