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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第6章「機械だらけの宴」
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呪いの箱





「KBちゃん!」


 建物の名前は〈極秘研究棟〉。

 機械の国の中心にそびえるこの建物へ入り、エレベーターで五階を目指す。

 長い廊下を突き当たりまで進み、左に曲がると――壁一面を覆うほどの巨大な扉が現れた。


 その前に一人の人影が立っていた。

 僕たちに気付くと、彼女は大きく手を振り上げて声を張り上げる。


「やっと来た!遅いよ、KBちゃん!」

[……あなたは。どうしてここに?]

「たいちょーに頼まれたの。KBちゃんの手伝いをしろって」


 KBさんと人影――桃色の髪をした女の子は、楽しげに言葉を交わす。

 僕はその後ろで、ぼんやりとやり取りを眺めていた。


 腕の中のピービーは落ち着かず目をきょろきょろさせ、足元のクロもそわそわしている。


[あなた、ずっとここにいたのですか?]

「え?うん。そうだけど?」

[ならば、ここへロボットが来ませんでしたか?]

「ロボット?……ううん。来てないけど、どうして?」


 首を傾げる女の子。

 ロボットたちは来ていない――僕たちは顔を見合わせる。

 もしかして、追い抜いてきてしまったのだろうか。


「それはそうと、この扉の中に例の箱はあるのかの?」


 神様が問いかける。


[ええ。この中に厳重に保管されています。……シオン、この扉の前に]

「え?……あ、はい」


 言われるまま、ピービーを足元に置いて扉の前へ進む。

 次の瞬間、足元に魔法陣が浮かび上がり、ギギギと音を立てて扉が開き始めた。


「!」


 やがてガコンと音を立て、完全に開ききる。

 中は暗闇。


「光よ」


 女の子が呪文を唱えると、部屋がぱっと明るくなる。

 目に映ったのは中央に据えられた一基の台座。そして、その上には黒い箱。

 表面には見たことのない文字や紋様が刻まれていた。


「これが……箱か?」

[ここ怖い。ボク帰りたい]


 ジンの足元でピービーが震え出す。

 僕は抱き上げて頭を撫で、落ち着かせようとする。


「大丈夫だよ。僕たちがいるから」

[うう……怖い、怖い。ケアテイカー、帰る]

[……おいらも。なんか嫌だ]


 クロもぴょんと肩に乗り、身をすくませる。

 震えが伝わってきて、僕は眉をひそめた。


「その子たち、震えてる。大丈夫?」


 女の子が心配そうに声をかける。


「……たぶん、この部屋の“何か”を感じ取ってるんだと思う。クロもピービーも」

「何かって?」

「そこまでは……」


 僕が答えると、彼女は「ふーん」と言いながらピービーの頭を軽くつつく。


「確かにこの部屋、なんか不気味だね。ゾワゾワする感じ」

「ゾワゾワ……はは、確かに」


 不気味さの正体は――台座の黒い箱。

 僕がじっと見つめると、彼女が突然慌てたように声をあげた。


「ちょ、ちょっと!今の何?」

「今の?」

「受け答え!すごく懐かしい感じがしたっていうか……」

「懐かしい……?ああ、ごめん。僕ね、記憶が戻ったんだ」

「え?」

「KBさんのおかげで。心配かけてごめんね、ファム」

「っ……え、ええええええ!?」


 ファムの叫びが部屋中に響き渡り、KBさんたちにも聞こえてしまう。


「ど、どういうこと!?記憶が戻ったって!KBちゃん!?」

[手品の賜物です]

「手品?」

[はい。少し強引でしたが、彼の記憶を呼び覚ましました。嬉しいでしょう?]

「う、嬉しいって……」


 肩をわなわなと震わせるファム。


「まぁ……嬉しい寄り、かな……でも、こんな急に……」

[ファムが喜んでくれて何よりです]


 言葉に詰まる彼女を見て、僕は口元を緩ませた。


「ケアテイカー、その子と知り合いなのか?」

「うん。彼女は僕の友達なんだ」


 そう答えて、ジンたちにファムとの関係を簡単に説明する。


「今は、あなたたちがシオンの仲間なんですよね。遅くなりましたが――ファム・フォオルといいます。よろしく!」


 元気よく頭を下げるファム。


「これはこれは、どうもお嬢さん。わしは神様じゃ」

「で、こっちのお兄さんが……」

「あ、その人は知ってるよ。ジンさんでしょ?たいちょーの息子さん」


 にこりと笑い、ファムはジンを見つめた。


「たいちょー?」

「うん。アルベール・レスターたいちょー。あなたのお父さん」

「っ……」


 アルベールさんの名前を聞き、ジンは目を見開く。


「あなたのことも、たいちょーから頼まれてるの。守ってやれって」

「………」

「どうしてファムはアルベールさんのところに?KBさんもだけど」

「それは……」


[[ピー!!]]


「!」


 ファムが答えようとした瞬間、耳をつんざく電子音。

 前方から、ロボットたちがものすごい勢いで突進してくるのが見えた。


 ――やっぱり、追い抜いていたんだ。


[ピー!!]

[いけません!彼らをこの部屋に近付けないで!]

「任せて、KBちゃん!」


 甲高い音を鳴らしながら迫るロボットたち。

 ファムは素早く武器を顕現させ、それを一直線に投げ放った。

 彼女の武器はチャクラム。円形の刃は、近接も遠隔もこなせる万能の武器だ。

 飛んだチャクラムが一体のロボットを直撃し、弾き飛ばす。


「ジン!僕たちも!」


 僕とジンも魔法を放ち、ロボットの進軍を必死に防ぐ。

 だが、倒しても倒しても現れる数は減らない。次第に体力が削られていった。


「っ、これじゃキリがない!」

[シオン!箱に触れてください!]

「え?」


 KBさんの声が響く。


[彼らの狙いはこの箱です!この箱がこの場にある限り、ロボットたちは限りなく向かってくる。ならば、あなたが触れれば止まるはずです!]

「KBちゃん……!」

「それ、どういう意味!?」

「箱に触れるって、大丈夫なのか!?」

[オススメしない!オススメしない!ケアテイカー、箱に触っちゃ駄目!]


 神様の足元で、ピービーが必死に跳ね回る。

 しかしその間にも、ロボットたちは増え続け、廊下は埋め尽くされていく。


[このままでは突破されます。……その前に!]

「………、…わかった」


 僕は頷き、魔法陣を解いてKBさんのそばへ向かう。

 確かに、このままでは持ちこたえられない。

 黒い箱の正体はわからないけれど、もしロボットが止まるなら――やるしかない。


「シオン……っ」

[さぁ、シオン。手を伸ばして、目を閉じて]


 その声を信じ、僕は箱へ手を伸ばした。

 次の瞬間、箱は台座からふわりと浮かび上がり、くるくると回転を始める。

 そして――ぴたりと動きを止め、僕の身体へと吸い込まれていった。


 視界が暗転し、意識が途切れる。

 僕はその場に、崩れるように倒れ込んだ。



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