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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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記憶と想像の世界 ※ジン視点





 ーー数時間前。



「ん、……」


 気が付くと、俺は暗闇の中に居た。

 じいさんたちの姿は見えない。


「……………」


 警戒を解かずに、辺りを見渡す。微かに、どこかから気配を感じる。この気配は――どこからだ?


[ジン。ジン]

「!」


 足元で声がする。

 顔を向けると、そこにはピービーが居た。ぴょんぴょんと飛び跳ね、俺を見つめている。


「ピービー!何でここに?」

[ピー]


 ピービーを抱き上げる。

 その時、目の前がじわじわと明るくなり、眩しさに目を細めた。


 現れたのは、どこまでも広がる大地。足元には遥か彼方まで伸びる梯子のようなもの。

 その異様な光景に、俺は目を見開いた。


「…………え、」


 瞬きを繰り返しながら、ぽかんと立ち尽くす。


「…………」


 辺りを見渡し、状況を把握しようと試みるが――やはりわからない。

 眉をひそめ、顎に手を添えて考える。


 ……さっきまで俺は――。


「……うーん」

「…ジンさん?」

「!」


 思考を巡らせていると、背後から声を掛けられた。振り向くと、そこにはひとりの女。


 彼女は俺の顔をじっと見て、驚いたように目を見開いていた。


「やっぱりジンさん。……どうして貴方がここに?」

「……えっと?」


 知り合いのように話しかけてきたが、俺には心当たりがない。


「……ん? あ、あー、なるほど。この姿だから混乱しているんですね。ごめんなさい」


 女は白い長髪を揺らし、胸に手を添えて微笑んだ。

 白髪紅眼、白いワンピース姿。俺より少し年上に見える、大人びた女。


「私はシオンです。こんにちは」

「…………は?」


 名前を聞いて頭に浮かぶのは、あの子の姿。

 だが目の前の女は似ても似つかず、俺の脳内はさらに「?」で埋め尽くされた。


「……、わからないって顔してますね」

「あー、悪い。理解が追い付かなくて」


 ここがどこかも不明なのに、さらに知らない女から知り合いオーラで話しかけられれば混乱もする。


「……まぁ、それでもいいです。私がシオンだって事を知ってくれてさえいれば」


 彼女――シオンは柔らかく笑った。

 本当にあのシオンだとしたら、これはどういう状況だ? ケアテイカーと同じ年頃の少女のはずなのに、今の彼女はまるで別人。


「ここは、記憶と想像の世界。だから今の私は、私が思い描いた"私"なんです」

「記憶と、想像の世界?」

「はい。……ここは彼の――シオンの記憶で出来た世界。私たちは今、彼の記憶の中に居るんです」

「………は?」

「えと、わかりますか?」

「……うん、ちょっと待って。5分くれ」

[ピピピ]


 俺は眉をひそめ、状況整理を試みる。


 ……俺は先ほどまで、制御棟の前でアルヴィスたちの戦いを見ていた。

 その途中、背中のケアテイカーから気配がして、猛烈な眠気に襲われ……気が付けばここ。


「……んん?」


 ……ダメだ。整理してもわからん。


『はっ! てめぇ、こんな簡単な事もわかんねぇのかよ!? 相変わらず頭まで赤ちゃんだな、てめぇはよぉ!!』

「!?」


 突然、パーカー裏に潜む呪いの札が怒鳴った。心臓に悪い。


「……、お前はわかるのかよ?」

『はん! 簡単だろ! 要はここは! 現実とは非なる! 異空間だっつー事だ!! んで、てめぇは、てめぇの能力で気付かねぇうちにこっちに来ちまったって話だよ!』

「…………はぁ?」


 まるで派手な効果音でも鳴りそうな勢いで札はまくし立てる。


「俺の能力って……あれの事か?」

『それしかねぇだろ』

「でもあれは夢の中に入るヤツで、こことは関係ないんじゃ……」


 俺のもうひとつの能力――他人の夢の中に入れる力。

 役立ちようのない厄介な能力で、隠してきたものだ。まさか、それが勝手に発動したってのか?


『ここもある意味じゃ夢の中みてぇなもんだろ』

「いや。いやいやあり得ねぇ。俺、今寝てねぇし。発動条件は"俺が眠ること"だぞ? お前の勘違いじゃねぇのか?」

『おいおい。俺様嘘言わねぇ。呪い嘘吐かねぇ。てめぇは信じるしかねぇの』

「…………」


 信じがたい話だ。


[ピー]

「……………」


 目を細め、肩を落として項垂れる。

 忘れた頃にやって来る、この能力……。

 こいつのせいで、どれだけ苦しめられたか。


「……あの、お話は終わりました?」

『おう。悪ぃなネェちゃん。こいつ話わかんねぇ赤ちゃんだから大変でよぉ』

「あん!?」

「ふふっ。ジンさんには楽しいお友達が居るんですね」


 くすくすと笑うシオン。

 ……いや、残念だが「友達」って表現は違う。


「……ん? こいつの声が聞こえるのか?」

「はい。聞こえますよ」

『おっ、マジか』

「マジです。ここはお札さんの言ったように異空間みたいなものですから、普通のルールは通用しないんです」

「……………」


 シオンの言葉に唖然とする。

 呪いの札の声は本来、俺にしか聞こえない。だが今は、確かにシオンに届いていて、普通に会話までしている。


「………はぁ」


 ……もう信じるしかねぇな。


「わかった。信じる。えっと……ここはケアテイカーの記憶と想像で出来た世界で、要するに異空間――夢の中、って解釈でいいか?」

「はい。だいたいそれで大丈夫です」

『んでよぉ。さっきから思ってんだが、ネェちゃんは何でそんな色々とデカイんだ?』

「…? ああ、この姿のことですね。これは、私が想像した“大人の私”なんです」

「大人の?」

「はい」

『なんでわざわざ?いつものチンチクリンでいいじゃねぇか』

「っ……こ、これには、その……事情があって」

「事情?」


 シオンは顔を赤らめ、視線を足元へ落とした。


「その……私、早く大人になりたくて。それで、この姿を想像してしまうんです」

『早く大人に、ねぇ。理由はくだらなそうだな』

「あ、はは……はい。自分でもくだらないと思います。……こんなこと願ったって、あの人との差は埋められないですから」

「あの人……?」


 何か深そうな事情がある。……これ以上は踏み込まない方がいいだろう。


「そ、それより!そろそろ行きましょう!」


 シオンは慌てて話題を逸らし、俺の背後を指差す。


『んぁ?あっちに何があんだ?』

「あちらには“中心の塔”と呼ばれる場所があります。彼は今、そこに向かっています」

「中心の塔?」

「はい。この世界の中心にあるから、そう名付けられたみたいです」

『ネーミングセンス皆無だな。もうちょいマシなのなかったのかよ』

「私に言われても……」

「あいつも…ケアテイカーもそこへ向かってるって……わかるのか?」

「はい。私と彼は繋がっていますから。目を閉じれば、いつでも彼を感じられるんです」

『なんかそれエロいな』

「……要は、俺たちは中心の塔へ行きゃいいんだな?」

「はい。そこで彼と合流できます」


 中心の塔――単純でわかりやすい名前だ。


 そうと決まれば、善は急げ。

 俺たちは歩き出した。



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