機械だらけの宴・その後 ※ジン視点
それからの俺たち。
気が付いたら、俺は制御棟にある医務室のベッドで眠っていた。頭が重く、視界が霞んでいる。無理やり身体を起こすと、周囲には誰の姿もない。
『おっと。ようやくお目覚めかよ』
「!」
『はっ! 随分起きんのが遅かったな! もう少し寝てんのが長かったら、腕へし折るとこだったぜ!』
パーカーの裏に潜んでいる札の声に、思わず心臓が跳ねる。
目が覚めたって事は、ケアテイカーの夢の中から出られたってことか。
「…………」
頭の中がまだぼんやりしている。
「ケアテイカーたちは?」
『あいつらなら外に居るぜ。様子見てくるっつってよ。てめぇも行くなら止めはしねぇぜ。……だが、自己責任だ』
「……?」
自己責任? 外に行くだけでか?
眉をひそめながらも、疑問を残したまま重い身体を動かす。どれだけ眠っていたのかわからないが、ベッドから足を下ろすだけで妙に息が切れた。
それでも深く息を吸い、頭をはっきりさせるために俺は部屋を出て、外へと向かう。
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「何だ、これ……?」
制御棟の外に出た瞬間、思わず足を止めた。
目の前には、黒い霧――いや、靄と言った方が正しいか。その靄は地面全体を覆い尽くし、どこまでも広がっている。
靄のせいで地面も自分の足元もよく見えない。足首まで沈むように靄がまとわりついて、歩くのに支障はないが、もし何か落ちていたら気付かずにつまずきそうだ。
「レスター殿」
「ジン!」
「じいさん! ケアテイカー!」
そこへ、じいさんとケアテイカーが姿を見せる。
じいさんは白い顎髭を撫でながら小さく笑い、ケアテイカーはほっとしたように口元を緩ませていた。
「ほほ。目が覚めたようで何よりじゃわい」
「……悪い、じいさん。迷惑掛けたみたいで」
「気にせんでよい。そっちはそっちで大変じゃったんじゃろ?」
事情はケアテイカーから聞いた、とじいさんは言う。
「じいさん。俺が眠ってる間に何が起きたんだ? それに、この黒い靄は……」
「もや?」
「地面に広がってるやつだよ。この靄は一体?」
「何を言うとるんじゃ? 靄なんて何処にあるんじゃ?」
「は? いや、よく見てみろじいさん。足元にあるだろ?」
「……? あるのはわしらの足じゃ」
ぞわりと背筋が冷える。
……じいさんには、この靄が見えてない?
「ケアテイカーはどうだ? この靄、見えてるだろ?」
「…ごめん。ジンが何言ってるのかわかんない」
『残念ながら、そのジジイと少年には靄は見てねぇよ。見えてんのは"俺ら"だけだ』
「…そうなのか?」
『ああ。ま、何でかはわからんがな』
「………。悪い、じいさん。ケアテイカー。今のは忘れてくれ」
「ぬ? ううむ?」
唇を噛み、靄に視線を落とす。俺と札だけに見えている現象……正体はまったくわからないが、妙に胸の奥がざわついた。
「ジンさん!」
「!」
さらに問いを重ねようとしたとき、じいさんの背後から声が飛んだ。
顔を向けると、駆け寄ってくるのはシオン。その後ろにはアルヴィスの姿もある。
シオンは勢いのまま飛び込むようにして俺に抱きついてきた。
「ジンさん! よかった! 目が覚めたんですね!」
「お、おう……」
夢の中で見た大人の姿が脳裏をよぎる。だからだろうか、今こうして抱きついてくる小柄なシオンに、どうにも違和感を覚えた。
ぎゅっと抱き付いてなかなか離れようとしないシオンを、アルヴィスが苦い顔で強引に引き剥がす。おかげで胸が軽くなった。
[ジン。ジン。起きた。起きた]
「ぐっ!?」
安堵したのも束の間、今度は背後から重量感のある衝撃。
ドスンッという音と共に、ピービーが全力でぶつかってきた。ぴょんぴょん飛び跳ねながら、嬉しそうに声を響かせている。
「ピービー、ぶつかってくるのやめろ……」
[ジン。ジン。おはよう。おはよう]
痛む脇腹を押さえながら睨むが、謝る様子はない。こいつに悪気はなさそうだ。
……寝起きじゃなきゃ、間違いなく投げ飛ばしてた。
「……ん? お前何貼り付けてんだ?」
[?]
抱き上げると、ピービーの額に何かが貼り付いているのが見えた。
それは――魔封術師の札。ちょうど目の上半分を覆うように貼られていた。
『おい、これ。アルベールの札じゃねぇか!』
「え?」
『おいロボ! これ何処で見っけてきた……って、聞こえねぇか。てめぇ代わりに聞け』
札は親父のものだと、呪いの札が言った。
確かに、少し汚れてはいるが、見覚えのある文字と符号だ。
「ピービー。その札、何処で拾ったんだ?」
[ぬ?]
ピービーは目を瞬かせる。
少し考えるように止まったあと、くるりと背を向けてぴょんと飛び降り、コロコロと転がり始めた。
「ピービー!」
「……ついてこいって事か?」
「あの子のあのお札。剥がしてあげないと危ないよ」
アルヴィスとシオンの言葉に、俺とケアテイカーは顔を見合わせる。
よくわからんが、ついて来いって合図なら従うしかない。
俺たちは足を動かし、ピービーのあとを追った。




