シオンとアラタ
ーー……ン、……オン……ーー
……誰かが、僕を呼んでる。
……ーーン、シオン……!ーー
……誰? 誰が僕を呼んでるの?
おい! シオン! シオンってば!
……この声、聞いたことがある。
確か、この声は……。
+
「シオン! シオーーーン!!」
「……っ!」
ハッとして目を開ける。
目の前にいたのは、赤い髪を逆立てた少年。
眉をひそめて僕を睨みつけ、さっきまで必死に僕の名前を呼んでいたらしい。
「やっと反応したか。ったく、どれだけ呼んでも返事しねぇし! 無視すんなよ!」
「あー……えと、ごめん。……誰?」
「あん!?」
ピシッと空気が張りつめる。
「憤怒」という言葉がぴったりくる反応を見せた彼は、ためらいもなく僕の胸ぐらをつかんだ。
力任せにぐらんぐらんと揺さぶりながら、彼は叫ぶ。
「おっまえ!! いい加減にしろ!! お前の記憶戻すのに、俺がどれだけ苦労したと思ってんだ! 記憶喪失は一回だけで充分だぞコラァ!!」
「ぐ、ぐあっ、ちょ、苦しい苦しい!」
脳ミソがシェイクされてる! 吐きそう!
「ご、ごめんごめん! 冗談! 冗談だって!」
「冗談言ってる場合かぁああ!!」
叫んだあと、彼は手を離し、大きく息を吐いた。
……うう、まだ頭がぐらぐらする。
「ったく。急いでるって言うから予定を切り上げて街を出たのに、肝心のお前がボーッとしてどうすんだよ」
「……ごめん。でもおかげで意識が戻ったよ。ありがとう」
そう言って笑うと、彼は腕を組んでそっぽを向く。
彼の名前はアラタ・リンクス。
僕の友達で、ずっと一緒に旅をしている仲間だ。
「………で、僕たち、今どこに向かってるんだっけ?」
「はぁ!?」
ぽかんと首を傾げると、アラタは再び眉をひそめて声を荒げる。
「おっまえなぁ……っ! ……~~っ、はぁ。まぁいい。お前がそういう奴だってことはわかってる」
「はは」
「笑うな!」
腰に手を当てながら、アラタは首を振って大きくため息をつく。
そして前方を指差し、目的地を告げた。
「俺たちが向かってんのは"中心の塔"だ。そこに行けば、探してるもんが見つかるらしい」
「へぇ……」
「……いや、それお前が言ったんだよ! なんで初耳みたいな顔してんだ!」
肩を落とすアラタ。
視線を落とすと、僕たちは鉄骨の上に立っていた。梯子のような鉄骨が地面に張りつき、見えない遠くまでずっと伸びている。
「…………」
ここを渡らなければ、塔へは辿り着けないらしい。
[にゃあ]
「わっ」
ショルダーバッグの中から、黒猫のクロが顔を出した。
軽く鳴いて、ぴょんと飛び出す。
[にゃあ]
「ほら。クロも“しゃんとしろ”って言ってるぞ。旅の中心はお前なんだからな」
「? クロの言葉がわかるの?」
「なんとなくだよ、なんとなく。ほら、戻ったんなら行くぞ。パッと片付けてパッと終わらせる」
言いながらアラタは歩き出す。
クロもその後を追い、僕は少しの間、その背中を見つめていた。
「……………」
……僕は今まで、何をしていたんだろう。
ずっと彼と旅をしてきたのかな?
……いや。何かを忘れてる気がする。
「……ん?」
「何してんだ」
「! わっ!」
顎に手を添えて唸っていると、背後から声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは背の高い男の人。
灰色の髪に、黒いパーカー。
どこかで見たことがあるような気がするけれど、思い出せない。
「早くついてかないと、置いてかれるぞ」
「え、あっ……アラタ! ちょっと待って!」
ハッとして走り出す。
途中で振り返ると、男の人の姿はもうなかった。
「…………」
……なぜか、彼のことは覚えておかなきゃいけない気がした。
「シオン! 置いてくぞ!」
「い、今行くってば!」
そして僕は再び走り出す。
"中心の塔"までは、もう少しーー。




