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線の上の冒険者ーSの日記ー  作者: aki.
第1章「11日間の試練」
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11日間の試練・その後

 



 その後の僕たち。



「……え? 空箱?」

「そうじゃ。中身なんぞ最初から入っとらん」

「……」


 最初から中身はない?

 だったらどうして僕たちに開けさせたのか。


「わしが箱を持ってると、おぬしら『なんかすごい物』が入っとると思うじゃろ?」

「まぁ、神様が持ってきた物ですし」

「中身ないのに開けさせるって、詐欺じゃねえか」

「ほほほ、思い込みというやつじゃ」


 神様は本当に悪びれない。

 ジンは横で呆れ顔だ。


「おい、じいさん。そんなもん見せびらかすくらいなら普通に説明しろよ」

「つまらんのぉ。わしは驚かせるのが好きなんじゃ。まぁ、深く考えんでもええ。おぬしらは今夜からわしの家に泊まるんじゃ。11日間、わしの弟子ということでな」


 弟子。

 弟子?雑用係じゃなくて?

 そんな疑念を胸に抱きつつ、僕はクロの頭をポンと叩く。


「弟子になるつもりもないんだけど」

「……宿代が浮くから僕はいいよ。弟子でも」

[にゃあ]

「お前、…」


 僕の言葉を聞いて、ジンはため息を吐いた。



+


「さて、そろそろおぬしたちに新たな試練を与えようかの」

「「え?」」


 ――11日間の試練、最終日。


 あれから僕とジンは、神様の手伝いという名の雑用をこなしつつ、残りの日々をなんとか過ごしていた。

 ただし「何不自由なく」などとはとても言えない。理由は単に雑用のせいではなく、雑用を片付ければ“お稽古”という名の戦闘訓練が待っていたからだ。

 雑用を終わらせれば“お稽古”。再び雑用が終わらせればまた"お稽古"。以後その繰り返しで、相手は神様と死神さん。僕たちに拒否権はなく、休む暇もない日々が続いた。


 そうして迎えた今日も、雑用が終われば稽古が待っている――そう思っていた矢先。ジンと二人、溜め息まじりに廊下を拭いていると、突然神様から「新たな試練を与える」と告げられた。

 僕たちは顔を見合わせ、頭の上に疑問符を浮かべる。


「試練?」

「そうじゃ」

「え、試練って終わったんじゃねえの?もう最終日だぞ。1日でどうしろってんだ」


 無理しかない。

 ジンはそう言って、持っていた雑巾をバケツに放り投げる。

 だが神様は首を横に振った。


「“11日間の試練”はもう終わったじゃろ? わしがおぬしたちに与えるのは別の、期限なしの試練じゃ」

「期限なしの試練……」


 僕たちが時間をかけて雑巾がけした廊下は、姿が映るほどピカピカになっていた。


「おぬしたちは旅人じゃったな」

「はい、そうです。一応は」

「それが何だ?」


 場所をリビングに移し、神様が淹れてくれたお茶を飲む。

 神様は僕たちが旅人であることを確認すると、顎髭を撫で、灰色のローブの袖の中から一枚の紙を取り出した。

 それは、“箱詰め地球”の地図。

 テーブルに広げると、神様はとある国を指差した。


「おぬしたちには、この国へ行ってもらいたいんじゃ」

「ここは?」

「何故この地球が箱によって姿を変えたのか――何故箱に詰められたのか。その謎が眠っとると噂されている国じゃよ」

「!」


 神様の言葉に、僕は目を見開いた。

 指し示された国は、今いる国からかなり離れている。


「それを、なぜ僕たちに?」

「ほほ。おぬしたちならば成し遂げられると思ったからじゃ」


 神様は笑みを浮かべる。


「わしはな、ずっと待っていたのじゃ。おぬしたちのような者が現れるのを」


 ――11日間の試練を越えられ、しかも強い者を。

 そう言って地図を袖の中へ戻す。

 そこへ、大きな丸太を担いだ死神さんが帰ってきた。重そうな丸太を軽々と肩に乗せて運ぶ姿は、妙に勇ましい。


「戻ったぞ」

「おお。おかえり」

「これはどこに置けばいい?」

「相変わらずおぬしは想定外の大きさの丸太を持ってくるのぉ……それは風呂に使うから外に置いておいてくれるかの」

「わかった」


 頷いた死神さんは外へ。

 この二人、出会った当初から仲が良い。後に聞いた話では、最初は敵同士だったらしい。長い戦闘の末、神様が勝ち、死神さんは従順な“しもべ”になったのだとか。

 なるほど、それであの態度か。


「……おほん。それと、おぬしたちにもう一つ。これは試練ではなく、わし個人のお願いじゃ」

「お願い?」

「……実はな」


 神様によれば、国境を越えた先にある四つの国にはそれぞれに“神の呪い”を受けた人間が一人ずついるらしい。本人たちは気づかぬまま、知らぬうちに呪いに蝕まれているという。

 僕たちに、その人たちを救ってほしい――それが神様の願いだった。


 救うには呪いを具現化し、倒す必要がある。

 神様は別室から、そのための道具を持ってきて僕たちに渡した。


「これは?」

「呪いを具現化させる道具じゃ」


 名前はない。つけるなら――“呪い具現化装置”といったところだろう。


「あー……神の呪いって、つまりじいさんが掛けた呪いってこと?」

「いや、わしは人間は呪わん」

「じゃあ、なんで“神の呪い”なんて名前に?」

「ふむ。それはな……呪いを掛けたのがわしの妹じゃからじゃよ」


 神様は溜め息をつく。

 妹は神様と同等の力を持ちながら人間を好まなかった。いつか滅ぼしたいと考えている彼女は、四つの国から適当に一人ずつ選び、呪いを掛けた。それを“暇潰し”と称し、呪いが強まっていく様子を楽しんでいるらしい。


「わしは妹の気性の荒さに手を焼いていての、話を聞こうにも聞く耳を持ってもらえんかった。じゃからわしは妹から離れ、この国で呪いを消す方法を探しておったのじゃ」

「……で、見つけたのがこれ?」

「そうじゃ。呪いは具現化して倒すのが一番じゃとわかったのじゃよ」


 神の呪いを受けた人を探し、呪いを具現化し、倒す――考えるだけでハードだ。11日間の試練や新たな試練よりも難しいかもしれない。


「置いてきたぞ」

「ご苦労さん」


 死神さんが戻ってくる。

 僕はお茶をすすりながら、神様の話を頭の中で整理した。

 箱詰めの理由、神様の妹、呪い、四つの国、四人の人間……やることが一気に増えて、しばらく混乱しそう。


「そうじゃ死神。おぬし、ケアテイカー殿たちの旅に同行してはくれんか?」

「は?」

「いいぞ」

「え、そんな軽く」


 話を聞いた死神さんは、あっさり二つ返事で了承。さすが従順、決断が早い。


「決まりじゃの。では早速――」

「ちょっと待て」


 神様をジンが制し、僕が持っていた具現化装置をテーブルに置く。


「話は聞いたけど、俺ら“行く”なんて一言も言ってねぇ」

「……行かぬのか?」

「そりゃ、聞いた以上ほっとけねぇとは思う。だけどそれって、この前会ったばかりの赤の他人に任せてもいい話か?」

「さっきも言ったじゃろ? わしの妹はわしの話を聞かん。じゃから頼んどる」

「話を聞かないからって、それだけで他人に丸投げってどうなんだ。妹のやったことなら、兄であるあんたが片付けなきゃ意味ねぇだろ」

「貴様!神に何て口を!」


 死神さんが槍を構えるが、神様が制す。


「死神、よい。レスター殿の言葉ももっともじゃ。確かに家族の問題じゃが、どうしても片付けられぬこともある。わしももっと若ければ止められると思うのじゃがのぉ」


 ジンは短く溜め息をつき、装置を手に立ち上がる。


「どうしてこう、家族ってのは厄介なんだ……」

「ジン?」

「じいさん、俺はあんたの願いは聞かない。妹のことはあんたが何とかしろ。俺はこの呪いの件を雑用の延長として片付ける。雑用なら協力できるからな」

「レスター殿……」

「お前はどうする、ケアテイカー?」


 僕の答えは決まっていた。


「うん。僕もやるよ。ジンみたいに雑用扱いは嫌だけど、話を聞いたら放っておけない」

「だってよ。じいさん、よかったな。ケアテイカー殿が代わりにやってくれるそうだ」


 ジンの言葉には嫌味が少し混じっていたが、刺はない。

 神様は眉を下げ、小さく笑った。



+


「よいか。呪いは強い。油断はするでないぞ」


 ――神様の家を離れる時に言われた注意事項。

 呪いに油断は禁物。

 “呪い”という字を見るだけでもわかることだけれど、せっかくのご忠告だ。この言葉は頭の奥に厳重にしまっておこう。


 そして今、僕たちは空にある二本線の上にいる。

 地上から、僕の魔法でここまで頑張って登ってきた。……さすがに三人分はキツい。


「う、わ。久しぶりだからさすがに怖ぇな。ケアテイカーはいつもここ歩いてんだろ?怖くねぇの?」


 下を覗き込みながら、ジンが言う。


「慣れちゃえばどうってことないよ。それに風の魔法があるから安定して歩けるし」

「……まぁ、落ちる心配はねぇけどさ。風の魔法が使えねぇ奴がここ歩いたらヤベェよな」

「大丈夫だ。おぬしの魂は私のものだ。おぬしの魂を刈るまでは、絶対に死なせんよ」

「…………そりゃどーも」


 ジンの後ろから、死神さんが物騒なことを言った。

 ジンは眉を下げ、顔を引きつらせる。


 ……魂は私のもの?何それ?


[なぁ、腹減った]

「ん? ああ、そういえばもうお昼だね。何食べようか」

「おい、こんなとこで突然飯の話すんなよ。まさか食うのか?ここで?」

「うん」

「うん、じゃねぇよ。こんなとこで食えるわけねぇだろ。線の上だぞ?」

「私は一向に構わない」

「まじか」

「じゃあ、そうだな……何かあったっけ?」

「おい、本当に食うのか!?」

「つべこべ言うな。それでも男か」

[おい、早く!飯!]

「ちょっと待ってクロ。今出すから」

「…………まじか」


 ぐーっとお腹が鳴る。

 誰のものかはわからなかったけれど、僕たちはそこでお昼休憩を取ることにしてマントを広げた。


 食事の開始から終わりまで、ジンが何やらずっと騒いでいたけれど……ご飯が美味しかったので、あまり気にならなかった。




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