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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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中心の塔





「はえぇ~。ここが“中心の塔”かぁ」


 鉄骨の上を歩き続けて数日。ようやく僕たちは目的地、中心の塔へと辿り着いた。

 何処までも天へと伸びる円柱の塔。その大扉は僕たちの身長の倍以上はあり、重々しく開くと中は真っ暗だった。


 アラタが炎の術を唱えると、ぼんやりと周囲が照らされる。壁沿いに、上へと延々と続く螺旋階段が見えてきた。


「なんか不気味なとこだな」

「おばけとか出たりしてね」

[にゃあ]


 クロの鳴き声に一瞬和みつつ、階段を登り始める。一段一段は幅が狭く、油断すれば落ちかねない危うさがあった。


 途中、踊り場に出る。木箱がいくつか置かれ、その中には果物がいくつも詰められていた。


「おっ、やりぃ。ちょうど腹減ってたんだ」

「アラタ、盗み食いはダメだよ。もし誰かのだったら」

「こんなとこに誰がいるってんだよ。……ほら、お前も食っとけ。パン一個じゃ足りねぇだろ」


 アラタは手にした果物を投げてきて、僕は反射的にキャッチする。手元には赤い林檎。見るからに美味しそうだ。


「……やっぱり駄目だよ。こんな場所に果物が置いてあるなんて普通じゃない。誰かが住んでるんじゃ……」

「住む? こんなとこに? 誰がだよ」


 林檎を見つめているとーー


 ゴオオオンッ、と重低音が塔全体を揺らした。

 耳をつんざくような轟音に、僕もアラタも肩をすくめて顔を見合わせる。


「っ、ごほっ! な、なんだよ今の!?」

「……上から聞こえた?」

「……行くぞシオン!」

「ちょ、待ってアラタ!」


 音の正体を確かめようと、アラタは食べかけの梨を口に放り込み、駆け上がっていく。

 僕も林檎をバッグに押し込み、慌てて後を追った。クロも軽やかに階段を登る。


 ゴオオオン……ゴオオオンッ……


 音は近付いてくる。胸の奥を震わせるような低音。

 やがて、鉄の扉が待ち構える踊り場にたどり着いた。


「これは……?」

「ふっ、ぐぬぬ……っ、ダメだ! 開かねぇ!」


 入ってきた大扉と同じ形の鉄扉。僕たちの力ではびくともしない。音はその向こうから響いていた。


 ゴオオオンッ。


「中に入るには……どうすれば」

「開かないのか?」

「えっ、あなたは!」


 振り返ると、灰色の髪の男が立っていた。

 先ほど見かけた、あの男の人だ。


「……おっさん誰?」

「誰がおっさんだ。俺はまだ十代だっての」


 むっと眉をひそめる男の人。確かに“おっさん”呼びは失礼かもしれない。


「この向こうに行きたいんだな」

「そうだけど。……おっさん手伝ってくれるのか?」

「だからおっさん言うな。ったく」


 男の人は僕らの間をすり抜け、鉄扉に手を当てる。目を閉じ、深く息を吐いた。


(かい)


 低く呟くと、ガチャリと音を立て、鉄扉がゆっくりと開き始める。

 ギギギ、と軋む金属音。男の人は肩を落として息をついた。


「開いた!? おっさん、今何したんだ!?」

「こんな扉を開くのなんてお茶の子さいさいだ。……あとおっさん言うな。次言ったら殴るぞ」


 ……うん、それは本気でやめといた方がいい。



 ゴオオオンッ……


 重低音はますます強まる。

 扉の奥は小さな部屋。何もない中央に、白い小箱がぽつんと置かれていた。


 箱は片手で持てるほどの大きさ。ぶるぶると震え、蓋の隙間から黒い靄のようなものが溢れそうになっていた。


「ん? 箱……?」

「これは……」

「知ってるんですか?」

「……いや」


 男の人は眉をひそめる。その反応に胸騒ぎを覚えつつ、僕はそっと蓋に触れようとする。


「っ、やめろ!」


 男の人の手が僕の手を弾き、強く握って遠ざける。


「おっさん、なんで止めるんだよ! 中にすげーもん入ってるかもしんねぇのに!」

「ガキは黙ってろ」

「ガキじゃねぇ!」


 男の人は「俺もおっさんじゃない」と吐き捨て、箱を取り上げた。

 そして小声で、何か聞き取れない言葉を呟き始める。


 アラタと顔を見合わせる。


 ーーその時。


「……え?」

「? シオン?」


 僕の背後から、囁くように小さな声がした。

 僕の名前を呼んだような……。振り返るが、そこには誰もいない。


「どうした?」

「あ、えっと……なんでも……」

「お前ら! 気を付けろ!」

「え?」


 男の人の叫びと同時に、アラタの身体が吹き飛ばされた。

 信じられない速さで扉の外へ。


「アラタ……!?」


ーー…ようやく会いに来てくれた……ーー


「え、」


 飛ばされたアラタの方に顔を向ける。鉄の扉の向こうで、アラタは身体中から血を流して倒れていた。


 心配して駆け寄ろうと足を動かす――けれど、動けなかった。誰かに"掴まれて"いるように、僕の身体は縛りつけられていたのだ。


ーー……数百年。数百年ずっと待ってたよ、シオン。私のシオン。私だけの君を……ーー


「っ、」


 視線を前に戻すと、そこに蠢く"何か"が僕を見つめていた。

 黒く、うねる影のようなもの。だが影とは違う。これは……一体?


 僕は、これを――知っている?


ーー……さぁ、シオン。またくっつこう? そうすればまた壊せる。大丈夫。今度は上手くいくよ……ーー


「…………、や、やめっ」


 "それ"がゆっくりと僕に近づいてくる。

 身体は震え、恐怖で固まり、何もできない。ただ怖くて、怖くて仕方なかった。


「シオン!」


 その時、男の人が僕の名を叫び、目の前の"それ"を僕から引き剥がす。

 壁に叩きつけるように押し付け、僕を解放してくれた。


 自由になった僕はその場に崩れ落ち、恐怖で身体を震わせるしかなかった。


ーー……っ、邪魔をしないで!ーー


「邪魔? 邪魔してんのはてめぇだろ。いきなり現れやがって。何者だよ!」


ーー……? そっか。どうりで見覚えがないと思ったら、あなたは外からの来訪者ね。どうやってここに来たのかは知らないけど、ここはあなたような者が来る所ではないわ。消えて……!ーー


「てめぇが消えたら消えてやるよ」

「……………」


 何を話しているんだろう。気になるけれど、それより――


「………アラタ……っ」


 震える足を押さえながら立ち上がり、アラタの元へ向かう。

 血を流して倒れているアラタは、気を失っているようだった。


 血が止まらない。このままじゃ……。でも僕には治す方法なんて――


「………どうしよう」


 必死に考えるけど、何も浮かばない。

 見捨てるなんてできない。アラタは僕の友達だ。旅を始めてからずっと一緒だった。喧嘩をしたこともあったけれど、それでも……。だから絶対に助けなきゃ。


「…………?」


 その時、階段の方から小さな丸いものがコロコロと転がってきた。

 硬そうな球体に、黒い点のような目がふたつ。


[アラタ、治療。治療]

「……!」


 しゃ、喋った……!


「………ん?」


 でも、この姿……どこかで見たことがある気がする。


[シオン。シオン。アラタの治療。治療]

「え、あ、うん。治療。……出来るの?」

[シオンが望むなら出来る。ボクは出来る。治療、出来る?]

「……、で、出来るならアラタを治して欲しい。僕の友達で、大切な仲間なんだ」

[りょーかい]


 そう言って、丸いその子は目を細めて笑うと、アラタの上に乗り、目を閉じて力を込めた。


 次の瞬間、アラタの身体は光に包まれた――。



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