機械だらけの宴・こぼれ話 ※ジン視点
『ロボ共鳴』
部屋の中に、電子音がリズムを刻むように響き渡る。
その中心で、ピーロボとピービーが互いに向かい合い、跳ねるように声を出し合っていた。
[ぴー。ぴー。ピービー。ピービー。ピーロボ。ピーロボ]
[ピーロボ。ピーロボ。ボク、ピービー。ピービー]
やり取りはどんどん熱を帯び、ついには部屋全体を震わせるほどの音量になる。
[[ピーピーピーピーピーピーピーピー!]]
「っ、うるさ!? 何やってるんだあいつら!?」
近くでやり取りを見ていた俺は、突然の大音量に思わず声を張り上げた。鼓膜が震えて頭がガンガンする。
隣に立つアルヴィスは平然とした顔でその様子を見つめ、肩を竦めた。
「……たぶん、ロボ同士で共鳴し合ってるんだろうな」
「共鳴?」
俺の声は、騒音にかき消されそうだ。
「同じ所で造られた物同士、プログラムが類似してるとたまに起こる現象なんだ。この間もピーロボとそこら辺歩いてたロボットが共鳴してるのを見た」
「はぁ……」
説明はもっともらしいが、耳鳴りが酷すぎて頭に入ってこない。
[[ピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピーピー!]]
「………、で。いつ終わるんだ、あれ?」
聞くと、アルヴィスは顎に手を当て、冷静に様子を観察する。
「うーん。……あの様子だと、2~3時間くらいじゃないか?」
「はぁぁぁぁ!?」
そんなに長いのかよ。
俺は天井を仰ぎ、頭を抱えた。
こんな騒ぎを数時間も聞かされるとか、正気でいられる自信がない。
+
『機械大好きおじいちゃん』
街中はまるで機械の見本市だった。荷物を運ぶ者、作業を交代する者、整然とした動きの数々。
規則的な声が飛び交い、整った賑やかさを生み出している。
[お仕事交代。お仕事交代]
[お仕事交代。お仕事交代。バトンタッチ。バトンタッチ]
その整然とした風景の中、ひとりだけ場違いなほど興奮している老人がいた。
「うおおぉ。レスター殿! レスター殿!」
「!? なんだ、じいさん!?」
突然呼ばれて思わず振り向く。
じいさんは白髪を揺らし、両目を輝かせていた。
「ここは恐ろしく楽しい所じゃのぉ! 来れて良かったわい!」
「………。年寄りが楽しそうで何よりだけど、そのせいで倒れられたら困るからほどほどにな」
「わかっとるよ。レスター殿には迷惑は掛けん。でも、少しくらいは良いじゃろ?」
言葉の端々から、抑えきれない子供のような好奇心が溢れている。
俺は半ば呆れ、息を吐いて視線を逸らした。
[神様さん、神様さん。ホクホク。ホクホク!]
ピービーまで楽しそうに跳ねている。
「おお。そうじゃぞピービー。わしは今ホックホクのワックワクじゃ!」
[ワックワク! ワックワク! ジンもワックワク! ワックワク!]
「…………。(テンション高いなぁ)」
深いため息を吐く。
だが、楽しそうな二人の顔を見ていると、少しだけ心が和むのも事実だった。
+
『大人シオンちゃん』
帰路につくための荷物整理をしていた時、不意にシオンが小走りで近づいてきた。
頬を紅潮させ、何か言いたくて仕方がないという表情をしている。
「ジンさん、ジンさん!」
「ん?」
「夢の中での私、どうでしたか?」
「は?」
思わず間抜けな声が出る。
周囲のロボットの規則的な動きと彼女の勢いの落差に、頭が追いつかない。
「夢の中での私、どうでしたか!?」
「ゆ、夢の中でのシオン? ……って、大人の姿になってた時の?」
「はい。是非、ジンさんに見た時の感想を聞こうと思って! 今後の参考に!」
真正面から目を輝かせられて、俺は言葉に詰まる。
参考にって、何だろうか。
「感想、ね……」
「なんでもいいんです! 可愛かったなぁ。とか、不細工だったなぁ。とか、簡単な言葉でいいのでください!」
「……不細工だとは思わなかったが、……まぁ、良かったとは思う。普通に成長していけば、シオンはあんな感じになるんだなって……」
「………それだけ、ですか?」
「それだけ?」
「もっと何かないですか? 男の人として、大人の私は魅力的だったなぁ、とか。口説きたいなぁ、とか!」
彼女は両手を胸の前でぎゅっと握り、身を乗り出してくる。
その真剣さにたじろいだ俺は、思わず後ずさった。
「……えと、簡単な言葉でいいって言ったよな?」
「はい。言いました! 言いましたけど、聞きたいんです、ジンさんの口から! 今後の参考に!」
「…………。それ、俺に聞いて意味あるのか?」
「う、……い、意味はあります! だってジンさんも男の人でしょ?」
「まぁ、それはそうなんだが。……うーん。そうだな。俺の意見で参考になるかは微妙だけど」
「うんうん!」
「"もう少し"ってとこだな」
「もう少し……?」
「そ。もう少し」
「ど、どの辺が……ですか?」
「全部」
「ぜ、全部?」
「具体的に言おうか?」
「え? あ、い、いいですいいです! 具体的には言わないでください! ……そうですか。あれでもう少しだとすると、あと何を頑張れば……ぶつぶつ」
そう言うと、彼女は顔を赤くしながら必死に考え込み、唇を噛む。
あまりに真剣に悩んでいるものだから俺は慌てて両手を振り、空気を和らげようとした。
「あー、えと、でもこれはあくまで俺の意見だからな。鵜呑みにはするな?」
「はい。ありがとうございますジンさん。……よしっ! これで大丈夫! 目指せインテリ美女!」
「、……インテリ?」
頷き、パッと顔を上げたシオンが言った"インテリ"という四文字。
何でいきなりその言葉が出てきたのか、その時はわからず、俺はきょとんとして首を傾げた。




