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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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機械だらけの宴・その後 ※ジン視点





 それからの俺たち。


 気が付いたら、俺は制御棟にある医務室のベッドで眠っていた。頭が重く、視界が霞んでいる。無理やり身体を起こすと、周囲には誰の姿もない。


『おっと。ようやくお目覚めかよ』

「!」

『はっ! 随分起きんのが遅かったな! もう少し寝てんのが長かったら、腕へし折るとこだったぜ!』


 パーカーの裏に潜んでいる札の声に、思わず心臓が跳ねる。

 目が覚めたって事は、ケアテイカーの夢の中から出られたってことか。


「…………」


 頭の中がまだぼんやりしている。


「ケアテイカーたちは?」

『あいつらなら外に居るぜ。様子見てくるっつってよ。てめぇも行くなら止めはしねぇぜ。……だが、自己責任だ』

「……?」


 自己責任? 外に行くだけでか?

 眉をひそめながらも、疑問を残したまま重い身体を動かす。どれだけ眠っていたのかわからないが、ベッドから足を下ろすだけで妙に息が切れた。


 それでも深く息を吸い、頭をはっきりさせるために俺は部屋を出て、外へと向かう。



+


「何だ、これ……?」


 制御棟の外に出た瞬間、思わず足を止めた。

 目の前には、黒い霧――いや、靄と言った方が正しいか。その靄は地面全体を覆い尽くし、どこまでも広がっている。


 靄のせいで地面も自分の足元もよく見えない。足首まで沈むように靄がまとわりついて、歩くのに支障はないが、もし何か落ちていたら気付かずにつまずきそうだ。


「レスター殿」

「ジン!」

「じいさん! ケアテイカー!」


 そこへ、じいさんとケアテイカーが姿を見せる。

 じいさんは白い顎髭を撫でながら小さく笑い、ケアテイカーはほっとしたように口元を緩ませていた。


「ほほ。目が覚めたようで何よりじゃわい」

「……悪い、じいさん。迷惑掛けたみたいで」

「気にせんでよい。そっちはそっちで大変じゃったんじゃろ?」


 事情はケアテイカーから聞いた、とじいさんは言う。


「じいさん。俺が眠ってる間に何が起きたんだ? それに、この黒い靄は……」

「もや?」

「地面に広がってるやつだよ。この靄は一体?」

「何を言うとるんじゃ? 靄なんて何処にあるんじゃ?」

「は? いや、よく見てみろじいさん。足元にあるだろ?」

「……? あるのはわしらの足じゃ」


 ぞわりと背筋が冷える。

 ……じいさんには、この靄が見えてない?


「ケアテイカーはどうだ? この靄、見えてるだろ?」

「…ごめん。ジンが何言ってるのかわかんない」

『残念ながら、そのジジイと少年には靄は見てねぇよ。見えてんのは"俺ら"だけだ』

「…そうなのか?」

『ああ。ま、何でかはわからんがな』

「………。悪い、じいさん。ケアテイカー。今のは忘れてくれ」

「ぬ? ううむ?」


 唇を噛み、靄に視線を落とす。俺と札だけに見えている現象……正体はまったくわからないが、妙に胸の奥がざわついた。


「ジンさん!」

「!」


 さらに問いを重ねようとしたとき、じいさんの背後から声が飛んだ。

 顔を向けると、駆け寄ってくるのはシオン。その後ろにはアルヴィスの姿もある。


 シオンは勢いのまま飛び込むようにして俺に抱きついてきた。


「ジンさん! よかった! 目が覚めたんですね!」

「お、おう……」


 夢の中で見た大人の姿が脳裏をよぎる。だからだろうか、今こうして抱きついてくる小柄なシオンに、どうにも違和感を覚えた。

 ぎゅっと抱き付いてなかなか離れようとしないシオンを、アルヴィスが苦い顔で強引に引き剥がす。おかげで胸が軽くなった。


[ジン。ジン。起きた。起きた]

「ぐっ!?」


 安堵したのも束の間、今度は背後から重量感のある衝撃。

 ドスンッという音と共に、ピービーが全力でぶつかってきた。ぴょんぴょん飛び跳ねながら、嬉しそうに声を響かせている。


「ピービー、ぶつかってくるのやめろ……」

[ジン。ジン。おはよう。おはよう]


 痛む脇腹を押さえながら睨むが、謝る様子はない。こいつに悪気はなさそうだ。

 ……寝起きじゃなきゃ、間違いなく投げ飛ばしてた。


「……ん? お前何貼り付けてんだ?」

[?]


 抱き上げると、ピービーの額に何かが貼り付いているのが見えた。

 それは――魔封術師の札。ちょうど目の上半分を覆うように貼られていた。


『おい、これ。アルベールの札じゃねぇか!』

「え?」

『おいロボ! これ何処で見っけてきた……って、聞こえねぇか。てめぇ代わりに聞け』


 札は親父のものだと、呪いの札が言った。

 確かに、少し汚れてはいるが、見覚えのある文字と符号だ。


「ピービー。その札、何処で拾ったんだ?」

[ぬ?]


 ピービーは目を瞬かせる。

 少し考えるように止まったあと、くるりと背を向けてぴょんと飛び降り、コロコロと転がり始めた。


「ピービー!」

「……ついてこいって事か?」

「あの子のあのお札。剥がしてあげないと危ないよ」


 アルヴィスとシオンの言葉に、俺とケアテイカーは顔を見合わせる。

 よくわからんが、ついて来いって合図なら従うしかない。


 俺たちは足を動かし、ピービーのあとを追った。



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