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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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vs.謎の少女・2 ※ジン視点





「光刃!」


 札から閃光の刃を放つ。だが呪いは軽やかにかわし、間合いを一瞬で詰める。


 振り下ろされた腕が床を砕き、大穴が穿たれた。


「っ……!」


 あと一歩遅れていたら真っ逆さまだ。


「風牙!」


 風の刃を飛ばすが、呪いは腕を振り上げ、力でかき消す。


ーー……この程度?ーー


「ちっ」

『やっぱ一筋縄じゃいかねぇな』


 呪いがゆっくり歩み寄る。


「水龍!」


 渾身の術も虚しく、呪いは俺の首を掴み、壁に叩き付けた。

 コンクリートが軋み、呼吸が止まる。


「っ……ぐ……!」


ーー威勢がよかった割にはこの程度?弱すぎなんだけど?ーー


『おい!何やってんだ!反撃しろ!』

「……無茶言うな!」


 必死に押し返すがビクともしない。


ーー抵抗しないの?じゃあこのまま殺すけど、いいよね?ーー


 首を絞める力が増し、視界が暗くなる。


『おい!気失うんじゃねぇぞ!』


 ……クソ、こんな所で死ねない。

 まだ、こんな所で死ぬわけには……っ!


「こ、の……炎……っ」


 腕を上げるが、力が入らない。


ーーあははは!最高だね、この瞬間!弱い奴が死んでく景色……たまんないよねぇ!?ーー


 嗤う呪い。


「……死んでたまるか…!」


 残る力を振り絞り、札を自分の胸に貼り付ける。

 淡い光が弾け――するとその瞬間、炎の球が飛来し、呪いの腕に直撃した。


「!?」


 熱に耐え切れず、呪いは腕を引き、俺は床に膝をつき盛大に咳き込む。


「げほっ、ごほっ……!はぁ、マジで死ぬかと思った」

『なっさけねぇな!』


 顔を上げると、炎を放ったのはケアテイカーだった。

 彼は眉を下げ、呪いを見据えている。


ーー……っ、シオン。なんで……?ーー


 ケアテイカーは俺の前に走り込み、背を向けて立った。


「このお兄さんを殺しちゃ駄目だ」


ーーそいつを庇うの?どうして?ーー


「……わからない。でも、このお兄さんは殺しちゃ駄目なんだ」


 その声に、呪いの動きが止まる。


「僕は君をよく知らない。覚えていないだけかもしれない。でも……僕は、君には戦って欲しくない」


ーー…………ーー


「君に“人殺し”は似合わないよ」


 優しい笑顔を浮かべるケアテイカー。

 呪いは静まり返り、彼を見つめる。


ーー……やっぱり君は優しいね、シオンーー


 囁きながら、呪いは素早く腕を伸ばした。


「!」


 ケアテイカーの首を掴み、引き寄せる。

 次の瞬間には、二人の身体が重なろうとしていた――。


 呪いの腕がケアテイカーを絡め取り、じわじわと黒に染めていく。

 抵抗しようと必死にもがくが、その身体は徐々に呪いの中へ沈み込んでいった。


「ケアテイカー!」

「シオン!」


 叫びも、届かない。

 札を投げても、ピービーが体当たりしても、すべて弾かれてしまう。


ーーやっと……やっとこの時が来た……!ーー


「……っ!」


 ケアテイカーの顔が呪いに呑み込まれる寸前、わずかに見えた瞳は怯えではなく――迷いと、諦め。

 その表情が胸に突き刺さる。


 そして次の瞬間。


 黒はすべてを覆い尽くし、ケアテイカーの姿は消えた。


「「シオン!!」」


 俺たちの声を嘲笑うように、呪いは高らかに笑い声を上げる。


ーーあはは!やった!ついにシオンが私の中に!……ああ、最高……大好きな彼が私の一部になるなんて……!ーー


 歓喜の叫びとともに、呪いの姿が変わり始める。

 黒い肉塊のようだった体がひび割れ、砕け、そこから薄紫の光が漏れ出す。


 やがて黒は溶け落ち、現れたのは――一人の少女だった。


 肩までの淡い紫の髪が揺れ、白い肌が現れる。

 全身から黒煙を散らしながら、少女は静かに目を開けた。


『おい……なんだありゃ!?ちっこい女に化けやがった!?』

[シオン!シオン!何処!?]

「……っ……」


 少女はゆっくりと俺たちを見渡す。

 そして、屈託のない笑みを浮かべて――満ち足りたように微笑んだ。


ーふふっ、ふふふふー


 紫髪の少女は、無邪気な笑みを浮かべながら一歩、また一歩と前に出る。

 その瞳には狂気と、そして奇妙な幸福が宿っていた。


ーーやっと一つになれた……シオン、これで私たちは永遠に一緒だよ……ーー


「ケアテイカー!」

「……シオン! 返事をして!」


 俺とシオンの声は、届かない。

 だが、次の瞬間、少女の笑みが一瞬だけ歪んだ。


ーー……っ、やっ、……なんで…っ!ーー


 苦しそうに表情を歪めて、胸を握る。

 その時、微かに声が聞こえた。

 これは、ケアテイカーの声だ。


ーー駄目だ…!ーー


「ケアテイカー?」

『まさか、抵抗してやがるのか!』

「っ、…だったら!」


 札を握りしめ、呪文を唱える。

 全力で呪いの気配を押さえ込めば、その瞬間、少女の身体がびくりと震え、内側から黒と紫の光がせめぎ合い始めた。


ーーいやだ……離れたくない……! せっかく一つになれたのに……!ーー

ーー……違う。僕は…君に……もう殺させないためにーー


 少女の笑みが苦悶に変わり、悲鳴を上げる。

 その中でケアテイカーの声がどんどん鮮明になっていった。


「シオン!!」

「君は……優しいんだ。だからもう暴れないで。…大丈夫。僕はずっと、君の側に居るから…だから!」


 叫びと共に、少女の身体が砕け、眩い光が溢れ出す。

 呪いの姿は霧散し、その力はケアテイカーの胸へと吸い込まれていった。


 やがて光が収まった時――そこに立っていたのは、少女ではなくケアテイカー。

 彼の胸の奥にはまだ呪いの気配がある。だが、それは暴れることなく、深い眠りについていた。

 呪いの抵抗がなくなり、札を持つ手をだらりと下げる。


「……終わった、のか……?」

『どうやらそうみたいだ』

[シオン。シオン。よかった]


 ケアテイカーはゆっくりと目を開け、弱々しく笑った。


「……ジン、みんな」

「シオーーン!」

「ぐえっ!?」


 光が収まると同時に、ケアテイカーはその場に膝をつく。

 安堵の息を吐いた瞬間、横から勢いよくアラタが抱きついた。


「すっげぇ心配したぞー!! よかったあああ!!」

「ア、アラタ……苦しいよ…っ」

「だってだって! 急に消えちゃうし、目の前で何かすっげぇもんになるし! 心臓止まるかと思ったんだぞ!」


 子供のように涙目でしがみつくアラタ。

 ケアテイカーは困ったように微笑み、ぎこちなくも優しく背中を叩いた。


「……ごめん。心配してくれてありがとう、アラタ」

「当たり前だああああ!!」


 わんわん泣きじゃくるアラタの声が、崩れかけた空間に響く。

 俺は少し離れた場所で腕を組み、二人のやりとりを黙って見守っていた。

 ようやく落ち着いたアラタが離れると、ケアテイカーは俺たちへと視線を移し、首を傾げる。


「そういえば……なんでジンたちがここに居るの?」

「ああ、それな。俺も正直よくわかってないんだ。気付いたらここに居て……まぁ、成り行き?」


 俺が肩をすくめると、ケアテイカーはぽかんとした後、苦笑を漏らした。


「何それ」

「……てか、俺のことわかるのか?」

「うん。だんだん思い出してきた」


 言いながら、ケアテイカーは周囲を見回す。


「ここは、僕の夢の世界……だよね。そうじゃなかったら、アラタがここに居るわけないもん」

「ん?」

『……なぁ、聞いてもいいか?』


 札が声を上げ、ふわりとケアテイカーの前に漂う。


『さっきの呪い、ありゃ何だ? あんな気配の呪い、初めてだったんだが』

「………うん。あれは、ずっと前に、僕とアラタが封じた呪いなんだ」


 ケアテイカーは胸に手を当て、ぽつりと呟く。


「名前は、アリスって言って……僕たちは友達だった」


 その手のひらに魔法陣を浮かび上がらせると、淡い光をまとったひとつの箱が姿を現した。

 それは「呪いの箱」と呼ばれるものだった。


「彼女は、この箱が原因で暴走したんだよ」

『呪いの箱か』

「うん」

「シオン、あの子は大丈夫なの?」

「大丈夫。もう暴走することはないよ」


 口元を緩ませて言うと、シオンはようやく安堵の色を浮かべ、胸を撫で下ろした。


「とにかく、ジンたちをここから出さないと……」


 ケアテイカーは立ち上がり、きっぱりとした声で言った。


「どうすれば出られるんだ? 誰かに起こしてもらうとか?」

「ううん。それじゃ駄目なんだ。この世界は特別で、自分の力で出ないと、現実には戻れない」


 そう言ってケアテイカーは、塔へ視線を向ける。


「その出口のひとつが、この塔の最上階にあるんだ。まずはそこへ行こう」

『げっ。ここ登るのかよ!』

「大丈夫。見た目ほど高くないから」

「……仕方ない。外に出るためだ」

[外に出る! 外に出る! 塔に登る!]


 俺の足元でピービーが元気よく飛び跳ねる。

 不安を抱えながらも、俺たちは歩き出した。


「なぁ、シオン。お前、あのおっさんたちの知り合いだったのか?」

「うん。まぁね。……あとで話すよ」




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