vs.謎の少女 ※ジン視点
ーー現在。
場所は、中心の塔。
螺旋階段を登り切った俺たちは、そこでケアテイカーたちと合流した。
ーーしねしねしねしねしねしねしねしねえええええ!!ーー
「……っ!」
影のようなヒト型から、札を使ってケアテイカーを強引に引き剥がし、壁に押し付ける。
しかし、威勢を張ったはいいが、そこからは防御一辺倒。両腕も両足も傷だらけ。攻撃する隙なんざなく、完全に相手のペースとなっていた。
『おいテメェ!さっさと反撃しろ!守ってばっかじゃ死ぬぞ!』
「無茶言うなっての……!」
パーカー裏の呪いの札と口論してる間にも、影の猛攻で傷は増えていく。包月でダメージは軽減されているが、力が洒落にならん。
「おい、あいつは何なんだ!?いきなり現れて、ケアテイカーを喰おうとしてただろ!」
振り返りざま、後ろのシオンに叫ぶ。彼女は眉を下げ、ぎゅっと胸の前で手を握りしめて震えていた。
「シオン!」
「っ、あ、えと……」
「戦闘中にボーッとするな!標的にされるぞ!」
「ご、ごめんなさい……」
『おいおい、言い方キツすぎだろ。女には優しくしろっての』
「いえ、大丈夫です。お札さん」
パンッと頬を叩き、シオンは視線を正面に向ける。
彼女はさっき、「あれはケアテイカーの中にいたものだ」と言っていた。
「さっきも言ったように、あれは彼の中に居て、かつて生きていたもの。……いえ、もしかしたら“今も”彼の中で生き続けているのでしょうか」
「どういう意味だ?」
「彼の記憶は誰かに奪われたのではなく、自分で消したんです。彼女を封じるために」
「封じる……?」
『……で、つまりあれは何だってんだ?』
「……あれは、“呪い”です」
「はぁ!?」
『マジかよ!あれが呪いだと!?』
シオンの言葉に、俺と札は声を荒げる。
扉の向こうでは、ケアテイカーがアラタの傍らで心配そうに佇んでいた。
ーーほらほら!守ってるだけじゃ保たないよ!?さっさと殺されちゃう?ーー
「っ……!」
影の攻撃がますます苛烈になる。
包月の効力も、もう保たない。
『確かに……気配は完全に呪いそのものだな』
「ちょっと待て。もしあれが呪いなら、ピービーが何か反応してるはずだろ」
ケアテイカーのそばで、アラタの治療に必死なピービーを見る。
ぴょんぴょん飛び跳ねながら「治療、治療」と繰り返していた。
『封印されてたから反応しなかったんだろ。呪いの力は封じられると外からじゃ見えねぇからな』
「ええ。だから彼が機能しなくても不思議ではありません」
「…………」
その時、影の一撃が札に直撃し、包月がパリンと砕け散った。
「っ!」
瞬間、防壁を失った俺たちに攻撃が襲いかかる。全身に無数の傷を負い、シオンを庇いながら扉の向こうへ吹き飛ばされた。
受け身を取りつつ体勢を立て直すと、血が流れる腕が重く感じられる。
「ジンさん!」
『チッ、やっぱ包月なしじゃヤベぇな!』
視線を向けると、ケアテイカーが倒れているアラタを心配そうに見つめていた。
[治療。治療]
「ん……」
「! アラタ!大丈夫!?」
「……シオン?」
「……よかったぁ……死んじゃったかと思ったよ」
アラタが目を開け、ケアテイカーが安堵の笑みを浮かべる。
ピービーは「よかった、よかった」と言わんばかりに転がってきて、俺の前で止まった。
[ジン。ジン。治療。治療]
「ああ……助かる」
光に包まれ、傷が癒えていく。
だがその行動に、呪いの札は疑念を抱いて出てきた。
『お前、治癒能力なんて持ってたか?』
[ぬ?]
札の問いに、ピービーはきょとんと首を傾げた。
ーーなんか変なのがいっぱいだねぇ。……いつの間に、ここはこんなに煩い場所になったのかなぁ?ーー
扉の向こうから呪いが這い出してくる。
俺は咄嗟にピービーを抱え、懐からもう一枚、札を抜いた。シオンはケアテイカーたちを庇うように立ち上がる。
「ちょ、な、何だあれ!?怖っ!!」
「ぼ、僕にも……何が何だか……」
『おい、どうする?一旦逃げるか?』
「この状況で逃げられると思うのか?」
『ん……あー、無理だな』
ピービーの治癒で傷は徐々に癒えていく。
俺が立ち上がると、呪いはケタケタ笑いながらケアテイカーへ視線を向けた。
ーーねぇ、シオン。私を拒絶するの?ーー
「!」
ーー私はずっと待っていたのに。……数百年も待ってたのに。あの時、約束したよね?私たちはずっと一緒。離れないってーー
「ぼ、僕は……」
ケアテイカーは怯えながら声を漏らす。
彼を背に庇い、シオンはぎゅっと唇を結んで呪いを睨み付けた。大人の姿を想像しておいて正解だったな、と俺は思う。
「シオン。彼女の言葉に耳を貸さないで」
「…………」
「姉ちゃん誰?おっさんの知り合い?」
だから、おっさん言うな。
『なぁ、勝てる見込みあんのか?』
「……厳しいな。この場で戦えるのは俺たちだけだ。全力を出しても勝てるかどうか」
力の差は歴然。勝てたとしても辛勝だろう。ケアテイカーが戦えれば策も出せるが、今の状態じゃ無理だ。
ーー私のシオン。貴方は私のもの。誰にも渡さない。私の、私の、私の、私の……!!ーー
「ひっ!」
「封縛!」
狂気の声とともに腕を伸ばしてきた呪いに、俺は札を投げる。
札から放たれた無数の糸が腕を絡め取り、顔面に迫る寸前でピタリと止めた。
ーーっ、邪魔をしないで!!ーー
「シオンは渡さない!絶対に!」
[治療完了。完了]
「助かる、ピービー。これで全力で動ける」
新しい札を懐から引き抜き、ピービーを足元に下ろす。ピョンピョンと飛び跳ねながら、頼もしそうにこちらを見上げてきた。
呪いは今度は俺に顔を向け、獰猛に目を細める。
ーーどうやら脅威は貴方だけみたいね。なら、先に貴方を殺すわーー
『おいおい、標的変わったぞ。やれんのか?』
「……やれるって言ったら嘘になる。でも、お前の“全部”を貸してくれるなら、たぶんイケるかな」
『俺様の全部?はっ!無理だな!俺様の全部は俺様のもんだ!それに、俺様の名前すら知らねぇ赤ん坊に渡せるかよ!』
高らかに笑う札。
やっぱ名前あるんだな。
ダメ元で聞いてみるか。
「……ちなみに、名前は?」
『ん?俺様の名はな――……って、言うわけねぇだろ!馬鹿か!』
残念。引っかからなかった。
『……まぁいい。ほどほどになら貸してやるよ。あいつは強ぇからな』
「それで十分だ」
俺は口元を緩め、札を構え直す。
呪いは力を溜め、今にも飛びかかってきそうな気配を纏っていた。
[ジン。頑張れ。頑張れ]
「…………」
ケアテイカーは不安げに眉を下げながら、その光景を見つめていた。




