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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
最終章「箱詰め地球の呪い」
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なんてこった ※ジン視点





 機械の国から戻ってくると、この国にも、あの国と同じく黒い靄が蔓延していて、大地全体を覆い尽くしていた。


 ……なんてこった。



 街に到着し、屋敷へと帰ってきた俺は、玄関の扉を開けた瞬間、いきなり誰かに抱きつかれた。

 不意打ちをくらって倒れそうになったが、なんとか踏ん張って、抱きついてきた人物を驚きながら見下ろす。


 腹に顔を埋めているため誰かはわからないが、その髪色・髪型、そして水色のドレスには見覚えがあった。

 顔を上げると、懐かしい少女が怒ったような表情でこちらを見上げていた。


「シュリーナ!?」

「やっと帰ってきたわ!遅いじゃない!!この私を待たせるなんていい度胸してるわね!!」

「どうしてお前がここに……」


 再会して早々怒られるのはどうかと思うが、抱きついてきたのは、俺たちが最初に訪れた国で出会った少女――シュリーナ・プルクフェルトだった。

 彼女は俺に抱きついたまま眉をひそめ、一方的に怒っている。そんな様子を俺の背後からアルヴィスとシオン、ケアテイカーが見つめていた。


「………誰だ?」

「ジンさんの知り合い?」

「彼女はシュリーナ。友達だよ」


 抱きついたまま離れてくれそうにないので、無理やり引き剥がす。

 ひょこっと顔を出したシュリーナは、アルヴィスとシオン、二人の顔を交互に見つめた。


「この人たちは誰?」

「こいつらは仲間だ。アルヴィスとシオン」


 俺が二人の名を伝えると、二人が自己紹介をし、シュリーナも胸に手を当てて自分の名を高らかに告げた。


「私はシュリーナ。シュリーナ・プルクフェルトよ!これからよろしく頼むわ!あ。私が超絶可愛いからって隙あらば口説こうなんて思わない事ね!私にはもうジンっていう立派な人が居るんだから!」


 彼女のその言葉に、思わず首を傾げたくなるワードが混ざっていたが……まぁ、子供の戯言だと思って受け取っておこう。


「ジン!」

「ん、」


 シュリーナに続いて、今度はティタニアが2階に続く階段から降りてきた。

 眉を下げ、不安そうな表情を浮かべながら、彼女は俺の元まで駆けてくる。


「ジン。おかえりなさい。ご無事で何よりです」


 俺の顔を見て安心したのか、ティタニアは口元を緩ませてホッと胸を撫で下ろした。


「この人も、ジンさんの知り合い?」

「ああ。彼女はティタニア。幼馴染みだよ」

「はじめまして。ティタニア・シュライベルクと申します」


 ティタニアは、シュリーナと同様に胸に手を当てて挨拶する。


「ティタニアちゃん。出迎え早々で悪いんじゃが。死神たちの怪我の具合はどうなっとる?」

「あ、はい。死神さんもクレイズさんも、二人とももうすっかり元気ですよ」

「おお!そうかそうか!それは良かった!」


 ティタニアに死神たちの様子を聞いたじいさんは、嬉しそうに顎髭を撫でながら、ほほほと笑った。


「死神たちは今どうしてるんだ?」

「身体が鈍ってはいけない、ということで街へ出ています。ついでにお買い物も頼んだので、もうそろそろ帰ってくると思います」

「そうか……」


 ふむ、と腕を組む。

 ちょっと聞きたい事があったのだが、居ないのなら今は諦めるしかないか。


『捜しに行くのか?』

「……いや。それはやめとく。めんどいし」


 本音を言えば、機械の国から帰ってきて疲れている。

 無駄に体力を消耗するより、もうすぐ帰ってくるというのだから大人しく待った方が良い。


「……そんじゃ、いつまでもここに居ると、買い物から帰ってくる……その、死神?たちの邪魔になると思うからさっさと移動しようぜ」

「そうじゃな」

「移動って何処に?」

「うーん。話し合いをするならリビングが一番いいか」


 この場に居るのは、俺とケアテイカーとじいさん、アルヴィスとシオン、そしてKB、シュリーナ、ティタニアの8人に、ピービーとシロとクロの3匹。

 この人数で何かをするなら、……まぁ考えなくても必然的にリビング一択だ。

 そこなら小腹を満たすおやつもあるだろうし、色々落ち着いて話せる。ゆっくりするには最適の場所だ。


 よし。そうと決まれば早速リビングに移動だ。


+


 リビングに移動して、まず最初に話したのは、親父の札と母さんの骨についてだった。

 人の骨の話など、シュリーナやティタニアの前でしていいものかと思ったが、俺たちは特に気にせず意見を交わし続けた。

 この話題については答えが出ず、一旦保留という形になった。現時点ではまったく意味がわからない。


 そして次に話し合ったのは、黒い女の子――母さんのこと。

 KBの話によると、彼女は俺を狙っている。それはこれまでの行動で大体わかっていた。

 ならば何故俺を狙うのか。単に息子だからだろうか?……いや、違う。

 彼女は俺に、自分の代わりに世界を滅ぼして欲しいと言っていた。


 世界を滅ぼすなんて、絶対に御免だ。


『セレーナはまたいずれ、必ず私たちの元へ現れるでしょう。それが明日になるのか、はたまた数週間後になるのかわかりませんが……もし突然の邂逅があった場合に備え、いつでも戦えるよう準備は常に万全にしておいた方がよろしいかと』


 KBは告げる。

 俺はその言葉に何も返せず、ただ黙っていた。


 そして現在、時刻は夕方。

 俺は自分の部屋のベッドに横になっている。

 死神とクレイズはつい先ほど買い物から帰ってきたとティタニアから伝えられたが、今はベッドから動きたくないので、あとで会いに行くつもりだ。


 機械の国での一件で、身体がひどく疲れていることに、ベッドに横になって初めて気づいた。

 ……俺って、こんなにも疲労していたんだな。


 このまま考えることをやめれば、すぐにでも眠ってしまいそうだ。


「ジン!入るわよ!」


 ――しかし、それは部屋の扉が開かれたことで無理となった。

 バーンッ、と大きな音を立てて扉が勢いよく開き、シュリーナが部屋に入ってくる。


 コツコツと近づいてくる足音に合わせて目を開けると、眉をひそめて機嫌悪そうな顔をしたシュリーナが立っていた。

 俺は右手で両目を覆い、眠気を押し殺しながら彼女に声をかける。


「……何だ? 何か用?」

「あんた、この私がわざわざ訪ねてきてあげたのよ?何よその態度は。さっさと起きあがりなさい」

「無理。起きれない。眠い」

「……………はあ。じゃあいいわ。特別に許可してあげるから、そのままで聞きなさい」

「………………」


 小さな声で「手短にお願いします」と言うと、シュリーナはさらに眉をひそめ、ため息をつく。


「……あんた。私に魔法を教えなさい」

「…………は?」


 両目を覆っていた手を少しどかし、驚きながらシュリーナの顔を見る。


「ほら、あんたやってたじゃない。私の呪いと戦ってた時に……えと、こう、光って、バーンってやつ」


 彼女はジェスチャーを交えながら説明する。

 光ってバーンとは、一体……。


『? もしかして魔封術のこと言ってんのか?』

「! そうそれよ!それ!」

『うっし!当たったぜ!てめぇより早くこの俺様が答えてや……あん?』


 呪いの札の言葉に反応して、シュリーナは元気よく頷く。

 俺より先に答えに辿り着いたと、札が声を荒げて喜んだ――が、ふと何かに気付いた様子だった。俺も頭の中に「?」が浮かぶ。


「シュリーナ、こいつの声聞こえるのか?」

「? こいつって、あんたのそばでヒラヒラしてる物のこと?普通に聞こえるわよ?」

『おい。おいおいおいおいおいマジか!?こんなチンチクリンの幼女が!?俺様の声を聞けるだと!?』


 まさかの「呪いの声が聞こえる」発言。

 俺と札が驚いていると、シュリーナは首を傾げる。魔法云々の話が、どうでもよくなってしまった。


「……で、どうなの?」

「え、どうって?」

「その、えと、今言った、……まふうじゅつっての。私に教えてくれるの?」


 声が聞こえることについて、彼女は特に気にしていない様子だ。


 今はそれどころじゃなくなった俺は、ゆっくりと起き上がり、欠伸を噛み殺しながら彼女に手のひらを向ける。


「!」

「まず第一に、お前に魔封術は無理。第二に、魔封術を使うには専門知識と莫大な精神力が絶対条件だからお前には無理。第三に、お前はまだガキだから根本的に無理。以上」


 指を三本折り曲げながら、早口気味に言い放つ。

 言い終わると同時に、再びベッドに横になって両目を覆い直した。


「ちょっと、何よそれ!教えてくれないの!?」

『おい幼女。言っておくが俺様もてめぇにゃ魔封術は無理だと思うぜ。こいつの意見にはこれっぽっちも同意したくねぇが、魔封術師になるにゃそりゃあもうとんでもねぇ修行が必要なんだよ』

「修行?修行って何よ?」

『あ?あー、ええ……えと、しゅ、修行は修行だ!』

「よくわからないわ!わかりやすく言ってよ!」

『うっせーぞ黙れ幼女!!』

「何よ!紙切れのくせに生意気!!」

「……お前ら黙れ」


 近くで騒がしくされると眠れない。

 眠いんだから寝かせてくれ、と小さな声で言うと、シュリーナは「何よ!ジンの馬鹿!」と大声をあげ、バタバタとわざとらしい足音を立てながら部屋を出ていった。扉は閉めていかない。


 扉は開けたら閉めろ。

 はぁ、とため息を吐いて肩の力を抜く。


『おい。あのチンチクリン幼女はアレでいいのか?育て直した方がいいんじゃねぇか!?』

「……なぁ、何でシュリーナにお前の声が聞こえたんだ?」

『あん?知らねぇよ。考えられるとすりゃあ一個だが……ん、そういやあの幼女、興味深いこと言ってたな』

「?」

『私の呪いと戦って、とか何とか。何か?あの幼女は呪いに何かあったん?』

「ん、ああ。あいつは呪いに掛かってたんだよ。そんで、俺たちがそれを倒した……祓ったとも言うのか」

『あ?呪いに掛かってた……はあ、はああぁん、そうか。そういうことかよ』

「どうした?」

『わかったぜ、あの幼女に俺の声が聞こえた理由。あの幼女が呪いに犯されてたからだ』

「は?」

『いいか?俺様は呪いだ。呪いに犯されてる奴に呪いの声が聞こえるのは当たり前だ。それは呪いに犯されてた場合も同じ。呪いに犯された奴の中から呪いを祓っても、そいつの中には呪いの種子が微量ながら残っちまうわけよ。おそらく、あの幼女の中にもあるんだろうな、微量な呪いの種子っつーのが。そのせいで、あの幼女には俺様の声が聞こえたってわけだ。わかったか赤ちゃん?』

「…………」


 ……うん。なんとなくわかった。

 まとめると、呪いの声が俺以外にも聞こえるやつが現れたってことだな。


『おい、聞いてんのか?』

「悪い。ちょっと寝る。もう限界」

『おい!おいおいおいおい!本当にわかったのかよ!?あとでテストしてやるからな赤ちゃん!!かくごしとけや!!』


 呪いの声が騒ぎ続ける。

 数分後、ようやくその声が大人しくなった頃、俺は目を閉じ、ぐっすりと眠りに落ちていた。




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